長らく御待たせしたことをお詫び致します
_(._.)
改
▲帝国 帝都ベルン オペラ座本部 廊下
参謀本部で悪鬼達が嘲り笑っていた頃
ターニャは応接室を後にし、ロフスキ少佐にオペラ座館内の説明を受けながら、彼女の部下が集まる部屋に向かっていた
「いや、しかし、オペラ座というだけの事はありました。本物の珈琲に出会えるとは」
部屋に向かう途中でオペラ座の酒保を見かけ、ロフスキ少佐に一言断り覗いたのだが
そこになんと今や貴重と成り果ている珈琲豆が此所オペラ座の酒保に売っていたのだ
開戦劈頭、中立を唄う
それは戦争が終結した現在でも変わらず、物流事情が改善してきても嗜好品の輸入はどうしても後回しになってしまっている
「デグレチャフ少佐も珈琲がお好きなのですね
では今回の件が片付いたら懇親会でも開きましょう。ブルジラ産*1の良い豆があるのです。セレブリャコーフ中尉もどうかしら?」
珈琲豆を手に入れ、上機嫌なターニャをロフスキ少佐は微笑ましい気に見ながら、どうです?と誘ってもらえれば答えは決まっている
「それは!是非ともご相伴にあずからさせてもらいます」
「わ、私も良いのですか!?」
「えぇ勿論ですよ」
傍から見れば年相応な幼女と少女が好物の話を前に眼を輝かせている様にしか見えないだろう
あぁ珈琲、なんと甘美な響きだろうか
帝国では
ターニャはそれよりも珈琲を渇望してやまない
珈琲至上主義万歳!!
珈琲のカフェインこそ文明に光をもたらす成分であり、誰もが熱望する物であると確信し得る
振り返り、一瞥すれば
セレブリャコーフ中尉もニコニコ顔
彼女にしても本物の珈琲の魅力には抗えんのだろう
これは嫌でもやる気が出るというもの
「とっておきの物を用意しておきましょう」
「今から楽しみでなりません。有意義な時間になるに違いありますまい」
ターニャの嘘偽り無い心からの言葉だ
「えぇ、そこで互いの親交を更に深められればと思いますわ」
ロフスキ少佐もにこりと微笑み顔で機嫌がいい様子だ
酒保からしばらく歩いた所で目的の部屋に着いたらしく、扉を開き、入室するロフスキ少佐に続きながら気を引き締める
(さて、今は逸楽事は忘れ目の前の事に集中するとしよう)
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▲帝国 帝都ベルン オペラ座本部 法務課長執務室
執務室に入ると先ほどの准士官……
(確かリーナ・マートン准尉だったか)と3人の男性軍人が立っていた
ロフスキ少佐とターニャ・セレブリャコーフ中尉に気が付くと4人は姿勢を正し敬礼する
適当な位置で止まり、答礼するとロフスキ少佐が大尉の階級章を着けた男性に声を掛ける
「大尉。デイブとベルナルディーノの姿が見えませんが?」
「はっ。デイブは例の件の仕込みを、ベルナルディーノは銃火器の搬入を行っております。どちらも重要案件ですのでそちらを優先するよう私が伝えました」
どうやらまだ部下が何人かいるらしいが留守だった様だ
「そうですか。被ってしまったなら仕方ありませんね。とりあえずは今いるメンバーで始めましょ。さて、愛する我が戦友達、良く集まってくれました。参謀本部からお客人よ」
そう言うと眼で'紹介を'と促してくれたので
それに甘え、自己紹介を適当に行わさせて貰う
「今日より貴官等と協同任務にあたる事になった。参謀本部のターニャ・フォン・デグレチャフ少佐だ」
「同じく参謀本部のヴィクトーリヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフ中尉です!よろしくお願いします!」
挨拶を済ませつつ
ロフスキ少佐の部下達を一瞥する
(階級は皆尉官級……。准尉級が1人、中尉級2が人、大尉級が1人か)
悲観的に過ぎるかもしれないが、帝国軍には技量ある完全充足の突撃歩兵部隊など既に尽きていたと思っていたのだが、帝国も案外広い
一人心中で納得していると、今度は
「ロベルト・ナイマーク大尉、
マイナーク大尉、彼がロフスキ少佐の次席指揮官か。背が高く精悍な顔立ちでとても鋭い眼をしている
いかにもベテランといった雰囲気の軍人だ
だが……余りお堅くてもやりにくいだろう、少し場を和ませてやろうか
「大尉、それと他の者もだが、あまり畏まらないでくれたまえ。銀翼突撃章を受勲しているとはいえ、見た目で分かる通り子供でね。何かイタズラをしないよう監視するくらいの気構えでいてくれた方が丁度いいだろう」
ターニャのちょっとした冗談にマイナーク大尉は、「フッハハハ、これは一本とられましたな。銀翼突撃章持ちを監視とは」と笑ってくれた
「ロベルトは私の不在時に指揮を任せています。私が留守の時は彼へ」
「えぇ。その時はそうさせてもらいましょう」
(ファーストコンタクトとしてはまずまずといったところか)
これがヴァイスや203大隊の将校連なら全員苦笑いをしてたに違いない
その証拠に隣のヴィーシャが「あ、あははは……」と苦笑い
どうも私が年齢ネタで冗談をいうとイマイチ受けが悪い、受ける時は受けるのだが……
まぁ、ロフスキ少佐や他の隊員達には受けているので良しとしようか
次は中尉連中の紹介だな
眼を向ければどちらも20代後半か30代前半に見える容姿をした中尉連が心得顔だ
軍服に赤十字腕章を着け、爽やかな笑顔を此方に向けて自己紹介をしてくれるのは衛生兵だろう
「いやはや、正直安心しました。航空魔導師はプライドが高い者が多いと聞いてましたから。おっと私はジャコモ・ロッティ退役軍医中尉、退役軍医の身ではありますが、ロフスキ少佐殿の嘱託で今はオペラ座の法医学医と軍医を兼任、あとは捕虜の尋問なども請け負ってます」
法医学医と軍医は分かるが捕虜の尋問まで手掛けるとは恐れ入る。医学に携わる者が口頭で問いただすだけで終わるはずもないだろうに
捕虜に対する虐待・殺傷行為は戦時国際法にて禁じられており、帝国軍は周辺諸国に比べ戦時国際法を遵守する軍隊なのだ
しかしながら此処は軍法を知り尽くした特務部隊の総本山、軍法の抜け穴を潜ってあの手この手で情報を引き出しているのだろう
ターニャにすれば違法は絶対に許せないし、関わりたくないがグレーゾーンとなれば別だ
黒は違法だが、グレーは法的には白だ
法的制限が無いとなれば尋問でも拷問でも喜んでやってやる
「他の魔導師は知らんが、少なくとも私や副官はプライドに拘ったりはしないさ。プライドで生き残れる程戦争も優しくなかったからのでね」
「違いありません。あぁ、それと……お二方の
「ん?そうなのか。では副官共々よろしく頼むよ。今日では何があるか分からんからな、頑丈さには自信があるが、もしかしたら世話になる事があるかもしれん」
「その時はよろしくお願いしますね!ロッティ中尉!」
法務局では不安がっていたセレブリャコーフ中尉も普段の調子に戻りつつある、アットホームな部隊なのが効いたのだろうか
しかし、参謀本部では上が気を使ってくれて女性軍医だったが、これから彼に診療して貰う事になるのだな
普段から病に掛からぬよう気をつけているとはいえ、何かあった際は厄介になるのだから
関係は良好にしておきたい
「男性軍医で言いにくい事もあるかも知れませんが、信頼の置ける軍医です安心して下さいね。それに私も相談に乗りますわ」
(また気を使われた……有り難いが複雑な気分だ)
安心させるように語り描けてくるロフスキ少佐にターニャは笑みを返しながら心中で以前参謀本部でウーガ大尉に気を使われた事を思い起こし項垂れてしまう
そんなターニャを他所にもう一人の紹介が始まる
「御一緒できて光栄であります!ジェイコブ・バタロン中尉、第4中隊の中隊長をロフスキ少佐殿より拝命しております。用があれば遠慮なく言って下さい。白銀殿に使われたとなればいい自慢話になりますから」
冗談めかしながらそういう彼の雰囲気は何処か203大隊のグランツ中尉と同じ物を感じる
何処かお調子者というか、ムードメーカーというのか
「大変結構、言質は取ったぞ?ジェイコブ中尉。用がある時は死なない程度にこき使ってやるとも。その時は健闘したまえよ?」
「程々にご容赦を願えればと……」と笑うジェイコブ中尉に周りもつられ笑みがこぼれる
「その時はジョイコブ中尉をよろしく頼みますわ。デクレチャフ少佐。オペラ座の為にも健闘をね。ジェイコブ中尉?」
「両少佐殿の思いやりで涙が出そうであります」
ロフスキ少佐も笑みを浮かべながらターニャに語らうとジョイコブ中尉はわざとらしく項垂れて見せると再び大きく笑いが起きる
さて、最後はマートン准尉の紹介だ
「最後は私ですね。法務局で先ほども言いましたが一応紹介を、リーナ・マートン准尉。ロフスキ少佐殿の副官を務めてます。改めて宜しくお願いします」
先ほど法務局で軽く紹介を済ませた為か
此処での紹介は簡易的に済ませるらしい
「あぁ、こちらこそ改めて宜しく頼む。副官のヴィーシャとも上手くやってくれると助かる」
ガサツそうな彼女だが、謙虚な所もあるし、人当たりも悪く無さそうだ
これならヴィーシャとも上手くやってくれるだろう
全員の紹介が終わった訳だが、ロフスキ少佐は部下を良く育てている
砲弾飛び交う地獄のライン塹壕戦を戦い抜いた歴戦の猛者。
実力も折り紙付きだ。それに加えゼートゥーア閣下配下の部隊という事は補給・装備面なども充実している事だろう
事実酒保の品目がバラエティーに富んでいたし、203魔導大隊の時もゼートゥーア閣下の配慮で他部隊に比べそれなりの補給を受けていたからな
「さて、皆の紹介が終わった所で早速仕事の話をしましょう。ジェイコブとジャコモは通常勤務に、ロベルトはベルナルディーノの補佐に就いてちょうだい」
「「「はっ!」」」
「リーナは
「はっ」
敬礼し、退出する三人と棚から何かを取り出すマートン准尉を尻目にロフスキ少佐が「どうぞお座りを」とソファーに座る様に促してくるので、ターニャはそれに甘えソファーに腰を落ち着け早速とばかりに本題をぶつける
「では、僭越ながら計画を伺っても?」
「勿論ですよ。そちらが計画書です。ご存知であると思いますが、それは外秘書類ですのでオペラ座館内からの持ち出しはご遠慮を」
無論ですよと頷き、マートン准尉から計画書を受け取るとターニャ・セレブリャコーフの二人は書いてある内容に目を通す
(これは……何ともそそられる内容だ)
作戦計画を簡潔に言えば、偽情報で誘い出した無能共を殲滅、それに引き続き帝国軍の不穏・反乱分子の粛軍を敢行。可及的速やかに帝国軍の安定化を図るというものだ
計画内容はターニャをして歓喜させるに足るものであった
(無能と裏切り者を一撃の下に丸々撃滅できるなど、正に一石二鳥だ。…いや安定化を図れるのだから一石三鳥か?
いずれにしても喜ばしい事には変わりはないか)
「なるほど、これはとてもワクワクする計画でありますな」
思った事をそのままに年相応な無邪気な笑顔でロフスキ少佐に問いかけれると
ロフスキ少佐はソファーに座りながら申し訳なさげに答える
「誉れある銀翼突撃章の相手が知性の無い動物共だなんて忍びなく思いますが……」
そんな彼女にターニャは何の気なしと軽口を言って微笑み返す
「いえいえ、お気になさらず、我々も害獣狩りには一家言ありましてね、私や副官含め203魔導大隊連の多くがアレーヌ市街戦で共和国製の動物共を散々撃ったものですよ」
大戦末期に後方占領地"アレーヌ"で起こった
この非常事態に帝国参謀本部は
《市街戦における戦時国際法の再解釈と火災旋風による敵兵力殲滅》計画呼称[悪魔の計画書]を採択
斯くして悪魔の計画書は実行に移される
以下概要
Ⅰ :アレーヌ市内に残る帝国臣民への退去勧告
Ⅱ :共和国魔導師を排除、または敵魔導師の敵後方区画への足止め
Ⅲ :アレーヌ市に立て籠る共和国軍に対する降伏勧告
Ⅳ :降伏勧告に応じた場合は作戦終了、降伏勧告を拒否した場合は野戦砲並び大型重爆撃機による砲爆撃を開始
Ⅴ :敵戦力の殲滅に成功した場合は作戦終了、敵戦力が後退・脱出を図った場合は敵魔導師に注意しつつ砲爆撃を続行敵戦力の撃滅を図る
Ⅵ :速やかな鉄道網の復旧・前線への兵站物質の輸送
以上
悪魔の計画書より
この一連の帝国軍の対応を巡っては終戦を迎えて尚、帝国を除く主要交戦国・中立国問わずに法的議論が続いている
「アレーヌ……フフ、お互い動物共には苦労させられますね。今回の動物狩り、期待しても?」
ロフスキ少佐はアレーヌ市での出来事を思考したのか表情が一瞬思案顔になるが、直ぐに愉しげな表情へと変わる
「言葉では何とでも、結果でそれを示せれば……と」
「これだから塹壕貴族は素敵ね、では細かい所を詰めていきましょ」
その後テーブルに首相官邸の見取り図を引き、配置や敵戦力の予想等の説明をロフスキ少佐から受け、それにターニャが質問や代案などを提示する検討会が行われた
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▲同日─午後/帝国・イルドア国境山岳鉄道
イルドア王国国境付近
帝国より南方にある主権国家
周辺諸国の中では帝国との関係が比較的良好な国家でありながらも連合王国や連邦にも顔が効き、帝国と共和国(連合王国)・協商連合の和平交渉の仲介を主導したのもイルドア王国である
そして数日後行われる条約調印式に出席するイルドア代表団の護衛の為レルゲン中佐は山岳鉄道にてイルドアへ向かっていた
「……ふぅ」
レルゲンはゆっくりと息を吐き目元を押さえる
(少し疲れたな……、いかん…大事はこれからだというのに)
帝都よりイルドア王国へ移動する間も休まず山積する書類仕事を処理し終わった所で何か飲み物を取りに行こうと考えていると
「お疲れだな。レルゲン中佐」
声の方に顔を上げると頼もしき我が戦友のギルベルト・ブーゲンビリア少佐がおり、手に持った珈琲カップをレルゲンに手渡しながら正面の席に座る
「ギルベルト、なに、国家の大事に関わる事となればこれくらいの事は何でもないさ」
珈琲カップを受け取り、感謝を述べてから珈琲を口にする。その味と風味は代用品ではなく紛う方なき本物の珈琲だ
「ならいいのだが……、もうすぐ国境を越える。直にイルドアだ」
外の景色を眺めるギルベルトにつられレルゲンも外に眼を向ける、確かにレルゲンが南方方面軍視察の際に見た灰色の景色とも異なる、色鮮やかで色彩豊かな風景を目の当たりにする
「国境……もうそんな所か」
何秒だろうか、
「まさか、レールの保守管理度合いで、国境を越えたことを実感するとはな……」
心底といった感じでギルベルトに同意を示しつつも、方面軍にも言い分はあると苦笑い交じりにそれに応じる
「
戦前の想定では各方面軍は徹底した遅滞戦闘を行い、大陸軍の到来を待ち、合流し次第全面攻勢に出るというものであった
しかし、帝国は開戦以来、西方の共和国軍、北方の協商連合軍との二正面作戦を余儀無くされ、戦力の分散という事態に苦悩していた
その解決の為、参謀本部は南方・東方に展開する方面軍から可能な限りの部隊の引き抜きを行い、西方のライン戦線やノルデン戦線への再配置を行う事を検討、実行した
特に南方はイルドア王国との外交的関係や国境沿いが山岳部である為比較的防衛が容易な点などで資金や人材を引き抜かれた経歴がある
「今はようやく航空基地を拡張している所だった。イルドアは平和の仲介者だ。あまり刺激したくないというのもゼートゥーア・ルーデルドルフ両閣下のお考えなのだろう」
敵は少ない方がいいに決まっている
イルドア王国とは多少の
「国家には永遠の敵もなく、また永遠の友もなし…か」
ポツリとギルベルトが呟いた言葉にレルゲンは……
「しかして、友の真似事くらいはやれねばならんだろうよ」
それは平和へ進む為の義務
はたまた国家への献身
「国家がそれを望むなら軍人には是非もなしか」
「しかり、しかりだな」
眼を閉じて考え込む彼はしばらくして己の中で答えが出たのか眼を開く
そして……
「ありがとう。君という友人を持てて本当に良かったと思う」
そう微笑み描けてくる戦友にレルゲンも頬をかきながら胸の内を正直に伝える
「あらたまって言われると照れくさくもあるな。これは」
「さて、そろそろいい時間だ。イルドアにつく前に食堂車で何かご馳走しよう」
そういえばとレルゲンは自分が朝食しか取ってない事に遅まきながら思い出す
「すまないが御相伴に預かるとさせてもらおう」
ご意見、ご感想、評価、誤字脱字報告、酷評(控え目)などを心よりお待ちしております
(^_^ゞ
今後のオリジナル展開について
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構わん、やれ。
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は、早まるな!
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全て心の中だ。今はそれでいい。