「プリキュア版深夜の文字書き1時間一本勝負」に参加した作品を文字数の関係でまとめて投稿しています。

◆秋のため息、その理由
(第66回・ドキドキ!プリキュア・相田マナ・円亜久里・レジーナ(プリキュア)・2016年10月15日、Pixivさまにて初公開)
 秋の日、響くため息の音
 その理由は思いもよらなかったことで…

◆みらいをおもうと…
(第68回・魔法つかいプリキュア!・十六夜リコ・2016年10月29日、Pixivさまにて初公開)
 やっと落ち着いた日
 気づく、この先のこと
 みらいのことをおもうと胸が痛くて…

◆切り替えが早いと言うことは
(第69回・魔法つかいプリキュア!・朝日奈みらい・十六夜リコ・2016年11月5日、Pixivさまにて初公開)
 頭がいいと切り替えも早い
 でも、それがいいことばかりならいいけれど…
 早すぎると少し心配になって…

◆私の、大切なタカラモノ
(第71回・ドキドキ!プリキュア・四葉ありす・2016年11月19日、Pixivさまにて初公開)
 ひとつのことを考えすぎて、
 そんな様子を見てやさしく言葉をかけてくれて、
 そして、優しく手を握りしめてくれる仲間たち
 これこそが、本当に、大切な、タカラモノ

◆恋の味
(第72回・ハピネスチャージプリキュア!・氷川いおな・2016年11月26日、Pixivさまにて初公開)
 恋の病の患者が数名
 それを遠巻きに見ているけど
 実は興味があって…

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「プリキュア版深夜の文字書き1時間一本勝負」参加作品(5)

◆秋のため息、その理由

 

 また、ため息ひとつ。

 お店の中に響き渡る。

「困りましたわ…」

 またひとつ、ため息。

 そのため息で、目の前のケーキが溶けちゃいそうだけど…

 遠くの席から声をかけることもできずに見守るだけのあたしたち。

 悩み多き年頃…あたしたちもつい5年くらいまえのことだけど。

「なに暗い顔してんのよ?」

 その、ちょっとよどんだ空気を薙ぎ払うかのようなレジーナの声。

 あたしたちはその声がした入口を見る。

 腰に手を当てていつもの自信に満ちた表情。ツカツカと亜久里ちゃんの元へと歩み寄る。

「そんな顔しているとパパが本気で心配するわよ。あなたのおばあちゃんも。どうしたっていうの?」

 その、多少能天気な声に亜久里ちゃんはもう一度ため息をつくと、

「貴女に言ったところでどうにもならないですわ…」

 はぁっ…ため息が響き渡るお店の中。

 最初からオロオロ、それがもっとオロオロになったそばにいるエルちゃん。ちょっと気の毒なくらい。

 レジーナは少しムッとした顔をしていたけど、ふいに亜久里ちゃんのことを一瞥すると、

「ふ~ん、なるほどねぇ~」

 なんて、なんだか意味ありげに呟いた、

 その言葉に亜久里ちゃんの肩がぴくってする。

 エルちゃんは期待がちょっと、心配たくさんの瞳でレジーナを見つめる。

 あたしたちはおもわず息を飲み込む。さすが亜久里ちゃんと一心同体のレジーナ。亜久里ちゃんの悩み、わかったとしたらとても助かる。

「おいしいよね~、この時季は特に」

 レジーナの言葉が放たれる。もう一度、亜久里ちゃんの肩が震える。

「食欲の秋なんて言葉を作った人間のこと、尊敬しちゃうわ」

 その言葉にぎゅっと自分の体を抱く亜久里ちゃん。

 それであたしもわかっちゃった。

 多分、六花も、ありすも、まこぴーも。

「ご飯食べ過ぎた?」

「違いますわ、フルーツですわっ!」

 あっ、しまった…そんな顔になる亜久里ちゃん。

 エルちゃんの顔が少しだけ明るくなる、のも一瞬だけ。すぐに心配な顔になる。

 あたしたちもほっと息をついてしまう。

 でも、悩み事がそんなことだったなんて、ちょっと意外に思う。それに育ち盛りのはずだから心配することないのにって思う。

 あたしだって、亜久里ちゃんくらいの頃はそんなこと全然考えていなかったけど…

 

「この時季は収穫の秋と言うだけあってたくさんの種類の果物が出ますでしょう?」

 うんうん、頷くあたしたち。

 秋はたくさんの果物が八百屋さんに並んで美味しそうにあたしたちを見つめる。

「お茶の世界では季節を感じるのは重要なことと言って果物をよく買ってきてくださるのです」

 その話、あたしも聞いたことある。季節感をお茶席で出すことがいいこと、とか、そのために冷たいお抹茶を点てることもあるって。

「果物は太らないと聞いていましたから、美味しくてたくさん食べてしまいました…」

 そう言って少しだけ自分の体を見る亜久里ちゃん。

 でも、そんなことは全然ないと思うけど…あたしたち3人は顔を見合わせる。

 そもそも太ってもいないのに困っている亜久里ちゃん…やせさせるよりは考えを正しい方向に導いたほうが…

 その時、ふいに六花がメガネを手に取る。

 かけたメガネを光らせるとこう宣言する。これは、まさか…

「これは…食育ね!」

「やっぱり!」

 予想した通り、六花は亜久里ちゃんへの食育授業その2をやろうとしていた。

 ありすは無邪気に手を叩いている。

 亜久里ちゃんとエルちゃんはぽかんとしている。

 レジーナは食育についてまこぴーに聞いているみたい。

 当のまこぴーはちょっと頭を抱えちゃっているけど…

「亜久里ちゃんには秋の美味しい果物の正しいとり方を勉強してもらうわ」

 六花先生はもうすっかりやる気満々だった。

 

 ふいに始まったその授業、六花は色々なことを教えてくれたけど、亜久里ちゃんの気持ちを変えるには至らなかったみたい。

 だって、化学式ばっかり並んでいたらちんぷんかんぷんだものね。

 あたしはみんなの様子を見ながら、今度、ちょっとのフルーツで満足できるお菓子、みたいなレシピを探してあげようかな、って思ってた。

 みんなで一緒に作ったらとっても楽しそう、そう思いながら。

 

 

 

◆みらいをおもうと…

 

「はぁ…ただいまぁ…」

「ただいまぁ…」

「ただいまモフ…」

 はーちゃんとみらい、そして、モフルン。寮に響く声は元気がない。

 仕方ないわよね。あんなにいろいろなことがあったんだもの。

 お祭り、クマタ、そして、キュアモフルン…本当に色々とあった。

「もう、シャワー浴びて寝ていい?」

「はーちゃんも…」

「モフルンはおやすみモフ…」

 ふらふらとした動きのみらい、そのままシャワーを浴びに行こうとする。

 その後ろをはーちゃんもふらふらとついていく。

 モフルンはベッドに潜り込んでもう寝そう。

 みらいとはーちゃんはシャワーで寝ないといいけど…ちょっと心配なので私も一緒にシャワーに向かっていった。

 

「すごかったねぇ…」

 シャワーを浴びながらみらいがこの数日起こったことを一言で片付ける。

「すごかった…はー…」

 はーちゃんはそれに応えているのか、自分の感想を述べているのかわからない状態。

「ふたりとも、寝ないでよ? 私が抱えていくことになるんだから…」

 ふたりの髪を洗いながら私はなんとか起こそうとするけど、ふたりの頭がふらふら動いてもう限界かも。

「ほら、もう終わったから着替えて寝なさーい!」

 手早く終わらせると大きな声でふたりを聞かせてなんとか起こす。

「ありがとう、リコ…おやすみ」

「だから、着替えなさいって!」

 裸のままベッドに向かおうとするふたりに着替えるように伝える。

 シャワーから覗くとなんとかふたりとも着替えてベッドに入っていた。

 私は安心して再びシャワーを浴び始める。

 目を閉じて髪を流すと、今回起こったことがいくつもいくつもまぶたの裏に映る。

 その中で一番胸をドキっとさせるのは、みらいがひとりで飛び出してしまったこと。

 あれは本当に驚いた。みらいだったら当然そうするのは当たり前なのに、モフルンのこともあって気が回らなかった。

 いくら探しても見つからないみらい。本当に、本当に心配だった。

 いつまでも見つからなかったらどうしよう、そんなことまで思った。

 だから、見つかった時は本当に安心した。ちょっと怒っちゃった。

 でも、私がどれだけ心配していたか、知って欲しかったから。

 そんなことを思い出しながら、私の胸は別の考えを浮かべていた。

 いつまで私はみらいと一緒に居られるのだろう、ということ。

 みらいはナシマホウ界の人間。

 私は魔法界の人間。

 今はこうして一緒にいることができるけど、いつかは帰らなければいけないと思う。

 友達、という関係も結び続けられるだろうし、時間が合えば逢うこともできる。

 でも、今までのように好きな時に一緒にいることができなくなる。

 ずっと一緒にいたい。

 私にたくさんをくれたみらいと。

 いつまでもずっと一緒に居たい。

 離れるみらいなんて考えられない…考えたくない。

 ぎゅっと胸を抱いて動けなくなっちゃう。

 シャワーが髪をずっと濡らしていく。

 頬を流れる、涙には気づいているけど…

 

 私はきづいてしまった。

 みらいのことが大好きなこと。

 みらいに恋していること。

 私の髪はもうぐっしょりと濡れている。

 私の胸は心配につぶされそう。

 でも、私の頬は想いを証明するかのように熱くなっていた。

 

 

 

◆切り替えが早いと言うことは

 

「みらいはスイッチの切り替えが早い」

 これはよく聞くみらいに対するみんなの評判。

 初めて聞いたときはよく意味がわからなかった。

「みらいはスイッチをつけたり消したりするのが速いってこと?」

 教室の灯りのスイッチを指差しながらたずねる私。

 今考えるととても恥ずかしいことをしちゃったけど、ナシマホウ界に来てすぐのことだから仕方ないって思ってる。

 そのとき笑いながら教えてくれた勝木さん。

 みらいはなにもかも切り替えが速い。

 行動、考え、いろいろなことが。

 落ち込んでいてもすぐに考えを切り替えて元に戻る。

 困ったことがあったら、ちょっと考えて、答えが出なければ行動してみる。

 そういう、みらいの素敵な性格のことを言うんだって。

 言葉の正しい意味を聞いて、この世界の人たちの言葉の作り方は本当に面白いって思った。

 なるほど、みらいは切り替えが速い。

 頭がいいだからだと思う。

 でも、本当にいろいろなことに対してスイッチの切り替えが早いから、

「良すぎて振り回されちゃうこともあるんだけどね」

 まゆみの言葉に私と勝木さんも頷くしかなかった。

 

「宿題たいへんだぁ…」

 開いた教科書に向かって小さくうめくみらい。

 数学の時はいつもこうなっちゃう。

 私は横に座って相談に乗る。

 はーちゃんはもう終わったみたいでモフルンと遊んでいる。

 みらいの疑問に答えて、解法を引き出して、一問解決。

 次の問題に取り掛かるかと思ったら、みらいは手を止めて席を立つ。

「まだ問題残っているわよ?」

 私の言葉に「おかし~」とだけ言ってキッチンへ向かう。

 私が止める間もなく、駆け足で。

「本当にね…」

 私の小さなつぶやきに不思議そうな顔を向けるはーちゃんとモフルン。

 私は何もなかったように手を振ってみらいの宿題を眺めていた。

「スイッチの切り替えが早い…か…」

 壁にある灯りのスイッチを眺めてもう一度つぶやく。

 興味あることには猪突猛進。

 興味がなくなるとふいに他へ行ってしまう。

 それも、スイッチの切り替えが早いからなのか…

 そんなみらいのことを考えると少しだけ寒気がする。

 背中がなんだかピリピリする。

 胸が一度だけ大きく音を立てる。

 そんな自分に驚いて、その原因がわからなくて、私はただ、みらいの帰りを待っていた。少しだけ不安な気持ちを抱えて。

 

 夜、4人で部屋でおしゃべりしていて、その不安の原因が少しだけわかった気がする。

 みらいが「好きなもの」に対しても興味のスイッチの切り替えが早いことに気づいたから。

 どれほど興味を示したものでも、みらいは他に興味があるものが出てくるとそっちにスイッチが切り替わっちゃう。

 それはつまり…魔法界のこと、魔法のこと、そして、私のことでも、興味のスイッチが外れてしまう可能性があるってこと。

 私の胸はドキドキしてくる。このまま、みらいの私に対する興味がなくなったらどうしようって。

 そう考えていたら、途中から、みんなのお話は頭の中に入ってこなかった。

 

「ね、悩み事?」

 その日の夜、みらいは一緒に寝ようって誘ってくれた。

 とても嬉しかったけど、でも、不安はまだ消えない。

 お布団の中、みらいのあたたかさを感じながら、私の心の中はまだ少し冷たかった。

「リコが悩んでたら、私も悲しいよ」

 口をつむんでいた私の態度に、みらいは優しく言葉をかけてくれる。

 でも、当のみらいのことだから口に出せなくて…

「大好きなリコが困っていたら、私、助けてあげたい。私でよければだけど…」

 みらいの言葉は力強くて優しい。

 私の口は動きを止めようとしていたけど、私の心はもう口の動きをとめることはできなかった。

 

 みらいの本当に驚いたような息をのむ声。

 私はみらいを傷つけたんじゃないかと心配になる。

 でも、みらいは小さく笑い声をあげる。

「そんなわけないよ、リコ」

 そんな、やさしい声も聞こえてくる。

「好きなことはすぐに気になっちゃうけど、友達のことは別だよ」

 うすぼんやり、みらいの笑顔。

「大好きなリコならもっともっと別。いつまでも大事な友達だよ。興味なくなるとか全然違う話だよ」

 そうしてみらいは私の頭を撫でてくれる。

 それが少し恥ずかしくて、それでいて、嬉しくて…

 私は大きく頷いて、みらいの言葉をしっかり受け止めると、みらいの優しい手の感触を感じながら…いつの間にか…

 

 その夜の夢は、とても幸せな私たちの夢だった。いつまでも、いつまでも、沢山お話をして、お互いのことをもっと深く知っていく、素敵な夢。

 私は、もっとみらいとお話ししてみよう、そう思った。

 

 

 

◆私の、大切なタカラモノ

 

 タカラモノ…私にとってのタカラモノは…

 

「ロゼッタ!」

「はいっ! ロゼッタリフレクション!」

 私の力で攻撃を受ける直前の皆を守ります。

 私の出した壁を回り込むようにダイヤモンドが、ソードが、そして、ハートとエースが飛び出します。

 私も後を追って皆の援護に回ります。時には攻撃も。

 いつもの私たちの戦い方、そして、勝利の方程式。

 最後に私たちは勝利をつかむことができます。

 そう、いつも、いつも、同じ…

 

「今日もおつかれさま」

 マナちゃんは変身を解きながら笑顔で私たちに向き直ります。

 六花ちゃんも真琴さんも亜久里ちゃんも笑顔になります。

 もちろん、私も。

 でも、私の心にはひっかかるものがあります。

 いつもいつも、私は同じ戦い方になってはいないでしょうか。

 もっともっと、考え方を変えれば、戦い方を変えれば、みんながこれほど苦労しなくて済むのではないでしょうか。

 そんなことが、頭の中をまわります。

 格闘技は得意です。相手と1対1の戦い、動きは手に取るようにわかります。

 でも、大きな敵にみんなで戦うと皆の動きも考えないといけません。

 変なことをしてしまっては皆を危機に陥れる可能性もあります。

 どうしたら、もっと上手に戦うことができるか、頭の中で考え始めます。

 お仕事をしているときと同じ。効率、それを考えて頭の中が回り始めてしまいます。

 みんな笑顔の中で…私が考え事をしているのがわかってしまったのでしょうか。

 肩を優しくたたかれます。

「どうしたの? ありす」

 真琴さんの優しい声。

 少しだけ心配そうな顔。

 これは申し訳ないことをしてしまいました。

「なんでもないですよ」

 私は笑顔を作って真琴さんに向けます。

 でも、真琴さんの少しだけ心配そうな顔は変わりません。

 私は隠せないことを悟って、簡単に真琴さんに説明します。

 どうしたら、私はもっとみんなのためになるか。

 すると、真琴さんは何を言っているのかしら? という顔になります。

 そして、優しく微笑むとこう言ってくれるのです。

「今のままでも十分だと思うわ」

 そう。

「ありすだけ強くなったりしても無理よ? ちぐはぐになっちゃう。みんなで一緒に強くなれたらいいじゃない。ね?」

 その時、私の手を優しく握る手がありました。

 それは、六花ちゃん。笑顔で私を見てくれます。

「そうそう、みんなで一緒に成長しよ?」

 マナちゃんも肩に手を置いてくれます。

「ええ、ありすさんだけではなくわたくしも」

 亜久里ちゃんも手を握ってくれます。

 皆が皆、皆のことを思ってここにいる。

 私たちのとても強い絆、これこそが私たちの力の源。

 そう考えると私の胸はドキドキ震えます。

「ありがとうございます…」

 心にあたたかいものを感じて、さらにドキドキとします。

 そして、私は心に誓うのです。

 皆との友情、それは、大切なタカラモノ、それを守りたい、と…

 

 

 

◆恋の味

 

 甘酸っぱい気持ち、というのがあるらしい。

 恋をするとそういう気持ちを知ることができる。

 そう、読んだ小説に書いてあった。

 クラスの女子もよく言っているのを聞いていた。

 でも、恋をしたことがない私にはそれがよくわからない。

 恋に興味がないわけではないけど…誰かを好きになるような余裕はないから。

 プリキュアとして、私は日々戦う必要があるから。

 それなのに…私の周りには恋の病の患者がいる。

 めぐみ…その視線の先はいつも神さま。

 私たちを見るときとは全く違う視線。

 輝く瞳、ふるえるまつ毛、いつも以上に甘やかな声。

 彼女の心にあふれる気持ちこそが、甘酸っぱい気持ち、なのかもしれない。

 そんな彼女が少しうらやましかったりして。

 

「どうしたの?」

 ふたりを見て小さくため息をつく私に不思議そうな顔をしてみつめるのはひめ。

 私は変なところを見られたと思ってなんでもないって言うけど、ひめのことはごまかせなかったみたい。

「悩み事なら聞くよ?」

 そういうひめも相楽君のことが気になっているのを知っている。

 時々ちらちらと盗み見る様子。背中を何とはなしに見つめているその姿。

 私とゆうこは気づいているけど、めぐみも相楽君も全く気付いていないみたい。

「なんでもないわ」

 私はごまかすように本を広げながら伝える。

「それよりも、早く夏休みの宿題を終わらせないとだめじゃないかしら?」

 私の言葉にひめはそのまま逃げてしまった。

 

 大使館の中、ゆるやかに、時には騒々しく過ぎる時間。

 でも、仲間が近くにいるという安心感は何物にも代えがたい。

 ついこの間までは知ることができなかった気持ち。

 それがとても気持ちよくて、どうしてもここにきてしまう。

 でも、恋愛病患者だらけで少しだけ、こそばゆいというか、心かき乱されるというか、

 よくわからない気持ちに時々はなるけれど。

 

 春のような優しさと夏のような熱っぽさを含んだ瞳でめぐみは神さまを見つめる。

 その手は胸の前で握られて、少しだけ、本当に少しだけ、力が入っているかのよう。

 神さまはそんなめぐみの様子に気づかないみたいで普通にお話してる。

 そんなめぐみはいつも以上にとても可愛く見えてくる。

 恋は人を綺麗にする、とはまさにこのことなんだろうなって思う。

 

 秋の夕暮れのように頬を紅くさせて、そっと階段の踊り場から相楽君を見つめるひめ。

 いつもは絶対に見せないような真面目な視線。

 一挙一投足を逃すまいという、その真剣な姿。

 そのひめも少しだけ呼吸が早くなっているのか、手を置く胸が少しだけ大きく上下している。

 

 ふたりとも、本当に恋しているんだって思うと視線が外せない。

 いつも以上に可愛いふたり。

 ふたりの視線、ふたりの表情、震えている声、そして、手。

 ふたりは胸の中、何を考えて、何を思って…考え始める頭の中、止まらない。

 もう、テキストの中身は頭に入ってこない。

 ただ、ただ、ふたりがとても可愛くて、いろいろなことが頭の中でうず巻いて、もう視線も外せない。

 ふたりをただ、じっと見つめるだけ…

「大丈夫?」

「は、はうっ!!」

 いきなり声をかけられて思わず大きな声を出してしまう。

 4人が私のほうを向く。私はごまかすためにゆうこに大きな声浴びせてしまう。

「い、いきなり話しかけられたら、もう、びっくりするじゃない!」

 それが逆効果で4人はますます私に注目するものだから、クッションで顔を隠してしまう。

 ゆうこもなんでもないよって言いながら私の横に座る。

 クッションを外すともう何事もなかったかのような4人。

 私は真っ赤な顔をしたままゆうこのほうを向く。

「もう、びっくりしたわ…」

 なぜか小さくなってしまう声。

 同じようにちいさな声のゆうこはひそひそと私の耳元でささやく。

「4人とも、青春しているよね」

「え、ええ…」

 盗み見ているのがばれてしまったのか、私はドキっとしてしまう。

 でも、ゆうこは気にせずに話を続ける。

「いおなちゃんは、好きな人はいるの?」

「わっ、わた…」

 思わず大きな声が出そうになってなんとかとどめる。

 胸がドキドキする。いきなりそんなこと言うから。

 好きな人なんて作っている暇はない。私の胸の中にその言葉がふたたび浮かぶ。

 ふたりがあの状態、だから余計に、私がしっかりしないといけない。

 でも、そんなことをゆうこは尋ねてくるということは、もしかして、ゆうこまで…?

 私はそれを危惧して思わず尋ねる。

「そういうゆうこはどうなのよ?」

 するとゆうこは小さく呟いた。

「私は…」

 そのとき、さっと変わるゆうこの瞳の色、声、そして頬。

 全体に熱っぽさを感じさせるゆうこ…その瞳は私をじっと見つめたまま。

 私はそれできづいてしまった。ゆうこは恋をしている。

 そしてその相手は…

 微笑むゆうこ、頬を紅くして、瞳に熱を含めて。

 それを見た私も同じようになっていたかもしれない。

 その時胸の中に生まれた気持ちは、確かに、甘酸っぱい味をしていたから…



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