さて、それでは皆様の推測は果たして正解していたのでしょうか?
フォーリナー大戦。
それは、EDF日本支部の人間の記憶に深く、深く刻み込まれた悪夢。11年前、宇宙より襲来した彼等はその圧倒的な科学力と物量によって地球侵略を行い。僅か7ヶ月半の短さにも関わらず、人類の7割の命を散らし、世界に深い傷跡を残す事になった星間戦争。
EDF日本支部は転移後に接触した国々に対して、自らの歴史…否、フォーリナー大戦の事は語っていない。態々そんな事を話す必要も無ければ、あの長過ぎる悪夢を思い返したく無いのだ。故にEDF日本支部以外の人間には、EDFが「EDFたる根源」を知る者は誰一人として居なかった。
だからこそ、目の前の
繰り返すが
だというのに、何故
いち早く思考停止から復活した司令が、先程よりも遥かに鋭い視線を向けた。
「…何処で、その単語を知った?」
その言葉にシエリアは苦笑いを含んだような、複雑な笑みを浮かべる。
「我々グラ・バルカス帝国は、第二文明圏侵略前の外交でよく学びました。相手を良く知らぬまま話をしようとしたら、進められる話も進まない。だからこそ情報をとことん集め、そして帝国と友好関係を築くに相応しいかを見極めてから話し合う。だからこそ、我々は貴国との接触が決定した際には5ヶ月もの期間を費やし、あらゆる方法を用いて貴国の情報の収集を図りました。しかし貴国に関する詳細な情報は、全くと言って良い程入ってこなかった。この国の市民達は他国に観光などもする事なく、何かを恐れているようにこの国から出てくる事は無い。だからこそ、我々は少し手法を変えました」
「現実世界で駄目ならば、
「…そうか…っ!!」
シエリアの言葉に、情報局長は思わず目を見開いた。
EDF日本支部は、日本列島各地にネットワークを形成している。それはEDFのみならず、約3600万人の市民達も恒常的に利用する、現代のシステムを動かすには必要不可欠なツール。
EDFが使用するネットワークは当然、超高度なネットワークセキュリティとファイアウォールを築いているのだが、一般人となるとそうはいかない。3600万人にもそんなセキュリティを施すには、余りにも投資する資金と規模が割りに合わないからだ。
そして転移後は、ネットワークの概念まで辿り着いた技術力を持つどころか、中世や第一次世界大戦レベルの技術力しか持ち合わせない国家しか今まで居なかった為に、自然とネットワークに関する警戒が薄れてしまっていた。
そんな状態では、ネットワークからの偵察行為を察知出来るわけがない。
それに加えてグラ・バルカス諜報員達の狙いは、軍事情報ではなくて「EDF日本支部に関する基礎情報」。それを達成させる為には、
数瞬後には司令もその言葉の意味を理解し、内心で舌打ちをする。無意識下に形成されてしまっていた
そして、場の
「大地を覆い尽くす蟻や蜘蛛の巨大生物の大群、幾千の戦闘機を撃墜して空を覆い尽くした飛行ドローン、町々を蹂躙する二足歩行兵器や四つ足要塞、50m級の超大型生物、巨大生物を投下する飛行船団…そして、マザーシップ。確かに、まるで無稽荒唐な存在を相手に星間戦争をしてきたなどとは他国には言えませんね。こんな話、他国の人間は信じられる筈がない」
「…そういう貴女方は、
「ええ、信じます。何故なら───」
シエリアは懐を探り、其処に入れてあった手の平に収まるサイズの機械を取り出し、テーブルに置いた。
「
スイッチを押し、空間に映像が投影された。どうやらシエリアが取り出した機械はポータブル空間投影ディスプレイ機だったらしい。
「な…」
音の無いその映像には街に溢れかえった蟻型巨大生物と、強化外骨格らしきものを着込んだ兵士達が巨大生物に向けて銃撃を行なっていた。
映像である以上、それは合成やCGだと疑える。映像など幾らでも好きに加工する事が出来る。が、「
兵士達が持つアサルトライフルによる弾幕によって倒れていく巨大生物を踏み越え、
遂にカメラの眼前にまで巨大生物が迫り──其処で映像が止まる。出力元の空間投影ディスプレイ機を見ると、シエリアがスイッチを押して映像を止めたらしい。少しの操作の後、別の複数な画像が映し出された。一つは、まるで巨大な鉱山が空を飛んでいるように思わせるが、下部の機械仕掛けの円盤がその印象を一変させる。もう一つは15m程度の二足歩行兵器が、胸部から放たれたレーザーで街を破壊している画像。
「…この世界に転移する前、つまりは惑星ユグドにいた頃。7年前に突如現れた空からの侵略者を我々は「アグレッサー」と呼称し、5年にも渡る戦争を行なってきました。我々は2隻のアグレッサーの母船であるハイブクラフトを全て撃墜し、アグレッサーとの戦いに辛勝しましたが…その代償は世界秩序の崩壊、世界を二分していたケイン神王国の滅亡、グラ・バルカス帝国の全植民地全滅であり、辛勝と呼ぶにも…余りにも大き過ぎる犠牲を支払いました。唯一の生存国家となった我々は可能な限りの生存者及び残存軍を唯一ほぼ無傷に済んだ本国に集結させ、来たるべき反撃の時に備えていた。その時に我々はなんの前触れもなく、惑星ユグドからこの世界に転移したのです。その後の事は…先に説明した通りです」
シエリアの話が終わり、沈黙が流れる。
余りの想定外な話。まさか己達以外にもこの世界に転移してきた者達が居て、尚且つフォーリナーと同類の惑星外の侵略的存在との生存戦争を経験しているなど、一体どれ程の天文学的確率を引き当てなければならない事か?
「…貴女方の来航目的は、我々との国交開設及び軍事同盟の締結、でしたか」
「はい。それに加え、我々はアグレッサーに関する情報の開示を用意しています。アグレッサーとフォーリナーに武装や特徴等の差異がある以上、綿密な情報連携は必要不可欠と考えています。そして、機密に触れない限りの兵器技術提供も検討しています。我々には時間が無い。奴等がこの世界に居ないと誰も証明出来ない以上、我々は準備をしなければならない。一分一秒が万金に値する現状、こうして会談を行なっている事自体が、その分の備えを不足させてしまうのです」
「…我々はフォーリナーを、貴女方はアグレッサーを知っている。そしてこの
「…その通りです。しかも、今の今まで我々は孤独でした」
「しかし今は違います。私達の目の前には、「仲間」が居るのです」
シエリアの目線が、真っ直ぐに司令の視線と交差する。
「…我々もフォーリナーの情報開示、及び武器技術提供の準備を行いましょう」
「…!それは…!」
「時間が無い、直ぐに国交開設と軍事同盟の詳細を詰めましょう。我々も、この国の要塞化を推し進めなければなりませんからね」
司令とシエリアはほぼ同時に立ち上がり、微笑んだ司令がシエリアに向けて手を差し出した。
「この出会いに、幾千の感謝を」
「我らの怨敵に、絶対の鉄槌を」
シエリアも、その手をしっかりと握り返す。
そしてそれは、EDFとグラ・バルカス帝国の友好関係の誕生を意味する重大な第一歩となった。
この会談から2日後、EDF日本支部とグラ・バルカス帝国は正式に国交を開設し、同時に軍事同盟を締結した。
用語解説&状況説明
グラ・バルカス帝国
転移前である7年前、惑星ユグドに降下して来た惑星外侵略存在「アグレッサー」と5年間の星間戦争を経験。最終的にグラ・バルカス本国以外の世界に大打撃を負い、残存していた生存者や軍を別け隔てなく、可能な限り本国に集結させて反撃の時を待った。しかしその矢先に転移を果たし、現在に至る。
EDF日本支部との国交開設、及び軍事同盟締結に成功した。
EDF日本支部
自分達と似たような境遇を経験した国が現れた事に驚愕しつつも、国交開設と軍事同盟を締結。
アグレッサー
惑星ユグドに降下して来た惑星外侵略的存在。会談の際には、蟻型巨大生物と15mの二足歩行兵器、母船 ハイブクラフトの存在が明かされた。
マザーシップは1隻のみだったフォーリナーとは違い、惑星ユグドの侵略に2隻の母船 ハイブクラフトが降下。2隻ともグラ・バルカス帝国によって撃墜される。