「お勘定!」
俺がそう言うと見慣れた店長の親父がスッと来て金を受け取る
何時もどおりの風景だ
暖簾を潜って店を出、村の子達に餅なんかを分けながらぐるっと一周りする
ちょっと良い野菜が出ていれば買って夕飯に思いを馳せるのも良い
可愛い洋服を見つければ無論似合う子を探すし、浴衣も綺麗だななんて思う
時には花でも育ててみようかな?なんて思ったり
またパーティーでもやろうか、と皆の笑う姿を目の裏に描く
俺の送る生活、平凡故の幸せ
誰かと会って話す、誰かと美味しいものを食べる、良い景色を見る
幻想郷だからこそ?いや違う。
どの世界でも出来るような、言わば『あたりまえ』こそが幸せなんじゃないだろうか?
「なんて、1人で語っていても仕方ないよな」
まだ青い夏の空を見上げて、俺はボソッと口に出す
サンサンと降り注ぐ暑い日ざしが照りつけてくる
アイスでも食べたいなーなんて辺りを見回したその時
途轍もない悪寒が、背筋を凍てつかせた
刹那、我が家からエッジが飛び出てきたのが視界端に映る
目の前に何処からとも無く黒い空気が広がる
それが揺らぎ、中から赤い光りがーーー
「蒼真ッ、逃げろおお!」
エッジの言葉で反射的に後ろへ下がった
そしてそれとほぼ同時に俺の居た地面が吹き飛んだのだ
無数に生える触手の様なものが暗幕を切り払った
その奥に見えたのは肉塊のようなぶよぶよした身体に
一つ、大きく見開かれた赤い瞳
鍵爪のような触手、大きな口
言わばクロウラーの様なものだった
「くっ、ダストイーターか……また面倒な奴が」
「ダストイーター?」
俺はエッジに聞き返した
「埃を食う者、奴は吸い込んだものを全て埃に変え吐き出す
それをまた吸い込んで吹き付けてきたり、暗幕にしたりと多種多様だ。」
「なっ、ナルホド」
俺はカタコトで返事をしながら奴の方を見る
口角を上げるように開いた口は、俺らを嘲笑うようにも見える
……なんかイラつくしさ、俺の私生活邪魔したしさ
「なんであれ、お前は消すわ」
俺の周りに螺旋状に金属が伸び、そのまま覆い尽くす
これまた独特なフォルムに仕上がった鎧。
その彼方此方から、無数のドリルが奴へ向かって風を切った
途轍もない回転を見せるドリルはそれを止めようとした触手を軽々しく切り裂いた
一瞬身体を振るわせるダストイーター。しかし、それは恐れではなく次撃へのサインだった
口から恐ろしい勢いで砂埃が吹き荒れた
ドリルは勢いを殺され、そのまま地面に落ちた
俺は直に鎧の形を変えた
どんな風も意味を成さない様な最小限薄い形状に
「おい、エッジ。アイツの目ェ潰しにいくぞ」
「初撃は通じずか、フフッ血湧くな」
俺とエッジは同時に走った
エッジの形状がみるみる変化していく
黒一色だったのが、紫に黒鉄の間接と、名の通りのエッジ
変化が止まると同時にエッジは飛んだ
黒く輝く妖しい焔が刺々しい口から放たれた
負けじとイーターも煙を吐くが、それらは尽く融解していく
苦し紛れにかエッジへ放った触手をソードビットで切り落としながら俺は奴の文字通り『目前』へと迫った
「本当は、嫌なんだけどなっ!」
腰に携えた椿の紋様、その赤き刀身で一閃、奴の目を引き裂いた
グチャグチャとした緑色の汁が一気に噴出した
耳を劈くような悲鳴が辺りに響く
その声に思わず下がると、炎を吐いていたエッジの口元が灼熱の赤に変化した
「クリムゾンヴォルケイノ!!」
赤褐色の焔がまるでレーザーの様に迸った
それは緑の体液を一瞬で蒸発させ、地面を融解し、そのまま半場崩れかけた巨躯を貫いた
風穴の開いた大きな口の向こう側
既に何も見えていないであろう目がぐるぐると回り続けた後
パンッ!とあっけないほど綺麗な爆発音を立てて空中に四散した
それらはまるで空気に溶けるかのように煙と化しまた何処かへ飛んでいった
「エッジ、アイツは何だったんだ?」
少しの静寂の後、俺は安堵する心とは別に湧き上がる疑問を隠せなかった
静かに、エッジは口を開く
「アイツはコスモスの配下、奴の劣化版分身みたいなもんだ」
それを聞いて、勝手に拳が堅くなるのを俺は感じた
アイツは、何処だろうと構ったもんじゃない
所構わず襲ってくるだろう
先日の影と言い、今日のダストイーターと言い
敵は正気じゃない
俺はそう思いながら、今度は意識的に拳を強く握った
幸い、死傷者は0だったらしいが、切り落とした触手の影響で7~8件ほど家が被害にあったらしい
慧音や妹紅に怒られながらもその家の住人全員に謝り、なんとか許してもらえた
向こう側も事情は大方把握してくれたらしい
次襲ってくる奴は、せめて村の外れに出てきていただきたい
「チッ、やっぱりダストは駄目か」
白色の指がピンとそっくり同じ形をした人形を盤上から弾く
それと同時にいくつ物断末魔が響き、黒い煙が黒い指に纏わり付く
「では……次はコイツに行かせるとしよう」
同じような駒が一つ、その盤上に置かれる
……どこかでドアの開く音がした