午前9時
鬱蒼と生い茂るこの竹林の中佇む一軒の屋敷
永遠亭……その戸の前に俺は立って居た
少し何時もとは違う服装をして
心臓を早くさせて、まるで少年のように
彼女が戸を開けるのを待っていた
タタタッと、何時も聞く忙しない足音が聞こえる
それが彼女が来たんだと、俺の感覚に、脳に伝えた
ガララッと開いた戸。
その向こうには何時もと違う服装の、優曇華が立っていた
何時もならシャツにミニスカートと、外の世界の某中学生などを連想させる感じなのだが
今は真っ白なワンピースに真っ赤なロングスカート。
それも細部に少しずつ自然な感じで、アクセサリーのついている
竹林の隙間風になびかれて立つ彼女は、美しいとしか言い様が無かった
「に、似合ってますか?」
真っ赤な顔をして聞く彼女の言葉に、俺は頷くしかなかった
目を逸らそうと思っても、見ていたいという気持ちも出てくる
それ以上の言葉も返す事が出来ず、慌てていると
「じゃあ、行きましょうか」と、
狂気の瞳よりもずっとずっと赤い、顔色をして手をつないできた
心の其処から、残念だという気持ちと
情けないという気持ちが出てくる
どちらも自分に向けられたもので、男性として腕を引かれる体勢と言うのは正直嫌だった
いや、男性としてというのは変かもしれない
ただ、自分は楽しませてもらう側より「楽しませて上げる側」、尽くしたい側なだけなのだろう
きっと、それが身勝手さの引き金になったりもするのだろうが
それでも俺は、彼女……優曇華の手を引きたかった
「なっ、なぁ優曇華?」
「はい、何でしょうか?」
「今日はどこに行こうと思ってるんだ?」
「そうですねぇ~、私は蒼真さんと居られればー、なんて思ってるんですけど……
いっ、行きたい所とかありますか?」
……駄目だ、可愛い
さすが新米ホイホイ。みんな餌に群がるゴキブリのごとく吸い寄せられていくわけだ
そんな子とデート……し、している訳だし、いい所の一つや二つ連れて行かないと
「そ、そうだな。
じゃあとり合えず、村にでも行こうか?」
「そうですね、そうしましょう」
優曇華の承諾が出たが、どうにも俺にはさりげないエスコートが苦手らしい
どこまでも強引で押し切るタイプのようだった
優曇華の手を握り抱き寄せる
「ふえっ!?」と、小さく驚いた優曇華を勢い良く”お姫様抱っこ”した
「くぁwせdrftgyふじこlp~~~!!」
「ハハハ、真っ赤だぞ優曇華。
今日はデートだからね、一日優曇華は俺のお姫様っつーことで」
自分で言ってて臭いっつーか、馬鹿らしいって言うか
正直、言うだろうとは思っていなかった言葉を、使い気を紛らわせて
元気に空へ舞い上がった
空の旅というのは、案外何時もと違うものが見えることが多い
毎日飛んでいたとしても、日に日に目にする光景はどこと無く違い
それが”誰かと一緒であると”もっと違ったものになる
良く分かっていたはずなのだが、今一度深く実感する
腕の中にうずくまった優曇華が居る
たかがそれだけなのだが、されどそれだけなのだ
「……わたし…今日…さんのお…様……」
小さい声で聞き取りにくいのだが、同じような事をずっと言い続けているのが良く分かる
それも、言葉に篭っているのは喜びの感情のように思え、なんだか嬉しかった
「……そ、蒼真さん」
「はい、何でしょうか?お姫様」
「ふぁ……、んとですね、その
わっ、わたひがお姫しゃまなら、蒼真ひゃんはおっ、王子ひゃまでいいのでひょうか!!」
「……ごめん、噛み過ぎててわかんなかった」
「むぅ……ならいいです」
そっぽ向かれてしまった、どうしよう
いやいや、聞こえなかったのは事実だし俺は悪くないよな?
いや、でも聞こえてなかった俺が?
……よし、謝ろう
「なんか、ごめんな」
「デート中なんですから、謝らないでください
おっ、王子様……」
……あぁ、そういうことか
俺はつい優曇華の頭を撫でる
優しく、優しく、愛撫する事に熱中しているともう村の真上だった
銀翼を使って少しずつ下降する
そうして、村の中心に降り立った
村の人が一斉にこちらを見、視線を逸らしていく中
「あ!!蒼真先生が彼女連れてるー」
唐突に村の中から声が上がった、間違いなく三浦君の声だった
その他の生徒の声も聞こえ始め、苦笑いしか出来ない
近くの家の窓から、未華もしっかり覗いている
皆に手を振ってから、やはりお姫様抱っこのままで団子屋に入っていった
「いらっしゃい!おっと、薬屋の子じゃないか。いやぁ、蒼真君も隅に置けないねぇ」
「ハハハ、ちょっとお礼を兼ねて”デート”してるんですよ」
「そ!蒼真さん、其処まで言いますか!?」
「いいじゃないか、仲いいのは良い事だよ。安くしとくね」
「ありがと、親父」
そういって最早”いつもの”を言わなくて出てくるようになった餡子とみたらしを見る
その隣にはちょこんと箸が置いてあるのだ
親父の方を見ると、親指を立ててこちらを見ている
……そんな羞恥プレイまでやれと?まぁ、恥ずかしがる女の子は見てて楽しいけど
俺は串から団子を外し、箸で掴んで
「優曇華、はいあーん」
「あーん……ってふぇ!?」
大人しくしたがった後に驚く優曇華
面白かった、条件反射なんて久しぶりに見た
「美味しいかい?」
と俺が聞くと思い出したかのように口を動かし「……美味しいです」と、呟いた
良かったな、親父。美味しかったってよ
そのまま、全串を優曇華に羞恥プレイで食べさせた後、冷やかされながら店を出た
よし、次はどこに行こうか?と思って村を歩き始める
すると、酒屋さんからいい声が聞こえてきた
「蒼真の旦那!いい酒が入ったのよ、安くしとくよ!」
言われるがままに寄って行くと、それは確かに良い酒だった
「星月」と、でかでか書かれたお酒にはいかにもという程のアルコール量が記載されており
お値段は1万8000ちょい。それを頑張って1万2000まで下げてくれたのだ
買わない方が失礼って物だろう
ありがとな、なんて言って其処を跡にするとちょいちょいっと向こうのおばさんが手招きしてくる
「いいおつまみがあるのよ、お酒があるんだからすこしどう?」
といって、美味しそうな漬物なんかをくれた
少し形の悪い物で、売れないらしいが味は確かだ
「蒼真さん、そんなに買っちゃっていいんですか?」
優曇華が突然、そんな事を聞いてきた
「ん?優曇華は嫌いだったか?」
「いいえ、そうではなくて……お金の方とか」
「ああ、それなら心配は要らないよ
俺は今外じゃ相当の値段するお鍋なんかを売ってるからね
安くても買い手は多いし、相当酷くない限りは無料で修理してるからね」
「なるほど」
優曇華の疑問も解消されたようなので、次に行く事にする
まだ11時ぐらい、廻れる所は沢山あるさ
そのまま優曇華の手を引いて今度は森の方へと向かった
……………
「いっぱい遊びましたね」
「だな」
あれから本を買ったり、似合いそうな服を買ったり
案の定お姫様抱っこしたりして、昼間を一日中満喫した
そんなこんなで現在7時半、俺の自宅である
「よし、じゃあ外でお酒でも飲もうか」
「はい、帰る前にもう少し居たいですし」
そういって少し顔を赤らめた優曇華
それを見て笑みを浮かべると、美味しそうなおつまみも持ってテラスへと移動した
「あれ、こんな所ありましたっけ?」
「一応あったんだけどさ、使ってなかったんだよ」
まだ真新しい机の上に並べて、そっとコートを優曇華にかけた
今日は綺麗な満月で、グラスのお酒に綺麗に反射していた
すっと腕を伸ばした俺に、優曇華は笑ってグラスを持って手を伸ばしてくれる
「君の瞳に、乾杯」
キーンと、高らかな音が響いた
その音は、輝く満月に向かって飛んでいった
何時もより多い3057字となっておりました