此処でいいんだよな?
落ち着かないそぶりで俺は辺りを見回す朝の九時
何時もの俺にはそぐわない様な格好
今日は大事な約束のーーー
「ごめん、待たせてしまったかい?」
「いや、俺も今来た所さ」
どこかで聞いた事のあるようなセリフを吐く
目の前には首から青い結晶を掛け
半袖にしては少々長い灰色の服に、黒と白のチェックスカート
……いつもよりスカート丈が長い、俺の趣味を何処で聞いたというのだろうか
「おはよう、ナズ」
俺はそのまま名前を呼ぶ
少し顔が赤くなったが、俺の瞳の奥を真っ直ぐに見据えて
「おはよう、蒼真」
なんて言って少し笑った
いつもはロッドを握っている手を俺の人間らしい手が包む
「今日のナズは、何時にも増して可愛いな」
ナズから顔を背けた後、率直ながらも感想を述べる
それに対しての返事は無かったが、手の温度だけはどくんどくんと上がっていった
「今日は何処に行きたい?」
エスコート……と言う言葉があるにしても、つまらなければ意味は無い
意見を聞かせていただきたい、純粋な思いでナズに尋ねる
「そうだな……」
その返事は、少し長引いた
その代わりに
ーーー「蒼真を1人締めできる所が良いかな?」
緋色を通り越せるぐらいの言葉が返ってきた
いつにも増して可愛い。それだけでも破壊力は高いというのに
俺の好みまで透かし、更に致命的な程の攻撃まで畳み掛けてくるとは
正直、思いもしてなかった
「ふっ、2人っきりになれる場所?」
「そうだ、例えば……釣りでもどうだい?」
つっ、釣り!?
俺は驚愕する
本来釣りなんて男の楽しみ的感じが唯でさえするというのに
デートで、男女2人きり、山奥の水辺で……
もう、色々駄目になって気がするけど
「いいよ、道具を取ってこよう」なんていって一度家に寄る
棚引くスカートがどうにも美しい
ちょこんと見える素足は甘美の美しさ……
「って、ロングスカートに惚れ込み過ぎだろ」
自分に1人ツッコミを入れながらつり道具を一式持って山へ向かう
近いが人は寄り付かない、その分恵みが多いこの山は
毎年毎年キノコに野菜に魚がザックザク取れるお気に入りの場所だ
豊富な幻想郷ならではなのだろうか
少なくとも、都会育ちの俺には良く分からない領域だ
「ついたぞ?」
ずっしりとした鉄小屋の前で俺は川に降り立つ
この小屋は開けた(焼け焦げていたから落雷ででも燃えた)場所に避暑兼採集用として作ってあるものだ
俺が居なければ外からは絶対に開かないようにしてある
窓等も強化してあるため、通りすがりの妖怪にねぐらにされる事は無いんだが
……中の埃には目を瞑りたいほどのものがある
「蒼真、此処にはどの位来てないんだ?」
「……半年」
俺は潔く言った
ナズがため息を付きながらも据え置きの座敷箒で部屋を掃除していく
一応しまってある布団を小屋から持ち出すと、高い物干し竿を作って天日干ししておく事にする
ーー……そのまま、8分程たっただろうか?
ナズの片付けスキルによって埃どもは繁栄していた床を引き剥がされ、根絶やしにされた
そのまま部屋の中に荷物を置いてもらって、釣り道具だけを持って家を出る
木の椅子二つを並べて釣り糸を川に垂らす
透き通った其処には、メダカの影が良く映った
「メダカがたくさん居るな」
「そうだな」
俺はエサをパラパラと川に少し、流した
水面に波紋が広がっていく
それと同じタイミングで、ナズが左肩に寄りかかった
「可愛い子は無視してメダカの相手かい?」
左手を可愛らしい両手でぎゅっと抱えたナズが言う
慎ましくほほえましい胸が当たってるよ……と、1人胸内で赤面するが睨まれてしまった
「まぁまぁ、2人きりだからさ」
俺は何が2人きりなのか良く分からんが、とりあえず流すように言って頭を撫でた
小さいお姉さんって、結構ステキだよね。可愛い
目を細めて気持ちよさそうにするナズを見ながらそう思う
その内右手にも重みがかかり、手の反動だけで川底からソイツを引っ張りあげる
名前は良くは知らないが、意気のいいのが釣れた
サイズも結構あるし、いいな
水を張ったバケツにソイツを離す
「まーた魚ばっかり見て」
突然両頬に手が置かれナズへと顔を引き戻される
顔を自然と直視する事になるわけで……
灰色の髪、潤む瞳、ぴょんっと跳ねる鼠耳、薄紅色の唇
俺は竿を川岸に放り投げて、勢い良くナズに抱きつく
いい匂いが鼻腔をくすぐる、ひゃん!という甘い声が耳を刺激した
「ちょっ、蒼真っ!?」
「不可抗力だ、不可抗力だ、不可抗力だ」
僕は悪くない、僕は悪くない
そう口で言いながらナズをより一層強く抱き締める
そのままモフモフしていると、尻尾がゆーらゆら揺れているのが目に入る
思わず触りたくなるのはしょうがないだろう
俺はすっと手を伸ばして
尻尾に触れた
今まで以上にナズが震えて
ビクッて波打って
思わず立ち上がって
ロングスカートなのに
下の……絶対領域が……
見えーーーたのと同時に、俺の頭に渾身の鉄槌が打ち込まれた
白い布切れを見ながら、俺の視界も白くなったってわけさ(どこも上手くないわ、変態だわ
「痛たたたた……」
俺が目覚めたのはお昼過ぎだった
鉄の小屋の中いっぱいに広げられた鮮やかなお昼ご飯の数々
作ってきたんだ……なんて赤くなりながら言うナズが差し出したおにぎりを
ちっちゃなその指ごと、頬張ることにした。