随分と昔から立っているにもかかわらず、劣化と言う言葉を知らない建物
それは坂や峠など物と物との境目に存在し、幸福を与えるものが揃うと言う
そして、其処に住むのは紛れも無い実力者。そして大妖怪である
「蒼真~、お腹減った~」
ぐーたらゆかりんである
「あ、私もお腹減りました」
「私の分もお願いしますね!」
と、色の名前が付く三人の飯をなぜか俺が作らされている
理由は単純明快な「アンタが三年寝込んでたからお仕置き」というヤツなのだが
正直、腑に落ちないというか……紫さん、あんた毎年の4分の1は冬眠してますよね
どうしても其処が引っかかっていた
外の世界から取ってきたであろうもの達を並べて、ナルトや餅をとりだして雑煮にでもしようかと考える
橙のだけ、餅一切れを四等分してから鍋でコトコトである
案外早く作れるもので、よそったそれは年中コタツの居間へと運ばれる
ぐで~と寝そべる紫。温かそうにする藍と橙。
どう考えても、自分がパシリにしか見えなかった
「美味しそうですね~、あ食べ終わったら肩もんで貰って良いですか?」
「藍も、大分蒼真使いが上手くなったわね」
「わ~、小さくしてある!ありがとうございますっ!」
良い子は橙だけだった
直にずるずると餅をすする音が聞こえ、みるみる器の中身が減っていく
しばしの休憩だとは思ったが、こんなに早く終わるとは思っていなかった
「……っていうかさ、俺は指きりだけして貰えれば良いんだけど」
「駄目よ~、駄目駄目。三年分の働きをして貰わないと~」
「紫様、ずっっと今日を楽しみにしてましたもんね。あ、食べ終わりました」
藍が早く肩こりを治せと威圧してくるので、仕方が無く後ろに回る
ぐっと肩に親指で力をかけると、予想以上に硬かった
三年間で凄い事があったんだな、と想像するには十分すぎるもので、少し泣けてくる
「あ~、気持ち良いです」
「ならいいんだけどさ、凝り過ぎじゃないかな?」
「だって、紫様が蒼真がいないからやる気が出ない~とか言って、まったくはたら……むぐっ!」
にゅっと現れた手首が藍の口を押さえる
俺はその腕を引っ張って、そのまま雑煮の汁に突っ込んでやる
「あつっ!」
「仕方ないね、働いてないんだから」
「紫様、庇いようが無いです」
藍も非情にもそういい、俺は一笑いしてから再び肩もみを再会した
ぐっと親指に力を入れて堅い筋肉をほぐしていく
ぐりぐりと力を入れるたびに、声にならないものが藍の身体を振るわせた
どうでもいいけど、エロいぞ?コレ
「つーか、仕事疲れなんですかねぇ……これ」
二つの大きなものも関係している気がしてならないが、まぁ口には出さないさ
エロ親父思考は、その年齢まで隠しておくものだ
「蒼真~、後で私の耳掃除~」
「もっかい雑煮に腕突っ込むか?」
俺の暴言は、寝ている橙には届かなかったようだ
良い子は橙だけだった
肩こりを一通り治した後、いつの間にか紫の前に正座していた
スキマワープを物凄い速さで行われたらしい。
横着だけが身についていくこの生活スタイルである
もう既に痺れそうな足を金髪がくすぐる
「んじゃ、お願いね~」って言われるや否や、鼓膜を破ってやりたい気分になるが抑えとこう
耳掻き棒で、僅かに見える耳垢を順々に取り除いていく
ただ、一回掻く毎に紫の身体が震えて、とてもじゃないが剥がせない
剥がしたら確実に深くまで落ちていく事だろう
本当に鼓膜を破きかねない
そーっと、そーっととカリカリ引っ掻いて、少しずつゴミ箱へ捨てていく
その隣では藍と橙が寄り添って寝息を立てていた
良い子が一人増えた
「んーっ!ありがと!」
お気楽なスキマ妖怪は、コタツから身を出しぐーっと伸びをした
直に欠伸をするあたり、コイツはもう駄目かもしれない
なんて思っていると、ようやく紫が小指を此方へ向けた
軽く一時間以上奉仕させられて、やっと指きりって言うのはまたどうも腑に落ちないのだが
まぁ、それでもいいかと思わせるのは『安らかな寝顔』の凄い所
出されたか細い指に、指を組ませて約束する
「絶対に帰ってくる」
「絶対に帰ってこさせるわ」
いつになくマジメな顔をした紫。
それを知っていたかのような妖しい紫の糸は
煌くようなフォントを散らして、椿に吸い込まれていった
「それじゃあ、私も寝るわね」
刹那の速さそう言って紫は藍の横にスキマワープして目を瞑った
マジメだったのは一瞬だけかよ!とその変わり身の早さにあきれながらも、怒る気を削がれて何もいえなかった
三人の上に風邪を引かない様にとタオルケットをかけてから、起こさないように呟く
「さて、雑煮でも食べようか」
可愛い三人の寝顔を眺めながら、再び鍋に火をかける