ああ、書きにくい
上空で何かが光ったーー
とてつもない轟音と熱ーー
そこからは、眼には見えない無数の「毒」が撒き散らされていたーー
止む事の無い怒号と悲嘆の声ーー
「うっ……」
低い唸り声と共に、俺は目を覚ました
何時もと同じ天井。だがそれはとても歪んで見えた
昨日の宴会で飲みすぎたのが理由ではない
眼から、頬を伝って流れ落ちる液体……
これは紛れも無い涙だった。
さっきの夢にも違和感を覚える
なぜ、あんな夢を見たのか?不思議でしょうがないのだ
今までに見たことの無い光景。けれど、自分はそれを知っているのだ
突き止めようの無い違和感に心臓が脈拍を上げる、不安が一層駆り立てられる
背筋が凍てつき、震える身体を押さえつけるように俺は身体を抱きしめた。
「どうなってやがる……」
「蒼真……って、どうしたの?」
目の前の空間がパックリと割れ、良く聞く声が耳に入る
そこには、心配そうにする紫が座っていた
「傷心している所悪いのだけど、お願いがあるの」
「俺の事はいい、続けてくれ」
そう震える唇で言う
一層不安そうになる紫は、隙間から書類を取り出した
少し厚めの、会議なんかに使われるような感じ
「今日は、地底に行って欲しいのよ」
「地底……」
幻想郷の下に広がる地獄に近い場所
そこには、追放された妖怪や住処を負われた物が住む
まさしく、城下町や地下町。殺伐とした世界という印象が根強く残る
「ええ、今其処から怨霊が溢れ出ているの
その異変解決と、今後の地底の方針。それについて話してきて欲しいのよ」
行ってきて欲しい……その言葉に過剰なまでの畏怖の念が湧き上がる
行きたくない行きたくない怖い怖い怖い……そんな感情が心の内を支配していくのを感じた
押さえつける様に、宥めるように胸をそっと撫でて、二つ返事で了承した
広げられた隙間の向こう
そこには大きな屋敷が広がっていた
地霊殿……確か此処には覚妖怪がいた筈だ
心を読まると厄介な事がある訳ではないのだが
なぜだろうか、とても足が踏み出せない
むしろ此処から……逃げたくなってしまうのだ
「ハハハ、今日の俺はどうなってやがる」
此処最近、寝付けない夜があったのは確かだ
しかし、それでも寝る事は出来たし今日のような感情が浮いてくる事も無かった
いや、考えても仕方が無いだろう。
「お邪魔します……」
頼りないゲッソリとした声と共に、俺は屋敷に踏み込んだ
西洋の屋敷を思わせる内装は、繊細に作りこまれていた
職人の技が見て取れる壁、天井。
タイルにもその技術が詰まっており、見ている間だけは穏やかな気分で居られた
「ん?お客さんかい?」
ふと、前方から声がした
目の前には真っ赤な髪の猫少女が居た
火車を手に持ち、綺麗な毛並みの尻尾がうねっている
「ああ……さとりさんは居ますか?」
「あっ!はい、分かりました。少し待っていてください!」
少し無愛想な挨拶だったが、猫少女……お燐は勢い良く奥へと消えていった
くらりと頭が揺れたような感覚がして、口を押さえ思わず膝を突く
焼け焦げた死体……
死体事態は妖怪退治で良く見かけるが、焼け焦げた人間なんて見るのは初m……?
いや、何処かで見たことがあるような?
冷静に頭を回転させようとするも、爛れた皮膚、赤々とした内臓がフラッシュバックしてきた
胃が逆流し、思わず全てぶちまけてしまいそうになる
気持ち悪い……俺は廊下なのにも関わらず、その場で蹲った
「……大丈夫でしょうか?」
さっきと違う声が響く
その落ち着き方からこの人がさとりだ、と思った
『すいません、お恥ずかしい所をお見せしました』
そう心の中でいいながら立ち上がる。
「いいえ、とりあえず居間にご案内します」
そういって後ろを向き、そのまま歩いていった
その後ろをついて行くと、少し広めの部屋に着き座らせてもらう
どうぞと、渡された水を飲んで吐き気を押さえ込み一息ついた
「ありがとうございます」
「ええ、……わかりました」
「では、お読みください」
俺はある程度の事はもう読まれただろうと踏んで資料を出した
案の定、驚きもせずさとりは受け取り中身を確認した
「それにしても、熱くなのですか?」
熱くないのか?という質問
即直に言うと熱くない
体から水分が蒸発する時、一緒に熱を奪っていくのはご存知だろう
俺の能力はもちろん水にまで干渉できる
空気中の水分を身体の表面に薄い巻くとして張り、熱を逃がしているのだ
「……便利ですね」
「ハハハ、最初は色々苦労したものです」
「そうですか。」
さとりはそう言って紅茶を飲んだ
「……貴方の矛先は、私やこいしと同じ所に向けられるみたいですね」
「?、何の話でしょうか?」
「貴方は嘔吐しかけたり涙を流したり……心の中に悲嘆する感情が蠢いています」
「……」
「少し前、といっても1~2日前ですが
一人の神が表れて私のペットに神力を植えつけました」
それは知ってる、空にヤタガラスが……
空の能力は……あれ?嘘だろ、俺はそんな事も気づかなかったのか
「私は記憶を読み取るわけではないので、考察程度しかできないのですが
凄まじい熱と光の力……それに貴方は畏怖しているのですね」
俺は薄く唇を噛み締めた
此処で始めて気づいた、人為的な「奇形」の原点
「核爆弾」
俺は小さくそう言った
「貴方はきっと苦しめられた人の内の一人なのでしょう
……あれ?空の力が薄くなりましたね。」
「きっと、霊夢や魔理沙が抑えてくれたんだろう」
途端、気持ちが楽になった
あの溢れ出る核のエネルギーが、俺を縛り付けていた事を実感する
俺はホッと一息ついた後、立ち上がった
「おい、さとり」
「なんでしょうか?」
「……いや、なんでもない」
そういって部屋を出た
けど、さとりには聞こえただろう。
『次、あの馬鹿鳥……空が暴れだしたら
不本意ではあるが、首を跳ねに来るからな
覚悟しとけよ』
という、俺のドス黒い声が