そして短い。話の区切りの都合で仕方無し…
その空気は、ひたすらに重かった。
「EDF情報局員の朝田だ。今戦争に於ける終戦条約締結の為、此処に派遣された」
「…パーパルディア第1外務局長のエルトです」
パーパルディア皇国 パラディス城の一室。そこに急遽セッティングされた終戦会議の場は、ひたすらに空気が重い。
パーパルディア側は第1外務局長 エルト、第1外務局次長 ハンス、皇族及び外務局監査室所属のレミールを中心として5名。対するEDFは、EDF情報局員 朝田泰司を中心とした3名である。
「では、早速終戦条約に関して伝える。まず先に言うが、我々EDFは貴国に対して領土割譲、賠償金要求は一切行わない」
『…!?』
朝田の発言に、パーパルディア側の外交官達は呆気に取られた。今までの戦争に於いて、滅亡以外での終戦の際は領土割譲や賠償金支払いは当たり前の事であり、それ抜きで終戦するなどあり得ない事であったのだ。
「但し、あくまでもそれは我々のみだ。条約に関する詳細はこの書類に纏めてある」
そう言ってパサリと十数枚の書類の束を机に置き、パーパルディア側に渡す。朝田の真正面にいたエルトが受け取り、書類の閲覧を開始する。残る4名も、エルトの邪魔にならないように配慮しながら閲覧する。
「……これは……」
そして間も無く、エルトは絶句する事になる。
そこに書かれていた条約の内容を要約すると、以下の通りとなる。
1.
アルタラス王国に対する侮辱、要求に対する謝罪、賠償金支払い、要求撤回を直ちに行う。
2.
パーパルディア皇国属国72ヶ国の即時独立及びパーパルディア人の即時帰国。72ヶ国の再独立後は、如何なるパーパルディア人も元属領国に入国する事は認められない。
3.
パーパルディア皇国は元属領72ヶ国に対し、各国が要求する賠償金を全額支払う事。
4.
パーパルディア皇国が所有する全奴隷の即時解放及び即時返還。
5.
パーパルディア皇国が保有する全ての魔導技術や魔導書をEDFに譲渡する。
6.
パーパルディア皇国は魔力通信を除いた魔導技術、魔導書を保有する事は今後一切認められない。
7.
領土防衛に必要な最低限度を超える軍の保有を禁止する。
8.
地竜、ワイバーン、ゴブリン等の生物兵器の保有は一切認めない。
9.
今後、如何なる理由があろうとも他国への侵略行為は一切許さない。
10.
外交及び軍事的に於いて、如何なる正当な理由、方法であったとしても他国の領土を獲得する事は一切認められない。租借も認めない。
11.
パーパルディア皇国が保有する全ての関税自主権の放棄。
12.
パーパルディア皇国は元属領及び元属領人への領事裁判権を認める事。
13.
以上の条約を、EDFの監視の下336時間以内に遂行する事をパーパルディア皇国は確約する。
これを要約すれば、「パーパルディア皇国はEDFの属国となれ」と言っているに等しい、重い条約。
全属領及び全奴隷の解放によって旧パールネウス共和国まで領土が縮小するだけではなく、ほぼ全ての魔導技術の譲渡及び破棄、必要最低限度までの軍の縮小、ワイバーン等の生物兵器の殺処分、外交制限、自主関税権の放棄、領事裁判権を自国に付与する事を強制される。
しかもこれ程の条約を履行したとしても、パーパルディア皇国はEDFと国交を結べる事を確約されていない。つまり条約履行後、パーパルディア皇国が他国から侵略されても宣戦布告されても、EDFはパーパルディア皇国を守る気は一切無いとしか思えない。
(………………)
エルトが叩き出した推測が合っているのならば、絶対にこの条約は履行する事は出来ない。しかし───
その時。
「巫山戯るなぁ!!!!」
エルトが必死に思考を回していた横で、皇族のレミールが激怒して机を叩き、朝田達を睨み付ける。その姿を見てエルト達の表情が青褪めるが、皇族を止める事は一平民であるエルト達には出来なかった。
「なんなんだこの条約は!!我が皇国を、そこらの文明国以下に墜とすと言うのか!?お前達は、我が皇国が第3文明圏の安寧を担っている事を分かってこんな条約を」
「ならば続けるか?この戦争を」
レミールの怒号を、朝田の声が遮った。それは決して大きな声では無いが、レミールの動きを止めた。
「我々にとっては、どちらでもかまわない。我々はお前達が今まで72ヶ国に対してやった事を、そっくりそのままお前達自身に返しただけだ。自分達は好き勝手やって、いざ自分達がされる番になれば嫌だ?そんな道理が通じる訳が無いだろうが。嫌ならば戦え。戦って戦って戦い抜いて、我々を倒して見せろ。その気概を見せろ。誰が死のうが、誰が斃れようが、その死体の上に立ち、我々を殺してみろ。我々もそうする。その瞬間、お前達を滅ぼす戦士となり、お前達に敬意を払って滅ぼそう。だからお前達も、我々を滅ぼして見せろ」
「選べ。
「…っ!!!!」
朝田の言葉にレミールは下唇を強く噛み、両手を強く握る事しかできなかった。
彼女も分かっているのだ。これ以上継戦しようにも、戦力差があまりにも開き過ぎているという現実に。
その事実を、パーパルディアは、レミールは正しく認識していた。
「クソッ…」
「クソォォォォォォォォォォォォォッ…!!」
だからこそ、言葉にもならない怒りを、ぶつける事が出来ない。只々、爪が皮膚に食い込むほどに強く握りしめる事しか、出来なかった。
中央歴1639年11月14日。
EDF・パーパルディア戦争終戦条約「ヤマト条約」締結。
条約終結後、EDFの監視の下パーパルディア皇国は直ちに全ての属領を独立させ、全ての奴隷返還作業を開始した。同時にアルタラス王国に使者を派遣し、アルタラス王国に対して行った要求の撤回、侮辱の謝罪、カストの引き渡しが迅速に行われる。他にも軍の縮小、生物兵器の殺処分、魔導技術の譲渡等、時間がかかる案件が山の様に噴出する事となるが、皇族や皇帝ルディアスに対する戦争責任が問われなかった上、様々な制限こそあれど独立は守れた。最悪の中で最善な手を打たれただけ、まだ良かったのだと彼等は思っていた。
EDF日本支部は、パーパルディア皇国より独立した72ヶ国に対してすぐに第1、第2師団を派遣して独立保証を行い、EDF主導の元で72ヶ国を一つの連邦とし、「フィルアデス連邦」を建国。フィルアデス連邦はその後、パーパルディア皇国が支払う賠償金とEDF日本支部より提供される技術を元に、ハイペースな復興と発展を遂げる事となる。
その際、EDFからフィルアデス連邦に提供された技術は民間技術だけに留まらなかった事を、パーパルディア皇国は知らない。
という訳で、パーパルディア戦争はこれにて終結。書き直し前とは違って、パーパルディア皇国は亡国を免れる結果に。生き残れただけ良かったと思おう。(尚被害は甚大)
…まぁ、そう思っているのは彼等だけなんですけどね。
用語解説&状況説明
ヤマト条約
パーパルディア戦争の終戦条約。数々の重い条約があったが、皇帝の戦争責任や政府のすげ替えが行われない等、不自然な点もある。
(一部は勝手ながらも感想欄に書かれていた内容を参考にさせて頂きました。事後承諾の形となりましたが、参考になる感想を書いて下さりありがとうございました)
パーパルディア皇国
ヤマト条約によって全属領全奴隷を失い、魔導技術も失っただけではなく必要最低限度まで軍は縮小し、ワイバーン等の生物兵器の保有禁止、アルタラス王国や元属領(フィルアデス連邦)に対する賠償金の支払い、工業都市デュロの崩壊等、問題を多数抱える事になる。
当然列強国の立場からも転落し、ムーの国民等もパーパルディア皇国を見捨てて出ていった。
第三国
エストシラントに居た大使などが要塞戦艦ヤマトを目撃し、大慌てで本国に連絡。魔導写真を撮れた国はそれを証拠として提出した。
EDF日本支部
パーパルディア皇国にヤマト条約を締結させ、解放された元属領に第1、第2師団を派遣し、独立保証を行う。そしてフィルアデス連邦を建国させ、復興及び発展支援を開始。
フィルアデス連邦
元パーパルディア皇国の属領72ヶ国が、ヤマト条約によって独立した直後、EDF日本支部が主導となって建国した。
EDF日本支部の属国的な立場となっているが、パーパルディア皇国の扱いと比べると天と地の差である方は言うまでもない。現在EDF日本支部より技術提供等が行われている。
「必ずあの国を滅ぼしてやる」