飲み干す
ふわっと香ばしい匂いが花をついた
苦味と旨みが舌を撫でる
熱いコーヒーが喉を流れていくのが良く分かった
ふうっ、と吐いた息にはその熱さが混じっている
そんな余熱を感じながら、空を見上げる
そこには大きな月と沢山の星々が瞬き、煌いた
カチャリと、向かいのカップが動く
その中には、赤い紅い紅茶
それとは真反対に近い髪が、そよ風に揺れた
「……それで、今日は何か用か?レミリア」
「用……と言えば用ね
貴方に問いただしたい事があるのは理由の一つだけれど、本当は貴方の顔が見たかった……って所ね」
「そりゃあ嬉しいが、問いただしたい事ってなんだ
後ろめたい事は記憶の限りやってはいないが」
ここ数日を思い返す
ラジオをやって、先生をやる
お祭りの時は全体収入の10%を貰う事が出来たし、それもご好意によるものだ
人妖含めた沢山の方たちと仲良くは出来ていると思う
遠巻きに嫌っている人は居るかもしれないが、そんな奴は関わりを持とうとはして来ないだろう
そんなこんなで少しは人脈関係に自信はあるほうだ
「そうね、後ろめたい事……では無いわ」
そうか、と取りあえず胸を撫で下ろす
いつの間にか注がれているコーヒーを口につけ、そのまま飲み始めた時
レミリアの口がゆっくりと開いた
「聞きたいことと言うのは……
貴方があの永遠亭の輝夜姫に恋情を抱いていると言う噂についてよ」
「げふっ!」
俺はむせた。
その言葉の衝撃が大きく、コーヒーが気管に勢い良く流れ込んだのだ
思い切り咳き込みながら、心配してくれるレミリアの事も考えず
ただ、思いふけった
『輝夜が俺に……恋情?』
少しずつ記憶を遡る
輝夜とあったのは最近だったから、思い出すのに時間は要らなかった
『貴方にも難問を出そうかしら?』
そんな事を口走っていたはずだ
『私の負け』そんな事も言っていたな
竹取物語の難題、難問。それを解いた者への褒美は
ーー輝夜との結婚、か
「げほっ!はっ、はぁ……」
「蒼真、大丈夫?」
「ああ、それより……そいつは単なるデマだ。気にするな」
「嘘、噂の範囲って事ね。良かったわ、嘘で」
凄く安堵した様な表情を見せるレミリア
一体、どうしたというのだろうか
「そんなに輝夜が嫌いなのか?」
「いえ、逆ね。貴方が好きなのよ」
ーーふむ、意味が分からん
吸血鬼のブラッド・ジョークか何かか?と思わず顔を顰める
まぁ、友人並みの好意は嬉しいものか
「お嬢様、蒼真さんにはお話の本質が伝わっていないかと」
「うっ、咲夜、それは本当?」
「ええ、蒼真さんの顔には一切の赤みがございません。
告白をされた殿方の反応ではないかと」
咲夜とレミリアがなにかこそこそと話し始める
ガールズトーク?男の前で?従者と主人で?
訳分からないな……
ズズズッと、コーヒーを飲む
「あーーー!やっぱり居た!!」
後ろのドアが突然開く
また気管に入りそうになるのを必死で堪えてから、ゆっくり後ろを振り向く
美鈴とフランが、其処には突っ立っていた
「なに、フラン?」
「なにって、お姉さま!蒼真が居るのに、なんで私は除け者なのよ!」
可愛らしい仕草で私怒ってますアピールをしながら、ズカズカとレミリアの前に地団駄歩きするフラン
後ろでは「なんで引き止められなかったの?」と美鈴が咲夜にナイフ突きつけられてた
姉妹喧嘩を見ながら、咲夜のナイフを全部ボロボロにしておくことにする
流石に可哀相だしな
「フラン、一回落ち着きなさい
話が終わり次第、呼びにいこうと思っていたわ」
「なんで!私を除け者にする話なんて、聞かれちゃ不味い事他ならないでしょ!」
「聞かれて不味いってわけではないわ、ただ私の個人的な質問にフランは居なくてもいいと思っただけよ
関係ないから、ただそれだけよ」
「むぅ……蒼真、本当に関係ない?
私の悪口とか、聞いてない?」
「ああ、聞いてないよ……てか、フラン悪い事したのか?」
ふるふると、フランは首を横に振る
まぁ、出来るわけ無いけどな
今のフランは「ありとあらゆる物を治す程度の能力」
あの日以降は、唯の優しい女の子だ
近寄ってきたフランを膝に乗せて撫でながら、レミリアに言う
「それでレミリア、話は他にあるか?」
「そうね、じゃあ今度のラジオでやって欲しい事でも話そうかしら?」
「いいんじゃないかな、まだまだ発展途上だし」
フランが俺の右ひざに避け、左ひざにレミリアが座り込む
ふと、なぜ俺は椅子にされているんだろうか?
なんて疑問を覚えたが、特に気にはしない事にしよう
目の前で2人の女の子が楽しそうに語っているのだ、悪い気はしまい
「そうねー、なにか美味しいお料理を紹介してほしいわ」
「咲夜に作ってもらえるものが増えそうね」
その本人は、今後ろでナイフを嘆きながら美鈴に説教してるけどな
そう思いながら、俺は小さく笑った
なんだか、微笑ましくて
例え、従う従わせるの関係でも家族みたいで
「何が可笑しいの?」
「蒼真、どうかしたの?」
2人の少女が目をこちらに向ける
「なんだか、温かくてさ」
『?』と2人は頭上にハテナを浮かべた
今は分からないのだろうか?
もしかしたら、そのうち分かる時が来るのだろうか?
俺はその時、居ないかもしれない
でも、今がシアワセならいいか
午前三時、三頭の牛がじゃれ合う時間
真っ暗な幻想郷の中、
真っ赤な館の一室だけが
不思議と笑いに包まれた