時系列としてはアフロバンドストーリー1章終了直後くらいを想定しています
俺はダンスが好きだった。小さな頃から踊ることが楽しくて、暇さえあればダンスに打ち込んだ。ダンススクールに通い踊り続けているうちにどんどん上達して、大きな大会にも何度も出場し優勝したことだって少なくない。ダンスは俺の人生で最も誇れるもので、このダンスへの想いは永遠だと信じていた。
いつからだったろうか。踊っている自分が、こんなにも空っぽに感じるようになってしまったのは。
俺の名前は愛川 空。中部から東京に越してきて夏休み明けに羽丘に編入する高校一年生だ。勉強は割と得意で運動は普通くらい。昔はダンスに打ち込んでいたこともあったが熱はとっくに冷めてしまったので精々惰性で適当に続けている程度。だから今はこれといった趣味や特技も無く、ただの学生Aみたいなものだ。
しかし、俺が正式にクラスに加入するのは少し先になるから厳密に言うと今の俺はまともな学生ですらない。諸々の手続きや準備は手早く済ませてしまったので正直な所かなり暇なのが現状だ。
なので今日は近くにあるというライブハウス「CIRCLE」に向かっている。何でも最近新しくダンススタジオも増設されたらしく、しばらくの間はここで練習することになると考えたからだ。…俺がいつこんな惰性で続けているものを止める決断を固めるかはさておき。
そんなことをぼんやり考えながら歩いているといつの間にか目的地に辿り着いた。だが何だろう、やけに周りの人々が盛り上がっているようだ。ライブハウスで何かやっているのだろうか?丁度近くにいた俺より少し上くらいの歳のスタッフの女性に聞いてみることにした。
「すみません、今日イベントか何かでもやっているんですか?」
「うん、そうだよ!このチラシのイベントだね。君はこのライブハウスは初めてかな?今回出演してる子達は皆CIRCLEをよく使ってくれてる子ばかりだから君も覗いてみると良いよ!」
女性スタッフはそう言ってイベントのチラシを手渡してくれた。ダンススタジオの下見がメインの目的だったから別にバンドのライブとかに興味は無かったが、用事も特に無いことだしたまにはこういうのも悪くはないだろう。
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えさせていただきますね。」
「それが良いよ!私はスタッフをしてる月島まりな。分からない事があったら何でも聞いてね!」
まりなさんにお礼を言い、早速そのライブとやらを覗いてみることにした。
入ってみると丁度演奏が終わった所らしく、会場は熱気と余韻に包まれていた。
「…すげぇな。」
率直に思った。今の自分には何かに対してここまでの熱量で取り組める自信も向き合える自信も無かったから。自分に無いものを当たり前に持っている会場の自分以外全ての人間を羨ましく思った。
同時に強い興味を抱いた。何が皆をここまで熱狂的にしているのだろうと。もしかしたら今日の演奏を聞けば或いは自分もそうなれるのでは無いかと。
次のバンドが出てきた。5人組のガールズバンドだ。真ん中に立っているのは赤メッシュが印象的な黒髪の女の子。ギターを持っているが恐らく彼女がボーカルだろう。他の四人も各々楽器を準備している。彼女らからも観客同様、いやそれ以上に一人一人に強い熱気や意思を感じる。
「Aftergrow、行くよ!」
程なくしてライブが始まった。と、同時に全身を衝撃が走る感覚に襲われた。
彼女ら一人一人の想いが重なっているかのように音が重なり、混ざり合っていき、それらをまとめてボーカルの強く美しい歌声で観客へと届けていく。ありのままの気持ちをそのまま歌にし、音楽としてぶつけている。
衝撃のあまり鳥肌が立ち手は微かに震え、声もまともに出せなかった。ただただ、打ち震える身体を抑え立ち尽くし、彼女らの演奏を感じることしか出来なかった。
気がついたら彼女達の出番は終わり、次のバンドがまた準備を始めていた。
自分の中で様々な感情が渦巻いていたのが分かる。
何で自分と変わらない様な年齢の女の子がこんなに、何で自分は、羨ましい、ずるい、凄い、妬ましい、カッコいい、それに比べて今の自分は──
上手く言葉で表せない何種類もの感情が混ざり合って、それにも関わらず最終的に自分の中に浮かび上がった言葉は単純なものだった。
「踊りたい…あの曲で、彼女達の曲で!」
熱を失ったはずの自分の心が、熱くなるのを確かに感じた。
ぶっちゃけ主人公の設定ガバガバなので後々一話は結構いじる気がします…