清涼感のある風が吹いた
波打つ緑の海からは、夜鳴くコオロギがぴょこんとはね、夜の合唱……いや
月見へ彩を持たせようと、準備を始めていく
庭に為った果実を一つ、口に含むとサッパリとした甘味があった
さすが、秋である
朝から綺麗に整えたテラスには、夕焼けの赤が射す
紅に染まった月見団子と言うのにもまた、風情があるのは違いなかった
俺の家は少しずつ降下を始めていく……
下の野原には、この前見た永遠亭の兎と薬師に姫が居る
実は今日の早朝、月に近い俺の家で月見をしよう!なんて唐突に豊姫が言い始め
結局、天真爛漫な言葉数の綾にひっちゃかめっちゃか絡まされ
逃げられず、約束成立となってしまったのだ
「それで全員か?」
「ええ、乗り込んでも良いかしら?」
鼠色の鉄階段に足を踏み出して、永琳は庭に上がりこむ
すると、それを筆頭にたくさんの兎が雪崩れ込んだ
家が広い事が、こんなにも役に立った事は無いだろう
「おっ、でっかい鯉だ」
「亀も居るよ~」
「うわっ!龍だ!」
と、まるでテーマパークに来た子供のように次々と言葉が飛び交っていく
ナズーリンランドにわいわいしに来た奴らみたいだなぁ
「まだ夕方、どうせ少し先だから庭を歩き回らせてもらっても?」
「いいぞ、依姫。迷う事は無いと思うから、動物にだけ優しくな?」
「わかりました」
凛々しい彼女は颯爽と木陰の奥へ姿をくらましていった
普通にカッコいいの分類なんだよなぁ……と俺は少し苦笑いする
まぁ、時間つぶしの精神は見習おうと、俺も庭の様子を見て回る事にした
俺の庭は、家を中心とした同心円状の形をしている
周りは10m程の鉄壁で覆われており、落ちないようにと最善の工夫がされている
高さ15mの丘(山のつもり)、滝と入り江の洞窟、そこから流れる川と池、木々の密集地、一面の野原
この5つのモノが、基本的な俺の庭の要素である
依姫が向かったのは、木々の密集地。その反対側の丘の上で、今日はお月見をすることになっている
まぁ、小高丘、裏滝洞、染岩川、漏日林、緑絨毯と、それぞれ名前があることは此処で少し話しておくだけにする
「それじゃあ、滝の方へ行きましょうかね」
俺はゆっくりと、白飛沫の方へ足を進めた
自宅から等間隔に、五角形を描くように配置しているので、移動距離はさほど遠くない
直に見えた滝には、沢山の因幡が居て水面を覗き込んでいた
「なんかいたかー?」
俺がそう声を掛けると、タナゴやメダカなど、色々な声が上がる
まぁ、全て捕まえてきたものなのだが、良い具合に生態系が出来ているようである
一匹、記念にと入れた鯉も悠然と赤白い尾びれを揺らしていた
その向こうの滝、洞のなかにもいくつか人影がある
滝の後ろを行くようにしてあって、飛沫に光りが反射していると良いものが見れることが多い
少し飛んでくる水の向こうに、少ないが因幡達が居た
この奥の洞窟は、漬物が置いてあるのともう一つ
簡易式な迷路になっていて、失敗すると戻ってきてしまい
成功すると、小高丘の頂上付近に出るようになっている
この子達は、順番で肝試しをしているようだった
そのまま水の流れに沿って歩くと、今度は池と最初に通った野原がある
池には亀とザリガニやどじょうがぽこぽこと泡を出していた
乾ききった亀の背をなでてから、野原を抜けて木の道に入る
石で作った道で、迷う事は無いのだが途中二股(家方面と丘方面)に別れているため、少し心配である
紅い葉っぱと、跳ねる虫たち。赤く染まり行く果実たち
走っていく因幡を遠めに見ながらそこを抜け、兎集まる丘の上へと俺はたどり着いた
「じゃあ蒼真が来た事だし、始めましょう?」
「わかりました、師匠」
月の図のように、ぺったんぺったん……誰だ?つるぺったんって言った奴
「ひひっ、何人かのに辛し入れてやったよ~」
「てゐ、相変わらずだな」
「その位のスリルが無いとねぇ?」
言ってるそばから何人かの因幡が涙目になりながら叫ぶ
それを大声で笑うてゐ、あっと言う間に追いかけっこである
まぁ、反省の色が無い事があいつらしいか
「あっ、あの」
そんなことを考えていると、因幡が一人声を掛けてきた
水色の良く知った顔、レイセンだ
「どーした?」
「ありがとうございます、月から連れ出してくださって」
「ははは、俺は只お前らにチャンスを上げただけ
どうするかはレイセン次第だったんだよ」
俺はそういって可愛らしい耳をぽんぽんと撫でる
随分手触りがよいものだと思う
「あっ、ズルイよレイセン」
「よっ、優曇華」
すると、とても名前が面倒臭い漢字に揃ってしまった
まぁ、いいか
どーせ楽しい事は始まったばかりだ
俺はそこの皿から一つ餅を貰うと空を見上げて口へほおった
柔らかい感触と、歯ごたえと……ものすごい辛味
慌てて水を飲み干すと……
「ひひっ、引っかかった!」
「レイセン、優曇華。少し待ってろ」
俺はピンクのピエロを追いかけ始める
顔を見せ始めた満月は、そんな兎をみて笑った
うさぎさん、うさぎさん。
美味しいお餅を一つ、くださいな。
元気な笑顔をくださいな。