東方黒鉄伝   作:荒無 時竜

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山の味覚に誘われて

草木はその身を紅く染め上げ、実に美味しそうな果実を実らせ始めた

風は夏の温かさを流し、どこからともなく冷たい風を流し込んでくる

懐かしい長袖の服に腕を通し、既に落ち始めた葉を踏み歩いていく

空は一面……はいいずぎだが、程よい鼠色 そのうち見る賢将も、きっとこんな色なのだろう

「すっかり、秋だなぁ」

 

つい数日前は夏真っ盛りだった気がするのだが、最近お眠りがすぎたようで

気がつくと季節は移り変わり始めていた と、言うわけだ

 

そんな中、郵便受けに溜まった文々。新聞

それらにまぎれていた手紙を見つけたのは、つい先日のことだ

筆跡は新聞と同じ、文のものだったが 口調……いや文調はどこかほぐれた様な感じだった

内容としては秋の味覚がたくさん取れた 美味しい料理がたくさんできそうなので、天狗の屋敷に来て欲しい

天狗一同、心待ちにしている というもので、正直 少し照れる

俺は日時を確認するなり、大慌てで衣替えを初め すぐにその日はやってきたと、言うわけだ

 

安い菓子折りをもって歩くこと数分、大きな木が見える

他よりか太く、力強いが注目するのはそこではない

「蒼真さん、待ちくたびれましたよ」

そこに文が居たことだった

「どうしたんだ、こんな所で」

「いやですね、貴方を待っていたに決まってるじゃないですか」

「それは嬉しいな」

そういうと文は少し赤くなって「行きましょうか」と、手を引いてきた

客人とはいえ、女の子にエスコートされるのは少々気が引ける

 

しかし、文 もとい天狗なりのおもてなしなのだ 好意には甘えたい

荒い獣道を進んでいくと、記憶どおりの屋敷が見える

いつもは近くにいる白狼天狗たちも、見当たらない みんな屋敷の中のようだ

ガララッと、開けられた玄関の靴箱にはきちんと下駄が並んでいる

しかし、下駄箱と下駄の多さには唖然である 何度見ても多いと思う

文はぱっと手を離し、下駄をしまうと上がっていった

俺も後を追いかけるように上がると襖があけられた

天魔を筆頭に、文や椛 はたて等 天狗という天狗が集まっている……

 

「おっ、蒼真もきたのかー」

だけだと思っていたら、河童もみんな来ていた にとりが声をかけてくる

手をひらひらと振ると、俺はまず天魔の方へ向かう

「蒼真、久しぶり」

「久しぶりです」

主催者であろう天魔に挨拶を交わすと、俺はとりあえずぐるっと席を回る

楓ちゃんに杏ちゃんなど、名前が出てない白狼天狗とも今ではすっかり中良しだ

 

食卓を見てもいつもより圧倒的に美味しそうで豪華なものが並んでいる

栗ご飯やお芋がいいにおいである

空いている席に座ると、どこからか山盛りの茶碗が流れてきた

辛抱たまらなくなりそれを次々と口に掻きこんでいく

噛む度に旨みが染み出てきて、それはもうたまらなかった

食べている間にも、涎があふれ出てくる それに答えるように手を動かす

そうして一通り食べ終わると、食器が片され始めお酒の席となった

 

「次はどんな機械をつくろうか?」だとか、「いい記事ないですかねぇ」とか

それぞれが盛り上がっているようだ

隣の桐ちゃんが注いでくれた酒をぐいっと飲む

「蒼真さん、良い飲みっぷりですね」

「良い食べっぷりでしたよねぇ」

なんて話しかけられる、そりゃ美味しいから進むのは違いないだろう

しかし、酒の席だし冗談のひとつでも言おうかと思い

「美味しかったしね、みんなお嫁に欲しいぐらいだよ」

実際、美味しかったし そう思ってるのは確かだ 

料理上手な嫁さんは、誰もが憧れるだろう 

 

しかし、場には予想外の沈黙が流れた

何人かは赤くなり、何人かは硬直 そんな感じだ

「? みんなどうした?」

なんて口を開いたのだが、みんなそれを聞くなり呆れたような顔をした

なんだったのだろう

そう思ったが、すぐにまたお酒に手を運んだ

蒼真ー食べてみてー なんてにとりが、キュウリの浅漬けをくれたり

一つどうですか? と、美味しそうな椎茸が運ばれてきて……と 食べ飲みしているうちに日は沈んでいき

 

結局、大体が酔いつぶれる もはや食事会より宴会ムードだった

ちびちび飲んでいた天魔と、食べてばっかだった俺だけが その場に理性を持って座っていた

女の子なんだよなぁ と、複雑な気分になる

寝ている子に服を掴まれて動けなくなったりしながらも、残った二人 楽しく会話をして幕を閉じた

日が昇り、皆が浮かない顔で仕事に行くのを見送って 布団を借りて寝た

起きたのは夕方で、その後家に帰って二度寝を決め込んだ

 

結局、起きたときに何で天魔が俺に膝枕をしていたのか 

それだけはわからなかった

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