「頼むよ!」
俺は棚引く紫のドレスが目に映らない程、深く土下座をした
きっと、傍から見たら完全に可哀相な人だろう
余程滑稽に違いあるまい
「そうねぇ……」
紫が僅かながら揺れ動いた事に、俺は心の中で歓喜した
此処最近、俺は読書の秋と言い張って紅魔館の図書館に入り浸った
時々行って10冊ほど借りて一週間後に返す。そんな事を繰り返した事もあって
”日本語で書かれた本”はほとんど読み終えてしまったのだ
俺が感じたのは、達成感ともう一つ。物足りなさである
探偵、伝記、冒険、殺人と色々なジャンルの本が色とりどりと揃う此処に
唯一、少ないものが『恋愛』と『バトル』だ
勿論、無いことは無い。
デルトラクエストなど、空想物を主にある。しかし俺が求めているのは其処ではなく
「どーしても、ラノベが読みたいんだ!」
ライトノベルである。
元々、オタクともいえる趣味は持ち合わせている
這い寄れ、憂鬱、SAO、修学旅行では自由行動の時間に京アニまで行ったものだ
その欲が今、読書により刺激されて呼び覚まされたのだ
「……はぁ、しょうがないわね。藍が付いていく事を了承するなら行っても良いわ」
「本当か!?」
紫からでた言葉は、俺のとっては女神からの一言も同然だった
好きな本が読める。それがどれほど嬉しい事なのか、今痛感する
今ならエンダーと大声で叫んで白い目をされても良い気分だ
まぁ、実際に後ろから冷たい目線が飛んできてるけどな
「用が済んだら直ぐ帰ること、藍と離れない事」
ぴんと指が2本立って、俺に約束事が教え込まれる
手に持った20万ほどの金額は、食料以外買わない……いや、食料も半分は自給の俺にとっては安いものだった
それよりも気になったのは隣の藍だった
いつもとは違う服装に凄い違和感を覚える
何時もが青と白の服装に対して、赤と黒。対照的な二色のコントラストは大人の妖艶な魅力なるものを、漂わせていた
「紫様、本当に宜しいのですか?」
「蒼真があんなに頭を下げるなんて、滅多に無いわよ?
読書の秋も少し考え物だけど、貴女も書物は好きだし一緒に書店を回ってきなさいな」
いつもの休暇とでも言うように、今日の紫は甘いようだ
俺が来たときは寝起きで機嫌が悪かったのに、なんで一変しているのだろうか?
なんて考えていると、目の前の景色が一変した。
どこかの人目の無い通路、外に来るのも考えようかもしれない
あからさまに危険そうだし、直ぐに大通りに出る事にする
幸い、直ぐに見慣れた信号とが見えた
華奢な手を引いて人ごみの中を進んでいく
藍の歩くスピードの考えながら、なるべく一直線にと
ただそれだけに集中していると、あっという間に前が開けた
目の前にある大きなデパート、それは行き着けた所。
ウィーンと自動ドアが開き、中から丁度良い温度の風が吹く
「やっと、付きましたか?」
「ん、残念だが此処の四階だ」
俺は近くのエスカレーターへと足を進める
だが、既に藍は疲れたようで仕方が無く、その近くのベンチへ腰を下ろしてもらった
ゴトン!と懐かしい音がして、冷たいペットボトルが手に触れる
それを藍に渡して隣に座った
「大丈夫か?」
「ええ、まさかあんなにも人が多いとは思っていませんでした。
幻想郷の住人の少なさを思い知らされますね」
「だな。俺もあれは久しぶりだったよ」
そうですか、前からあんなもんなんですね。なんていいながら藍はリンゴジュースを飲んだ
少し、デートみたいでドキドキするな……
なんて気持ちを押さえつけると藍から声が掛かった
「蒼真さん?」
「あっ、うん。行くか?」
「はい、書店なんて久しぶりで楽しみです」
藍はそう言うと、今度は逆俺の手を取ってエスカレーターに乗った
一段低い所から見るなんていうのも、アングルでしたら相当優秀だ
棚引くロングスカートの、絶対領域がとても魅力的だった
「ついたぞ?」
「……凄く、広いですね」
目の前にだーっと広がる棚棚棚。
そのなかにギッシリと詰まった本本本。
紅魔館の図書館とは比べちゃいけないが、書店としたら随分と広い方だと思う
俺は真っ先にライトノベルコーナーへと、足を進める
手に取った小説のウラやオモテを良く見ていく
何冊も新刊が出ているもんだから、ついでに新連載もチェックしようと言うスンポーなのだが
「はわわ……、なんか如何わしい感があるんですが」
「お前なぁ、自分の平安時代を思い出せ。」
軽い喝を入れてから、ぐるりと棚を撫でる
漫画もいくつか目に通したが、やっぱり新刊が多い。そりゃあもう20万で足りるか分からないくらいに
「あ、これ面白いです」
ご自由にどうぞの短編冊子を手に持った藍が呟く
「気に入ったのか?」
「はい、この子の返答がとてもユニークで」
どれ?と俺はそれをパラパラと捲る。
ナルホド、藍が言うだけはあるな……なんて思うとその本を手にとって籠へ
「え、買うんですか?」
「面白かったし、お前も気に入ったんだろ?」
俺はまだ高鳴る胸を弾ませて、今度は難しそうな本の並ぶ方へと歩いた
此処は、藍の読む本に似たものが多いらしく結構沢山の本をリスペクトしていた
まぁ、全部籠に突っ込んだが
「え~、合計で19万2473円となります」
「は~い」
ごっそりと買った本は店員さんの手で紙袋の中に吸い込まれていく
俺から受け取ったお札の枚数を数えて、ぱっぱとお会計を終わらせると雪崩れ込むように次の客が並んでいた
「はい、プレゼント」
デパートを出て直ぐに10冊あまりの本を藍の手に握らせる
「ほっ、本当にいいんですか?」
「ああ、俺の欲しい本は家にある本を一回読み直さなきゃいけないからな」
俺は苦笑しながらより強く、本を握らせた
「……ふふっ、ありがとうございます。」
秋の涼しい風が藍の髪を揺らせた
いつの間にか暮れ始めた日は、黄色い藍髪を燃え上がるような赤に染め上げていく
唇が動いたのが見えた
ただ、言葉は聞こえなかった。いや、単に俺が聞こえなかっただけだろう
きっと、見とれてしまっていたのだ。
にっこりと笑って本を胸に抱き締めて手を差し出してくる
俺は何も言えず、ただその白い肌を優しく包んで
茜色の青信号を、人ごみに紛れながらも再び歩いた