アサシンのクラスはやや特殊で、なんの触媒も無しに呼べば、かつての殺人宗教集団である山の翁の誰かが召喚される。では触媒を使い、本来別属性であるはずの英霊を召喚したらどうなるのか。
イレギュラーな召喚、あまりにもリスキー。しかしそうでもしなくては勝つことができない。
ありったけの魔力を注ぎ込み、アサシンの召喚に必要な詠唱を継ぎ足す。
煌びやかな光と共に現界したのは一人の少女。
「サーヴァントアサシン、ここに現界した。問おう、貴様が余のマスターか?」
おそらく成功だろう、しかしこの英霊を怒らせたら一太刀で消されるだろう。
「ええ、そうでございます、陛下。役不足ではあるとは思いますが、この私めが貴方の従者であり、マスターでございます。どうか陛下、その力で聖杯戦争を蹂躙してくださいませ。」
ここはマスターぶらず、慎重に相手の出方を待つ。
「ふむ、なるほど。貴様が余のマスターか。役不足なんてとんでもない。貴様ほどの魔力があれば余も全力で戦えるというものよ。そこは誇るが良い」
笑顔でマスターを褒めたかと思えば、今度は急に笑顔が消える。そして低いトーンで言葉を紡ぐ。
「だがな、貴様は大きな過ちを犯した。」
「...」
ああ、知っていた。このことに関してこの英霊が何よりも怒るであろうことは。
「何故余をアサシンのクラスで召喚したのだ!」
確かにこの英霊ならキャスターやセイバーなど別なクラスでも存分に力を発揮できるだろう。しかしこの英霊にとって、最も適正なクラスは間違いなくアサシンなのだ。
その逸話
その歴史
その人生
どれをとってもアサシンとしての方が活躍できるであろうし、聖杯戦争で勝ち抜くのであればそうした方がいい。
「陛下。恐れながら申し上げますが、世の中には知名度、というものがございます。」
「...ふむ、続けよ。」
「確かに陛下ならばセイバーやキャスターとしての現界も可能でしょうし、そうすることもしようと思えばできました。しかしセイバーやキャスターとして召喚した場合、戦狂いの英霊相手では宝具を開放せざるを得ない状況が来てしまうでしょう。そうした場合、他のアサシンなどの気配遮断などを持つサーヴァントに見られてしまえば陛下の唯一の弱点がバレてしまいます。」
「...」
「逆に陛下自身がアサシンとなってしまえば、敵に真名をばらすことなく確実に始末できるというわけです。」
汗を垂らしながら最後まで言い切る。するとアサシンは満足そうに頷き、
「ふむ、よく言った! マスターよ。もし貴様がその答えを出していなければ余は貴様の首を刎ねていただろう。しかしその答えを得た以上、余は貴様の剣となろう。よろしく頼むぞ、マスターよ。」
そう言うとアサシンは体を霊体化させ、消えていった。それと同時に疲れがドッと出て、地面にへなへなと座り込む。
「...首を刎ねるとか冗談がきついよ、ほんと。」
「tyrant」
それはあの英霊の代名詞とも言える言葉。
皇帝であるが故に
身内より他人を愛し、
貴族より名もなき市民を愛し、
私欲で国を脅かす母親を暗殺した。
その在り方は理解されず、「身内を大切にせず、実の母親をも躊躇なく殺害する暴君」という目で民衆は彼女を見た。
彼女は民衆に愛を捧げた。身内も権力も投げ捨てて。
しかし両親の愛も、人々の愛も、得ることなく
国賊として追われ、三度目の落陽にて人生の幕を閉じる。
彼女は後悔はしていない。それが余の在り方だったのだと。
故に彼女は聖杯に願うことはなく、
マスターが笑顔で戦いを終えることができるのであればそれでいいと割り切っているのだ。
「さて、どうするか」
おそらくこのアサシンの気配遮断は人混みなどに同化するタイプで、忍者の英霊のような高度な気配遮断はできない。人混みに混じって、マスターを叩く方がいいのだろうか。しかしそれだと他の一般人にも被害が及ぶ。いくら万能の天才とはいえ、戦狂いのセイバーやランサーとの真っ向勝負は難しいだろう。その逸話通りの宝具ならば戦況は分からないが、果たしてどうなのか。
少なくとも、俺は絶対に聖杯を勝ち取らなければならない。
彼は魔術師の家系だが、家柄など関係なく戦う。
不治の病で倒れている友のためにも、
その願望機を手にしなくてはならない。
岸辺白也。
彼とアサシンがこの聖杯戦争をより混沌と化して行くことになるのだが、そのことは彼自身まだ気づいていない。