東方黒鉄伝   作:荒無 時竜

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オンボロな船の上で、俺は空を見上げる

ゆったりと流れてゆく景色

目の前には赤髪ツインテールの女性が立っている

携える鎌は鈍くひかり、それが本物の刃物である事を知らしめる

ゆったりとした青と白の衣類から覗く肌は、綺麗なもので

思わず見とれてしまうには十分なものだろう

「映姫様、結構気にかけてたよ?」

「ん、そーなのか?」

不意に投げられた声の内容に、俺は意外さを覚えた

と、いうか人の心配をする時間があったのか……いつも説教ばっかりで時間は無いかと

「そーだよ、お前が寝込んでからの3年。ずーっとさ」

「……そりゃあ、嬉しいなぁ」

俺は素直にそう口にした。ただ、一方で心配される理由が良く分からなかった

「なぁ……「どうせアンタだから、理由がわかんないとでも言いたいんだろ?」……ぅ」

言葉を失った途端、美人な横顔が目を瞑って鼻で笑った

少しの羞恥心で俺は口を閉ざした。向こうは楽しそうに「映姫様に聞きな♪」と口をつぐんだ

沈黙の2人を乗せた船は、赤い三途の川を滑っていく

この話がしたかっただけなのか、舟はあっと言う間に向こう岸へと漕ぎ着けた

俺の背中を押して陸へと渡し、小町もまた船を下りた

しばしの道もその能力の前では無いものも同じで、直に冥府の門が開いた

薄暗い裁判所。法ではなく命を裁く場所だけあって、その重々しさは尋常ではなかった

浦にも響くほどの隙間風。びょうびょうとなるその先

特に異質なその門の、先の常闇の中。

蝋燭でおぼろげに見える、一人のヤマザナドゥ……閻魔・映姫が居た

 

「ふむ……小町、労働時間を増やしましょうか?」

「ひっ!映姫様、私が何したって……」

「惚けても無駄です、鏡ですべて見ていましたから。」

「お許しくださいませ!」

目にも留まらぬ速さで、隣にあった小町の身体が床の上でまるまる

そのしっかりとした土下座は、まるで達人の如し

……土下座しまくってるんだなぁ

俺は苦笑いする

すると、映姫は小町に何か耳打ちしたようで、小町は部屋から出て行った

座りなさいと、映姫の横にイスを移動させて座らされる

こうすると、面談や面接の様に感じてしまい少し汗が垂れた

「……それで、聞きたいことがあるのではないですか?」

「はい、俺のことを心配してくれてたと聞きましたが……」

思い切ってそう問いかける。すると、映姫は目を瞑り口を開いた

「女遊びもせず、金銭は食事と書物にのみ裂き善行を行う貴方は閻魔として素晴らしい人間だと思います

よって、そんな人間に対しての同情の気持ちや労わりの気持ちは当然

しかも、一度面を合わせた者ですから心配するのは当然でしょう」

そういい切った映姫に俺は一つの疑念を抱いた

「映姫さん?」

「なんでしょう?」

「閻魔としてではなく、『映姫さん』の心情が知りたいです」

言った途端素早く映姫は顔を背けた

チラリと覗く横顔は少し赤くなっている

「しっ、心配しましたよ……するでしょう!優しい貴方が倒れたんですよ!

私、死なないとは思ってたけど凄く不安でした

目が覚めなかったらどうしよう、二度と言葉を交わせなかったらどうしようって

閻魔である私にも、平等に接してくれたただ一人の男性なんです……

少し位体調でも考えたくなるものなんですっ!

貴方にはプライバシーがないっ!」

序盤、告白されてるのかと思ったが終盤に突然閻魔モードに入った

どこかにスイッチがあったらしい、手にある棒状のものでしきりに頭を叩いてくる

「痛い!」

「我慢しなさい!貴方がいけないんです!」

目をぐるぐると回して落ち着き無く叩いてくる

仕方が無いので、俺はその華奢な身体を抱き締めた

「ふぇっ!?」なんて声があがり、四肢をジタバタさせだす

ただ、先ほどに比べまったく痛く無い。まぁ、抑えてるからなんだけど

「落ち着いて、らしくないよ?」

「ううぅ……」

映姫はしばらく抵抗をした後、やがて大人しくなった

閻魔様らしからぬ一人の女性。いや、少女を見た気がした……言ったら怒られるかな?

「……馬鹿」

頭を小突かれた

「ちょっ、何!?」

「顔でわかりますよ、苦笑いしましたから」

「……閻魔様には敵わないなー」

「馬鹿」

また小突かれた

「ははは、痛いなぁ」

「しょうがないです。それより指きりしましょう?」

「そうですね」

すっと出された小指を結ぶ

「勝って帰ってくるよ」

「はい、……次に泣かせたら地獄に落としますからね?」

「心に誓って」

真っ黒に輝く糸が空に浮いた

それは弾ける様にして一瞬白く瞬き、すっと花弁に溶けた

見届けた映姫は俺から離れて、服を一度払った

「じゃあ、俺は帰るよ」

「……少しぐらいゆっくりしていきなさいよ」

俺はその言葉に驚いて映姫を見ると、後ろを向いていた

その頭をぽんぽんと撫でてから、俺は裁判室をでる

笑った小町を、そこで一瞬見た気がした

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