中間が近いもので
号外、そういって配られる新聞は既に少ない
一人の妖怪が与えた他国の知恵が、目に見えない波となり粒となり、村に活気付いているから
その妖怪が、どれだけの功績を残してきたのか?
それは、彼の普段の立ち回りを。そして、いざと言う時を見れば分かることだろう
人妖構わず親しくし、また親しくさせる
狂乱する黒鉄。幾度となくあった妖怪達と繰り広げた戦い。
その狂戦士の様な立ち回り、禍々しさ、残忍さ故にそう呼ばれていた
同時に、彼の配下にある無機物の獣たち。鋼鉄の狂獣。山ごと妖怪の過半数を焼き滅ぼしたときにはそう呼ばれたものだ
だが、今は違う。彼は誰よりも殺す事を躊躇っていた
一見すれば、非情かもしれない。だが、彼が優しい事はきっとどこかで分かっていた
いや、感じたのだ。関わりと言う小さな糸に惹かれるように
『黒鉄の騎士』と『七色獣王』気まぐれで始まったこの名も、新聞の見出しをよく飾ったものだ
村の住人、全員が古びた鋼の箱に寄り添う
キメの細かい網の向こうから聞こえる悲しげな二人の声
重々しくも、其処から流れる声は告げる
『蒼真さんが現在、瀕死と為っております。永遠亭で治療を受けているとのことです』とーー
「師匠……」
「駄目ね、わたしでも点滴位しか出来ないわ」
真っ白に透き通った肋骨、肩甲骨、骨盤……僅かに残った顔と手にそれぞれ、点滴がうってある
息はしているものの、反応は微弱。
いや、むしろこの状態こそ異常なのだ
骨が丸見え、肉の断面だって鮮やかに見て取れる
てゐも吐き出し、イナバ達の大半が紅魔館、白玉楼、命蓮寺、守矢神社と格主要の地へ出向いている
まともに見たら、それこそショック死してしまうかもしれない
眠るように横たわる蒼真には、医学が到底及ばない。むしろ、神の如し一手でさえ及ばないかもしれないのだ
既に、早苗が手を打った。少しずつ回復の兆しはある
魔法使い達は、医学の本を少しでもと寝る間も惜しんで読み漁っている
レミリアは、彼の運命を確認し、いざとなれば何時でも変えられるようにしているらしい
その妹君もまた、無駄だと分かっていても手中に目を蘇らせようとするのだ
河童達は人工心肺の作成に時間を裂き、天狗は村の統率に慧音・妹紅と当たる
格言う私も、あらゆる薬品で手を打っているのだ
死ぬ事はまず無いだろう……いや、死んでしまえば幻想卿がどうにか為ってしまうかもしれない
たかが一人だが、それだけのためにあらゆる人物が、妖怪が出向く
世界で一番、妖怪に愛された人物なのかもしれない
ーー地獄の裁判長は、告げていた
「この者が死ぬ事は無いでしょう、自宅に始めに乗り言ったのは危機感を抱いた私です
その時に言われた事は、一言と3つの暗示。「神」「面」「綺」の三つ
スキマ妖怪によるところ、次の異変の暗示であるという事でした
一言というのは、予言にも近い何かでした
『残り三の字は遷り行く景色に流され現れん
その先に相する絶望へ一矢の報いを打つまでは死ねねぇ』」
私は感じた、この世界の裏で何かが蠢いている事を
そして、それは蒼真の根と深く繋がっていることを
私の脳を刹那に過ぎるは『紅偽』の字だった
今宵は逆三日月。闇に覆われるには、少し早い
「くくっ」
闇は笑った。さぞ嬉しそうに
後三つ。その異変が終われば良いのだ
満月に力が解放され、お面の少女は行き、豪族達は蘇る
それだけの物事があれば、その間に計画を進める事は至極容易な事であった
凍てつく冬風が、我の黒城を駆け抜ける
それが流れ込んだのは、一つのドーム状の部屋
いくつも転がる屍骸と、それを踏み抜く赤髪の少年
その後ろを追う異形の生物は、相当の深手を負っていた
刹那の一閃が、その頭部を貫き緑の飛沫が散る
漏れるほどの笑い声は一気に高笑いへと変化する
「何が可笑しい!」
少年のその問いに闇が答えるより早く、首の無い騎士が返答した
「準備が整ったという事です」
振り上げられた腕に同調しているかのごとく、突如屍骸は鎖となって紅偽を締めた
漆塗りのような剣をかざした騎士は、その少年へと近づきその服を剥いだ
其処にあったのは、煌くような肋骨。
そこへ黒剣を突きつけ、騎士はゆっくりと語る
『鎧はあっても身体は無い。身体はあっても頭は無い。身体は無いが頭はある。
どれも、不確か、不安定だ。仲良くやろうじゃないか、兄弟?』
薄くぼやけた声が俺の耳に届く前に、胸へ剣が差し込まれた
そこから流れ入るオーラはやがて紅偽の骨を染め上げた
やがて灰となり崩れた身体は、鎧の内部へと入り足から腰までの身体を構築する
「私にとって、能力で初めて作ったのは『あの子達』だった」
騎士は、落ちていた真っ赤な剣を腰に携える
「愚かな事に使用の仕方を誤り、この手は血に染まり片割れをも失った」
黒と赤。その二色は不吉な何かを感じさせる
「後の準備は『黒き水面を、黒き風が揺らす日に……』」
闇は、ドス黒い酒を飲み干した