やはり私の先生は間違っているようで間違っていない。   作:黒霧Rose

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6話 二代目と初代と笑顔の彼女

「で、なんで俺は折角の休日をコイツの荷物持ちに消費しているのだろうか」

 

「あら、私の荷物持ちだなんて世の男子なら喜びまくりのはずなのだけれど」

 

「残念ながら俺はもう男子じゃねぇ・・・もう大人なんだよ、なんで大人になっちまったんだよ」

 

「勝手に悲しまれるとこちらとしてもなんて返したらいいのか分からないわ」

 

本日は土曜日。私は後日控えているであろう由比ヶ浜さんの誕生日プレゼントを選びに、比企谷先生を連れてららぽーとへやって来た。

もちろん比企谷先生は荷物持ちだ。

 

他意はないわよ?ホントよ、私は虚言は・・・吐かないと思うわ!

 

「まぁ観念するよ。でもあんまり目立たないようにな、仮にも生徒と教師なんだから」

 

ごもっともな指摘をする先生。

 

「・・・私、可愛いから」

 

「文脈めちゃくちゃなのに頷けるのなんでだろ」

 

こういうのもなんだが、私は自他共に認める『美少女』なのだ。故にこうして外にいるだけで、あらゆる人間のあらゆる視線を浴びることになる。

 

 

「あの子めっちゃ可愛くね?」

「うわ、マジじゃん」

「隣にいるの彼氏?」

「分かんねーけど彼氏じゃなきゃいいなー」

 

 

ほら、早速始まってしまったわ。結局こうなるのね。

 

「ちっ。しゃーねーな、眼鏡でもかけるか」

 

そう言って先生は上着の胸ポケットから眼鏡を取り出してかける。

 

・・・え?先生って意外と・・・

 

 

「見てあの人、カッコよくない!?」

「ヤバい!!声かけちゃおっかなー」

「いやーでも隣の子もヤバいよ?」

「うわー、あれには勝てないわ」

 

 

「は?なんか女性の視線が増えてんだけど・・・なぁ雪ノ下、今日は帰っていいかな?仕事が」

 

「ダメよ。荷物持ちが主を置いて帰らないでちょうだい」

 

先生が眼鏡をかけ、女性の視線が更に増えた。先生、自分から目立とうとしてどうするのよ。

 

「ったく、分かったからとっとと買ってすぐ帰ろう」

 

この人、プライベートだとこんな感じなのね。先が思いやられるわ。

 

 

 

 

 

 

「ふふっ、パンさん」

 

パンさんとは千葉県にあるディスティニーランドのマスコットキャラクターだ。私はそのパンさんがとても好きで好きでたまらない。今、その人形を彼に取ってもらい私は至極ご満悦だ。

 

「俺の英世が・・・」

 

隣で財布の中身を気にしている眼鏡先生。

 

なんだか部室のような心地好さね。このままこの時間が続けば

 

 

「あれ?八幡せんぱーい!!」

 

 

よかったのにね。本当に。

 

 

 

「八幡先輩!!久しぶりだね!」

 

「先週だか先々週くらいの電話ぶりだな、アホ後輩」

 

私の姉、雪ノ下陽乃が私たちのところにやって来た。それだけでもう嫌な気分だわ。

 

「またアホ後輩って言う!いつもみたいに、は・る・のって呼んでくれてもいいんだよ?」

 

姉さんが楽しそうに話す。姉さんって人にこんな顔をして話す人だったかしら?

 

「あ?いつもみたいが、アホ後輩だろうが」

 

「もう!照れちゃって」

 

「うーぜぇー」

 

なんだか仲間外れにされているようで少し居心地が悪い。

 

「あ、あの、姉さん」

 

私は自分から姉さんに話しかける。

 

「およ?雪乃ちゃんじゃん!なに?八幡先輩とデート?」

 

姉さんは疑問です、みたいな顔をして首を傾げる。

 

「ち、違うわ。彼は私の荷物持ちよ」

 

「あ、そうなんだ。じゃあ八幡先輩のこと借りていっていい?」

 

「ダメよ!」

 

つい大声を出してしまった。どうして今私は全力で拒否をしたの?

 

「ご、ごめんなさい」

 

「・・・そう、そういうことね。雪乃ちゃん、私絶対に負けないから」

 

「え?」

 

訳の分からないことをいきなり言われた。一体私と姉さんはなにを争っているの?私には分からないのだけれど。

 

「分からないならいいや。それでさ」

 

 

「陽乃」

 

 

聞き覚えのある声がまた聞こえた。間違いない、この声は、私の全身が冷え切っていくようなこの声は

 

母さんだ。

 

 

「あ、お母さん」

 

「あら、雪乃も居たのね。隣にいるのは」

 

姉さんの隣に並んだ母さんが先生のことを見る。マズイ、このままだといらぬ誤解を招いてしまう。

 

「お久しぶりですね、雪ノ下さん。俺の大学卒業以来ですから、3ヶ月ぶりくらいですか」

 

 

え?

 

「やっぱり比企谷さんだったのね。今は総武高校で先生をされているのですよね、雪乃がお世話になっています」

 

あ、れ?

 

「いえいえ、私はまだまだですよ」

 

「あら、そんなことは無いですよ。あなたなら雪乃を任せられますもの」

 

えっ、と・・・

 

「恐縮です」

 

どうして先生と母さんがこんなにも親しげな感じで話しているのかしら?

 

「先生と母さんって」

 

「ん?ああ、雪ノ下さんとはちょっと昔、な。そのよしみで俺の大学の卒業式にも来てくれたんだよ」

 

「それは陽乃がどうしてもって言う」

 

「わ、わぁお母さん!それは言わないでよ!」

 

「あらごめんなさい」

 

姉さんと母さんってこんなに仲が良かったかしら?おかしい、少なくともこんな風に冗談を交えて笑いながら会話できるような間柄ではなかったはず。それなのに、どうして・・・ま、まさか。

 

「比企谷さんはいつ陽乃を迎えに来るのかしら?」

 

「は?いえ、えっと・・・は?」

 

先生、言い直せていないわよって、は?今、母さんはなんと?

 

「お、お母さん!それはいいよ!も、もう行こう。じゃあね、雪乃ちゃんと八幡先輩」

 

「お、おお。じゃあなアホ後輩、それから雪ノ下さんも、また」

 

「ふふっ。ええそれではまた」

 

そうして2人はららぽーとの人混みに消えていった。

 

「・・・ねぇ、どういうことなの?」

 

私はもう疑問だらけでとりあえず先生に訊いてみる。

 

「まぁ、全部ちゃんと話してやる。でもそれは今じゃない」

 

「そ、そう。絶対にいつか話してね」

 

「ああ」

 

 

結局、何も聞けずじまいだった。

 

 

 

 

「由比ヶ浜さん、お誕生日おめでとう」

 

「由比ヶ浜、おめでと」

 

月曜日の放課後、奉仕部の部室で由比ヶ浜さんをお祝いする。

 

「え?・・・ええ!!うそ!ありがと!」

 

笑顔で感謝を述べる由比ヶ浜さん。よかった、喜んでもらえたようね。

 

「私からはこれを、エプロンよ」

 

土曜日に、比企谷先生と買ってきたプレゼントを渡す。

 

「ありがと!ゆきのーん」

 

だ、抱きつかれると少し暑苦しいわね。でも、そうね、悪くないわ。

 

「俺からはこれ、シャーペンだ。お前の名前が彫ってある、高いんだから無くすなよ?あと俺から貰ったってのも人に言うなよ」

 

先生が渡したのは、由比ヶ浜さんの名前がはいったシャープペンシルだ。見るからに高そうね。

 

「先生からも!?ありがとうございます!」

 

「おう」

 

ふふっ。本当に良かったわ。こういうことはやってみるものね。

 

「ケーキも焼いてきたから、食べましょう」

 

「うん!」

 

 

 

私はその日、初めて『友人』の誕生日を祝った。

 

 

 

*八幡side

 

「ああいうのが『青春』ってものなのかね」

 

職員室で1人呟いてしまう。今日の由比ヶ浜と雪ノ下は楽しそうだったな。

 

「由比ヶ浜は雪ノ下のことをしっかりと見て、それでいて踏み込んでくれる。雪ノ下はそんな由比ヶ浜のことを想っていて、ちゃんと受け入れている。ちゃんとやってるんだな」

 

俺にも、あんなことができたかもしれないのかね。分からない。俺はいつも1人だったしな。教室も、部室も、いつも1人で色褪せた世界を見ているだけだった。

 

「そのうち、雪ノ下に教えてやらねぇとな。まぁもっとも、それはまだ先の話になるけどな」

 

 

 

 

それは、俺が平塚先生から聞いた『奉仕部の存在理由』だ。

 

 

あの『奉仕部』とは、本来誰を救う場所なのか。それをいつか二代目にも伝えないとな。

 

 

 

 

 

 

俺が唯一救うことのできなかった『その人』のことをな。

 

 

 

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