忙しくて駄文(いつもだが)だったからでしょうか
人間、そう割りきれるものではないのだろう
映姫が帰ってからしばらく、寝ることは出来なかった
布団に横になり、他愛も無い記憶を呼び覚まし
目から溢れんばかりの液を流す ただそれだけの作業
これを続けていくことなど、無意味である
俺が泣くことによってあいつらの灯火が、再び照り始めるのだとしたら
俺は喜んで泣き続けよう
しかし、そんなことはなく、時間と涙が流れていくだけ
後悔をいくら重ねようとしても、後に立つわけでもなくあいつ等が生き返ることも
ましてや、自分の行動で未来が変わった というのは単なるうぬぼれにしかならないだろう
不思議なものだ、俺はこんなにも意味がない そう理解しているはずなのに
気がついたときには地平線から暖かい光りが照り付けていた
うっすらとたなびく紫色の雲 その奥に見える灼熱の太陽だけが
慰めてくれるような そんな気がした
俺はまだうっすらと滲む涙を振り払い、朝食を済ませる
俺の箱庭には、青々とした草木と、光る水面 滴る朝露
そして眠る機獣……いつもと変わらない朝だが、虚しさがあった
気を紛らわそうと思い立ったが、久しくあっていないのは慧音ぐらいだ
里の子供に会うのは間接的ながら、積極的にはなれない
けれど、それで吹っ切れたらな なんて、僅かながらの思いを胸に俺は地面へと降り立った
歩く横を「春ですよー」とリリーが騒ぎ立てる
けれども、ここに来てまだ二年目 俺の知る異変とはペースが違う気がした
それは、俺一人がもたらした「変革」なのだろうか?
答えが出ない自問自答 最近はすることが多い
自分の目の前に大きな壁があるような感覚
これは小学校から拭いきれない俺の一生の友達である
後ろを振り返るたびに、そのときの自分は幸せで 今の自分が情けなくなってくる
記憶の所作・改竄 心の中のアトリエである
なんて考えながらの歩きは感覚がなく、ついさっきまでぽつんとしていたのに
今はもう、村である
一際騒ぎ立つ家 慧音の寺子屋 震えそうな手でかけたノック
子供への脅え 不安 そんな感覚を植えつけられていた俺に
見せてくれたのは「元気な挨拶」と「明るい笑顔」だった
「課外授業の蒼真先生が着てくれたぞ」
なんて言う慧音につられて「蒼真先生!」と声が飛んでくる
着てよかった なんて、思った 沈んでいた気持ちに踏ん切りがついた気がした
馬鹿らしくなって鼻で自分を笑う
「さあ、今日は何がしたい!」
気の沈んだ「後悔の俺」は、すっかり「先生」へと変貌していた
がやがやと言葉が飛び交う中、俺の耳に飛び込んできたのはドッチボールだった
前に何度かルールを教え、やらせたことのあるそれは 皆の中に残っていてくれたらしい
「じゃあ、それで決まりだな」なんて笑顔の慧音が言うと、ノートなんてほったらかして、風の子たちは外へ吹き抜けていく
外に出るなり、そこには線が引かれ始め 少し歪なボールを持ってきていた
周りを通る大人も笑顔で、子供も笑顔で 終いには隣からもいい笑顔が飛んできて
これはもう、笑うほかなかった
始まったドッチボールは、基本俺と慧音は手を出さず 近くで腰掛けるだけ
飛んでいったボールをとったり、転んだ子の処置 することはそれだった
本来なら参加するはずだったのだが、「今回は見てよう」なんていう慧音の一言があった
俺は?を浮かべながらも見ていたのだが ふと、言葉が紡がれた
「最近さ、元気なかっただろ」
一言だったけれど、10言に匹敵するぐらいの思いが込められていた
完結に言うなら慈悲慈愛 思いやりの類であるそれ
その言葉は続いていく
「私はさ、いつも 皆から元気を貰うんだ
それを教養に変えて”恩返し”って言うのかな? 皆に返してる 少なくともそのつもりだ
このサイクルは私にはかけがえのないものだから、壊したくない
ずっと続けていきたいんだ
そして、皆が少しでもいい大人に いや、少しでも”いい大人になる手助け”ができたら って思ってる」
続いた言葉は俺への慰めではなかった 慧音の切実な思いである
慧音の考えであり、生きる目的のようだった
「そうか、その思いは生徒に きっと届いているな
皆、慧音のような”優しさ”があるからな」
「そうだと嬉しいよ」
俺の迷いごとを慧音は決して聞くこともなく、無くして見せた
慧音との いや、里との距離を また少し詰められた気がした