時は少し遡る。
私にはなにが起こったのか分からなかった。
「問おう、貴方が私のマスターか?」
桜田雛子17歳。学校でのいじめ、厄介者扱いという親族からの迫害、信じていた人の裏切り。嫌な出来事がいっぱいあり、途方に暮れた私は「死んでもいいや」と思ってた。でもどうせ死ぬなら未練を残さないようにしようと思い、故郷の街に伝わる命と引き換えに願いを叶えてくれる悪魔の召喚方法を試して見ることにしたのだ。その結果が今目の前にいる謎の男性である。
「あの...悪魔...さん...ですか?」
恐る恐る尋ねると、目の前の男は首を傾げ、
「悪魔...確かにそう呼ばれたこともあるが、私はいたって普通の英霊だ。」
「悪魔じゃ...ないんですか?」
「否定はしないが、君の想像しているものではないだろうよ。ああ、戦闘能力は期待しないでくれ。私はタダのしがない学者だからな。命令には基本的に従うが、戦闘は極力避けてくれ。」
「そんな、命令なんて...私悪魔さんにそんなこと言えません...それから...」
「英霊ってなんですか...?」
「...え?」
「なるほど...私はマスターで戦うんですね?」
悪魔さんに聖杯戦争とやらのルールを教えてもらった。要はマスター同士の殺し合いに昔のすごい人たちが絡み、最後の一人になるまで戦うらしい。
「ああ、しかし君は一般人のようだ。魔力はどうとでもなるが魔術師同士の戦いにおいて君は命を狙われる立場にある。だからこういうのもなんだが、マスターを辞退する方が身のためだ。別に私の願望は聖杯に叶えてもらいたいとまでは思わない。だから...」
「いいえ、覚悟はできてます。」
ああ、そうだ。
「死ぬかもしれないんだぞ...?」
「私はもともと死ぬ気でした。今更その覚悟を曲げてまで生に執着する気もないです。だから私は死ぬまで悪魔さんと戦います」
「...君がなんで死ぬ気なのかは問わないでおこう、君の覚悟はよくわかった。ではマスター、改めてよろしく頼む。」
「あ、はい。悪魔さん。こちらこそよろしくお願いします。」
こうして私こと桜田雛子は悪魔さんと一緒に殺し合いに身を投じることになったらしい。
もちろん後悔はしていない、私はもう既に悪魔に命を捧げたのだから。
「...それから私のことを悪魔さん、って呼ばないでほしい。」
「え、じゃあなんて呼べば...?」
「そうだな...とりあえず...」
「ドクトル、とでも呼んでくれ」
彼は忠実の彼でもなく、物語の彼でもない。
彼は「その人のモデル」であり、本来なら英霊にもならないような錬金術師だ。しかし本物の彼の死後、彼の話に「悪魔を使役していた」などの尾ひれがついた物語が誕生し、それと同時に「モデルとなった彼も実はそうだったのではないか」という噂が立ち、生前にとある神学者が「悪魔を使役していた」と言っていたのが決定打となり、彼は「悪魔を使役していた」という逸話の元、聖杯によって英霊の座に迎えられることとなったのだ。
彼の体には後の風評被害による黒魔術の刺青や悪魔との契約した者という概念そのものが埋め込まれており、それに対する拒絶反応による痛みは常人では耐えられないほどのモノだ。その痛みから解放されるには「悪魔である」ということを受け入れなくてはならず、それをするにはサーヴァントとして現界しなければならなかった。
つまり、召喚されることが願望
それこそ彼が聖杯を求めず、勝利にも固執しない理由である。
しかし今は違う。
一人の少女が戦うと言っているのだから見捨てるわけにはいかない。
誇りを、力を、刃を
ありとあらゆる力を彼女に捧げ、この聖杯戦争を勝ち抜いてみせよう。
なぜなら私は「悪魔」なのだから。
人の身ながら悪魔として彼が現界したと同時刻、
悪の帝王が別の地で現界するのだが、彼はまだそのことを知らない。