紅魔館で指切りをした後、飯を食べてけ、泊まっていけと押し切られ
結果として泊まってしまったが、朝飯を済ませた後俺は逃げるように紅魔館を後にした
昇る朝日は清々しく、美鈴に見送られて俺は村へと向かっていった
フードで顔を隠すようにしてフラフラと足が団子屋へとついつい向かってしまっていた
一番隅の一人席は、相変わらずあいている
そこは俺の指定席で、混んでいても使われる事は無かった
どかっとそこへ座ると、怒り気味の店長が直に飛んでくる
「おい、アンタ。そこはある人の指定席なんでい。其処に座るのはやめていてできてぇんだが」
「……いつもの」
俺はそう冷静に告げた
向こうの親父がわからねぇから遊んでやろうと思ったのは紛れも無い事実だからさ
「いつものって、お前見てェな常連……みたことねェよ!」
親父の怒号が響き、客全員がこっちを向いたまさにこのタイミング
ぶわっとフードを上げて、素顔を晒す
「親父、いつもの!」
何時もどおりの明るい声で俺は叫ぶ
途端声が他の客から湧き上がり、瞬く間に村の外へと広がっていった
凄い速さで運ばれてきた団子。それを持つ親父の顔は、目の汗で濡れていた
見慣れた親父達はますます老け込んでいて、それでもまだまだ現役で
昼間だっつーのに、酒だ酒だとグラスが鳴り合う音がした
少し、嬉しさを覚えつつも目の前の団子を平らげていく
「おまえら!なに朝から飲んでんだ!」
どよよよっ!と辺りがどよめいた
慧音が微妙な顔した妹紅を引っ張って、遥々説教しに着たらしい
「なんだなんだ!子供は勉強、妻が裁縫してる時に酒か!?」
……なんか、激しさ増して無いだろうか?
と、いうか俺の話は伝わっていないようだ。里の結託力だな
手前に居る連中が慧音を抑えてる間に、後ろの連中が耳に話しかけてきた
『裏口から出て、後ろから抱きついてやれ』なんて、エロ親父みたいなさ
残念だが、俺も男なのでそーゆう悪ふざけには乗るしかねぇと、こっそり裏口を出た
足音を消して遠回りで慧音と妹紅の背中を見つめる
近くのおばさんやお母さんに隠してもらいながら接近し
「だいたいお前らなぁ……」
「慧音、なんか怪しくないか?」
右手で慧音を、左手で妹紅をぎゅっと抱き締めた
「「ふぇっ!?」」
ばっ!と神の如し速さで2人が振り返り、同時にエロ親父達から歓声が沸く
一瞬で緋の如く顔が染まりあがり、目を細めたが
俺が「ただいま」って言うと2人は顔を見合わせて「おかえり」って笑ってくれた
……のだが、恥ずかしさで殺す気か!などと散々怒られ
村の親父全員と一緒に土下座させられ、正座で説教30分を垂れられた後
やっとこさ開放され、俺は慧音の家に招かれた
「翡翠山」と称された微糖のコーヒーを口に含んだ
口いっぱいに広がる深い苦さを感じながら、俺は2人と話し始める
「蒼真、びっくりしたぞ?この前まで倒れてたよな」
「慧音はずっと心配してたんだぞ、あれ蒼真がやれ蒼真がって」
「なっ!そう言う妹紅だって、倒れた当初は永遠亭に土下座まで……」
「わーー!!わーーーー!!!」
「……ぷっ」
2人の話を聞いていると「ああ、帰ってきたんだなぁ」なんて
行った実感も無いのにそう感じてきて
涙なんていうちんけなモノより先に、笑いが飛び出してきた
そんな俺を見て丸くなった目が段々と戻り、少し照れくさそうにまた笑った
本当に抱き締めたくなるような笑顔だ
「2人とも、三年なんかじゃ変わらなかったな」
「寺子屋は大きくなったけどな」
「私も、永遠亭と少し仲良くなれたかな」
成程、見えないところは変わって行くものか
ゆっくりと頷いてから、俺は2人に本題を切り出した
「今度さ、最後の戦いが起きるんだ」
「新月にだっけ?」
「紫や映姫が大慌てだったからね」
「なんだ、知っていたのか。なら話は早い」
右の小指をすっとたてて、2人に差し出し言う
「指きりしてくれないか?」
俺がそう言うなり2人は、顔を見合わせて笑った
「相変わらず、子供っぽいっていうか」
「戦いに行くって感じじゃないよな」
緩んだ笑みで2人はそう言う
そのままそれぞれの小指が触れ合い、一つの結び目がまた生まれた
「俺は必ず勝って帰ってくる。約束だ」
「子供達と待ってるからな?」
「また、泣いて笑って過ごそう?」
三人三言。言い終えるなり、橙色の糸が指に巻きついた
その糸は堅い結び目を作ったまま、椿の花弁に溶けていく
赤の隣に、綺麗な橙色が咲いた
「……さて、蒼真?」
「なんだ?」
「「今日は泊まってこうな?」」
「……はい」
有無を言わさない2人の迫力ある笑顔に押し負けて、あっさりと肯定してしまった
それから三年間の泣いて笑っての話を夜までし続けた事は
この先忘れそうに無い。