EDF日本支部召喚   作:クローサー

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皆さん台風19号の備えは十分でしょうか。お気を付けて。

今回は、もう一つの前日譚です。


もう1つの前日譚
もう1人の英雄(化物)


宇宙の何処かにある、それなりの大きさを持った星系に存在する惑星「ユグド」。

太陽系第3惑星 地球とよく似た大きさを持つその惑星には、これまた地球と同じく人類という種族が繁栄し、地上に文明を築いていた。幾千年にも及ぶ国家群の戦争、滅亡、建国、分裂、統合。幾億もの人々の血を流し、惑星ユグドの世界は漸く2つの大国を分けるのみとなり、少なくとも表面上は確かな平和となった。

 

1つは、ケイン神王国。その名の通り、「ケイン神教」と呼ばれる宗教によって構成された秩序と法によって生まれた宗教国家。

1つは、グラ・バルカス帝国。帝王の名の下に団結し、確固たる秩序を以って戦乱期を生き抜き、凡そ400年の時を経て世界の半分を支配するに至った軍事国家。

 

双方が世界の半分ずつを支配した両国は、それ以降パタリと戦争行為を停止した。数十年にも及ぶ世界大戦に皆が疲弊し、平和を渇望していたのだ。それ以降の両国は若干ながら微妙な関係を保ちつつも、しかしながら確実に発展していった。大国であるが故に軍備もそれなりに割いていたが、戦争をする気などは双方共に全く無かった。が、何からの拍子で戦争行為を行わざるを得ない事態になった時の備えは必要としたのだ。とはいえそんな事にならないよう、外交や貿易などは活発に行なっていた。

世界各地で巻き起こった戦争が漸く終結して武装平和となり、20年が経過した。

 

その平和は、(宇宙)より訪れた異邦人によって砕かれた。

後に「アグレッサー」と呼ばれるようになる彼等は、世界各地に降下。巨大生物や機甲兵器を降下し、侵略を開始した。この未曾有かつ前代未聞の事態に、数日の混乱の後にグラ・バルカス帝国とケイン神王国は直ちに同盟を締結。世界が一丸となって共通の敵を倒すべく、反撃を開始した。

しかし戦況は逆転するどころか、全世界規模の消耗戦と化した戦線は、巨大生物の物量と戦闘能力、そして機構戦力の破壊力の前に次々と崩壊。

 

失陥、失陥、失陥に次ぐ撤退、陥落、滅亡。

 

陸海空、全ての生存圏に確固たる安全など存在せず、アグレッサーはその版図を急速に、あまりにも急速に拡大していった。勿論、人類はそれに対して手をこまねいていた訳では一切無い。アグレッサーの機甲戦力の残骸や巨大生物の死骸などを確保して奴等のテクノロジー等を吸収し、数世代をブレイクスルーした様々な兵器を次々と開発していた。しかし、それでもアグレッサーと人類の戦力差は余りにも絶望的な差が存在していた。

例え多大な犠牲を払ってでも戦術的(部分的)な勝利を掴み取っても、戦略的(全体の)勝利を掴めなければ意味はない。そもそも新兵器の威力がどれだけあろうとも、僅か数百の兵士達に対する幾千幾万のアグレッサーの物量を前に、跳ね返せる力は存在しなかったのだ。

 

アグレッサーとの戦争勃発から僅か1年で、グラ・バルカス帝国とケイン神王国は完全に孤立し、3年でグラ・バルカス帝国植民地の過半数が完全陥落。ケイン神王国は滅亡、惑星ユグドの6割がアグレッサーの制圧下に置かれた。

この時点に於ける人類の残存戦力は、グラ・バルカス陸軍3割、空軍4割、海軍2割、亡命クイラ神王国陸軍4個師団、海軍1個艦隊という惨状。対するアグレッサーの戦力は、測定不可能

敵は余りにも強大、勝ち目などは見えず、ひたすらに繰り返される敗北。それでも絶望に飲まれず、人々が暴走を起こさなかったのは、一重にグラ・バルカス帝国の皇族…グラ家の献身にあった。彼等の支え無くして、アグレッサーに抗い切ることは不可能だったと断言出来るだろう。

 

その彼等が住まう帝都ラグナがあるグラ・バルカス帝国本土は、奇跡的にアグレッサーの侵攻を受けてはいなかった。しかし周辺の植民地は次々と陥落し、遂には全植民地が全滅。僅かな期間を置き、遂にアグレッサーは本土攻撃を開始した。

アグレッサーの母船 ハイブクラフトが率いる飛行船団がグラ・バルカス本土南部の街 シルマグナに向かって飛来しているのを哨戒していた空軍が確認、全軍に通達された。

 

グラ・バルカス軍はシルマグナに向け、飛行船団到来前に到達可能である周辺の全軍を集結。更に最新鋭の武装で固められた精鋭歩兵部隊 フレア大隊を配置。出来うる限りの全火力全戦力を以って飛行船団を殲滅、母船ハイブクラフトさえも撃ち落とし、この戦争に終止符を打つ覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 

「クエイク42小隊全滅!!」

「レイドシップ、更に一隻撃破!!第9戦車部隊前進再開!!」

「エリア5-4にて巨大生物出現!!」

「空軍に空爆支援を要請しろ!!陸軍の足を止めさせるな!!」

 

帝都ラグナに存在する、グラ・バルカス軍総司令部。オペレーティングルームには数十人のオペレーターと十数人の士官と今作戦に出撃する各軍の司令長官、そして時の帝王であるグラ・ルークスが居た。

国の興亡を賭けたこの戦いに、グラ・ルークスは静かに見守っている。それを忘れ、各人は己の使命を全うしていた。

 

「クソ、なんてこった!!海軍がアグレッサーの奇襲を受けて大打撃を受けました!!以後の支援不可能!!」

「何だとっ!?このタイミングでか…っ!!」

「フレア大隊、エリア5-3突破!!後続部隊もフレア大隊が開けた穴を拡大しています!!」

「よし良いぞ!!このまま行ってくれフレア大隊!!」

「第19爆撃隊、敵制空エリア強行突破!巡航ミサイルを発射しました!!」

 

現在の戦況は、グラ・バルカス軍が優勢。機甲戦力や空海軍の惜しみない支援を受けていた陸軍が巨大生物の大群を、数的不利をものともしない程の大火力で押し潰し、低空で滞空しているハイブクラフトに肉薄しようとしていた。

ハイブクラフトは鉱山を浮かせたような見た目をしているが、その鉱山部分には膨大なエネルギーが蓄えられており、防御力も極めて高い。海軍の主砲攻撃による撃墜が不可能となった今、残された手段は、陸軍によるハイブクラフト下部の浮遊ユニットの破壊しか残されていなかった。

 

「ハイブクラフト下部ユニットより主砲出現!!」

「何だと…?」

「主砲に高エネルギー反応確認!尚も増大中!!更にハイブクラフトが陸軍部隊へと接近しています!!」

「まさかっ…!?全陸軍部隊を至急退避させろ!!消し飛ぶぞ!!」

「駄目です、間に合わない!!」

「巡航ミサイル、着弾まもなく!!5、4、3、2、1、今ッ!!」

 

瞬間、第19爆撃隊が死力を尽くして発射された3発の巡航ミサイルが、ハイブクラフトの主砲に着弾。大爆発が主砲の根元を覆うが、一瞬、遅かった。

主砲中央以外の先端部から6つの赤細いレーザーが照射。それは直ぐに一つに収束し、地面に着弾。刹那、主砲中央先端部から膨大なプラズマエネルギーが照射。それはレーザーに乗って光速に近い速度で地面に激突し、全方位に解放した。

 

 

刹那。

爆発と同時に、地面をなぞるように、超音速で約3000℃の爆風と衝撃波が拡散した。

 

 

「…………ああ…………」

 

1秒経過するだけで、数十数百のPAギアの反応が消失していく。その数十倍の数のアグレッサーが巻き込まれているとはいえ、この被害は尋常な物ではない。

 

「被害確認!!」

「…クエイク部隊、およそ3割が消滅(・・)………フレア、大隊………PAギアの反応、確認、出来ません…」

「………は?」

「…虎の子の精鋭歩兵部隊が、たった一撃で、消滅した。そういう事だな?」

「………その通り、です」

「そうか………」

 

 

「…現時刻を以って作戦は中止。残存部隊は直ちに撤退し、防衛ラインを後退させろ」

 

 

グラ・ルークスの決断に、三将の一人であるジークスが声を上げる。

 

「お待ち下さい、皇帝陛下!陸海軍は確かに大打撃を受けましたが、空軍はまだ大打撃を受けておりません!まだ諦めるのは──」

「陸海軍と比べれば(・・・・)、だろう?空軍の損害も最早無視出来る段階ではない、兵を無駄死にさせる事は許さん」

「ッ…………わかり、ました」

 

短い討論が終わり、撤退が始まる。ハイヴクラフトの主砲によってアグレッサーごと吹き飛ばした事もあって、初動は予想以上に早く進みそうだ。

が、アグレッサーのレイドシップが戦力投射を開始。今はまだハイヴクラフトを守る様に固まっているが、直ぐに撤退する部隊を押し潰しにかかるだろう。

状況を見極め、殿部隊(捨て石)を配置しようとした瞬間、一つの声が遮る。

 

「フレア大隊のPAギア反応を確認!!生存者が居ます!!」

 

 

 

 

 

 

『聞こえますか!?此方は総司令部です!!』

「……き………こぇ、る…………」

 

「彼女」は、酷く焼けた喉を微かに震わせた。

その姿は酷いものだ。全身に深達性Ⅱ度熱傷及びおよそ80箇所の骨折を負い、右腕は飛んできた瓦礫によって根元から切断された。呼吸をするだけで全身に痛みが…いや、全身を深く焼かれた彼女に最早痛覚さえも存在しない。そんな状態で彼女は生きていた。

しかし、どういう事か。少しずつではあるが、パリパリと全身に渡って焼かれた皮膚が不自然に剥がれ、その下から火傷の跡さえ無い綺麗な肌(・・・・・・・・・・・・)が見え始めた。

 

『現在作戦は中止、全部隊が撤退を開始しています。動けますか?』

「……いま……なの、ましんの……さぃせい、しょち…………もうすこ、し…で………うご、ける……」

 

喉に古い皮膚(焼けた残骸)が絡み始め、堪らず咳き込んだ。ケホケホと苦しむ度に、口から黒い欠片が唾と共に大量に排出される。

 

『了解しました。直ぐに救援部隊を編成して──』

ケホ、ケホッ…その必要は、無い

『…え?』

「フレア大隊第1中隊は再生処置が終了次第、アグレッサーに突撃を開始する」

 

通信の向こう側の空気が凍ったのを感じつつ、骨折が完治(再生)した左腕を使ってゆっくりと上半身を起こす。その動きに合わせ、ポロポロと上半身からも黒い欠片がポロポロと零れ落ちる。

欠損した右腕を見れば、ミチミチと嫌な音を当てて少しずつ、PAギアと服を含めて再生されている。後1、2分程度で元に戻るだろう。

 

『自分が何を言っているのか、分かっているのか?』

「分かってる。だけど誰かが殿を努めなきゃ、追撃するアグレッサーにやられる。時間を稼ぐだけなら、近くて最も気軽に捨てやすい(・・・・・)私が一番の適役」

『…お前は、それで良いのか?』

「…私は何十人の友達を見殺しにして、此処にいる。皆の為にも、無駄死にするつもりもない。死ぬのなら、散々に暴れまわってから死ぬ」

 

両脚の骨折の完治(再生)が完了。火傷自体はまだ処置途中(再生途中)の為、全身に痛みが走っているが構わず立ち上がる。右腕はもう間も無く処置(再生)が終了する。

立ち上がった彼女は、取り敢えず全身に張り付く鬱陶しい黒い欠片を振り払う。粗方終わった所で、周囲を初めて見渡した。

 

 

静寂。

 

 

数分前まであった文明は、全てが廃墟となり、華やかさなどは最早存在しない。そして彼女以外に人の影はなく、レーダーを見ても生存者の反応は無い。人が居た証拠となるのは、バラバラに破壊されたPAギアや僅かに残った人の欠片、破壊された武器。それだけだった(・・・・・・・)

 

『…良いだろう、許可する。行ってこい』

「ありがとう。…所で、貴方は誰?最初のと声が違うけど」

『…そうか、確かに双方共に名乗ってはいなかったな』

 

『私の名はルークス。グラ・ルークスだ』

 

「…皇帝、陛下?」

 

流石の彼女も、驚愕の色を隠せなかった。たかが一兵士が、皇帝と会話をしているという事態になっているとは思いもしていなかったのだ。

 

『位の差など、どうでも良い。君の名は何だ?』

「…クローサー」

『では、クローサー。グラ・バルカス帝国皇帝として命ずる。残存部隊の撤退が完了するまで、アグレッサーへの陽動を実施せよ』

 

 

『そして、必ず生きて帰還しろ。それ以外は一切許可しない』

 

 

「…!」

『私は、喜んで誰かを捨て駒にするつもりは無い』

「………了解。これより行動を開始する、通信終了」

 

通信を切り、緊急で再生処置外に設定された、防御として最早機能しないヘルメットを取る。素顔が現れ、完治(再生)し終えた両手で纏めていた髪を解く。軍規違反の行動だが、最早それを咎める者も居ない。

その最中、使える武器を探す。彼女が持っていた武器はソード(MC-アークソードType.SXS)ロケットランチャー(FX-キュロスII・コンクェスト)だが、ソードはハイヴクラフトの主砲攻撃で喪失した。

流石にロケットランチャー 一本では、アグレッサーの大群に対抗する事は難しい。せめてもう一つ、何かしらの武器が欲しい。

 

「…」

 

ふと、視点が一つに固定される。約25m先に落ちている、紅い剣。誰かの遺品かと思いつつ、まだ使える事を願いながら柄を掴んで拾い上げる。

見たところ、損傷も無い。引き金を引けば、刀身から蒼い電流を纏う。問題無しと判断し、PAギアに武装登録。すると空間ウィンドウに武器名が表示された。

 

AM-シン・アークセイバー。

それが、彼女が手に入れた新たな刃。

 

数回素振りを行なって感覚を確認しつつ、同時にPAギアの機能を点検し、ナノマシン再生機能やワイヤー射出機能に問題が無い事を確認。

レーダーと目視によると、アグレッサーの戦力はハイヴクラフト1、レイドシップ6、ストームアンドおよそ千、スコージャー及びシディロス数十。

対する人類戦力は、彼女一人。

 

グラ・ルークスが命じたのはあくまでも「アグレッサーの陽動」。アグレッサーの特徴の一つとして、アグレッサーに最も近い人間に対して攻撃する(・・・・・・・・・・・・・)事が挙げられる。つまりは極端な話、近くで逃げ回るだけでアグレッサーを陽動するには十分だ。

しかし彼女は、彼女の目は。未だに諦めるという事を知らなかった。

 

遠くから、黒い波が、来る。

彼女はその光景を見てもなお、怯まない。ゆっくりと歩き出し、少しずつ、少しずつそのペースを上げていく。アークセイバーの引き金を引き、電流を纏う。

 

さぁ、行こう(始めよう)最後の戦いへ (彼女の伝説を)

 

 

「オォアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

 

 

たった1人の、宇宙戦争を。


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