東方黒鉄伝   作:荒無 時竜

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今回長め


紅と蒼の旋律

いつの頃だっただろうか?

俺はふと話しかけられたんだよな

両親は出かけて一人で留守番、そんな時に

「遊ぼうよ、兄ちゃん」なんて声が耳に響いたんだ

 

怖くなって耳を塞いでも音が小さくなる事は無くて

結局、その後声はしなくなった

両親に聞いても下を向くばかりでさ

でも、ある日不思議なものを見せてくれたんだ

一本の骨、お母さんはとても大事そうに抱えてた

誰の骨なの?なんて好奇心で聞いたとき、泣かれてしまったのを覚えている

ギリッ、と俺は歯を鳴らせた

 

「ふざけてんじゃねぇぞ」俺はそう口にする

俺の目の前、其処にはガラクタで出来た城があった

宙に浮かぶ城、ラピュタみたいだがそれよりハウルの動く城の方が近いかもしれない

そんな歪な城、その窓から2対の目が確かに俺を見つめていた

時間は大体夜中の2~3時

 

凄く冷え込むこの冬空の下、静かに庭に立っている

空を見上げたのも、それ以前に起きたのも

全部「そうしなきゃいけない」衝動に駆られたからに他ならない

いや、言い換えれば「それ以外はしてはいけない」という拒否の念に駆られたのかもしれない

あいつ等、完全にふざけてやがる そう俺は思った

何てったって今この世界に生きている生物をまるで感じ取る事が出来ないから

機獣も一見寝ているように見えて何か大事な物が抜けている

 

俺は無我夢中で地面を蹴った、向かう先は城一点のみ

禍々しく開いた扉の中に、飲み込まれるように俺は入っていった

数本の蝋燭が立っているだけの世界

微かな月の光りまでも此処には届いていなかった

光りが入ってくる事を拒絶しているかのような感じ

俺は揺れた蝋燭の光に映し出された二人の名を噛み締めた

 

「夜天……紅偽っ」

二人は立っていた、階段の上から見下ろすかのように

俺の身体に一層力が入った、その視線の黒さに思わず入れてしまったといえるかもしれない

死体、汚いものを見るかの様な軽蔑した目

こんなにもあからさまな敵視をされて悠長にはしていられない

「おい、紅偽。なにやってんだよ」

「……」

「なぁ、何やってんだよ……っ、何やってんだって聞いてんだよ!!!」

俺は思いっきり怒鳴った

裏切られたような気分、それも同じように育ってきた弟に……

 

「力は使わないでやるから、かかって来いよ」

冷たく凛とした言葉が暗い闇に溶けていった

反響する残響の言葉を俺は信じられない

かかってこい?なんでさ?

まったく良く分からない、俺がなにかしたのか

「お前……何言ってんだよ」

俺は素でそう返答した

わけがわからない、昨日まで見ないと思っていたら今日いきなりなんだって?

 

「そうだよな、わかるわけねぇよな」

皮肉たっぷりの言い草で紅偽はよってくる

カツン、カツンと響く靴の音

階段を下がる音は直に止み、目の前に二つの赤い目は迫った

「踊ってる姿は滑稽だったぜ?」

嘘とは思えない言い方、俺が踊ってた?

いつだ?一体いつだっていう……んだ……

 

ふと、思った。例えば一流の剣士が3人を同時に相手した場合

3人の強さにもよるがほぼ確実に剣士は勝つ事が出来るだろう

では、綿月の姉妹と機獣の場合。

機獣は果たして姉妹に勝てるのかどうか……

否、普通綿月の姉妹が全力を出せばあの位は楽勝かもしれない

もしかしたら……いや、もしかしなくても俺より強い可能性は十二分にある

考えろ、だとしたら何であいつらは負けた?

 

「……姉妹は本気じゃなかった、のか?」

「兄さんは頭が回るね、僕の能力は『心を動かす能力』」

心を動かす能力……そういうことか

「綿月姉妹は「手心」を加えていたんだな」

そーゆーこと、と紅偽は賞賛の拍手をくれる

嬉しくもないし、馬鹿にされた気分だ

「ちなみに、機獣が喋れるのも意思を持っているのも……」

「別の生物から『心』いや、『魂』を移動させたのか」

辻褄が合う、幽体離脱をしているような紅偽

この状態もあの力を使って起こしているのだろうか

「寝てる時に俺の身体に忍び込む、そして城を作った後おびき寄せたってわけか」

「頭が回る兄さんは助かるよ、説明の手間がなくてさ」

「で、その俺とサシで勝負をお望みか」

にっ、と紅偽は笑った

今まで見た誰の笑顔よりも醜悪でおぞましかった

仮面でもつけていて本質が、本性が読めてこない

「蒼真君、頑張ってね」

なんて夜天は言って四散していった

紅偽はジッとこっちを見つめている、歩いてくる

そして、距離が1mをきった時刹那の間の一瞬

ほんの僅かな瞬間にその声を聞いた

 

「殺すか、殺されるか」

突如、自分の腹に衝撃が走った

地面から足は浮き衝撃と反動で宙を舞った

物凄い激痛と不安定な浮遊感、それはとても不快で気持ち悪かった

体勢を頑張って戻そうとするが、空中では難しい

幸い一回転して足が地面についた、ガガガガと床を削る音を鳴らせながら俺は滑っていく

手で床を押さえて紅偽の方を見る

「残念、上でした」

突如、上から声がした

若干……いやかなり、自分の周りだけが暗くなっていく

拡大された瞳がうっすらと映したのは俺に向かって拳を振りぬこうとする紅偽だった

俺はとっさに手を十字に組んで紅偽の拳を受けた

ジンとした痛みが腕を、背中を駆け抜けていった

拳を捻じ込もうと更に体重を掛けるアイツの身体を俺は蹴り上げる

「ぐっ……」という短い声が聞こえ、拳が手を離れた

すかさず追い討ちを掛けるように大きく一歩を踏み出した

さっきまで顔面があったであろう位置、其処へ振りかぶった拳をぬいた

ふわっ、という感触。風を駆け抜けた、空を貫いた感じ

しまった、そう思うより早く

 

ーーー顎へと蹴り上げが決まった

バク転するような感じで拳を避けながら蹴り

運動神経の良い紅偽がやりそうな事だ

大きく後ろに仰け反りながら俺は腰のソードビットを抜いた

着地と同時に紅偽の居る方へ8本の青い剣が飛んでいった

ギリイイイリリリリリリリリリィィィィ

劈く様な金属音、うっすらとだが認識した

「赤い剣」が「青い剣」と火花を散らしている……!!

縦横無尽に剣を振り回していくのだが、向こうも同じように尽くガードしてくる

これでは埒があかない、俺は城の床を棘に変えた

そのままサシツルギの様に、弾丸のように一直線に紅偽へ向かう

しかし、それは3枚の五角形をした盾に阻まれた

「おいっ、どういうつもりだよ紅偽!?」

「そう言うのは、勝ってから言えよ!!」

 

突然目の前の闇から紅偽が出てきた

身体を半場捻った状態、遠心力で加速する腕

頭へ直撃コースの裏拳を俺はしゃがんで逃れた

そのまま足払いを掛けて紅偽を宙に浮かせた

ぐっ、と固く硬く堅く握った拳をその腹へ向けて振りぬいた

「オラオラオラオラアアアァァ!!!」

猛烈なラッシュ!ラッシュ!右拳と左拳は容赦なく紅偽の腹へ叩き込む

「あがっ!ぐっ!」と紅偽の声が漏れる、それに反応した俺は更に深く拳を叩き込もうとした

強く右足を踏み込み、渾身の右アッパーが決まる

だが、それと同時に右足へ激痛が走った

一本の鋭く尖った棘が深く深く、右足へ穴を開けている

赤黒い液体を滴らせる先端、俺はとっさに足を引き抜いた

その反動で後ろにふらつく

 

其処にトップスピードで紅偽は迫ってきた

右腕が俺の顔面、其処だけを狙って飛んでくる

受けたら確実に脳が揺れるほど強い威力、正確さ

俺は短く、ため息をついた。それこそコンマ数秒の世界で

その右手を左腕で上から、右腕でしたから掴む

身体を半回転させて紅偽の肘を肩へ

テコの原理を最大限に利用して、大きく紅偽を背負い投げた

「ぐはぁっ!?」

そんな声が薄暗い城に響き渡った

叩きつけられた紅偽、荒い息の俺

 

俺は大きく一息ついて瞬きをした

そのまま下を見下ろすと、其処には赤く細かい粒が飛んでいるだけだった

「じゃあね」なんて言葉が静かに響く

結局、俺は何が起きたのかさっぱりわからなかった

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