白銀のヘカトンケイル   作:北十五条東一丁目

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第29話

 先頭の体格の良いオークは、門の内側に入って最初に見つけた獲物が、いかにも柔らかそうなメスであることをみとめて舌なめずりをした。若干小さいのが気に入らなかったが、それなりに食いではあるだろう、と。

 駆け寄ることもせず、ゆっくりとアルフェに近づいて行ったのは、魔物がその嗜虐心を満たそうとしたのだろうか。オークは少女の目の前に立ち、その手に持った重たそうな石斧を振り上げた。

 

 それが振り下ろされれば、彼女は見る影もない肉塊になる。その場で見ていた全員がそう確信した。

 もう絶対に間に合わない。ステラですらそう悟り、そのあとに広がる凄惨な光景が彼女の頭をよぎった。

 そしてオークが石斧を振り下ろした、まさにその時――

 

 門が破られた時よりも、さらに大きな音と振動が響いた。

 

 黄色い反吐と、どす黒い血が混じったものを吹き出しながら、オークの巨体が後方に吹き飛ぶ。その体は門の枠に一度ぶち当たり、跳ね返った後、折れて尖った丸太に突き刺さった。串刺しになったオークの身体は、ぴくぴくと痙攣している。

 

 他のオークたちが呆けている。オークだけではない、宿に避難しようとしていた村人たちも、一様に口を開けて静止していた。

 アルフェが一歩、前に踏み出す。それを見ても、意外なことに、オークたちは何の反応も返さなかった。

 それはなぜか。

 

 彼らの中で、今起こった事の意味が、どうにも消化できなかったからだ。今、仲間の一体が遭遇した突然の死と、目の前のこの小さな人間とが、頭の中でどうしても結びつかなかったからだ。

 だから彼らは、自分たちが今、狩られる側になったということ、そして狩る者が、まさに目の前にいるということが、理解できなかったのだ。

 

 オークの目の前にまで進み出た彼女は、一体のあごにそっと手をかけた。小柄な彼女の身長では、精一杯手を伸ばしてもそこまでしか届かない。

 

 しかしどうして――と思う間も無く、アルフェはそのオークを、頭から大地に叩きつけた。

 まるで木になっている腐った果実を、もいで地面に捨てるように。ひどく無造作な調子で、彼女はそれを行った。

 逆立ちにさせられたオークの体が、ゆっくりと倒れていく。頭髪の無い頭からは脳漿が漏れ出し、その首は、あらぬ方向に曲がっている。

 

「……ひっ」

 

 村人の一人から漏れ出たのは、称賛の声でも歓声でもなく、ただ息をのむ音。

 その場にいる少女以外の全てが、時間を止められたように固まっていた。

 

 そんな中、次にアルフェは手を少し持ち上げて、ちょいちょいとオークを指さし始めた。

 

 ――ひとつ、ふたつ、みっつ。

 

 彼女は声を出さずに、オークの数を数えている。

 

 ――ななつ、やっつ、ここのつ。

 

 若い娘が、市場に置いてあるリンゴを数えるような仕草で、細く白い指が、一つ一つ。

 

 ――……十七。

 

 片付けるべきゴミの数を確認した。

 

 

「――ま、魔術か?」

「魔術だと……? あれが?」

 

 数分後、門の周辺には、物言わぬ緑色の肉の塊となったオークたちがそこかしこに転がっていた。

 

 あの後に展開されたのは、ただただ凄惨な光景だった。アルフェの体が動くたび、魔物の頭が爆ぜ、腹が裂け、骨が折れ、血が飛び、悲鳴が響く。

 ようやく我に返って抵抗を試みたオークも、あっと言う間にその数を減らしていった。

 

 門の外で、村に背を向けて死んでいる死体もある。村に侵入してきたはずのオークの一隊は、最後にはアルフェに背を向けて、逃げ出そうとさえしたのだ。――それでも、彼女から逃れることはできなかったのだが。

 

「何がどうなって……」

「あれも、魔物なんじゃないのか」

「魔物――。化け物?」

 

 村人たちの不安と恐怖に満ちたざわめきを、気に留めた様子もなくアルフェは振り返った。彼女はすたすたと、村奥に向かって歩いていく。

 

「あ、あの!」

 

 その背中に、ステラが声をかけた。足を止めたアルフェは、首だけでわずかに振り返る。

 

「ありがとう……ございます」

「いえ」

 

 ぶっきらぼうな、つれない返事。礼を言ったステラに、村人のざわめきが大きくなる。触れてはいけない魔獣に人間が話しかけたら、きっとこんな感じだろう。それを受けて、ステラの内側に、村人たちに対する憤りの感情が沸き起こった。

 何なのだその態度は。今自分たちは、彼女に命を救われたばかりではないか。例えそれがよく分からない力によってだとしても、感謝を告げるのは当然ではないかと。

 

「――っ! 貴方たち――!」

 

 一喝してやろうかとステラが口を開いた瞬間、広場に悲鳴が響き渡った。

 村奥の方からだ。その場の全員が、弾かれたようにそちらに顔を向ける。まだ戦いの途中だったことを、彼らはようやく思い出した。何があったのか。そう言えば、村奥から聞こえていた戦闘音が止んでいる。

 

 一瞬の静寂、だが、それはすぐに絶望的な喧騒に変わった。

 

「――抜かれたのか!」

 

 青年の一人が、悲痛な声を上げた。

 家々の間から、散り散りに逃げてくる村人たち。それを追って、オークが姿を現した。

 それを見れば、主戦場になっていた村奥で、何が起こったかは明白だ。

 

「宿屋に行け! 畜生!」

 

 防壁の内側に侵入されたら、村で一番頑丈な石造りの建物、宿屋に集まって立て籠もる。最初の打ち合わせ通りだ。

 門の周辺にいた者たちは、一斉に走り出した。

 

「私たちも行きましょう!」

 

 ステラがアルフェに声をかける。だが、彼女は動かない。その眼はじっと、村奥の方を見ている。

 その視線の先に何があるのか。ステラが顔を向けると、そこには、体格のいい三体のオークと切り結びながら後ろに下がる、トランジックの姿が目に入った。彼の後ろには、左手で右肩をかばいながら、足を引きずって後退するオズワルドがいる。

 

「トランジックさん! ――きゃあ!」

 

 ステラがトランジックの名を呼んだと同時に、彼女の横で颶風が巻き起こった。それに体を押され、ステラは一瞬顔を覆う。再び目を開けると、今の今まで隣にいたはずのアルフェは、遥か前方を走っていた。

 

 

「ちぃっ!」

 

 トランジックは歯を食いしばって剣を振るう。人間が考えるほど、オークの襲撃は甘くなかった。彼らはたいして持ちこたえる事もできず、堀と防壁は突破された。

 村人の撤退を支援しながら、トランジックは広場まで逃げてきた。しかし、オークは斬っても斬っても湧いてくる。今また、トランジックはオークの一体を切り倒したが、もう一体とつばぜり合いになった。

 

「オズワルド!」

 

 その隙に、残る一体がオズワルドに襲い掛かる。オズワルドは深手を負っている。振り下ろされた棍棒の一撃を、前のめりになりながら、それでも彼は必死に避けた。

 

「――オズワルド! こ、の野郎ッ!」

 

 トランジックにつばぜりを外され、オークが体勢を崩す。その首筋に、トランジックは腰から引き抜いた予備のナイフを突き立てる。

 

 ――届かないッ……!

 

 こと切れた肉体を押しのけ、彼はオズワルドを狙うオークに切りかかろうとする。だが、もう間に合わない。

 魔物はさらにもう一度、オズワルドに向かって棍棒を振り下ろした。

 

 オズワルドは死んだ。――死ぬはずだった。

 彼を襲うオークの腕が、突然根元から斬り飛ばされなければ。

 

 太陽の中、くるくると回転して、棍棒を握った魔物の腕が上空を飛んでいる。トランジックとオズワルドは、呆気にとられてそれを見上げた。

 

「破ァッ!」

 

 次の瞬間に響く気合い声。視線を地面に戻すと、それをやってのけた娘が、オークの腹に致命的な拳を叩きこんでいた。

 

「……お前」

 

 トランジックは、オークを倒した少女を見る。それはアルフェという、冒険者を名乗る謎の少女だ。

 

「……助かる」

 

 まだ村内のあちこちで、戦闘は続いている。理解に苦しむことが起こったが、今は助かれば何でもいい。荒い息をつくトランジックは、それだけ言うと少女から目を切り、地面にへたばるオズワルドに肩を貸して、宿への後退を続けた。

 

「早くこっちに来い!」

 

 先に宿にたどり着いていた村人たちが、窓や屋上から、他の生き残りの後退を飛び道具で支援している。

 

「早く登れ! 階段を落とすぞ!」

 

 宿に入るための木の階段は、こんな時のために切り落とせるようになっている。斧を抱えた壮年の男が、手招きしてトランジックたちをせかした。

 倒れるように宿に転がり込んで、トランジックは中を見渡す。血を流し床に横たわるけが人、手当をする女子供、隅で震える若者。村奥の戦場から、無事に退避してきた者は多くない。

 

「もう少し待って! まだ外にいる人が!」

「もう待てん!」

 

 怒鳴り声がして振り向いた。そこには、ステラと斧を持った村人がやり合っている。

 

「これ以上待ったら、俺たちまで死ぬ!」

「そんな――!」

「ステラ!」

「――!」

「オズワルドの怪我を、見てやってくれ。――俺が行ってくる」

 

 トランジックは、オズワルドをステラに預けた。そして斧を持つ村人の肩を叩くと、その耳元で、周りに聞こえない小声でささやいた。

 

「俺が下で、生き残りの後退を支援する。だから少し、もう少し待ってくれ。――危ないと思ったら、すぐに階段を落としてくれていい」

「な……」

「……俺の事は気にするな」

「……あんた、どうして」

 

 どうしてこの村のために、流れ者の冒険者が命をかけるのか。

 

「――はは」

 

 そんなことはトランジックも知らない。

 

 この村が、自分の故郷に似ているから?

 自分の故郷も、オークの襲撃で滅んだから?

 ステラが、幼い頃に近所に住んでいた憧れのあの人に似ているから?

 

 そんなことは知るものか。ただ、今の自分が、そういう気分なだけだ。

 

「……ふん! 格好いいだろう? ――じゃあな! 頼んだぞ!」

 

 そう叫んで、トランジックは太陽の下に飛び出した。

 

 

 ぽつりぽつりと、宿に生き残りが駆け込んでくる。まだ、宿屋の入り口の階段は落とされていない。

 その階段の下では、右手に長剣、左手に短剣を構えたトランジックが、血塗れになりながら奮戦している。

 彼の髪は誰のものだか分からない血でべっとりと張り付き、切り傷、擦り傷は数えきれない。剣は刃こぼれだらけになり、革鎧の肩が裂け、一部が垂れ下がっている。

 

 村に入ってきたオークの量からすると、彼がこうして踏みとどまれているのは、全くの奇蹟と言えた。

 その理由は、トランジック自身も良く知っている。

 今、この広場で彼以外に戦っているのは、あの銀髪の少女だけなのだから。

 

 彼女は広場の中心で、彼よりも遥かに多くの魔物と渡り合っている。

 そのことに驚きは無い。トランジックにははじめから、彼女がこの村にやってきたあの夜から、少女が恐ろしい実力の持ち主だということが分かっていた。

 

「おらぁッ!」

 

 ほとんど気合いだけを頼りに、血油に鈍った右手の長剣で、トランジックはオークの肩を無理やり切り下げる。それを最後に、彼の前に動いている敵はいなくなった。

 オークたちは、もうほとんど彼に注意を払っていない。彼よりも遥かに獰猛な化け物が、すぐ近くで暴れまわっているのだから当然だ。

 

 ――もう、生き残りはいないか……!

 

 家々の間を見渡すが、転がっているのは死体ばかり。最早ここで踏ん張っていても、誰も戻ってこないだろう。だが、トランジックは宿の前を離れようとはしなかった。

 

 そうしている間にも、あの少女は相変わらず信じられない動きで魔物をなぎ倒している。今また一体のオークが、あごにアルフェの掌打を喰らい、仰け反って倒れた。さらに背後から別のオークが斬りかかるが、振り向きざまに斧の持ち手を片手で受け止めると、それを自らの方に引き寄せ、空いた拳でオークの胸を貫いた。

 

 ――頼む。

 

 よほど腕のいい剣士や魔術士ならば、一人であの数のオークと渡り合うことは出来るかも知れない。だが、それを素手で、しかもあの年齢の少女が行うとは。

 

 ――頼む……!

 

 トランジックが何かに祈ったことなど、何年ぶりだろうか。故郷が滅んだ時、彼は神に祈ることを忘れてしまった。

 

 ――後は、お前だけなんだ……!

 

 しかし彼にはもう、戦う力は残されていない。ステラは中で、必死に怪我人の治療をしているだろう。後はもう、あの少女にすがるしか、この村が生き延びる道は無かった。

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 

 宿に残っていたステラは負傷者たちの応急処置を終えると、入り口に向かわず、逆に上階に向かう階段を駆け上がった。治癒術を使い過ぎて目の前が暗いが、そんなことは言っていられない。

 自分の魔術なら、高い場所からの方が有効な支援ができる。そう思って彼女は屋上に向かったのだ。

 

 屋上には、弓を持った何人かの村人がいた。しかしなぜか、彼らは矢を射る手を止めて、じっと下を見下ろしている。

 

「――どうなったんですか!」

 

 ステラの問いかけに、村人は答えない。石の手すりに手をかけて身を乗り出し、ステラも地上を見渡した。

 

 広場には、目を覆いたくなるほど沢山の肉塊が転がっている。昨日までステラと言葉を交わしていたはずの、村人たちの死体。だがそれよりも、オークの死体の方がはるかに多い。

 その中央には、あの少女――アルフェが立っていた。オークの死体の傍らで、激しく息をつくアルフェ。彼女があの光景を作り出したのだろうか。

 

 オークは数を減らしたが、それでもまだかなりの戦力を残している。しかしなぜか魔物たちは、アルフェを遠巻きにしたまま近づこうとしていない。

 

 オークたちはアルフェから距離を取り、広場の周囲を囲み始めた。武器や盾を打ち鳴らし、奇妙なうなり声を上げ始める。アルフェは構えを取ったまま、それを不可解なものを見る眼で眺めている。

 

「……あ、あれを見ろ!」

「ハイオークだ!」

 

 宿の窓から、若者の一人が指をさして叫んだ。オークの壁の一部が割れ、他の個体よりも明らかに大きく、凶暴な気配をまとったオークが進み出てきた。オークの立てる音と声が大きくなる。

 周りを取り囲むオークたちが上げていたうなり声は、どうやら歓声だったようだ。待ちに待った群れのリーダーの登場に、オークたちは歓喜の声を上げている。

 

「一騎打ちでもしようってのか……!?」

 

 そう言われれば、屋上から見える広場は、まるで闘技場のようにも見える。オークで作られた輪の中に残されているのは、ハイオークとアルフェ以外には、死体しか無い。

 

 ハイオークの肉体には、まさに鋼のような筋肉が盛り上がっている。その上に、他のオークと比較しても、見上げるような体躯を誇っている。

 対するアルフェの身長は、せいぜいでハイオークの胸の位置までしかない。腕や脚の太さなどは、大木と小枝を比べるようなものだ。

 

 両手に持った片手斧を交差させて、ハイオークが腹の底から吼えた。空気の振動が、屋上にまで届いた気がした。

 

「――くっ!」

 

 こんな馬鹿げた勝負を認められるわけが無い。両者が戦えばどうなるかなど、誰が見ても明らかだ。ステラは自分の頭に血が上るのを感じた。せめて魔術でアルフェを支援しようと、呪文を唱え始める。だが――

 

「――っ!」

 

 まるで、邪魔をするなとでも言うように、ハイオークの斧の一つがステラに向かって投擲された。斧はステラのすぐ下の石壁に突き立ち、驚きで集まってきた魔力は霧散した。

 この一騎打ちを止めることは出来ない。その一撃で、広場の様子を見守っていた人間の全てが、そのことを理解させられた。

 

 転がっている死体の一つから斧を拾うと、ハイオークは再び両手の斧を交差させた。群れの長らしく、その動きは魔物らしからぬほど悠然としている。

 ここまでの流れの中で、アルフェは若干だが呼吸を整えていたようだ。彼女は両手をぶら下げ、天を仰いでひとつ息を吐き、再び構えを取った。

 

 周りを囲むオークも、建物の中にいる人間も、誰一人、しわぶき一つ立てようとはしない。

 

 戦いの意志を見せる少女に対して、微笑んだかのように、ハイオークの顔が歪んだ。

 それと同時に、魔物は猛烈な速度で踏み込んだ。両者の距離は数十歩。それを瞬く間に詰め、オークは少女に向かって右手の斧を振り下ろした。身をかがめて最初の攻撃をかわすと、アルフェはオークの鳩尾目掛けて掌底を繰り出す。彼らの身長差を考えると、少女の手はそれより上には満足に届かない。

 

 巨体からは想像できない、驚くべき身軽さでその突きをかわしたオークは、今度は左斧でアルフェの首をなぎ払った。身を引いてかわしたが、皮一枚の間隔を残して、刃が首の前を掠めていった。

 

「――ちっ!」

 

 アルフェは後ろに跳んで、敵との距離を取ろうとする。しかしその引き足に、ハイオークは悠々とついてきた。斧の石突が少女の顔面に迫る。両手を交差して、腕甲で攻撃を受けたアルフェの身体が、地面に縫いとめられた。

 動きを止めたアルフェの胴に、オークが前蹴りを放つ。丸太のような脚が、空気を引き裂いて襲ってくる。アルフェはその蹴りをかわしながら、左手で蹴り足を斬りつけた。

 

 一瞬の空白。

 

 無理な体勢から放ったアルフェの手刀は、敵の皮膚を浅く傷つけるに留まった。しかしオークの身体からは、確かに一筋の血が流れ落ちている。

 魔物が再び顔を歪める。その表情に浮かんでいるのは、怒りではなく悦びのように見えた。

 

 少女とオークの攻防が続く。

 オークの持つ斧は、刃物とも呼べない石斧に過ぎない。だが、剛腕が空気を切り裂いて振り下ろすその斧に、ほんの少しでもかすれば、少女の肉体は原型を留めず引き裂かれるだろう。

 驟雨の様に繰り出される攻撃を、それでも彼女は紙一重で避け続けていた。

 

 しかし、生存者たちが息を飲んだのは、攻撃を避けて打ち込まれる少女の拳にも、魔物の命を十分に奪うだけの威力が秘められていることを悟ったからだ。信じられるだろうか。ハイオークもまた、彼女の小さな拳を必死にかわしているのだ。

 

 しばしの応酬の後、両者は一つ後ろに飛んで、お互いに距離をとった。

 再びオークが前に走る。だが今度は同時にアルフェも前に出ていた。

 オークの斧は相変わらず恐ろしい速度を持っていたが、それすらも掻い潜り、少女は敵の懐に入り込んだ。

 

「破ッ!」

 

 初めて気合の声を上げながら、アルフェがオークの脇腹に双掌打を放つ。ステラの目からも、おびただしい魔力がアルフェの両手から発散されたのが分かった。

 オークの顔が苦痛に歪んだ。魔物は一歩後ずさるが、踏みとどまり、肩からアルフェにぶつかっていった。

 

「――ごふっ!」

 

 大量の魔力を放出した隙を突かれ、アルフェはその突撃をまともに受けてしまった。小柄な身体が跳ね飛ばされる。弾みながら地面を転がる少女目掛け、すかさずオークが片手の斧を投擲した。

 アルフェが跳ね起きてそれをかわす。彼女の銀の髪が数本、宙に舞った。

 

 いつの間にか、アルフェの手には短剣が握られている。あれは地面に落ちていた物か。彼女はそれを、立ち上がりざまにハイオーク目掛けて投げつけた。

 しかしオークの首領も、その巨体に似合わぬ、恐るべき俊敏さを見せた。首を振って避けられた短剣は、周囲を囲むオークの脳天に突き刺さった。

 

 短い時間の攻防だったが、両者ともに手傷を負った。ハイオークの口の端からは血が流れ出している。魔物は腹を手で押さえ、喉からせり上がる血を飲み込むと、凄絶な笑みを漏らした。

 しかし、先ほどから戦い続けているアルフェの疲労も色濃い。肩で息をし、総身が汗に濡れている。胸を押さえているのは、先ほどのぶちかましで骨か内臓を痛めてしまったのだろうか。

 

 ――グォオオオオオオ!

 

 ハイオークは決着を決意したようだ。大きく吼え、後退を考えない勢いで前に踏み込んできた。オークの渾身の斬撃を、アルフェはまたしても掻い潜る。そして振り下ろされた右腕に、全身を使って巻きついた。

 

「ぬぁぁああああ!」

 

 腕と脚を絡めて、敵の右腕を固めたアルフェは、満身の力でその腕を締め上げた。

 オークはそれを振りほどこうとしてもがく。左手でアルフェの頭を掴み、握りつぶそうと力を込めるが、その刹那、広場にひどく耳障りな音が響いた。

 

 オークの右腕が、間接とは逆の方向に折れ曲がり、握っていた斧が取り落とされた。口からは憎悪に満ちた唸りが漏れ、額に脂汗が浮かぶ。

 左腕で右腕をかばいながら、オークの身体が膝をつきそうなほどに前傾する。ハイオークの前に立ったアルフェは、右脚を高く上げると、その踵を魔物の後頭部に叩き込んだ。

 

 空にはまだ、太陽が高いところにある。村の広場の上には、凄惨な殺し合いが行われていたとは思えないほど、どこまでも青い空が広がっている。

 

 地面に頭をめり込ませたまま、ハイオークの身体は動かなくなった。アルフェはその後頭部を踏みつけたまま、激しく喘ぐ。ぜぇぜぇという少女の呼吸音以外は、相変わらず広場には物音一つしていない。

 

 しばし後。荒い息が収まると、少女は天を仰ぎ、獣のごとく吼えた。

 

「……!」

 

 一体のオークが後ずさり、その肩を後ろのオークにぶつける。それに釣られたように、他のオークも後ろに下がり始めた。長を討ち取られたオークたちは、確かに少女に恐怖している。

 アルフェはハイオークの頭に乗せていた足を下ろし、前に向かって踏み出した。

 

 それを合図にして、残った全てのオークが撤退を始めた。後ろも見ようとせずに、魔物たちは我先にと壁の外に向かって逃げ散っていく。数分後には、村の中には一体のオークの陰も無かった。

 

 

 そして、全ての魔物の撤退を見届けた後、糸が切れた様に、少女は地面に崩れ落ちた。

主人公の性格はどうなっているべきだと思いますか? 参考にさせて下さい。

  • 冷酷
  • 憎悪
  • 無感動
  • 臆病
  • 優しい
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