皆さんは あれ?日常編が続いたな?なんて思いませんでしたか?
あれ?未華ちゃん出てこないな?なんて思いませんでしたか?
そう思っていたなら、嵐は何時も突然に と覚えているといいかもしれません
突然心の中を何かが揺さぶった
此処何日か、胸に巣くうような感覚があったことを反射的に思い出す
私は必死で彼の名を叫んだ
私に希望をくれた彼の名を
刹那、頭におぞましい程の絶望が流れ込んでくる
この世の闇とでも言えるような
常闇よりも深い深い、深淵の闇
頭の中から、少しずつ暗くなっていく
意識が朦朧としてくる、彼が憎い……
彼が憎い…、蒼真が憎い…、殺す、殺ス、コロス
自分の身体は、自分の手から意識から零れ落ちた
無いはずの、虚像の足が最後の視界に映る
「さぁ、セカンドステージの始まりですわ」
真夜中の闇に言葉が溶けた
深夜3時、この丑三つ時と言われるこの時間帯
明らかな不穏の空気を感じて俺の瞼は開いた
心に突き刺さるような感覚、空気
それはアイツとの決戦の地。
空の帝城からした空気と同じものだった
「なにかヤバイ……」
突然の現象を目の当たり……いや、己の感覚に受けて俺は明かりの無い夜へ飛んだ
異変の香りは村からだった
粘っこい空気と闇が其処を包み込んでいた
助けを請う無数の声は、それだけで村人だと分かった
その中心に聳えるソイツの本体を、雲間の月が映し出す
風を受ける漆黒のドレス、腰あたりまで伸びた髪には真っ赤なリボンが無造作に絡み、結びついている
月光を受けて光るハイヒール……そして、黒バラに隠された顔
例えどれだけの変化があろうと、それが「錦織 未華」であることは容易に分かった
「ふふふ、来て下さいましたのね……蒼真さん?」
「夜天……」
口から溢れた言葉は虚空に響き、笑い声がそれを掻き消す
「クッ、アハハハハ!!ご名答ですわ
私は夜天……いえ、『ミッド・ナイト・メア』ですわ」
真夜中の悪夢、そう言った彼女に負けじと言葉を返す
「人の暗闇に付け込むお前だからこそ、人格も名前さえも変わるんだな」
「察しのよさ、真に関心致しますわ。貴方の心も住みやすかったですけれど
この子の心もまた、綺麗に黒ずんでいてとても甘美な居心地ですのよ」
その口ぶりに思わず右手の拳が強く握られる
文句の一つでも垂れてやろうと口を開いたその時
「あ、そうそう!最後まで五月蝿かったんですのよ?
蒼真、蒼真って泣きながら……頑張って黙らせたのですから、褒めてくださってもいいのですわよ?」
アハハハハハハハと狂った笑顔と笑い声が響く
その後ろで蠢く粘着物と、叫ぶ村人達
俺の視界は、真っ赤に染まりあがった
「そうかそうか、やっぱ人格が変わろうが性別が変わろうが」
ギュルルルと、黒い影が俺の手足を包み込んでいく
「結局本質はかわらねぇんだな」
何時もの姿とは比べ物にならないような凶悪なフォルム
「「この糞野郎がああああああああ!!!」」
ガキン!と鎧がかみ合った音が鳴り響いた瞬間、俺は夜空を駆けた
腰に輝いた双剣を引き抜き、その狂った笑みへ振り下ろす
剣先がその白い肌に触れる瞬間、粘着物が剣のようになり行く手を阻んだ
ガチイイイイイィィィィィイイイ!と鋭い金属音が鳴り響く
マスクの下で、俺は小さく声を漏らした
「まぁまぁ、焦らずに。そんなに強張ったら綺麗な顔が台無しですわ」
何を思ったかは知らないが、細い十の指がゆっくりと仮面を撫でた
ツゥーと、なぞる指に猛烈な嫌悪感を抱きその場から仰け反り後ろへ下がる
息が荒くなる俺を見て、彼女は一層高らかに笑った
劈く様な笑い声は、その影にいくつもの叫び声を響かせる
それが村人のものである事を悟り、下を見た瞬間
「余所見はいけませんわ、私だけを見ていればいいの……」
後ろから抱き寄せられる様に腰へ手が回される
やはり込み上げてくるのはどうしようもない嫌悪感
俺が「ひっ!」と声を漏らすと、腹から胸をなぞり顎下を擦った
「ふふふ、私の可愛い『ナイト・ゴーレム』ちゃんももう直お相手してくれるそうよ」
そういって”彼女は仮面を舐めた”
背中の装甲から十の銀光が迸る
それは、周りを赤く染め上げて二肢に傷を付けた
そのまま感覚だけで押し蹴り慌てて向き直る
だが目の前に居たのは、悶える事も無く絶叫する事も無く
ただ、痛みを受け入れるように頬を撫でるメアだった
「いいですわぁ、その”嫌悪”……さぁナイト・ゴーレム、やってお終い!」
その刹那、後ろから数十ではくだらないような数の触手が伸びてきた
それらは数秒に一度程のペースで姿形を変えながら襲い掛かってきた
最初の十数本はソードビットが生々しい音を立てて切り落とした
けれど、斬られたところで向こうに実害は無いらしく
それどころか、切り離された触手が新しい触手、もしくは枷となって新たな追撃を加えてくる
双剣で切り落としながらも、俺はその無意味さを思い知る
けれども、だからと言って動かなくてはあっと言うまに飲み込まれてしまうだろう
「うおおおおお!!」
けたたましい声を張り上げて、俺は衝撃波を放った
白くハッキリと見えるそれは、いつか捕食した大妖怪の力だろうか?
いや、そんな事はこの際どうでもいいのだ
この弾け散った触手達が覆い隠していた、600m先の「赤みを帯びた3つの光り」
それが、このナイト・ゴーレムと形容される粘着物の眼光であると言う感覚の示す「敵の弱点」
それに向かって全力で駆けた
後500!後ろからカーブを描くように触手が追いかけてくる
後300!伸びていた触手の側面から二股三股の触手が生える
後100!この距離を、手の届くこの一瞬を、全力で駆け抜ける
その前を塞ぐ触手を切り裂いて、弾き飛ばして、双剣に力を込めた
「黒金斬!!」
俺の声が響いた、向こうから無数の触手が伸びた
その合間を、鎧に重い打撃を受けながらも掻い潜り
コンマ数秒の間の乱撃乱舞が、その目を確かに打ち砕いた……
「残念ながら、ハズレですわ」
後ろから響いた声が耳に届いた
次の瞬間、その村を飲み込んでいる巨躯のいたるところで「瞼が開く」
しまった!そう思った時には足が飲み込まれて動けなかった
後ろから無数の触手が覆いかぶさり、黒と紫の粘液に飲み込まれていく
「さようなら、蒼真さん」
無邪気な声が後ろから聞こえ、俺の身体は完全に飲み込まれた
なにも見えず、何も聞こえない、頑なに閉ざされている闇
閉鎖的なこの現状、まるで開く事の無い箱に閉じ込められているような……
内側から声が聞こえる、それは小生意気な少年のような声だ
目の前にあるその物体を掻き分けて、俺はその奥へ奥へと進んだ
足掻くとは違う行動に、その巨躯は戸惑うように揺れた……
ふと、光りが見えた
いや、光と言うよりかは「光景」
そのナイト・ゴーレムの内側に秘められて居たのは、紛れも無く「錦織 未華」だった
蹲る様にする彼女には、コードの様に触手が伸びている
そのコードの先には、彼女の『記憶』のような物が映し出されていた
「楽しかった」「悲しかった」「嬉しいかった」「怖かった」
そんな感情の累々が惜しげもなく溢れ出ていた
その目から滴る涙、その涙が落ちた先。
真下に彼?彼女?いや、紛れも無い闇の記憶があった
足元の影に映された、閉ざされた、止まっていた時間の記憶
理解もされず、信用もされず、心配もされず、孤独に散っていった妖怪
「人を愛し」「人を信用し」「尽く裏切られ」「その胸を確かに射抜かれた妖怪」
そんな姿が、其処には映っていた
「ごめんな、俺も人のこと言えないや……」
俺の目からも、同じものが流れた
それが壁を伝い、未華の涙が落ち、その妖怪の亡骸の上に
ーーポチャンーー
静かな水音、共鳴するような波紋
大きく巨躯が揺れた、苦しむかのようにして大きく……
振動し、脈動していたコレは活動を止め、肉片となりて落ち
ジュッと月明かりに溶けた
「なん……で?」
「寂しかったんだろ?」
俺と、その腕に抱かれる未華はじっと彼女を見つめた
違う……と首を振る闇に近づく
「辛かっただろ、怖かっただろ」
「私には分かるよ、もう平気」
「いっ、嫌……」
彼女の足が、足先からオレンジ色に瞬く
白い靴が露になった
「お前も、紫や聖と同じ。また、藍の様でもある」
「喧嘩して、悲しんで、憎んで……
でも、そんな和気藹々とした人間の感情が良いなって思ったんでしょ?」
闇はゆっくりと下降してきて、地面に膝をついた
違う……嘘……人間なんか……
そう、うわ言のようにつぶやく彼女に未華が言った
聞いたことの無い、闇の本当の名前
「ミッド・ナイト・ムーン……真夜中を照らす
ううん、暗い夜の中、皆を見守る明るいお月様」
闇の啜り泣きが止まった
ぱっ!と視界が黄色とオレンジと、白に輝く
ふっと霞掛かる視界の中に、高らかに響いた一つの声
「--ありがとう!!」
それは、夜空に散って無数の星を瞬かせた
今回は短めでしたが、コレで足無少女編は完結……と、言う事になります
まぁ、後日談も書く気ではいますけれど