やはり私の先生は間違っているようで間違っていない。   作:黒霧Rose

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8話 二代目は答えになる

『世界を創るのに必要なものはなにか』

 

私はその言葉の意味をずっと考えていた。もし彼の言葉をそのまま飲み込んでいいのなら、この言葉は『魚の居場所』ということになる。つまり、この言葉から私が考えを広げなければいけないというわけだ。

 

それにしても、先ほどの三浦さんには少しやりすぎたかしら?まさか泣かせてしまうだなんて。

 

私は三浦さんを論破し泣かせてしまったため、今は夜の森を歩いているところだ。

 

 

そうして歩いていると、誰かが星空を見上げているのところを見つけた。

 

あれは、比企谷先生?

 

なんだか少し幻想的だわ。

 

「・・・ん?雪ノ下か」

 

こっちに気付いた比企谷先生が私の方に顔を向ける。

 

「ええ、邪魔してしまったかしら?」

 

「いや、構わねぇよ」

 

そう言って、また星空を見上げた。

 

「・・・私、どうしたらいいか分からないの」

 

気付けば、先生に弱音を吐いていた。

 

「迷うってのは大切なことだ。それはお前が自ら進んでいるなによりの証拠だろ。今は迷い、悩み、そして自分の決めた道を進め。歩いてきた道を振り返るのはいつだってできるんだから、今くらいは前向いてろよ」

 

どう、して、どうしてあなたはそんなにも私に優しくするの?こんな弱音を吐いてしまう私に、どうして慰めを言うの?

 

「進む道が見えないと言うならヒントだ。『1人の人間が欲しているものはいつも決まっている』それだけだ。部屋に戻りにくいって言うならもう少し居ろ、せめて俺の目が届くところにな」

 

そう言って、私と先生は2人で星を見ていた。

 

 

 

 

 

翌日の朝、私は1人で考えに耽った。

 

『1人の人間が欲しているものはいつも決まっている』

 

この言葉を前回の言葉に重ねていいのなら、彼女の世界を創るために必要なものがその欲しているものということになる。だとすればそれはなに?

考えなさい雪乃。あなたが1人の時、欲していたものはなに?一人の時間?いえ、そんなものでは世界は創れない。平穏?違う、そんなことを望んだところでなにも解決はしなかった。

 

思い出せ、思い出すのよ。あなたが、私が、心から望んだものを。欲して止まなかったもの。

 

 

・・・っ!!そう、そうね。どれだけ強がりをしたところで私が欲しかったものはいつも『それ』だったわね。

 

 

けれど、この気持ちが分かるということは

 

 

先生、あなたも『独り』だったということなの?

 

 

 

 

*八幡side

 

「お前は、鶴見か」

 

2日目の自由時間、木陰で休んでいると鶴見がやって来た。

 

「鶴見はいや。留美って呼んで」

 

「いや、ほら。立場ってのが」

 

立場上、それは難しい。

 

「いいから!」

 

「はぁ。分かったよ。それで留美、お前どうしてここに?」

 

年下の女子からは弱いという俺の特性が発揮されてしまった。よく考えてみると、年齢問わず男からは弱いし、なんなら女なんて俺の弱点そのものだから俺は最弱まである。

 

「起きたら誰も居なくなってた」

 

「最近の小学生はひでぇな」

 

まぁ俺もやられたことあるけど。

 

「私、このまま惨めな思いをし続けるのかな」

 

その言葉は独り言のように発せられた。答えなんて求めていなくて、欲しかったのは同情や共感なのかもしれなかった。

やはり、こいつの求めているものも『それ』だったか。

 

「なぁ、留美は自分も同じことをしたって言ってたよな」

 

「・・・うん」

 

「それを今はどう思ってる?」

 

この確認は必要なことだ。

 

「バカなことしちゃった、て思う」

 

「そうか。なら、まずは謝ることから始めねぇとな」

 

「え?」

 

「この世界には『救われていい人間』ってのが居る。それは自分の非を認めることができるやつだ。お前はその資格を得た、なら行動しなきゃな」

 

そう、自分は悪くない、自分は正しい、自分は善行を積んでいる。そうやって考えるやつは『救われていい人間』などではない。醜くて、弱くて、小さい、ただのエゴの塊だ。

 

「許してくれるかな?」

 

留美は不安そうな声で言う。

 

「その認識を改めなくてはならない。許されるために謝るのと、反省したから謝るのではわけが違う。お前はどっちなんだ?」

 

「・・・わ、たしは、は、んせい、したか、ら・・・謝る」

 

「そうか。いい思い出ができるといいな」

 

答えは得た。なら俺は雪ノ下に託すだけだ。彼女を救うことができるのは、お前なんだから。

 

 

 

*sideout

 

 

「鶴見さん、あなたに紹介したい場所があるの」

 

私は肝試しが始まる少し前、鶴見さんを『ある場所』へ誘った。

 

「もう少しで肝試しだけど」

 

「これは私のお願い、望みみたいなものよ。けれど、後悔はさせないと誓うわ」

 

私は本気だ。けれど、それでダメならそれまで、という気持ちはある。

 

「分かった。連れてって」

 

鶴見さんは私の誘いに乗ってくれた。

 

 

 

 

 

 

「ここって、森?」

 

「上を見てご覧なさい」

 

そう言って、私と鶴見さんは上を見る。

 

「・・・綺麗」

 

「そうでしょう、ここは昨日私とある人が一緒に星を見たところよ」

 

そう、ここは昨日の夜に私と比企谷先生が星を見た場所だ。

 

「私はここで、ある人に弱音を吐いていたの」

 

私は自分の話をする。これから彼女に言うことがあるから。

 

「その人は私に優しい言葉をかけてくれた。それで私の心は満たされて、救われたわ。いいえ、いつもその人の言葉には救われているわ。私に道を示してくれて、大切な友人にも会わせてくれた」

 

ここで話を切って、鶴見さんを見る。

 

 

 

「ねぇ、私と『友達』にならないかしら?」

 

 

*留美side

 

「ねぇ、私と『友達』にならないかしら?」

 

どうして雪乃がそんなことを言うのか、私には分からない。

 

「ど、どうして?」

 

「あなたは『味方』がほしいのではなくて?」

 

「・・・」

 

図星だった。いつも私は1人で、いつも周りは1人じゃなくて。そんなことを羨ましく思っていた。どれだけ強がっても1人は惨めだと思ってしまう。そんな自分が、嫌になってしまう。

 

「私にも、あなたと同じ経験があるの。色んな女子から嫌われて、たくさんのイジめを経験したわ。だから、あなたの欲しているものが分かるの。『味方が欲しい。1人は嫌』という気持ちが」

 

「・・・あ」

 

わたし・・・は。

 

「でも、これだけは覚えていて。私は同情や憐れみであなたと友達になろうと言ったのではないわ。そうね、言うなら『私のため』かしら」

 

「雪乃の・・・ため?」

 

意味が分からない。私と友達になることが雪乃のためになるの?

 

「私、自慢ではないけれど友達が1人しか居ないのよ。だから、その、と、友達が欲しい・・・のよ」

 

・・・そっか。雪乃は優しいんだ。だからこんな遠回しな言い方をするんだ。

 

「うん。私、雪乃の『友達』になる。よろしくね」

 

なら、私も素直になろう。彼女の優しさに応えよう。なにより、私が応えたいんだ。

 

「ふふっ。よろしくね、留美さん」

 

雪乃さんは優しく微笑んでくれる。

 

「うん!」

 

そっか、そうなんだね。これが、人の『暖かさ』なんだね。

 

「ねぇ、雪乃の言う『ある人』って八幡先生のことでしょ?」

 

少し意地悪をしてしまう。

 

「っ!そ、そうかもしれない・・・わね」

 

月明かりに照らされた雪乃の顔が少し赤くなっていたのは、きっと勘違いなどではないだろう。

けれど、それを指摘しないのも

 

 

『友達への優しさだよね』

 

 

 

*sideout

 

 

「「「「鶴見さん!」」」」

 

私と留美さんが森から戻ると、多くの小学生がやって来た。

 

「「「「ごめんなさい!」」」」

 

そう、あなた達も気付いたのね。なら留美さん、今度はあなたの番よ。

 

「私も、ごめんなさい。また、みんなと仲良くしたいです」

 

そう言った留美さんは少し涙目だったけれど、憑き物が落ちたようだった。

 

「雪乃、私、行ってくるね。雪乃から、八幡先生からたくさん勇気もらったから」

 

「そうね、行ってらっしゃい」

 

私は留美さんを送り出す。友達の覚悟を応援してあげるのは当然だものね。

 

 

 

留美さんが行ってから、比企谷先生がこっちにやって来た。

 

「どうやら、上手くいったみたいだな」

 

そう言った比企谷先生の顔は少し笑みが浮かんでいた。

 

「あなたの言った言葉の本当の意味、それは『味方』の存在ではないかしら。それが私のたどり着いた解答よ」

 

比企谷先生に私の解答を言う。もはや恒例となっている答え合わせの時間だ。

 

「正解だ。1人のやつってのはどう強がっても心のどこかで『味方』を欲している。由比ヶ浜という味方を得たお前なら必ず解答に至ると思ったよ」

 

「つまり、本文を読んだ『自分の考え』を答える問題だったということね」

 

本文とは『私と鶴見留美さんの心』そして私の考えを留美さんに示してあげる問題だったというわけだ。

 

「そうだな。お前はどうやって留美を立ち直らせた?」

 

先生が私にそう訊いてくる。

 

「留美さんと『友達』になったのよ」

 

私はさっきあったことを先生に話す。

 

「そうか。いい解答だな」

 

そう言って私の頭を撫でる。

 

「っと、すまねぇ。妹に昔しててつい、な」

 

先生が頭を撫でるのを止めてしまい、どこか寂しくなった。

 

どうして私はこんな気持ちに?

 

「ねぇ先生、あなたも『独り』だったの?」

 

ずっと気になっていた事だ。私や彼女のことについての解答を持っていたということはそうだった時期があるということだ。

 

「ああ、まぁな。けれど、1人は好きだったし別に・・・な」

 

「嘘ね。そんなことを言う人が、留美さんの欲しているものを分かるはずがないわ」

 

嘘だとすぐに分かった。先生がそう言った時、先生が目を逸らしたのを私は見逃していなかった。

 

「・・・かもな。お前が俺の高校時代に居たら、なにかが変わっていたんだろうな」

 

先生はそんなことを言い出す。

 

「そして、俺がかつて求めた『もの』を見い出せたのかもな」

 

「それって・・・」

 

 

 

 

 

 

 

「いつだか求めた『もの』は夢物語にしか存在しない、『本物』だ」

 

 

 

私には彼の欲した『本物』が胸に突き刺さった。

 

 


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