【完結】プロシュート兄貴「オレ達チームは仲良しクラブじゃないと言ったな。あれは嘘だ」 作:飛沫
低いINTで考えた結果、こうなりました。
それは、年が明けて十日程経った日の事だった。
「帰ったぜ」
「リーダー、戻ってきました」
「全く、ちょっと一度に頼み過ぎじゃないか? 三人で行ったからいいものの、二人じゃ持ちきれない量だぜ」
買い出しを頼んでいたギアッチョ、ペッシ、メローネが、両手に荷物を抱えながらアジトに戻ってきた。「ご苦労だったな」とリゾットは声を掛けようと振り向き、目を細める。
メローネとギアッチョがそれぞれ、一パックのティッシュボックスを持っていたのだ。それは今回の買い出しには頼んでいないもので、なぜ彼らが持っているのか。
勿論、買ってきて悪いという訳ではない。ティッシュボックスは頻繁に使うものだし、腐るものでもないから使用期限を気にする必要もないのだが、まだ予備はいくつかあったハズだ。
特売で買ってきたとしても、それなら買出しに出ていた誰かが、携帯電話に購入の是非を訊ねる電話を入れてくるだろう。それとも単純な気紛れで買ってきたのか。そんな事を考えながらメローネたちを眺めていたら、荷物を抱えたままペッシが自分の前にやってきた。そして「あの、リーダー。コレを」と、コートのポケットからチケットの様な物を差し出す。
「ペッシ!」
一体何だと質問する前に、ギアッチョが大声でペッシの名を呼ぶ。荷物をテーブルの上に置くと、急いで傍に駆け寄り首の辺りを右腕で閉めるようにしながら引き寄せる。
「だから、何で出しちまうんだよ! 黙ってたらバレないって言ったじゃあねーか!」
「で、でもよぉ、ギアッチョとメローネのティッシュボックスを訊かれて『ならペッシは?』って言われたらオレ、上手くごまかせる自信がないし」
「ほら、だから言っただろ。オレが持っていれば完璧に隠し通して見せるって。それなのに」
「オメーの服の何処に物を仕舞えるスペースがあるってんだよ。かと言ってオレが持っても誤魔化し切れるとは限らなかったけれどな、クソッ!」
「ゴメンよ、ギアッチョー」
突然目の前で騒ぎ出した三人に、リゾットは瞬きを繰り返す。相変わらず状況の把握はできていない。だが、騒ぎの原因がペッシの持っているチケットだという事は理解できた。結局コレは何なのか、手を伸ばして確認する。
「何だ……宝くじ、か?」
ペッシが渡そうとしてきたのは、連番になっている宝くじだった。きっかり十枚。とはいえ、相変わらずティッシュボックスとの関係性は見いだせないが。
「あー、お前ら。商店会で福引き引いてきたのか」
その時、共に騒動を眺めていたホルマジオが、思い当たる節があるらしく叫んだ。
「福引き?」
「ペッシたちが買出しに行った商店会で、昨日から福引きやってんだよ。五万リラで一回だったか?」
「あぁ、残念ながらオレとギアッチョはハズレのティッシュボックスだったがな。ペッシは見事に宝くじのチケットを引き当てたのさ」
「オレは通りにあるリストランテの食事券が良かったなぁ」
「ワインセットも悪くなかったけどな」
そんなやり取りを見てから、リゾットは受け取った宝くじに目をやる。しばらく眺めていたが「ペッシ」と名前を呼ぶと。
「コレはお前のモノだ。お前が持っているといい」
ツイ、と。チケットを返してやる。
「え? コレ、チームの生活費から出てるモノでオレの金じゃないですし」
「オレが福引きを引いても必ず同じ物が引けるとは限らないからな。メローネの言う通り、ペッシが引き当てたのだから、持つ権利はペッシにあるだろう」
「でも……うー」
躊躇する様子を見せたものの、リゾットが引っ込める気がないのを察したのだろう。
「そうッスね。どうせ当たっても一番下の金額だろうから、遠慮なくいただきます」
軽く頭を下げながら宝くじを受け取ると、先程のコートのポケットにしまい込む。
「なぁペッシ。もし、その宝くじで大当たりが出たら、オレたち三人で昼飯食べにいかないか?」
「いいけどさ、メローネ。絶対に一番下の賞だって」
「いや、ひょっとしたら末尾二桁くらいはいくかもしれねーぜ」
「もー、ギアッチョまでー」
困り顔を作りながらも、ペッシはどこか嬉しそうだった。その後、渡した宝くじの事などすっかり頭から抜け落ちていたのだが、二月になったある日のこと。
「イルーゾォ、ちょっとその新聞貸してくれないか?」
「あぁ、見終わったからいいぜ。許可する」
この日は、皆予定がなかったらしい。特に約束をしたわけでもなかったのだが、気がつけばアジトに全員が集まっている状態になっていた。スポーツ番組を付けて贔屓のチームを応援したり、デスクボードに置いてある酒を飲んだりと各自好きな事をして過ごしていた。そんな中メローネは新聞を受け取ると、ある頁を開いた状態でプロシュートと共にソファーで寛いでいるペッシの傍へとやってくる。
「ほらペッシ。答え合わせの時間だぜ」
「へ?」
差し出された新聞に、ペッシはわけが分からない、とメローネを見つめた。だが「ほら、ココ」と示された箇所を見て合点がいったらしい。
「よく覚えてたなぁ。オレ、すっかり忘れてたよ」
立ち上がり、それぞれの私物入れになっている棚から何かを取り出すと、持ってきた物と新聞のある部分を交互に眺め始めたので、隣に腰掛けていたプロシュートが早速訊ねてきた。
「ペッシ。オメー何見てんだ」
「あぁ、コレっすか。この前福引きでもらった、宝くじの当選番号の確認ですぜ」
「そこそこの金額が当たったら、今日のランチは通りの先にあるピッツェリアにするって、約束したのさ」
「そうか……。オイ、ペッシ。昼食いに行くってんなら、オレも行くぞ」
「プロシュートもかぁ?」
「オレとペッシの分は出す。それで文句ねーだろ。ギアッチョ」
「相変わらずペッシには優しいことで」
からかう口調のメローネを、プロシュートはギロリと睨みつけるが効果はないようだ。そんなやり取りの中、ペッシは律儀に番号の確認をしていたが突然ピタリと動きが止まった。「え?」と呟き、再度確認をすると。
「嘘ぉ!?」
新聞紙をシワが出来るくらい強く握りしめながら叫ぶ。直ぐに反応を返したのはメローネとギアッチョだ。
「当たったのかペッシ、でかした!」
「で、いくらなんだぁ!?」
「二……億……」
「ん?」
「一等、二億五千万リラ当たったよ!」
ほぼ悲鳴に近い叫びと同時に、辺りが静まり返る。何人かが息を飲む音だけが響く中、歓声を上げたのはやはりメローネとギアッチョだった。
「やるじゃないか! 二億五千万リラあれば、たいていの事はできるぞ!」
「あぁ! メンバー全員で三ツ星リストランテで暴食してもまだ有り余るくらいだ!」
覆いかぶさるようにして二人はペッシに抱きつき、それを皮切りに他のメンバーも話しかけてくる。
「ペッシ。オレは前、オメーにそのリストバンドを買ってやったよな。それだけの金が手に入ったのなら、オレの為に何か買っても全然問題ないんじゃあないか?」
「イルーゾォ、二年も前の話蒸し返してんなよ。あー、でも折角だ。アジトを引っ越すってのはどうだ? どうせならペット持ち込み可の物件でよ」
「それよりも車だ! ペッシ、車を買え!」
「お前たち、あまりペッシにたかるんじゃない」
リゾットが嗜めるがメンバーの言葉に思うことがあったのか、ジッと考え込むペッシ。少しして「それだったら」と口を開く。
「オレ、皆と一緒に旅行に行きたい」
「旅行?」
「うん。ここに来て二年経ったけれど、リーダー達全員と泊りがけの旅行とか、行ったことがないからさ。纏まった金が入ったんだし、皆と出掛けて嫌なこと忘れて思いっきり楽しみたいなぁ」
どうっすかね?
その言葉に再び黙り込む一同。今度最初に動き出したのはプロシュートだった。
「よく言ったペッシ! 流石はオレの弟分だ!」
「兄貴、痛い! 熱い!!」
煙が出るんじゃないかと不安になるくらい、ペッシを激しく撫で回すプロシュート。撫でる度に妙な音がするが、お構いなしだ。
「……旅行か。悪くないな」
「思い返してみれば、このチームに来てから旅行なんて行ってないな。リーダーはどうだ?」
「オレも覚えはない」
「どうせなら、仕事も忘れられそうなくらい遠い所がいいぜ」
「とは言え、まずは出資者の意見を聞かないとだろ。ペッシ、お前旅行に行くのなら何処に行きたいんだ?」
「えっと、なら海が綺麗な島とかいいなぁって……だから兄貴、痛いですってばぁ!」
「ペッシペッシペッシペッシよぉ!」
「海だな、解った。ペッシはそのままプロシュートとよろしくやって、後はオレたちに任せてくれないか!」
* * *
その後、ペッシの意見を元にメンバーの希望を合わせた結果、モルディブとドバイの二ヶ国に行くのはどうだという話になった。ペッシに相談すれば「いいね」の了承がもらえたので、行く先は無事に決まる。
更に話を進めメンバーの行きたい所、やりたい事等を考慮しながら日程やプランを決めていく。だいたいの予定が決まった所で旅行会社へ相談に行き、ホテルや飛行機のチケットの手配を頼む。その間にやってくる殺しの仕事は手早く片付け、旅行当日。
なんの憂いもなく暗殺者チームの七人は、巨大なキャリーバッグを転がしながら空港内を歩いていた。
「それにしても、まさか安月給の身で長期旅行に行ける日が来るとは思いもしなかったぜ。なぁ、イルーゾォ」
「ああ、何しろ十日の日程だからな。ペッシ様々だぜ。ところでオメー、旅先でも猫拾ってくるなよ」
「そういえばリーダー、ポルポに連絡はしたのか?」
「ああ、ついさっきな。奴が気づく頃にはオレたちは飛行機の中だろうが、連絡は入れたんだ。後は知らん。他にもスタンド使いはいるんだ、仕事はソイツらに頼めばいい」
「そうこなくてはな、リゾット!」
「楽しみですね、兄貴」
「当たり前だ。行くって決めたからにはとことん楽しむぞ、ペッシ」
「おう!」
何時ものようにプロシュートの少し後ろについていたペッシだったが、その時前に、同じようなキャリーバッグを携えてしきりに辺りを見回しながら歩く旅行者を見つける。
アジア系の顔つきで、どこの国の人間かまでは判断出来ない。しかし、自分よりも低い背丈にどことなく親近感を覚えたペッシは、言葉が通じるか気になりつつも声をかけた。
「アンタ、さっきからキョロキョロしているけれど、どうしたんだい」
「あ……ネアポリス市街地方面の出口に行きたいんですけれど……合ってますか?」
「ああ、こっちの方向であってるぜ。随分イタリア語が上手いな、中国人?」
「ボクは日本人ですよ。言葉はその……人に教えてもらって」
「フーン。ま、いい旅になるといいな」
「こっちこそありがとうございました。良い旅を!」
軽く挨拶を交わし、ペッシは旅行者と別れる。
今日は奇しくも三月二十九日。広瀬康一が空条承太郎に頼まれ、イタリア・ネアポリスにやってきた日であった。