やはり私の先生は間違っているようで間違っていない。   作:黒霧Rose

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4話 二代目は自分だと気付く

『戸塚にとってのお前の立場を考えろ』

 

彼の言葉の意味をずっと考えていて、私は授業にあまり集中ができなかった。

 

今回の言葉は彼の前回の言葉とセットとして考えていい。だとするなら、その戸塚くんにとっての私の『立場』こそ、私が『魚の居場所』ではない理由になる。

一度、私の立場というものを考え直してみましょう。

『奉仕部部長』『依頼を解決する人間』

・・・待って、そう考えるのなら戸塚くんの立場は?

『依頼者』ということになる。その前提を踏まえた上での私の立場は簡単に言えば『頼られた側』ということになる。ここから、ここから考えを発展させた先に彼の言葉の本当の意味があるはず。

 

なのに、どうしてそこから先に思考がシフトしないのかしら。

 

 

 

放課後、私たちはテニスの特訓の続きをする。

 

今、戸塚くんはウォーミングアップということで軽くランニングをしている。由比ヶ浜さんはボールを出したりと準備を進めていた。

 

そして私は、また考え事をしていた。当然彼の言った言葉についてだ。昼休み、正確には昨日からずっと考えているが、これといった答えが見えてこない。なにかが見えそうなところまでは行くがそこから先に思考が進まないのだ。

 

「じゃあ雪ノ下さん、ラリーの相手をしてくれるかな?」

 

ランニングを終えた戸塚くんが私にそう言った。そうね、このまま考えごとをしているだけではダメね。今私は依頼を受けている身なのだから。

 

「分かったわ」

 

今回も戸塚くんはしっかりと私の打つ球に反応をしてくれる。

 

「やっぱり、雪ノ下さんテニス上手いね」

 

「あ、ありがとう」

 

ラリーをしながらいきなり褒められたので少々反応が遅れてしまった。

 

「雪ノ下さんとテニスができて良かったよ。由比ヶ浜さんに奉仕部を紹介された甲斐があった」

 

・・・っ!!

 

戸塚くんの言ったことで、ある事が思い浮かび動きが止まってしまった。

 

「あれ?雪ノ下さん大丈夫?」

 

「え、ええ。考え事をしてしまって、ごめんなさい。少し休んでもいいかしら?」

 

「うん、大丈夫だよ。由比ヶ浜さんと特訓してるね」

 

そう戸塚くんに言い、私はベンチに座る。

 

『雪ノ下さんとテニスができて良かった』

 

彼はきっと何気なくそんなことを言ったのだろう。けれど、私にとってはまさに棚からぼたもちだった。

 

そう、つまり戸塚くんに必要だったのは必死な練習なんかではなかったのだ。思い返せば、戸塚くんが言ったのは『僕の練習を手伝ってほしい』ということだった。だとするのなら、彼が必要としていたのは『練習相手』ということになるのではないかしら。

 

そう考えれば先生の言葉の意味が段々と分かってくる。

 

『戸塚にとってのお前の立場を考えろ』

 

この言葉に隠された本当の意味は『お前は戸塚にとっては練習相手だ。指導したりするのがメインであって、練習メニューや練習の方向を決めるわけではない』ということだ。私が自ら『必死に努力』というメニューを課せる必要はなかった、より正確に言うならそれは戸塚くんの必要としていることではなかった。

 

そして『今回、魚の居場所はどうやらお前のところにはないらしいな』

 

この言葉の本当の意味は、『私=魚』というわけだ。『魚の居場所』ではなく、私そのものが『魚』だったのだ。そして、私と特訓をするという形で戸塚くんは『魚を取った』更に言うなら今回における魚の居場所、それは『奉仕部』そのもの。私のところにはない、由比ヶ浜さんが加わったことで『私たち』のところとなった。だから先生はあんな遠回しな言い方をしたのだ。

 

ここまでのことが、また計算通りなの?あんな言葉に一体どれだけの意味を仕込んでいたというの?

 

これが、これが『初代奉仕部部長』の格なの?

 

 

これが私との格の違いなの?

 

 

 

 

「先生、お話があります」

 

戸塚くんとの特訓が終わった後、私は鍵を返しに職員室に寄った。鍵を返すのはあくまで『ついで』私の本命は比企谷先生と話をすること。

 

「・・・なにか見えたようだな。隣の会議室に行こう」

 

「はい」

 

 

 

「それで雪ノ下、話・・・はなんとなく分かってる。おおかた俺の言葉の意味を理解したんだろう」

 

向かいに座った先生はそう話を切り出す。

 

「ええ、ようやく分かりました」

 

「ここは俺たちしかいないし、敬語はいいぞ」

 

先生はそう促す。きっと、先生なりの配慮なのだろう。これからする話のための。

 

「分かったわ。では、私の辿り着いた解答を言うわね」

 

「ああ、聞かせてくれ」

 

「まず、今回戸塚くんが私たちに求めていたのは『必死な努力』ではなかった。彼が奉仕部の部室で言ったのは『練習を手伝ってほしい』だった。それを考慮すると、彼が求めていたのはあくまで『練習相手』だった。次に私の『立場』きっと戸塚くんにとって私はその練習相手だったのではないか、そう考えることができるわ。だから私が練習メニューを考えたりなどは本来する必要がなかった。そして先生の言葉の意味、これは『私そのものが魚』だった。そして『魚の居場所』とは奉仕部。奉仕部は由比ヶ浜さんが入ったことにより『私の』ではなく、『私たちの』になった。故に、私のところにはない、そういうことではないのかしら?これが私の辿り着いた解答よ」

 

辿り着いた解答の全てを先生に話す。そうすると先生はどこか安堵したような笑みを浮かべた。

 

「よくやった。正解だ」

 

「・・・ここまでが全て計算通りなの?」

 

正解だと言った彼に訊いてしまう。

 

「ああ、そうだ。お前が答えに辿り着くことも含めてな」

 

・・・何も言えなかった。本当に計算通りだったのだ。それも私が解答を導き出すことも含めて、全て計算通りだったのだ。

 

「今回の本文は俺ではなく、戸塚だ。出題者は戸塚で、解答者はお前。筆者の考えを答える問題、国語の基本だ」

 

筆者の考えを答える問題、彼はそう言った。そう、最初に私の考えが及ばなかったのは『誰が本文か』ここを間違えていたからである。私は先生が出題者で、先生の言葉が本文だと前回と同じように考えてしまったのだ。だから考えが及ばなかった。本当の出題者は戸塚くんだった、本当にそれだけの話だったのだ。

 

「まぁそれでも、ホントに凄いよ。よく辿り着いたな」

 

「・・・私でなければ解けないと思うのだけれど」

 

つい彼に悪態をついてしまう。こんな意地悪な問題をしてきたのだ、これくらいは仕方ないだろう。

 

「ああ、だからお前に出題した。解いてくれると思ったからな」

 

「そ、そう」

 

なんだかやり返されてしまった気分だ。けれどどうしてだろうか、不思議と心地好い。これが本当の意味での『期待』というものなのかしら。

 

「ま、これからも時間がある時は戸塚の練習相手してやれよ。俺も偶になら付き合うから」

 

「あなた、テニスできるの?」

 

まさかの協力宣言に少し驚いしてしまう。

 

「高校時代にアホな後輩に付き合わされてな」

 

「それって」

 

私の予想通りなら、きっとそれは

 

「ああ、お前の姉だよ。アイツ、自分の得意なテニスで勝負挑んできやがって・・・まったく、恥ずかしくねぇのかよ」

 

やはり姉さんだった。本当にあなたと姉さんの間には一体なにがあったというの?

 

「あなたと姉さんって」

 

「その内話してやるよ。お前の姉と俺との間になにがあったのか。平塚先生にでも、昔関わりがあったってことは聞いたんだろ?」

 

「え、ええ」

 

気付かれていたのね。まぁ、彼ならそれくらい当然なのかもしれない。

 

「んじゃ、気を付けて帰れよ」

 

そうして、私たちは会議室を出ていった。

 

 

*八幡side

 

「久しぶりだな、アホ後輩」

 

仕事中、アイツから電話がかかってきた。

 

『久しぶり、八幡先輩。今は先生かな?』

 

相変わらず楽しそうに話すやつだな。

 

「お前の先生ではねぇよ。お前の妹の先生ではあるけど」

 

『雪乃ちゃんの先生か。どう、雪乃ちゃんは』

 

「優秀なやつだとは思うよ。でもどこか・・・」

 

『どこか?』

 

「どこか寂しそうだ。前のお前を見てるようだよ」

 

『前の』それは、俺がまだ部長だった奉仕部に来たばかりの頃だ。

 

『・・・そっか。さすが八幡先輩だね。雪乃ちゃんのことよろしくね』

 

どこか優しげに、それでいて悲しみを含めたような声でそう言ってくる。

 

「ああ、俺は先生だからな」

 

『うん、任せたよ。じゃあね』

 

そう言うと、アイツは電話を切った。

 

 

 

 

 

ああ、任されたよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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