「彼」は、元々はどこにでもあるような、普通の人間だった。
特にこう、秀でた特技や異端な趣味があった訳でもない。ただ人一倍努力する事が好きで、EDFに入ったのも他の仕事よりかは給料が良かっただけだ。正直な話、彼にとってはフォーリナーも人類もどうでも良く、ただ自分と家族を養える事が出来ればそれでよかった。ただ整然と、訓練や書類作業をこなす毎日。平和な日本支部という事もあり、それだけで並よりも良い給料が貰えたものだ。
それが崩れたのは2017年4月1日。東京に、地球にフォーリナーが襲来したその日だった。
世界中に出現する巨大生物との交戦をキッカケに、彼も部隊長として、そして1人の兵士として最前線に赴き、フォーリナーと戦い続け、多くのモノを失い続けていった。
初めは「赤の他人」だった。
フォーリナーの輸送船団によって地球に降下された巨大生物によって、市民達が次々と彼等の目の前で喰われていった。EDFや各国の軍人達も当然その光景を見やり、恐怖、怒り、悲壮、呆然…様々な感情を抱いただろう。だが彼は、不思議な事にそういった感情を
鋼の精神と言えばそれまでだろうが、もしかしたらこの時点で、彼の心は大切なモノを壊してしまっていたのかも知れない。
次は「仲間達」だった。
フォーリナーと人類の本格的な戦争が始まり、その戦いは熾烈を極めた。その最中で、彼の目の前で何人もの兵士達が死んでいった。彼はその遺体の上に立ち、銃を撃ち、フォーリナーを倒し続けていた。仲間の死を悲しむより、敵を一つでも倒すことを優先し続けた。
次は「故郷」だった。
マザーシップの砲撃により、彼が生まれ育った街は跡形も無く消え去り、地図から消滅した。
次は「戦友達」だった。
ある日、彼の部隊を含んだ攻撃部隊はフォーリナーの罠を受けて包囲下に置かれ、輸送船8隻から降下し続ける巨大生物の群れの猛攻を受けた。彼等は必死に包囲の突破を行なったが、最終的に基地に帰還出来たのは彼を含めた2人で、生き残れたのは彼だけだった。*1
これをキッカケに、彼は心の内に宿っていた違和感を自覚した。奴等を目に入れるたびに、何か胸がムカムカするような、厭な感覚だった。
そして最後に失ったのは、「家族」だった。
その始まりは何のこともない、避難民キャンプの一つに巨大生物が襲撃し、偶々そこに彼の家族が居てしまったという不運だけだった。彼が任務から帰還した時に家族の訃報を聞き、元避難キャンプから届けられたその袋には、
そして彼は、心の内に宿っていた違和感の正体を理解した。胸を焼き焦がす程の憎悪、全身を貫いて震える程の怒り。
それを理解した彼は、1人の死兵と化した。誰よりも前に前線に赴き、誰よりも速く戦場を駆け抜け、己の危険も厭わずに戦い、時には死んだ仲間の武器を拾ってフォーリナーの残骸の山を築き上げた。
そうしていつしか、彼は「英雄」と呼ばれるようになった。
意識が、浮上する。
「…」
一瞬の事だが、まるで長い長い夢を見ていたかのような感覚。これが早めの走馬灯なのだろうか、と呑気に考えていた。
『…此方はEDF日本支部。これより、最終作戦「アイアンレイン」を発動する』
ヘルメットの通信機から、大石司令の声が入る。短い演説をしているようだが、彼の耳には一切入らなかった。彼の全てが、空に浮かぶマザーシップと6隻の護衛船団、そしておよそ80の小型ヘクトルを睨んでいた。
正直な話、今の彼にとっては人類がどうとか地球がどうとか、
来る、来る、来る。
『…全部隊、攻撃開始!!!!』
刹那。両足の運動エネルギーを起点に、彼の身体は前方に
「彼」
フォーリナー最大の誤算。人類史上最大の
彼の戦果は他の追随を一切許さない。以下がフォーリナー大戦に於いて彼が撃破した戦果である。
蟻型巨大生物:1万以上
蜘蛛巨大生物:1万以上
赤蟻型巨大生物:1万以上
女王蟻:7
巨大蜘蛛(奈落の王):4
ヘクトル:150以上
飛行ドローン:1000以上
精鋭ドローン(レッドカラー):14
輸送船:41
超巨大生物 ヴァラク:4
四つ足歩行要塞:1
マザーシップ:1
当然、この戦績を個人で成し得たのは「彼」以外に存在しない。この戦績はEDF陸軍1個軍団以上に匹敵する。