鬼滅世界に喰種を突っ込んだお話(一発ネタ)   作:こしあんあんこ

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 いつかの少年は刀を携え、大きく身体をうねらせた。俺には見えない何かを巻き取っているようだった。何かがのしかかり、少年は苦しげに表情を歪ませる。刀を振る歩みも少しずつ重くなっていく、なれど、確実に鬼の方へと向かっていた。目を閉ざした鬼は少年に対して焦りの表情を見せ始める。手をかざして何かしているが、少年はもう目の前だった。刀が薙ぎ払われた。同時に鬼の首が飛ぶ、身に着けていた数珠が四方へ散らばり、切られた衝撃で片方の目が飛び出した。首から下の身体は力なく崩れ落ち、首も重力に従って地面に転がり落ちる。動かぬ首は喋り出す。

 

「くっ!おのれ!おのれおのれェ!お前の首さえ持ち帰ればっ!あのお方に認めていただけたのに……っ!」

 

 零れだした言葉は痛恨と憎悪に練り固められた呪詛だった。向けられている相手はただ一人、少年はそれに立ち向かわんとばかりに疲弊した身体を起こして刃を鬼に向けていた。

 

 あの方、と首だけの鬼は口にしていたが、誰のことかは分からない。分からないが、鬼たちにとって頭の上がらない相手であるのは確かだった。

 

「許さぬ!許さぬ許さぬ許さぬ!汚い土にわしの顔を付けおって!お前も……道連れじゃあッ!!」

 

 頭部のなき体は動き出し、鬼の手が少年へと向けられた。手の中の目が瞬けば少年は左へと動き始めた。少年の意志で動いていないのは明らかで、右へ左へ、上から下へ結構な速度で動き出す。壁へ空中へと打ち付けるように引っ張られている。ぶつかる衝撃を緩和させるため、少年はぶつかる前に刀を振り下ろしていた。

 

「まだまだ足りぬ、もっと、もっと苦しめ……ッ!!」

 

 まだ足りぬ、そう口にする鬼が恐らく、少年の身に降りかかっている力の正体なのだろう。術か何かの力を加えるために少年に集中しているようだ。俺の接近にすら気付かなかった。近付けば半分ほど顔が消えかかっている。勿体無い、飢えに襲われていた。俺は(おもむろ)に首を持ち上げて喰らった。何をする、言いかけた鬼の言葉は続かない。俺の口内に声量は消えていった。腹に収めてみるも腹の中で消えたのかもしれない。満腹感があるような、無いような不思議な感覚に首を傾げた。喉に通したことで食べた気になっているのかもしれないな、ぼんやりと思いつく原因を考えた。ドン、と不意に何かが落ちる音が何処かで聞こえてきた。音の聞こえたおおよその場所へと向かう。少年が息を荒くさせながら、仰向けになって倒れていた。

 

「かはっ!はぁ……はァっ!!」

 

 力なく倒れ込み、刀を手放している。こちらを見る余裕もないようだ。ところどころから擦り傷があるようで、血と汗の匂いが香ってくる。まるで極上のご馳走が無抵抗に皿の上で動かず待っているようにすら思えた。想像して、眉をひそめる。美味しそう、だが死んでない、少年は生きている。会話した相手を食べるのは、目覚めが悪いものだと知っていた。

 

 旨そうだ、だが死んでない。脂も乗っているだろう。泥まみれだ、絶対不味い。喰うな。食べたい食べたい、……食べるな。舌に乗せたら、喰うな喰うな。舐めるだけでも、駄目だ駄目だ。食べるな喰うな。食べるな、延々とそればかり考える。指を噛み千切る。ブチブチと、筋肉繊維が切れる音と、ゴキリと骨の砕ける音が、鼓膜に響く。指が手から離れた、鉄の味を飲み込んで食べる。多少マシになって冷静さを取り戻す。少し経てば指は生えて回復した。

 

 少年は未だ、息を荒げていた。しばらくすれば落ち着いたようで、少年は起き上がろうと試みる。うつぶせの状態で芋虫のように動き始めた。刀に手を伸ばしても、握れないようだったから拾い上げる。突然の出来事に、戸惑ったという様子で少年が持ち上げた人物をようやく認めた。俺の視線とかち合った。

 

「久しいな少年、また会ったな」

 

「あなたは……、 藤襲山(ふじかさねやま)で会った……?」

 

 少年の顔は驚いた様子で此方を見ている。何を驚いているのだろうか、疑問に思っていると藤の花は苦手じゃないのかと聞かれた。鬼は苦手だと言う花、そういえばいつか少年が話をしていた。頭を振って否定する。

 

「似たようなモノだと言っただろう、花は花だ。……人間でもないがな」

 

 それで、起き上がれるか、俺の問いに少年は力なく笑う。困ったなと言わんばかりの表情を俺に見せる。まるで人に相談でもするような様子で。鼻が利くのなら俺が何を食べてきたのか、……分かっているだろうに。少年は妹の安否を心配して、妹がいる場所へと動き出す。立ち上がれないようだ。伏せた状態で手足を前後させていた。遅い、無理やり少年を起こすことにした。

 

「わっ!ちょっ……!!」

 

 少年は抗議の声を上げていたが無視して手を引っ張り上げて、その手を俺の肩に回す。

 

「遅い、妹の場所に急ぎたいんだろう?」

 

 行くぞ、俺は少年に肩を貸す。ありがとう、ポツリと、小さな声が辺りに響いた。

 

 少年の足は折れていた。疲労によるものか衝撃によるものなのか、定かでないが、足を庇いながら移動するのは時間が掛かった。近付くにつれて衝撃と騒音に襲われる。何かが壊れた音がした。屋敷の角を曲がる、音の原因へと行き着いた。何かの匂いが鼻をかすめる。嗅いでみれば、何かしらの影響が出るような類の匂いであるように思えた。着物の袖を引き千切り、鼻も塞げと少年に押し付けた。俺自身も布で鼻を覆う、改めて前方を見る。

 

 視界に映ったのは鬼だった。鬼が4匹、そこにいる。左方に3匹、右方に1匹相対していた。乱れた髪を垂らした女鬼は口を開く。

 

「一つだけお聞かせください。あなたは鬼舞辻(きぶつじ)の正体をご存じなのですか?」

 

「はっ……!?何を言う貴様!」

 

鬼舞辻、初めて聞く名だった。その名を聞いた時、面を突き合せた鬼は動揺を隠せないようだった。何故かは知らない、だがそこには確かに恐れが見えていた。

 

「あの男はただの臆病者です。いつも何かに怯えている」

 

 一歩ずつ、後ずさる。追い詰められているのは明らかだった。

 

「やめろ……っ、貴様!やめろッ!!」

 

 そんな弱い言葉ではやめることはないだろう、言葉の応酬が更に増した。

 

「鬼が群れる事ができない理由を知っていますか?鬼が共喰いする理由を?鬼が束になって自分を襲ってくるのを防ぐためです。そのように操作されているのです……」

 

 あなた方は、(あわ)れむような表情が、言葉が、突き刺さる。そして、とうとう、決壊した。

 

「黙れェ…黙れ黙れ!!あのお方はそんな小物ではない!」

 

 我慢ならないというように、怒りに頭を振っている。そして、今も香っているこれは何だ。先程から問いかける女鬼から匂いが出ている。徐々に匂いは色濃く、強く香り始めた。

 

「あのお方の力は凄まじいのじゃ!誰よりも強い!鬼舞辻(きぶつじ)様は!」

 

 鬼は胸を張るように、あの方なる人物の誹謗を否定する。その名前を口にすれば、持っていた(まり)を、落とした。呆然とした表情で。無意識に言った言葉を思い出し、口を塞ぐ。表情はみるみる内に青白くさせていった。

 

「……その名を、口にしましたね。呪いが発動する……、可哀想ですが、さようなら」

 

腕が6本生えた鬼が何かに動揺し始めた。そして別れの言葉を聞くや否やその場から逃げ出すように走り出す。絶叫が周囲に轟いた。

 

「あぁぁァァああああアアあああアあああ!お許しください、お許しください!!お願いです!どうかっ!どうか許してェ……!!ぁぁ……ッ、」

 

 まるで命乞いのようだ、いや実際そうだった。恥も何もかなぐり捨てて、逃げている。全てを投げ出して。少しずつ死体のような白い肌が黒ずんで、とうとう最後に持っていた鞠を落とす。鞠は俺たちの足元まで転がってきた。

 

 鬼を見れば何かを耐えるように腹を抱えだしたが耐えきれず手放した。くびれた腹の質量が増えて動き出す、暴れ回って飛び出したのは腕だった。腹から2本、口から1本。引きちぎるように現れた腕。口から生えた腕が意思を持ったように動き出して、鬼の頭を鷲掴む。鬼は恐怖で目を見開き、硬直した。それが最期だった。腕の手は頭を握り締めて頭が粉砕された。頭のザクロが飛び散り、目玉が飛び出した。腹の腕も動き出し、あちこちを粉砕し始めた。まるで跡も残すことも許さないように、いつまでもいつまでも。俺たちはその光景を見るばかりだった。

 

 最後に残ったのは目玉と腕だった。身に着けていた服は血に塗れ、中身は無くなった。まだ生きているようで腕がピクピクと動いている。しゃがみこんだ女鬼は目玉をじっと見ている。ようやく動けるようになった少年は刀を杖代わりにしながら、問いかけた。

 

「死んでしまったんですか……?」

 

 間もなく死にます、静かな凛とした言葉が返される。

 

「これが呪いです。体内に残留する鬼舞辻の細胞に肉体が破壊されること……基本的に鬼同士の戦いは不毛です。意味がない。致命傷を与えることはできませんから。陽光と鬼殺の剣士の刀以外は……ただ鬼舞辻は鬼の細胞を破壊できるようです」

 

 宿命なのだと、諦めたような、悲しむような言葉が耳に残る。悔しげに眉をひそめていた表情を打ち消した。この時、少年の名を初めて耳にした。

 

「炭治郎さん。この方は十二鬼月ではありません。十二鬼月は眼球に数字が刻まれていますがこの方にはない。おそらくもう一方も十二鬼月ではないでしょう」

 

 弱すぎる、その言葉に少年は愕然としていた。信じられないといった表情を隠さずに。鬼の男は珠世様が仰るのだから間違いないと頷いた。この血が治療薬を作るための手掛かりになるとよいのですが…、珠世様と呼ばれた女鬼は注射器を取り出して残った腕の脈に突き刺して採血をした。注射器の透明な筒は血で溜まり、十分な量を取ったのか箱の中にその注射器を入れた。立ち上がる。

 

「私は禰豆子さんを診ます。薬を使った上に術を吸わせてしまったので…ごめんなさいね。そこの般若の面を被っているあなたも、おいでなさい」

 

 間もなく夜が明ける、そう言ってその場を後にした。俺もそれに従うことにする。現状、混乱させないためにはこれがいいだろうと判断した結果だった。

 

「少年、もう少し休んだら来い。先に行く」

 

 そう言い残して俺は先ほど四散した腕の一部を拾い上げて歩き出す。まり、ま……り、あの鬼はまだ生きていて、言葉を発しているようだ。その手を喰らえば、不味い腕がますます不味くなった気がした。

 




消えかかってる鬼はいかにして食べるか、考えてみたけど思いつかない。
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