先進11ヶ国会議。
神聖ミリシアル帝国の港町カルトアルパスにおいて、2年に1度開催される各文明圏の有力な文明国による国際会議であり、世界に多大な影響力を持つ大国が参加。参加国のみが今後の世界の流れを提案して議論し、決定することができる。
それは参加するだけでもこの世界では名誉なことであり、世界中から「大国」として認識される。
しかし今回の先進11ヶ国会議は、今までと少々勝手が違う。
前回まで先進11ヶ国会議の固定参加国として参加していた第二文明圏列強国レイフォル、第三文明圏列強国パーパルディア皇国が相次いで滅亡。レイフォルの領土と周辺国家は相次いでグラ・バルカス帝国の植民地となり、パーパルディア皇国はイーディーエフの属国として建国されたフィルアデス連邦の領土と化した。僅か1年で前回制定した世界運用の方針は完全崩壊し、主催国の神聖ミリシアル帝国は急遽、イーディーエフを固定参加国として、グラ・バルカス帝国は暫定的な参加国としてそれぞれ招待。両国はこれに応え、先進11ヶ国会議に出席する事も決定している。
彼らを除く世界各国は、今回の先進11ヶ国会議は荒れるだろうと予感していた。
中央歴1942年4月22日。
神聖ミリシアル帝国 カルトアルパス港。
第一、第二文明圏内に於いては有数かつ広大な規模の港湾機能を持つ。その規模は、「神聖ミリシアル帝国の第二の心臓」と例えられる程である。故に其処は中央世界の貿易拠点となり、世界中の商人たちの生の声が聞けるため、その手の者達からは様々な情報が飛び交いスパイが集まる町としても知られる。
それはさておき、主催国の領土かつ大規模な港湾機能を持つこの都市は、先進11ヶ国会議に最適な開催地として選ばれており、今年も港湾は大賑わいとなっている。港湾管理者の元には、先進11ヶ国会議参加国の軍艦の情報が、次々と集約されてくる。
港に着いた艦は、魔導通信具を持つ港湾作業員が連携して誘導、着岸させていく流れだ。
『第一文明圏トルキア王国軍、到着しました!戦列艦7、使節船1、計8隻』
『了解、第一文明圏エリアに誘導せよ』
『続いて第一文明圏アガルタ法国、到着。魔法船団6、民間船2』
『了解、先に到着したトルキア王国軍船団の隣に誘導せよ』
「…この辺りのは代わり映えせんな」
魔導通信具からの報告を聴きながら、港湾管理者のブロントは、カルトアルパス港管理局の窓から港湾の様子を眺めていた。
軍艦が好きな彼にとって、この行事は仕事であると同時に祭りのようなものである。
「此処に第零式魔導艦隊がいれば、各国の艦隊も貧相に見えるだろうな」
第零式魔導艦隊とは、神聖ミリシアル帝国海軍が誇る精鋭艦隊。最新鋭艦が配備される花形の艦隊であり、神聖ミリシアル帝国の強さの象徴でもある。普段はカルトアルパスを拠点としているのだが、今日からは先進11ヶ国会議の場となる為に、この時期になると西にあるマグドラ群島にて訓練航海を行うのが恒例となっている。自国の誇りの象徴を他国に見せ付けられないのを残念に思いつつも、次の艦隊を待つ。
ブロントは今回、どんな艦を送ってくるのか楽しみにしている国が2つある。
一つは、西の列強国レイフォルを落とした新興軍事国家グラ・バルカス帝国。
一つは、第三文明圏列強国パーパルディア皇国を解体、滅亡に追いやった謎多き国、イーディーエフ。
両国とも一体どのような艦隊で来るのか、この時点で彼の胸の高まりは止まらずにいた。
アガルタ法国の船団が全艦着岸したその時。岬の塔の監視員が突然通信越しにわめき始めた。
『な、何だあれは!?』
『あれは…艦、なのか?だとしてもあれは…!!』
「…?」
ブロントは、部下の通信員に対し、確認をとるように手振りで指示する。
『此方アルトカルパス港管理局、報告は適切に行え。何が見えた?』
『それが…艦が、
『…は?なんだって?』
『自分達だって信じられないです!だけど、だけどそうとしか言いようが無いんです!水平線からはとてつもなく大きな艦が見えます!なんて大きさなんだ…!?』
監視員からはおよそ要領を得ない報告しか返って来なかった。…が、しばらく待つと、その理由が見えて来る。それを見た、誰もが絶句した。
艦が、
最初は遠目だったからスケールはよく判らなかった。しかし近付けば近付く程それは露わになる。300mを余裕で超えたその巨体は、船体下部から青い光の筋を複数出しながら、悠々と空を移動。その艦に集約された技術力を、周囲に存分に見せ付けている。そしてゆっくりと降下を始め、各国船団及びカルトアルパスの市民達の視線を浴びながら、着水する。
『…グ、グラ・バルカス帝国、到着。飛行、戦艦、一隻のみ…』
『………………了、解。第二文明圏エリアに…入る、のか?あんな巨体が』
『兎に角、誘導しよう。各人は出来なかった時に備えて代用案を考えておけ』
全ての視線を奪ったその戦艦の名は、「ヴァーベナ」。
アグレッサー大戦後、グラ・バルカス帝国が「全世界反攻作戦」に向けて建造した決戦兵器の一つであり、全長502m、全幅280mの三胴
着水したヴァーベナは、誘導に従って悠々とカルトアルパス港に入港し、着岸作業へ。先の飛行能力に加え、51cm砲という第一、第二文明圏に於いての最大主砲が2基、陽の光に当たって誇らしい存在感を放つ。
ヴァーベナの存在感は余りにも強烈。既に着岸したトルキア王国の戦列艦隊やアガルタ法国の魔法船団がオモチャ同然に映る。
「…長、ブロント局長!」
「あ、ああ。何だ?」
「イーディーエフの艦が見えます!戦艦一隻のみ、ですが信じられない大きさです!」
双眼鏡で、沖合を確認する。
「……………………は?」
そこには、目測でもおよそ幅400mもの超巨大艦が航行していた。あまりのスケールの大きさに、逆に目測が困難な程だ。
やがて近づいて来たそれは、もはや一個の島と言っても良いだろう。大雑把に見ても全長1500m以上、幅500m以上。前後に80cm以上の単装砲を2門備え、機銃代わりと言わんばかりに10cm三連装砲や36cm連装砲がハリネズミのように設置されている。普通に航行しているだけなのに、その巨体故の規格外な排水量の影響で、その艦…要塞戦艦ヤマトから後方の海が多少荒れている。カルトアルパス港に近づくと、港湾設備への影響を考慮してか速度を落とし、僅か数ノットの速度で近づいて行く。
『………管理局、この艦はどうしたら良い?』
『…あー………そう、だな………少し待ってくれ。向こう側も港に入らないのは自覚しているだろう。向こうから動き出すかも知れない』
そうした通信をしていると、要塞戦艦ヤマトはカルトアルパス港の手前で停止。船体後部のハッチが動き出し、中からブルート2機が離艦。そのままカルトアルパス港の開いた場所に着陸し、外交団が降り立った。
「…とんでもないことになったな」
カルトアルパス港町北部 帝国文化館。
その建物はカルトアルパス港町の行政庁舎として建てられた、ミリシアル帝国の国力を示すかのように豪華絢爛に作られた建物である。EDF日本支部の外交団として送られてきた情報局員の近藤と井上は、帝国文化館の別棟にある国際会議場に足を踏み入れる。自分たちの着席場所を確認した後は、開始までの空いた時間をロビーで潰す事にした。
先進11ヶ国会議は数日に及ぶ。前半は外交担当の実務者級の会議が行われて話を詰めた後、後半で外務大臣級の代表会議によって意思決定が行われ、終了する。
「…あと少しで始まりますね。一体どうなるのか」
「さてな。我々と
「そうですね…しかし、こんな無駄に豪華な建物、我々の世界じゃ絶対に見れませんね」
「そうだな。もし民間であってもこんな建物を建てようとすれば、即座に
そんな話を暫くしていたら、まもなく時間だという館内放送が入る。各国の外交団は国際会議場に集まり、着席した。
議長席が並ぶ舞台を中心に、同心円上に席が設えた場内。全員の着席が完了した事を確認し、アナウンスが流れた。
『これより、先進11ヶ国会議を開始します』
世界の流れを決める会議が、始まった。