東方黒鉄伝   作:荒無 時竜

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俺は立ち上がり神社を飛び出る

満月は真上へと上がり、輝いているが何一つとして星は見えなかった

「月だけが輝く夜……久しいものだろう?」

聞いた事のある声が響いた

目の前に着地した黒幕の正体は、予想通りのもので驚きはしなかった

だが、やはり腰が引けてしまうのはやはり性なのだろうか

「……最初から可笑しいと思ってたんだ

俺は妖怪になりたいとは望んだ……でも、人間と死を否定したって中途半端なものにしか為り得ない

妖怪とは、人間の畏怖の塊であったからだ

じゃあ、何で俺は今妖怪なのか?簡単さ、俺は最初から妖怪だったんだ」

淡々とした口調で言った言葉に対して、ヤツは笑った

「流石だな、自惚れで気付かないと思ってたよ」

「アンタの期待以上に成長したと褒めて欲しいもんだね、父さん

 

いや、荒無 宙!!」

 

「ほう、其処まで気付いたか」

ソラ……と呼ばれたその男は、以外にも冷静に言葉を受け止めた

俺の予想ではもう少し驚いてくれるかと思ったのだが、いやはや残念

「何時気がついた?」

「椿が戻ってきたときさ、母さんの名前が椿だった事を思い出した」

そういって椿の柄をしっかりと握る、すると刀身は星のように明るく瞬いた

「そうか、お前の成長にはいささか驚いたよ!」

突然声が大きくなった、それは戦いの合図である事を本能的に悟らされた

目の前に黒く輝く球体が二つ、現れたからだ

それは見る見るうちに姿を変えて、二匹の蟲を作り出す

片方はカマキリにも似た鎌を持ち、もう一方はカブトムシのような角を持っていた

しかし、何処と無く似ているそいつらはギロリとこちらを睨んだ

「へぇ、父さんの能力?」

「あぁ、かかってこい」

ギギッと未発達な顎から音を鳴らせた二匹は、瞬間的に飛び上がった

カブトの槍のように伸びた角は、俺の腹めがけてダーツのように飛んでくる

地面を盛り上げ作った丘にいとも容易く刺さり、盛大に砂埃を立てて見せた

それに乗じるがごとく、カマキリの羽音が響いた

向こうの複眼には俺が映っているらしい

視界の右端に光った緑の身体を見て、俺はそちらへ椿を一閃した

 

……が、カマキリは俺の懐へと入り込み俺の顎目掛けて鎌を振り上げた

ぐっと体重を後ろへ逸らすも喉元より少し上を掠り、血が吹き出した

俺は更なる追撃を免れるため後ろへ大きく跳躍した

砂埃を抜け、身体が空中に踊りでる

その無防備な一瞬に、また一閃、カブトの角が飛んできた

今度は空中、盛大な羽音の中に俺の悲痛の声が響いた

「くっ!」と漏れた声、それとともに赤銀の液体が飛び散った

内臓を痛めたらしい、骨も少々軋んだ感触がある

だが、腹は背に変えられないし、命は世界に変えられない

俺は深々と腹にめり込んだ角を両腕で抱き締め、鎧を刃としまるで糸を切るように角をへし折った

緑色の体液が飛び散り、一瞬の悲痛の叫び

そのままニードルを地面からカブトへと突き上げる

振り上げる手にシンクロするかのように鮮やかに、一本の槍は堅い装甲を破って対象を四散させた

もう一匹、カマキリは羽音が大きく、背後に居るのは直に分かった

腰の8の短刀、それを指のまたに挟んでカマキリへと投げる

カマキリは手前の四本をキーーン!と金音立てて弾いたが、それは直後に直角カーブ

がら空きだったボディを真緑の体液で染め上げた

立て続けに残りの四本が、前足と鎌先端へ刃を振り下ろし、完全に切断

8の刃は、奇声をあげるカマキリの首を盛大に跳ね飛ばした

 

「ふぅむ、少しは成長したみたいだな……」

また、黒い球体が二つ宙に現れるが、そのまま親父の言葉は続けられた

「いやぁ、嬉しいよ……この宙も些か野心に満ち、その子もまた野心に満ちる

いい家計だ、私にこそ相応しき血族よ!祝杯しようぞ、その赤銀を飲み干して」

二匹の蟲が再び躍り出て見せた

一方は蜂のように羽と針。もう一方はカミキリのようなおぞましい顎。

力量は先ほどと同じ程度、俺はすぐさま短剣を引いた

……刹那の衝撃が走る

それは後方からの強いもので、蹴られたような感覚だった

視界端に映った緑色の細長い足、バッタだ

4の刃はすぐさま緑の足をへし折ったが、紫色に鈍く光るカミキリが俺の足を挟みこみ

グシャッ……と

俺は悲痛に顔をゆがめながらも、その頭部を椿で引き裂いた

自分の足にまで刺さる感触があるが、本来とまるべき場所で刃は止まらなかった

足の骨が砕かれているのだ

赤銀は足からも盛大に滴り、頭がくらりくらりと一揺れする

それを機とした蜂野郎を針の先端から真っ二つにしてやり、がっくりと頭を下げた

視界は揺れだす、メリーゴーランドのようで

その向こう側、俺の親父はニヤリと歯をむいて笑った

「折角だ、昔話をしてやろう」

そういった親父の声は、まだ耳に近かった

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