やはり私の先生は間違っているようで間違っていない。   作:黒霧Rose

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37話 やはり私の先生は

 

出会いと別れ、新たなものに胸を躍らせては今まであったものに一抹の寂しさを覚えるこの季節。

 

私は、高校三年生になった。

 

今年からは本格的に受験が始まる。かく言う私も例外ではなく、日夜勉強に勤しんでいる。学年首席の座を誰にも渡していないことから誤解されがちだが、その結果も日々の努力によって成り立っているのだ。

 

というか、あの男の教え方が上手すぎる件について。なんなのよあの男は。理数科目以外なら大体教えられるって、どんなスペックしてるのよ。流石、母さんを一度は頷かせただけのことはあるわね。。

 

曰く『あ?本読んでれば大体のことは分かるだろ。英語の本が読みたかったから英語の勉強に力を入れたし、時代物の本が読みたかったから歴史は知識として頭に入れたし、他国の話も読みたかったから地理は覚えたし、読書はそもそも国語力必要だし。つまり読書最強』らしい。

 

いや、何言ってるのかよく分からなのだけれど。

 

どうして読書を極めるためにそこまで本気になってるのよ・・・まぁ、いいのよ。それで私としては助かっている訳だし。

 

今の彼・・・比企谷さんは母と父の下で『雪ノ下』に関することや建設についての勉強に日々精を出している。事務処理能力も高く、雪ノ下建設では俗に言う『出来る奴』という事で割と目立っているらしい(母談)。教師をやっていた頃も、嫌々ながら書類とにらめっこしていたものね・・・社畜根性旺盛なの、彼。

 

 

今の総武高には、私のよく知る二人が居なくなってしまった。

 

一人は比企谷さん。まぁ、彼の事は知っていたし、知っているからあまり気にしてはいないのだけれど。

 

 

でも、平塚先生の事は知らなかった。

 

 

彼女も、前年度をもって総武高を去ってしまった。彼女は彼の事だけは伝えておいて、自分の事は何も語らずにその日を迎えた。

 

 

 

 

 

「何泣いてるんだ、雪ノ下」

 

「・・・どうして、どうして言ってくれなかったんですか」

 

「君にもう私は必要ないだろう?」

 

「・・・そんなこと、ありません」

 

離任式が終わった後、平塚先生と私は部室に居た。由比ヶ浜さんや一色さんは別の件で部室には居なかったので、二人きりだった。こうやって彼女と二人で部室に居ると、私が高校一年生だった頃を思い出す。私をここに連れて来て、『部長になれ』と言われたあの日を。

 

「いや、君はもう十分変わったよ。それだけじゃない・・・沢山のものを君は変えた。それは人であり、物であり、感情であり、在り方もそうだ」

 

彼と同じような台詞を言われる。

 

 

否、逆だ。

 

 

彼が、平塚先生と同じようなことを言っていたのだ。

 

今までもそうだ。彼の言葉は、どこか平塚先生を感じさせるものが多かった。

 

・・・そういう事か。だから、彼と彼女が背中合わせのように感じていたのか。

 

「まぁ、君らしいと言えば君らしい」

 

「らしい?」

 

「なんだ、知らないのか?」

 

何かを含みをもった言い方に、私は彼女の言葉を繰り返す。

 

 

 

 

「『人ごと世界を変える』という、偉大な言葉を」

 

 

「・・・あ」

 

 

その言葉を、そのフレーズを、その宣言を、その恥ずかしい目標を、私は知っている。私は知り過ぎている。

 

 

部長になった時、私が平塚先生に言ったものだった。

 

 

「どうだ、雪ノ下。君は、『ここ』に居られて良かったか?」

 

「・・・勿論です。沢山のことを、ここで学びました」

 

「・・・そうか。まったく、別れというものは何回やっても慣れないものだ。比企谷と言い、陽乃と言い、小町と言い、そして君か」

 

「・・・」

 

「比企谷兄妹、雪ノ下姉妹には本当に困ったものだよ。だから、私は今ここを去ることが出来て良かったと思っている。君達を近くで見れて、本当に良かった」

 

総武高校で、この人は二組の家族を見続けた。比企谷と雪ノ下・・・そこに居る子供を、彼女は教え導いて来た。

 

 

もう、私達にとって彼女はかけがえのない存在そのものとなっていた。

 

 

「いいか雪ノ下。これから先、多くの挫折を味わう日が来る。落ち込んで、へこたれて、何もかも嫌になって、逃げ出したくなる日が必ず来る。そんな時は、これを思い出せ」

 

 

歩き出した彼女の背に、もう白衣は無い。ここでの平塚先生は、もう居ない。

 

だから、今目の前に居る彼女は、平塚静という一人の人間として私の前に立っていてくれている。

 

 

 

「見方を変えろ。どんな失敗も、どんな絶望も、どんな失望も、どんな不安も、どんな挫折も・・・君を君たらしめる本物だ。そして、そんな感情を一人の男と共有したいと思えたのなら・・・それはきっと、君だけの答えになる」

 

 

 

そう言って、彼女は『奉仕部』の扉を開けた。

 

 

 

 

「お世話に、なりました。本当に・・・本当に今まで、ありがとうございました」

 

 

 

手を挙げて、背中で返事をした彼女は間違いなく・・・私の生涯の恩師だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

三年生になっても、やることは変わらない。放課後はいつも通りあの教室に行く。

 

顧問であった彼や、平塚先生が居なくなったのに何故奉仕部が残っているのかと問われれば、それは他の人達の尽力があったからだ。

 

 

『うちのこと、サポートしてくれるんでしょ?そのために、奉仕部が無くなると困るから・・・う、うちのためであって、別に雪ノ下さんのためじゃないから!』

 

そう言って、相模さんは名前を書いてくれた。

 

 

『ま、まぁ・・・奉仕部には世話になったから』

 

そう言って、川崎さんは名前を書いてくれた。

 

 

『雪ノ下さんには助けてもらったからね』

 

そう言って、海老名さんは名前を書いてくれた。

 

 

『雪ノ下さんとのテニスのお陰で、部活が活発化してきたんだ』

 

そう言って、戸塚くんは名前を書いてくれた。

 

 

『あーし雪ノ下さんのこと別に好きじゃないけど、まぁ、結衣があんたのこと好きだから』

 

そう言って、三浦さんは名前を書いてくれた。

 

 

『雪ノ下さんには、借りがあるから。こんな事で返せるような軽いものじゃないけど・・・これが第一歩になればと思ってる』

 

そう言って、葉山くんは名前を書いてくれた。

 

 

 

 

 

『あたし、この部活が好きだから』

 

 

『ここの部活は絶対に無くさせません!』

 

 

そして、あの二人。

 

 

 

一色さんは『奉仕部存続願』という書類を作り、それを生徒会長として学校に出した。

 

 

由比ヶ浜さんは、多くの人を集めて署名をお願いしてくれた。

 

 

 

この高校生活で、私が関わって来た全ての人が奉仕部の存続を願ってくれた。

 

 

そのお陰で、この部活は守られている。

 

 

嬉しかった。今まで一人で生きて来た私に、こんなにも多くの味方が出来たことが、心の底から嬉しかった。

 

 

世界は一人じゃ変えられない。そこには、味方が必要だ。

 

 

これは、彼が私にくれた言葉。

 

 

本当に、その通りになった。

 

 

 

本当に、比企谷八幡という男は、私に多くのものをくれた。

 

 

 

 

 

 

コンコンコン

 

 

 

 

 

 

「どうぞ」

 

今はまだ一人の部室。もう少しすれば、由比ヶ浜さんと一色さんが来てくれる。

 

でも、どうやらその前に新たな依頼人が来たようだ。

 

「・・・ひゃっはろ〜」

 

「・・・姉さん」

 

 

 

そこに居たのは、姉さんだった。私にとってたった一人の姉で、大好きな家族だった。

 

 

「ここって、さ・・・教育実習生の私の依頼も聞いてくれたりする?」

 

 

そう、姉さんは教育実習生として総武高に来ていた。担当はクラスは三年J組、つまり私のクラス。あの時は本当に驚いたものだ。

 

「そうね・・・依頼の内容次第、かしら」

 

「そっか・・・じゃあ、聞いてもらえるかな」

 

首肯で返す。

 

 

春の麗らかなこの日、私は自分の通う高校で自分の姉と二人で部室に居る。その不自然さに内心苦笑しながらも、恥ずかしそうにする目の前の姉を見てやっぱり笑みが零れる。この姉も、本当に変わったものだ・・・いえ、変わったのは私もかしらね。

 

 

「実は、私には憧れの先輩って言うか、先生が居てね。でも、その人はもうこの高校には居ないんだけど、ここにその人をよく知っている人が居るの。その人は私の大切な妹でさ・・・だから、お姉ちゃんを助けてくれないかなって思ってるの・・・どうかな?」

 

 

まったく、この姉は。いつからこんなにも可愛くなってしまったのだろうか。

 

 

「・・・その依頼、受けましょう」

 

 

教育実習生の段階で生徒を頼って来るわ、この部室に足を運ぶわ・・・本当に、この人が先生になっても大丈夫なのだろうか?

 

いえ、よく考えれば、あの男も仕事が面倒臭いとか言いながらこの部室に我が物顔で居座っていたわね。今頃、会社でこき使われている頃だろうか。

 

 

 

ならきっと、大丈夫ね。

 

 

 

なんたって、あなたは私の姉なのだから。

 

 

 

 

でも、これだけは言わせてほしい。

 

 

 

 

やはりと、やはりと言わせて。

 

 

 

 

 

 

 

と言うか、言わざるを得ない。

 

 

 

 

 

今、目の前に居る『先生』になろうとしている姉と、私が人生を捧げたあの元『先生』を思い浮かべると、そう言わざるを得ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やはり私の先生は間違っているようで間違っていない。

 

 

 

 

 

 

 

 




一年以上にも渡ったこのシリーズも、これにて完結です。

さて、あとがきということで、ここで少し私の話をさせてください。

私は今、教師を目指している大学生です。この話を書き始め理由も、自分の中にある理想を詰め込みたかったからです。

この話に出てくる『比企谷先生』は一般的には正しくない教師なのでしょう。雪ノ下雪乃という一人の生徒に肩入れをし、彼女のために教師になった。それは、本来在るべき教師としての本分を逸脱しています。

でも、例え正しくなかったとしても、間違っていたとしても、悪い事だったとしても、認められなかったとしても、それが誰かにとっての正解ならばそれでいいのではないかと思います。無論、こんなものはただの綺麗事です。世の中はこの話のように甘くはありません。

だから、この理想を私は表したかった。私の考えを、私の価値観を、私を、表したかった。ただ誰かに知ってもらいたかった。本当に、それだけのために書き始めました。

二次創作という原作あっての話で、こんなに色々と語るのは違うとも思います。

私のこの勝手に付き合わせてしまって、本当に申し訳ありませんでした。


しかし、私が一番伝えたいことは感謝です。

感想をくれた皆様、評価を付けてくれた皆様、読んでくださった皆様、本当に、本当にこの一年以上もの間、ありがとうございました。私の勝手に付き合ってくださって、本当にありがとうございました。

とても貴重な経験が出来ました。

これからも、別の作品などを書く予定なのでそちらの方もお付き合い頂けたら幸いです。


今まで、ありがとうございました。




それと、Afterを少し考えていたりします。その時にまた、彼らを見てあげてください。




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