お前は誰だ?
この暗い世界で口に出した最初の言葉だった
それに対する返答は実に意外なものだ
忘れたとは言わせないよ、この世界ではまともに喋れるんだ
この言葉から俺の頭は身体をのっとる獣だと、目の前の奴を認識させた
そいつは再び口を開いた
獣って呼ぶのやめてくれないかな?なんて少し汗を掻いて
なら、お前の名前は?ってぶっきらぼうに返したら
「夜天」ってどこか危険な感じの名前を挙げてきた
夜天は俺に言った「暑くないの?」って
確かに俺は外出時はコートを着ることが多い
暑くないの?って聞かれても可笑しくはない
すっ、て身体を見せてやった
すると、「フフフ、コートの下はそんなんなのか」なんて、満足げに声を漏らした
「何が言いたい」俺は強気で当たった
実際、見られて嬉しいもんでもない 心まで届く深いもの
それに触れられたくなくて、コートを着てるんだから
足まで隠すようなね
「蒼真君ってさ、自分の能力を深く考えた事 ある?」
「能力? 生憎だが2つ捨ててしまってね」
「あれね、僕の能力だったんだ 副産物だけど」
彼は陽気に言った
拒否する能力と表裏を返す能力 2つとも?
そんな風に考える俺にずいっと近寄って
「片方だけだよ」なんて笑ってみせる
直感的にそれが拒否能力であることがわかった
来てまもなく覚えた能力……俺が自分の意思で妖怪になったもの
「……踊ってたのか」
「舞踏会は、踊る場所でしょ?」
夜天は子供みたいな笑顔を向けてきた
「そうだな……現実世界はどうなってる?」
「おっと、忘れてたよ またね」
いきなりぐっと意識が吸い込まれた
気絶に近い何かだと思ったが、薄れた意識の中 自分の身体に戻っていることに気づいた
目の前には機獣7匹と倒れた姫2人に、神様
どうやらまた、乗っ取られていたらしい
まったく持って勝手な奴だ
『最後にね 夜天って名前、君たちに似せたかったんだ』
耳元で微かにそんな声が響いた
夜天が蒼真や紅偽に似ている?
「一体どういうことだ?」
獣あらため夜天、一体どういうつもりなのだろうか
「蒼真、帰るわ……それは貴方のおみあげ?」
目の前にヴッ と音をたてて紫がでてくる
見つめる先には二人のお姫様
「こいつらには永琳と話をさせてやる」
「そう、優しいのか優しくないのか」
「あ、紫 ツクヨミの記憶から俺を消せる?」
俺は唐突に思った、消せれば最善と
できるかわからないけどやってみるわ なんて言葉を聞いて俺は振り返った
広がるスキマの先にはいつもの神社
俺は酒を楽しみにしながらそこをくぐった
ザッ、そう土を踏む音が響いた
幻想郷に戻ってきた、そんな実感は湧かない
月自体そんなようなもんだから、散歩に行った感覚
もう駄目かもしれない、俺
「おかえり……」
苦笑いする俺の真正面に立っていたのは霊夢だった
「勝てたかい?」
「……アンタ、全部知ってたのね」
その言葉に俺は口を歪めた
くっくっく、なんて悪役のような笑い声が漏れる
一層機嫌を悪くしたような霊夢は、青筋をたてた
「私達が囮だって事も、きっとレミリア達が何かやる前から」
「ふははははは、そんな後じゃない もっと前さ」
「もっと前? いつよ!!」
霊夢の声が半分怒号に変わる
あたりには静寂が訪れ、長い沈黙が居座る
俺は少し顔をしかめた後、イジワルそうに舌をべーっと出して
「霊夢が巫女になる前」
なんて言ってやった
ギリッ なんていう鈍い音が響いた後、霊夢は「そう……」と一言
そのまま後ろを向いていってしまった
俺は最後の招待客、永琳が来るまでその場に座り込んだ
短め、今日大急ぎで書き上げました