EDF日本支部召喚   作:クローサー

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第18話 戦争外交 2(改)

皇都エストシラント。

皇宮であるパラディス城や軍令部、その他国家機関の本部などが存在するパーパルディア皇国の首都であり、第三文明圏の中で最も繁栄を遂げた都市でもある。しかしその繁栄は72ヶ国から吸い上げた富によって構成されており、その華やかさの裏にはドス黒い悪意が宿っているのは言うまでもない。

そんな歪んだ華やかさを持った都市の港から、パーパルディア皇国海軍第1、第2、第3艦隊の連合艦隊が慌ただしく出港していく。その総数、600隻の出港は見事な物であり、それを見たエストシラントの民達は自国の国力を誇らしく思うと共に、何故あんな数の艦隊が一気に出港していくのだろうと疑問に思う。それに気付くこともなく、連合艦隊は最大速力の13ノットで航海を開始し、エストシラントより南へと突き進んでいく。

すると、僅か30分程度で南の水平線に違和感が現れた。

 

「…あれか」

 

第3艦隊提督 アルカオンは静かに呟いた。

50分前、エストシラント南海域を哨戒していた複数のワイバーンと艦から悲鳴のような通報が入り込んだ。

 

曰く、「超巨大船がエストシラントに向けて約20ノットで航行中。魔導砲らしき兵器が無数に搭載されており、此方の臨検は完全無視。攻撃も全く効いていない。至急援軍を求む」

 

デュロ陥落(降伏)の連絡が飛び込んだ直後にこの通報内容。僅かな時間で余裕を完全粉砕されたパーパルディア皇国軍は、エストシラントに駐屯していた第1、第2、第3艦隊の総出撃及びエストシラント陸軍基地の全ワイバーンの出撃準備を指示した。

移動速度及び戦術の関係上、まずは海軍基地と竜母より出撃したワイバーンロード200騎、ワイバーンオーバーロード50騎による航空攻撃が行われようとした。しかしその直前、ワイバーン250騎の反応が突如消失を開始。通信は悲鳴と断末魔によって混線するが、それは僅か1分でワイバーン部隊全滅によって終息する。レーダーでも完全に消失した為、ワイバーン部隊は殲滅されたと認めざるを得ない。

 

つまりパーパルディア皇国海軍連合艦隊はこれより、「ワイバーン250騎を1分で殲滅した正体不明の超巨大戦艦」と交戦しなければならない。

連合艦隊の指揮官達は、はっきり言って勝ち目が見えなかった。第三文明圏最強の国力と戦力を誇るパーパルディア皇国皇軍、その中核を為す、一度飛び立てば7つの軍を滅せるとも言われ恐れられたワイバーン部隊。それも皇都エストシラントを護る最精鋭250騎が1分で叩き落されるなど、彼らの常識からすればまずあり得ないのだ。しかし水平線に見える超巨大戦艦はそれを成し得た。そこから導き出される戦力値は膨大以上であり、下手をすれば600隻もの大艦隊でも大した時間稼ぎが出来ない恐れすらある。しかし5分前より、エストシラントより皇族の緊急避難準備が進められており、それが完了するまではなんとしても時間を稼ぐ必要がある。故にパーパルディア連合艦隊は、必要になれば己を捨て駒にしてでも時間を稼がねばならない。

 

そんな悲愴な覚悟を持ち、超巨大戦艦との距離を詰め続ける連合艦隊。そうすると、超巨大戦艦のスケールも徐々に分かってきた。

 

「…あんなものが、海に浮かんでいるというのか…!?最早島そのものではないか!!」

 

横幅だけでも3、400m。艦橋に至っては600mもありそうだ。全長に至っては最早どれほどの物か、想像したくもない。その恐怖はあっという間に艦隊全体に伝わり、浮き足立つ。

 

『全艦、狼狽えるな!!』

 

そこに、連合艦隊旗艦の通信から激励が飛ぶ。

 

『確かに敵艦は極めて巨大だ!!だがあれ程の大きさでは我々が採用している対魔弾鉄鋼式装甲を採用するどころか、浮いているので精一杯な筈!!つまりはあの巨体を利用して攻撃に特化しており、防御などある筈が無い!!』

『故に!!如何なる犠牲を出してでも敵艦に接近し、魔導砲による砲撃を加えられれば勝機はある!!あれ程巨大な艦ならば、魔導砲の全弾命中は容易い。敵艦に大穴が開くことは目に見えた事だ!!』

『今がパーパルディア海軍の死力を尽くす時だ!!今、我々こそが最終防衛線だ!!総員、死力を尽くせ!!』

 

『全艦、突撃せよ!!!!』

 

連合艦隊は最大速力の16ノットで接近する。対して超巨大戦艦は連合艦隊に何をするというわけでもなく、只々連合艦隊の先…エストシラントに向けて接近している。武装が放たれる気配は全く無い。

 

「射程は我々を凌駕している訳ではないか…しかし打撃戦になるのは必至、ダメージレースか…!」

 

近付けば近付く程、敵艦の巨大さがより鮮明になる。まるで自分達が小さくなってしまったと錯覚を起こしそうで、遠近感覚が揺らぐ。そうしていくうちにも連合艦隊は二分して半包囲の陣形を組み、いつでも砲撃出来るように整えられる。

 

「まだ射程に入らないのか!?」

「後30秒程です!!」

「よし、合図を待て!!それまで決して攻撃するなよ!!」

 

敵艦から距離2kmの地点に次々と連合艦隊は突入。装填された魔導砲は敵戦艦に照準が合わさり、合図を待つ。

 

「まだですか…!?」

「まだだ、まだ待て!!」

「敵戦艦甲板に動きあり!!魔導砲と思しき砲台が動き始めました!!」

「司令っ!!」

『撃てェェェェェェェェェェェェ!!』

 

射程及び射界に入っていた279隻より、魔導砲が一斉射。千数百発にも及ぶ球状の魔導砲弾が敵巨大戦艦に飛来し、船体の側面に殆どが命中し、爆煙に船体が隠れた。

 

「次弾装填急げ!!奴に反撃する隙を与えるな、痛撃を与え続けるんだ!!」

 

慌ただしく次弾装填に動くが、その間に煙が晴れて敵艦の様子が見え始める。流石にあの巨体で一撃で撃沈する事は叶わないだろうが、それでも被弾部分に其れ相応の損害を出ている事を期待して。

 

 

「………は?」

 

 

そして、絶望した。

敵艦は何事もなかったかのように、全くの無傷でそこにいた。第3文明圏最強の連合艦隊、その半分の砲火力を以ってしても、敵艦には全く打撃を与える事が出来ていなかったのだ。

一時的ながら完全に動きを停止した連合艦隊。そして敵艦の武装が起動を終える。

 

地獄が、顕現する。

 

 

 

 

 

 

今現在砲撃を受けた、パーパルディア皇国海軍連合艦隊と対峙している巨大戦艦…否、要塞戦艦ヤマト。

彼女は戦争の早期終結及び砲艦外交に向けて皇都エストシラントに向け侵攻していた所に、エストシラントより出撃した連合艦隊と接触。わざと砲撃を受けて魔法に対する実地装甲テストを行ったのだ。千数百発もの魔導砲弾を船体側面部に受けたが、1200mmの対レーザープラズマ複合特殊装甲の前には全くの無力である事が証明された。

その礼として、38cmレールガン連装砲24基48門、12cmレールガン3連装砲300基900門の起動が完了。全門が左右のパーパルディア連合艦隊全艦に向けられ、砲撃を開始した。

38cmレールガンのみならず、12cmレールガン3連装砲の一斉射でもパーパルディア戦列艦を撃沈するには全くもって容易な事だった。一斉射で艦隊の半数が轟沈。1秒後に再び放たれた12cmレールガン3連装砲の一斉射によって残っていた残り半分のパーパルディア皇国連合艦隊は完全に殲滅された。悲鳴や断末魔の叫びを上げる暇もなく、凡そ600隻に乗っていた十万を超える命は、たったの2秒で吹き飛ばされた。

これが、要塞戦艦ヤマトの力の片鱗。

 

そう、彼女は未だそれ(・・)を認知させていない。それを知れば、彼の国は必ず墜ちる。

 

その確信を持って、ヤマトは皇都エストシラントへ真っ直ぐ、ひたすらに真っ直ぐ突き進む。

 

 

 

 

 

 

皇都エストシラントは、パニックに包まれていた。

南の水平線付近。そこで先程出撃した連合艦隊が、敵艦にあっという間に殲滅された様子を直接目撃した市民達によってパニックが伝播。家に逃げ込む者や何処か安全な場所を求める者、荷物を慌てて纏めてエストシラントから逃げようとする者などで通りは溢れ返り、防衛配置につこうとする陸軍やエストシラントから避難しようとする皇族達の動きを阻害する。

既にエストシラントにあった海軍とワイバーンは文字通り全滅している。残された対抗手段は陸軍の牽引式魔導砲のみ。しかし何も出来ないよりもマシだと、海岸線にひたすら運び込む。中には牽引式の対空魔導砲さえも引っ張り出してくる者もいる。

そうしている間にも、敵艦は…要塞戦艦ヤマトは皇都エストシラントより10km地点まで接近した。

 

「エストシラント10km地点」

「面舵90、主砲照準開始。目標地点、皇都エストシラント左右40km地点」

 

艦長の号令により、要塞戦艦ヤマトは面舵を開始。1800mという巨体からすれば反則的な速度で90度右に舵を切り、同時にヤマト前後に1基ずつ存在する、100cmもの口径と500mもの砲身長を持った主砲が旋回を開始した。秒間5度という速さで旋回し、砲身の重さによる重心バランスの変化により、船体がほんの僅かに左に傾く。

 

「照準終了しました」

「主砲、発射用意。弾種は引き続きグラインドバスター」

「了解、グラインドバスター装填!」

「全コンデンサー接続、砲身充電開始!」

「照準最終補正終了、グラインドバスター装填完了!」

「第1、第2安全装置解除!艦長、最終安全装置の解除を!」

「ああ」

 

艦長は胸ポケットから複製不可能であるID内蔵型特殊キーを取り出し、艦長席のコンソールにある鍵穴に差し込んで左に回した。

 

「最終安全装置解除を確認!主砲発射用意完了!」

「カウント5秒」

「了解!主砲発射5秒前!4、3、2、1、発射!!

 

ガチンと発射ボタンが押され、ギリギリまで引き絞られたそれは放たれる。

まずは炸薬が点火。100cmグラインドバスターの初期加速を担う凡そ1トンの火薬による爆発によって、まずはマッハ1の初期加速を獲得。直後に砲身部の電磁誘導による終末加速を開始。そこから僅か500mでマッハ21もの超加速を経て、砲身より脱出。爆炎より遥かに速く飛び出すと同時に、マッハ21のソニックブームによる轟音と衝撃波が周辺に走り、ヤマトも発射反動に襲われる。しかしその瞬間、人工重力発生装置が起動。ヤマト船体に反動とは正反対に向けて超重力が発生し、膨大な発射反動を強引に抑え込む。その二つの多大な負荷で、ヤマトの船体が一瞬悲鳴を上げた。

砲身より飛び出した2発のグラインドバスターは、40kmの距離を僅か5.5秒で飛翔。0.001秒単位のズレでエストシラントから左右40km地点に着弾し、膨大な運動エネルギーを解放。

 

 

その激突によって解放された運動エネルギーは、人類が生み出した最強火力の大量破壊兵器、核爆弾の威力に匹敵する。

 

 

刹那、着弾地点周辺3kmの地盤が崩壊。巨大な運動エネルギーによって大きく粉砕され、真上に押し上げられ、解放。あらゆる物質がクレーターより放出され、数十キロにも及ぶ範囲に衝撃波と共に土の粒、石飛礫、岩、粘土、水、木の破片…あらゆる破片が撒き散らされ始める。

当然、2つの着弾地点の中心地に存在するエストシラントにも飛来し、多大な落石被害が発生する。まずは衝撃波によって基礎が脆い建物は崩壊し、全ての窓ガラスが割れた。その後に降ってくる岩が家々に直撃して生まれたその破片が人々を襲い、直接落下した地面の破片(・・・・・)に周辺ごと押し潰され、パラディス城にもいくつかの地面の破片や岩が直撃し、貴重な人材や歴史的価値を喪失する。

 

僅か数分の出来事。それだけでエストシラントに住まう命の1割が消えた。

パニックが全く収まらず、魔導砲の射程にも入らない。反撃の手段は無く、このまま一方的な蹂躙をされるのかと思われた矢先。要塞戦艦ヤマトより発艦したファイターが2機でエストシラント上空に飛来。補助ブースターを利用してホバリングすると、急造で追加された大型スピーカーを起動した。

 

『我々はEDFだ。パーパルディア皇国及び皇軍に通達する。今から30分、猶予を与える。30分以内にパラディス城にて白旗を上げ、無条件降伏せよ。これはエストシラントのみならず皇国全軍及び皇国全領域、つまりはパーパルディア皇国の無条件降伏と同意義である事を明言する。30分以内に降伏の意志を示さなかった場合、我が方に対する攻撃ないしその準備を行った場合、皇族ないし政府関係者が逃亡した場合、直ちに我々は皇都エストシラント及びパーパルディア本国全域に対し攻撃を開始する』

『どうするべきかよく考えろ。死にたくないのならばな』

 

一通りの通達を終え、ファイターは引き続きホバリングを続行する。今から30分後まで留まり、何かしらのアクションが確認されるまで待機する為だ。

 

 

5分。

まだアクションは無い。

 

 

15分。

未だに何も行動は示さない。

 

 

20分。

降伏の白旗、逃亡、攻撃。混乱などはあれど特に動く要因になるアクションは未だ起こらない。

 

 

25分。

(…頼むから何かしらアクション起こしてくれ。魔法撃たれるんじゃないかってこっちはヒヤヒヤしてんだよ)

『相棒、パラディス城に白旗が上がったぞ』

「!」

 

機体を旋回し、パラディス城に注目。パラディス城の城壁の上に複数、大きな白旗が振られていた。

 

『終わり、だな』

「ああ。…此方ガルム1、パラディス城に白旗を複数確認。オペレーション・パルヴァライゼーション完了だ」

『了解。ガルムチームはそのままエストシラント上空で待機し、ブルートと外交隊の護衛を行って下さい』




「ふざ…けるな、巫山戯るな!!なんなんだこの条約は!!我が皇国を、そこらの文明国以下に墜とすと言うのか!?」
「ならば続けるか?我々は何方でも構わない。我々は今まで72ヶ国に対してお前達が行った事をやっているだけだからな」

受諾(屈辱)か、それとも拒否(滅亡)か。第3の選択肢は存在しない」

次回、戦争外交 3。(この予告の台詞は異なる可能性があります)


用語解説&状況説明
パーパルディア皇国
エストシラントに駐屯していた陸軍のワイバーンと海軍の第1、第2、第3艦隊が吹き飛ばされてエストシラントより左右40km地点が砲撃で吹き飛ばされ、その直後に行われた無条件降伏勧告を承諾した。

EDF日本支部
パーパルディア皇国を電撃的に無条件降伏させ、条約文書を持った外交隊がヤマトよりブルートで飛び立つ。

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