とある時代にてー
怪物に飲み込まれながら最後の命の一瞬を噛みしめる。
国のために尽くし、たまたま出動し、その怪物に接近したが運の尽きで結果がこれか。いたって凡人のスポットライトも当てられないような俺が国の未来のための犠牲になるんだから人生ってのは分からないもんだな。
機体がメキメキ音を立てて怪物に吸収され、酸素不足のせいか自分の意識が遠のいていく、遠くで同僚らしき声が俺の名を叫んでいる幻聴すら聞こえてきた。ああ、あいつもいいやつだったな。こんな俺なんかを心配してくれたりさ。
少なくともこの怪物は俺たちでは倒しきれない、だから逃げてくれ。俺の仇なんかどうだっていい、今は自分の命を大切にしてくれ。
「...ああ、全く」
「自分らしい最後、だな」
でも、少しくらいは───────
こうして名もなき小さな英雄の命の灯火は消えていった。
人類史の片隅にも書かれないような男の人生の幕は静かに降ろされていく
はずだった。
しがない戦士の生前の生き様を
英霊にも劣らない献身の覚悟を
男が願った微かな願いを
聖杯は英霊として彼を選んだのだ。
英霊としては霊基が足りなかったが、そこは彼に波長が近い英霊で埋めればいいこと。
聖杯戦争によって奪われた命を聖杯は無理矢理にでも英霊として登録したのだ。
目の前に召喚された英霊がいる。
しかしその姿はまるで
「...パイロット?」
私は触媒を使ってないし、どんな英霊がきても驚かないつもりだった。
しかしこの英霊はあまりにも近代の英霊の姿。
つまり神秘性が低く、知名度もある英霊だとすると第二次世界大戦辺りのパイロットか。
「ライダーとして現界した、らしいです。あまり期待はしないでください。基本的に近接戦は無理なもので。」
そういうと男は近くにあった椅子に腰をかける。なんか腰が低いというか気の弱そうな英霊で私はちょっとがっかりする。
「あなた、真名は?」
「真名...?ああ、別に名乗るほどの英霊じゃないですよ。自分だって何故英霊なんて大層なものになれたのか謎ですからね。適当にライダー、とでも呼んでください。」
(なるほど...となると抑止の類か)
抑止の英霊が過去に召喚されたこともあったらしいし、英霊は時系列を問わないものだ。つまり未来に英霊になった可能性だってなきにしもあらずなのだ。
「じゃあちょうど良かった、買い物行くから服に着替えて。ああ、私の兄さんの服を持ってくるからちょっと待ってて。」
「買い物...? まあ、別にいいですけど」
「あと、私はマスターだけど年齢的には貴方の方が年上だから敬語は結構よ。令呪で貴方を縛る気もないわ。戦闘時には私に従ってもらうけど。」
「ああ、そうなのか。分かったよ。」
そう答えると彼女はニコッと笑って外へ出た。
生前は他人の温もりなんて知らず、ただひたすら無い目標のために親や他人に言われるがままに勉強し続け、就職し、その成れの果てがあの怪物との戦いであり、命を落とした。
あの時に願った願望がこんな形で叶うとは思いもしなかったが。
彼の願望はただ一つ、
「人の温もりに触れたい」
良きマスターに出会った彼の願いは叶った。ならば後は全身全霊で自分の全てをあのマスターの勝利に捧げるだけだ。俺の中にいる誰かもそれを望んでいる。
無銘、英霊の中でも異質の彼は自身の真名という過去を捨て、新たな生を謳歌するのだった。