その英霊を目の当たりにし、私は言葉を失った。
聖杯の性質上、東洋の英霊は召喚されないため、召喚できるサーヴァントは限られており、この触媒を使えばおそらくこの辺りの英霊が召喚されるだろうという目星をつけ召喚に臨んだ訳だ。
過去にその時代の英霊を狂戦士として、召喚したマスターが圧倒的な力で聖杯戦争を蹂躙したという。おそらくあの時代の戦士達というのは怨念や呪い、淀みを背負っていたからこそ狂戦士と波長が合うのだろう。
しかし、この英霊は狂戦士にもかかわらず、一切の淀みがないのだ。
身体はしなやかで、中性的な顔立ち。この触媒が本物なのであればこの英霊は男性だろう。軽装かつ、鎧を着ており、その背には逸話通りの弓を背負っている。その風貌はどこか王らしき威厳を感じる。
「問いましょう、あなたが私のマスターですか?」
「...いかにも。この令呪が証拠だよ。そういう君こそ私が召喚したはずのバーサーカーかね?なんか予想していたのとは違うが。」
「ええ、そうです。私はバーサーカーとして現界しました。」
普通ならば絶対にありえない光景、いわば異常。
バーサーカーのクラスは肉体や俊敏などのステータスを底上げする代わりに、理性を無くしたり、意思疎通ができなくなるなどのデメリットが付与される特殊クラスで、このようにマスターと会話ができるということがそもそもおかしいのだ。
「しかし君はバーサーカーよりもアーチャーの方が適正が高いはずなのだがね。なぜ私の召喚に応じたのか、少し疑問ではあるね。」
「まあ確かにそうですね。狂戦士としてなら私よりも同じ軍だった彼女や私のせいで身を滅ぼす末路を辿わせてしまった兄上の方が適性は高いのでしょう。しかし私の触媒である以上、私以外が出るわけにもいきますまい。」
「英雄の誇り、というやつか。君を呼んだ以上、君の願いのために私は全力を尽くすし、君も私の願いを成就させるために宝具の出し惜しみだけはしないでくれ。まあ君のことだ、基本的に三騎士達と白兵戦で戦っても対等に戦えるだろう。いざとなれば、その宝具で敵を葬ってくれ。」
「ええ、私は一国の王子でもありますが今はあなたのサーヴァント。命令には絶対服従しますし、出し惜しみもしません。しかしマスター、一つお願いがあります。」
「ふむ、何かね?」
「私の宿敵である「あの男」が現界していたのなら真っ先に戦わせてほしいのです。」
「ああ、約束するとも。その男が相手なのであれば君も宝具の出し惜しみをしないでくれ。流石にあの大英雄を従えるようなマスターでは私も少々厳しいのでね。では共に戦おうじゃないか。バーサーカー。」
「ええ、私はあなたの剣となり、必ずや勝利を収めてみます。」
彼は嘆く。
一度手放してしまった妻と、自分が死んだ後も他の男達の求婚を拒絶し、死んでいった妻の運命を
彼は恨む。
自分の運命を狂わせた美の女神を
願望はただ一つ、
「死んでいった妻達の魂が救われること」
女神からの愛で人生を狂わされ、妻達への愛で自分の魂は永遠に救われず、仲間達の憎悪の炎に燃やされる。本来であれば、特別なクラスである「復讐者」の方が適している彼だが、愛のために道を狂わされ、死んでいった彼はやはり狂戦士なのだ。