評価・ご感想・酷評(控えめな)を心よりお待ちてます❗
毎度の事ですがキャラの口調に違和感あったらすみません!
▲帝都ベルン 郊外 ブーゲンビリア邸
日が完全に没し、街の街灯が点き初めた頃
レルゲン中佐を乗せた車は、閑散とし物静かなベルン市街を抜け目的の場所に到着していた
「中佐殿、到着です」
車を門の近くに止め、車のドアを開けてくれる副官に感謝を言いつつ車を降りる
「ありがとう」
「いえ、これ程の事は。しかし……立派な邸宅ですね」
そう言い邸宅を眺める副官につられレルゲンも邸宅を眺め気づく
「そうか、君は来るのは初めてだったか」
「はい。話しには聞いていましたがこれ程とは……」と
邸宅を眺める副官だが
しばらく眺めていると我に返ったのか「申し訳ありません。直ぐに荷物を……」と慌ててトランクを開け荷物を取り出す
そんな慌ただしい副官を見てレルゲンは苦笑いする
「構わないとも。私も初めて来た時は同じ気持ちだったのだ」
この邸宅は今回の晩餐会の主催者であるギルベルト・フォン・ブーゲンビリア(少佐)の住居である
帝国が建国して直ぐに建てられたそれは
帝都郊外の長閑な場所にあり、帝国の歴史を表したかのような見事なものだ
彼のブーゲンビリア家の先人であるフリードリヒ・ブーゲンビリア辺境伯は生前帝国陸軍の近代化と増強に尽力し、その功績が認められ
この邸宅と黒鷲勲章を当時の皇帝陛下自ら贈られたと言われている
「送って貰ってすまなかったな。今夜は此処に泊まっていくので君は今日は上がってくれて構わない」
荷物を受け取りながら副官に今日の業務を終えるよう促す
「了解しました。ではその様に、明日はいつ頃お迎えにくれば?」
しっかりと迎え確認を取ってくる副官に内心感謝しながら少し考え時刻を指定する
「ふむ……では6時頃に来てもらえるか」
「分かりました。ではその時刻にお迎えに参ります」
「あぁ、頼むよ」
敬礼を交わし、車で去っていく副官を見届けると
レルゲンは荷物を持ち直し邸宅の玄関へと向かう
「少しばかり早く着いてしまったか……」
間もなく玄関に着き、呼び鈴を鳴らす
手元の懐中時計を見れば約束の時間より20分程早かった
しばらくすると鍵が開く音がし扉が開かれる
出迎えてくれるのは以前訪ねた時に会った使用人の方だと思っていたレルゲンだったが
出てきたのは……プルシアンブルーのジャケットと純白のリボンタイワンピース・ドレスを身に纏った、金糸の髪に青い瞳と玲瓏な声を持つ可憐な容貌をした少女だった
「ようこそおいでくださいました。レルゲン中佐ですね。御荷物をお持ち致します」
可憐な装いと玲瓏に似合わず、その口調は事務的なそれ、しかし挨拶は両手でスカートの裾をつまみ、軽くスカートを持ち上げて行うカーテシー式の挨拶だった
なんとも可憐で優雅な振る舞いについ凝視しまったが、彼女は特に気にした様子はなく淡々と言葉を紡ぐ
幼げな雰囲気を持ちながらもどこか能率的な彼女は、何処ぞの幼女を
紹介を終え、私の荷物を持とうとする彼女に大丈夫だと告げ、とりあえず邸宅の主の元へ案内してもらう事にする
「君は確か……ギルベルトの副官のヴァイオレット君だったかな?早速で悪いのだが、ギルベルトの所への案内を頼みたいのだが……」
と言うと彼女は少し困惑したような表情をしていた
私は何か変な事を言っただろうか?と考えていると次は僅に申し訳なそうな顔しながら聞いてくる
「何故私の名前を?私は中佐と面識した記憶がないのですが、以前何処かでお会いしたのでしょうか?もし、あったとすれば……申し訳ございません」
頭を下げるヴァイオレットにレルゲンは慌てて否定する
「あ、頭を上げてくれ! 君と会ったのは今日が初めてだ!だから君が謝る事はない!」
確かに初対面の相手が自分の名を知っていたら不思議に思うし、以前会った事がある人物と捉えてしまう事もあるだろう
その後なんとかヴァイオレットに頭を上げさせる
「はぁ……こればかりは私の言い方が悪かったな……君の事はギルベルトの話や軍務の書類で見た事があった。だから名前を知っていたんだ……」
「そう……だったのですか……」
事情を話していると……奥の方から声が掛かる
「ヴァイオレット、何かあったのか?」
その声を聞いたヴァイオレットは声を僅に弾ませ、声のする方に向き直るや否や喜々といった感じに経過報告を行う
「少佐!何も問題ありません。レルゲン中佐が今しがた到着され、少佐の元へ案内を頼まれたところです」
そんな彼女を微笑ましく思いつつ、レルゲンも燕尾服に身を包んだ邸宅の主に声を掛ける
「久しいな。ギルベルト、北方戦線以来になるか」
「レルゲン中佐、北方では厄介を掛けました」
旧友との挨拶を交わすが相変わらずの素っ気ない態度に思わず苦笑いしてしまう
「敬語も階級も必要は無いだろう、軍服は着ているが
などと言ってはみるが……
返答はなんとも彼らしい強情なものだった
「そうはいかない階級は君の方が上なんだ。軍服を脱ぐまでは呼ばせてもらうさ」
「では、早く軍服を脱がねばな……部屋までの案内を頼めるか」
「もちろんだ。ヴァイオレット、中佐は私が部屋まで案内する。君は食堂に行って晩餐室の準備を手伝ってやってくれ」
「了解しました、少佐」
ギルベルトはヴァイオレットに指示を出して、彼女が食堂に向かったのを確認すると挨拶も早々にとレルゲンを部屋へと案内する
▼ブーゲンビリア 来賓用客間
「この部屋を使ってくれ」
案内された部屋は清掃が行き届いた部屋で、ベッドも綺麗にメイキングされており、日用品も整えられた広い部屋だった
「こ……こんないい部屋を使っていいのか?」
「あぁ、構わない。普段は使わない部屋なんだが、君が来るという事で綺麗にしてもらった。好きに使ってくれていい」
さすがブーゲンビリア家といった所か……
自分の家なんて比べ物にならない程の部屋に動揺しながらも軍服を脱ぎ燕尾服に着替えていると椅子に腰かけたギルベルトが突然……
「……レルゲン。君には本当に感謝している……」
感謝を言ってきたのだ
レルゲンは何の事か分からず聞き返していた
「……何の事かな?」
「彼女……ヴァイオレットの事だ。君のおかげで私はヴァイオレットを失わずに済んだ」
「私は……あくまでも軍務をこなしたに過ぎんさ」
レガドニア協商連合との戦争中、レルゲン(当時少佐)は人事局に籍を置き、人事課長として働いていた
北方軍の人事を担当する事になり人事書類を整理していると、軍大学の同期であるギルベルト・ブーゲンビリア少佐の下に帝国海軍から引き渡されたという、少女兵の書類が目に留まった
その書類を読んでみると……
少女兵は北方系の人種で孤児であるという事以外殆ど何も書かれていなかった
だが調べていく内に、少女は北方戦線にて、常軌を逸したといっていい身体能力と戦闘能力の高さで瞬く間に北方方面軍全体に知れ渡っている事を知った
前線将兵の中にはその少女を[ノルデンの戦乙女]などと呼んでいる者もいると
そんな中、私は北方へ出張に行く機会を得た
その出張を利用し私はギルベルト・ブーゲンビリアに会う事にしたのだ
久しく会う彼は苦悩を抱え葛藤していた
曰く北方方面軍の幕僚等はその能力を鑑み、少女兵を道具として最前線へ投入し徹底的に使い潰す様ギルベルトに命じていたのだ
その事を知った私はギルベルトと話し、彼女をギルベルトの副官として置いておける様に手を貸したのだ
まず名前を決める事【ヴァイオレット】
身寄りを明確にする事【ブーゲンビリア家は諸事情により不可能な為、同家と関係深い名家エヴァーガーデン家に戸籍を置くこと】
ヴァイオレットがこれまで挙げてきた功績に沿った各種勲章の申請【野戦突撃章、傷痍徽章、白兵特級白翼突撃章、三級鉄十字勲章など】
能力主義を標榜する帝国軍の特性を利用しヴァイオレットの多大なる戦果を誇示しての准士官への任官
これ等を全ての過程を経て、ヴァイオレット・エヴァーガーデン准尉は晴れてギルベルト・ブーゲンビリア少佐の副官として任官、以降彼専属の副官として北方で戦う事になる
「必要な準備と正式な手続きを行っただけだ。帝国軍人として当然の責務を果たに過ぎんよ」
何の事もなかったと言い放つレルゲンに
ギルベルトは眼を瞑り「……そうか」と一言呟くと
ゆっくりと椅子から立ち上がる
「ならこの話はもうしない、だが…君への感謝は忘れない」
「そうしてくれると助かるよ。あーそれと…これ気に入ってくれるか分からないが……」
そう言いなら机に置いていた紙袋を差し出す
「帝国産の赤ワインだ、私はあまりワインには詳しくないが…それなりの物は選んだつもりだ」
ワインのラベルを見ながらギルベルトは少し驚いた表情をする
「帝国産は
「もちろんだとも、ヴァイオレット君とでも飲んでくれ」
「では……有りがたく頂くとしよう」
ワイン大切そうに持つのを見て、喜んでくれたのなら幸いだと微笑していると……
コンコンとドアをノックする音がする「入ってもよろしいでしょうか?」と聞いてくる
ギルベルトが許可を出すとヴァイオレットが部屋に入ってくる
「失礼します。少佐、ヨランダ・ロフスキ少佐が到着なされました。晩餐室にてお待ち頂いています」
敬礼をしようとした手を止め、手を後ろに組ながら要件を告げてくる
「報告ありがとう。ヴァイオレット」
「少佐の為なら何でもします」
聞いていた限りヴァイオレット君は喜怒哀楽を表に出さない女性だと思っていたが、ギルベルトの前に来ると僅ながらに表情が明るくなり、感情が表に出てくる様は一人の歴とした乙女そのものだ
「
ヴァイオレットはコクりっと頷くと、ギルベルトのすぐ後ろを歩いていく。そんな仲睦まじい二人を見ながらレルゲンも後に続く
▲ブーゲンビリア亭 晩餐室
ギルベルトと軽く近況を話し合いながら歩いていると
ほどなくして晩餐室に到着し、重厚な扉を開けば……
明るいクラシック様式の部屋に長いテーブルが置かれており、テーブルの上には純白のテーブルクロスが敷かれ、燭台や食器・ワイングラス、控え目な装花などが置かれていた
(参謀本部晩餐室より落ち着きがあるな、いや……単純に参謀本部晩餐室の調度品が派手なだけか)
と一人で納得していると
「ヨランダ待たせてすまなかった」
ギルベルトが既に晩餐室に来ていた女性に声を掛ける
「全くです……女性を待たせるなんて感心しないわよ。お二方?」
その女性が椅子から立ち上がり、茶化しながら咎めてくる
彼女の名は"ヨランダ・フォン・ロフスキ"
ユンカー上がりの参謀将校で階級は少佐である
ヨランダ・ロフスキ少佐はレルゲン・ギルベルトの軍大学の学友であり、この三名ともが軍大学の誉れである十二騎士に冠されている
軍大学卒業後の進路は
-席次-
[公爵]
レルゲンは帝国陸軍人事局へ
[選帝侯]
ギルベルトは新設の帝国陸軍特別攻撃隊へ
[大公]
ヨランダは帝国軍法務局へ
それぞれが道は違えど皆帝国の為にと歩んでいった
そんな彼女に男二人はそれぞれ
「すまない」「申し訳ない」と謝罪すると
ロフスキは「許しましょう」と面白げに笑みを浮かべる
「二人とも久しぶりですね、軍大学以来かしら?」
「あぁ……そんなになるのか。ヨランダ君は変わりの無いようだ」
「えぇ、変わりありませんよ。貴方は……軍大の時よりだいぶお痩せになりましたね」
「あぁ
はぁと肩を下ろすレルゲンにヨランダは「それはそれは、お忙しそうな事で」と微笑み顔
そしてレルゲンに向けた微笑み顔とは違う別の表情でヨランダはギルベルトの方へと近付く
表情は微笑み顔そのものだが、その笑みはどこか冷たい表情に見えた
「ギルベルトは何やら面白い物を海軍から貰ったと聞きましたよ?確か……少女兵だったかしら?」
そう言いながら先ほどとはうって変わって眼を輝かせながらチラッとギルベルトの後ろを見る
見た方の先にはヴァイオレットがいつもの無表情で待機している
「彼女の事は……また後で話そう……、それよりいい時間だ。そろそろ晩餐会を始めよう」
「相変わらずガードがお堅いことね」
「分かったわ」と肩を透かしながらも
ヴァイオレットを一瞥すると優雅に席に戻る
その振る舞いまるで演劇の様だった
ヨランダの服装は夜会服……
いわゆるイブニングドレスというもので
胸元や背中が大きく露出しているタイプの物を着ており、ヨランダのスタイルや美貌と相まって一つの名絵画にも見えてくる
(いかん……余りじっと見るのは失礼だ)
いくら同期とはいえ年頃の女性を凝視するものではない、とレルゲンもそそくさと席に着く
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その後晩餐会が始まりヨランダ・レルゲン・ギルベルトそれぞれの近況を語った
ヨランダは特にヴァイオレットの事を興味津々とばかりにギルベルトに質問していた
出てきた料理はどれも味が良く、小食気味のレルゲンも舌鼓する
(参謀本部の食事もこれ程ならどれだけ利用者が増える事か……)
そんな愚痴を内心溢しながらも久しぶりのゆったりとした時間をレルゲンは満喫していた
だが、悲しきかな
帝国軍参謀将校であるレルゲン中佐は、このゆったりとした時間を自ら終らせ。己が職務を、延いては義務を全うしなくてはならない立場であった
デザートを皆が食べ終わった所でレルゲンはそろそろか……と仕事の話を切り出す
「さて、粗方食事も済んだ所で、すまないが仕事の話をさせてもらいたい。まずはこれを……」
そう言いレルゲンは書類鞄から2つの封緘書類を取り出し、控えていた給仕に書類を渡す
その給仕が受け取った書類をヨランダとギルベルトに渡す
「その書類は後日行われる条約調印式に関係する物だ。本来ならばゼートゥーア・ルーデルドルフ両閣下が直接渡す筈だったが……。参謀本部に
二人は開封し、書類に眼を通す
しばらくして両者共眼を通し終わったのか命令書を封筒に戻す
「ヨランダ少佐には以前から進めていた参謀本部内の内通者探しを行ってもらう。人員については参謀本部からも人材を送る。信頼の置ける将校だ、必ず役に立つだろう。明日の正午に顔合わせを行ってくれ、名目的には法務局へ出向という形だ。将校の情報はその封筒に入っている」
「了解致しました。しかし、レルゲン中佐殿がそこまで言う参謀将校とは珍しい。さぞ優秀なのでしょうね」
クスクスと笑うヨランダにレルゲンは苦笑いを浮かべ曖昧に肯定する
「いや……優秀なのは間違いないのだが……、扱いが難しいと言うのか……しかし君とは馬が合うだろう」
ヨランダ少佐は優秀な野戦指揮官であり、参謀将校でもある
軍大学での審査で[愛国的で戦友・部下・社会的弱者などに対しては慈しむ事ができ人道的であるが、敵兵・裏切者・坑命者などに対しては残忍性が強く、冷酷無比で過度な殺傷行為に及ぶ可能性があり]とされ一次審査で落ち、二次審査で受かったのがヨランダ・ロフスキだ
この評価はデグレチャフ少佐に八割方当てはまるであろう事だ
「それはどういう意味かしら?」
眼を細めて微笑み掛けてくるヨランダにレルゲンは(この話題はやぶ蛇だな)とわざとらしい咳払いをして話を変える
我ながら不器用な事だ……
「いや……特に深い意味は……ン、ンッ! 次にギルベルト少佐、君にはイルドア・合州国などの中立国から来る平和条約調印式調整特使団の護衛に就いて貰う」
「査察団は帝国・イルドア間山岳鉄道にて帝都ベルンへ向かい帝都到着後、車で帝国議事堂に向かう。その間の護衛だ。それとまだ未確定の情報だが……レドガニア協商連合軍の残党が調印式阻止に動いている」
「協商連合軍?彼等はまだ戦うと……? 既に勝敗は決したというのに……」
ギルベルトは苦悶に表情を僅に顰める
北方戦役の趨勢決めた
協商連合の要所にして協商連合最大の要塞[インテンス大要塞]陥落の立役者である彼にしてみれば、あれだけの血を流してまだ流したりないのか?と考え理解に苦しんでいるのだろう
だが、それは違うのだ
全くの逆だ。あれだけの血を流したからこそ諦められないのだ。
そこには国家理性も合理性も無い、あるのは感情だけ
それは復讐心か、はたまた憤怒か
帝国国内とて本質は同じだ
ダキア公国を蹂躙し、レドガニア協商連合を殴り殺し、フランソワ共和国を締め上げた。
超列強と語るに足る戦果に帝国の国民感情は高まり複雑に絡み合っている
「何にしても平和に仇なす輩は討たねばなりません。そうでしょう。ギルベルト少佐?」
鋭い眼を向けるヨランダにギルベルトは
「あぁ……私は軍人だ、軍人である以上は祖国に平和を勝ち取る為に戦う。そこに揺らぎは無い」
覚悟を決めていると語る
大方協商連合残党の不条理さを嘆いているのだろう
ヴァイオレットの時もそうだが、彼は人間性に忠実すぎるのだ。この点レルゲンはターニャの論文や言動等で人間性を多少燃やし耐性を付けれていた。
そういえばと、ヴァイオレットの方を見れば……
僅な変化ではあるが心配そうな表情を浮かべてギルベルトを見つめている様にレルゲンには見えた
(健気なものだな。愛ゆえに、と言った所か?……まぁいい)
「以上が参謀本部よりの軍令だ。私も可能な限り支援するつもりだ。ライヒの為にどうかよろしく頼む」
座りながらだが深々と頭を下げる
「えぇ、オペラ座の勇姿をご覧くださいな」
「微力を尽くそう」
二人からの返事を聞いて頭をあげ心からの感謝の言葉を告げる
「感謝する……。君達ならば平和を勝ち取れると信じている」
そして皆が手元のワイングラスを持ち、祖国の為にと今一度乾杯を交わす
「「「
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▲同日 同時刻 帝都ベルン 某会場
レルゲン中佐がブーゲンビリア邸で晩餐会を行っていた頃
203大隊は大隊送別会を行っていた
大隊長であるターニャ・デグレチャフ少佐は大隊員が集まったのをセレブリャコーフ中尉に確認し、台に立つ
「全員集まったか?」
「はい!大隊集結完了であります!」
「結構。ふぅ……では始めるか、親愛なる戦友諸君!」
ターニャは深呼吸すると談笑する大隊員達に向かって声をあげる
皆が私語を止め静まり返り、全員の視線がターニャに注がれるのを確認し、最後の訓示を述べる
「今日は203大隊としての最後の酒宴の場となる。大隊編成以来誰一人の戦死者を出さずに、諸君等とこうして大隊送別会を開ける事を私は嬉しく思う」
ノルデン・ダキア・ラインと連戦に連戦を繰り返した203大隊に戦死者を出さなかったのはターニャにとって誇りであり、自慢だ
自分には教育の才能があると思えるほどに
あぁ……そいえば……脱落者は一人だけ居た
ツイーテ・ナイカ・タイヤネン准尉が我が大隊唯一の損害となる訳か……
ふむ……今でも考えると心中複雑な気分だ
まぁ、タイヤネン准尉も傷痍退役したとはいえ元部下だ。彼にも手紙と適当な粗品でも送ろうかと考えながらも部下達への訓示を続ける
「だが、これは終わりではない!何故なら帝国に終わりはないからだ!
(あの時も帝国は永遠だの、自分達は帝国と共にあるだの良くもまぁ言ったものだ)
以前大隊編成完了時に忌々しいエレニウム九五式の余韻に汚され口走った事を思い出しながら大隊員達を鼓舞する
「「「「はっ!!!」」」」
そんなターニャの訓示に大隊員達は踵を揃え姿勢を正した敬礼をし力強く答える。こんな狂信的愛国者の様な訓示にも律儀に答えてくれる部下達にターニャは内心苦笑いしつつも有り難いものだと思う
「結構!諸君等のより一層の活躍に期待する。ではお堅い話はやめて乾杯をしよう」
今回はあくまでも祝いの席なのでお堅いのはこれまでにするか、と乾杯をしようとするが……
隊員達を見渡すと皆が皆
(まったく……こいつらは……早く飲みたいのは分かるが……、流石にあからさまに過ぎる…)
ターニャは部下達の正直さに内心呆れつつ咎めようかと悩む、そして悩んだ末に、お堅い話は終わりと言った手前余り強く言えんか、と軽くやんわりと注意する
「諸君、帝国軍人はそんなあからさまに欲しがるものでないぞ」
今後注意しろと暗に言い、気を取り直して乾杯の準備をする。部下達に各自好きな飲物を取るよう促し
ターニャもセレブリャコーフ中尉から葡萄ジュースが注がれたワイングラスを受け取り、大隊員全員に飲物が回ったのを確認しする
「皆飲物は回ったな?では……
「「「乾杯!!!」」」
一気に葡萄ジュースを飲み干す
少し勿体ない気もするが……祝いの席だ、たまには贅沢もいいだろう
周りではヴァイスやグランツといった士官達も楽しそうに飲み食いに励んでいる。そんな士官達を見てふと隣にいるセレブリャコーフ中尉を見ると、彼女に似合わず余り食が進んでおらず、酒も少量しか飲んでいないようだ
(私が居ては飲みづらいか……)
飲み会や祝賀会で直属の上司が居てはリラックス出来ないのはターニャも身をもって知っている為、ターニャはセレブリャコーフ中尉に少し外の空気を吸ってくると言い
扉の方へ歩きだす
しかし何処までも律儀な副官は「でしたらお供に…」と後を追って来ようとする
そんな実直な副官につい笑みを浮かべてしまう
「フフ…セレブリャコーフ中尉、貴官の心遣いは嬉しいが供の必要はない。それに貴官も飲み食いしたいだろう。
「よ…よいのですか!?」
眼を輝かせ嬉しそうに聞いてくる副官の顔ときたら…
先程"あからさまに欲しがるな"と言ったばかりだというのに
「あぁ、かまわんぞ」
まぁ…今日はこれ以上は何も言うまい、彼女も程度は弁えているだろうしな
「ありがとうございます!少佐‼」
パァと満面の笑みを浮かべ、ピシッと敬礼をして駆け足で料理や酒樽の方へ向かう
(きっと彼女はヴァイスやグランツ達に劣らず飲み食いに励むだろうな、今度暇があれば
そんな事を思いながら外に出る
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日が完全に落ちた帝都、帝都の街を街灯が照らしているが、その風景は閑散としたものだ。
昼間はこそ人通りも多少あったのだが、夜になると全くと言って良いほど人通りがなく華が無い
戦前は華やかであった街並みも今は昔、戦前を知るターニャとしても多少寂しくはある
(しかして、砲撃や爆撃で破壊されるよりはよっぽどマシだ)
戦争は悲惨だ、殆ど無益と言っていい
第二次世界大戦後のドイツや大日本帝国を見れば分かる
ナチス・ドイツの街は瓦礫の山なり、大日本帝国は殆どの都市が焼け野原にされた
両国共に爆撃・砲撃の業火に曝され
後には焦土と虚しさしか残らなかった
戦勝国とてアメリカやソビエト連邦などの一部を除けば殆どの参戦国の都市が焼かれ、破壊され国力を大きく落としている
それに比べれば帝国の都市損害率や物的資源のインフレなどはまだマシな方だ
人的資源の損失とて手痛い物だったとはいえ、(内情は扨置く)帝国軍は依然として周辺国に対し一応の軍事的優位を有している。
しかし
再び戦争が起これば戦後ドイツ待ったなし
元交戦国や中立国が挙って帝国を滅ぼさんと参戦するだろう
最悪の場合
帝国が連合諸国に分割統治されるかもしれない
「それだけは避けねば……帝国と心中などする気は更々無いが……」
ターニャは己が生命とキャリアが守られる限り帝国と共にあるつもりだが、敗戦するとなれば身の振り方を考えねばならんだろう
「しかし、それはあくまでも最悪の場合だ。今はこの平和を如何に長く維持するかだな……」
ターニャとしても苦労して積み上げたキャリアを棒に振りたくはないし、優秀な上司であるゼートゥーア閣下の元を去りたくはない
去るにはあまりにも惜しすぎる程優秀な御仁なのだ
「まぁ……とりあえずは明日考えるとしよう」
ゼートゥーア閣下の手配なのだ
明日会う法務局の者も間違いなく有能だろうしな
と納得してターニャは会場に戻る
なんか……
その……
売国機関よりも先に
ヴァイオレット・エヴァーガーデンが出演してしまいました……
どうしよう
レルゲン中佐に同期を作りたかったのと
世界観的にいけるんじゃ?的なノリでつい……
ギルベルトとヴァイオレットの幸せを望む皆さんには本当に申し訳なく想います
れと……売国戦記書いててなんですが
ヨランダ・ロフスキ少佐の口調がムズくて四苦八苦してます(投稿が遅くなった言い訳)納得できる口調を目指して鋭意努力して参ります
今後も多分修正するかと
今後のオリジナル展開について
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構わん、やれ。
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は、早まるな!
-
全て心の中だ。今はそれでいい。