消毒液のにおいで目が覚めたラウラはベットから起き上がり、
目を擦って自分が保健室に居ることに気付く。
「遅い目覚めだな、眠り姫」
横で一樹がナイフを器用に回しながら林檎を切っていた。
しかも可愛らしく、兎型である。
「……お前は何故強い?」
自分の疑問を口にする。
「……強いて言えば、目指す場所があるから…だな」
目指す場所、それはラウラ自身にもあるものだ、
しかし、ラウラは一樹には遠く及ばなかった。
リクセルは一樹のライバルだ、彼に勝てないなら
一樹に勝てないのも同然だ。
「私にも目標がある、なのに何故……」
「道筋を間違えてるからだ」
いつの間にか膝の上に乗っている本音を猫にするように撫でながら、
一樹は真剣な顔で言う。
「前にも言ったが、お前はお前でしかない
例えクローンだとしても、お前は織斑千冬にはなれないんだ
どんな手段を使おうともな」
一樹は隣に立てることを目指し、ラウラは本人になろうとした。
その違いが、明確な差を作っていたのだ。
「せめて自分の名前を自信持って言えるようになれ」
背中に本音がくっついたまま、一樹は保健室を出て行った。
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「本音…離れて」
「えぇ~、かんちゃんばっかりくっついてずるいよ~
少し位譲ってくれてもいいじゃん」
「相変わらずモテモテだな」
リクセルは呆れた顔で、背中に本音、左脇に簪が抱き付いている
一樹に金を貰って買ったコーラを手渡し、自身もリンゴジュースのタブを開ける。
「結局、あれなんだったのかしら?」
「禍々しさを感じました」
鈴音とリリーが疑問を口にする。
「おそらく、VTシステムでしょう」
「VTシステム?」
「ヴァルキリートレースシステム、大会でヴァルキリーの
称号を取った選手の動きを再現するシステムだよ
でも搭乗者の肉体と精神に大きな負担をかけるから
命にかかわるんだ、だから条約で禁止されてるんだ」
セシリアとシャルルが答えを出す。
「ドイツ軍は、裏で色々やってそうだな」
小さくゲップをして、一樹は窓越しに空を睨み付けた。
「私も…もしかしたら」
リリーは、ラウラが自分の合わせ鏡に見えた。
研究所で生まれた遺伝子操作新生児、デザインチルドレンで
ガーディアンに乗って戦うことしか知らなかった自分。
リクセルとの出会いがあって今の自分があるが、
一歩間違えば自分自身がラウラと同じようになっていたかもしれない。
故に、リリーはラウラを悪く思えなかった。
自販機の前のベンチが重苦しい空気に包まれたその時、
ドドドドドドドドドドドドド!
まるで巨獣の群れが更新しているような音と地響きが近づいてきて、
気が付けば大量の生徒が一樹達を囲んでいた。
「なんだ?!」
「「「桜野君!」」」
「「「フォンブラウン君!」」」
「「「デュノア君!」」」
「「「これ!」」」
三人は差し出された紙に目を通す。
内容は、学年別トーナメントが二対二の方式に変更するものだった。
彼女達は一樹達と組みたくて来たらしい。
「悪いが俺はシャルルと組む」
「私も既に予約済みなのでな」
半分はガックリと項垂れ、もう半分は
まあいいかと言いそうな表情でスゴスゴ引き下がって行った。
一樹がシャルルと組むのは男だとばれることを心配しただけで
リクセルは既にセシリアと組む約束をしており
簪と鈴音は一樹へのリベンジを誓って組んだ。
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迎えた当日、観客席は溢れんばかりの来賓達で埋め尽くされていた。
「こりゃまた大勢来たもんだな…」
「三年生にはスカウト、二年生には一年の成果の確認にそれぞれ人が来ているからね
一年生には特にないだろうけど、粒に目をつける的な部分はあると思うよ?特に今年は…」
「男性操縦者か……」
織斑千冬の弟にブリュンヒルデを上回る実力者と
注目されないわけがない。
最も、一樹にそんなことどうでもいいのだが
あくまで彼の興味はトーナメントの組み合わせのみ。
そして第一試合の組み合わせはこうなっていた。
〔桜野一樹&シャルル・デュノアVS更識簪&凰鈴音〕
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長刀型ブレードを構え、簪は一樹と対峙する。
いつもいつも訓練の時に相手になっているので
一樹の実力は自分自身がよくわかってる。
正直な話、自分はまだまだ敵わないだろう、
だが簪は逃げない、立ち向かうこと、あきらめないこと
それらを一樹から教わったのだから。
「行くよ一樹!」
「来い!」
お互いに真正面からぶつかり、長刀とビームサーベルで切り結ぶ。
その横ではシャルルと鈴音が衝撃砲とライフルと撃ち合いを始めていた。
それを尻目に、簪は一定の距離を保つように長刀を振るい、
隙があるならビーム砲やミサイルを使って攻撃していく。
しかし一樹は持ち前の洞察力と腕前を巧みに駆使して
四方八方から飛んでくる攻撃を難なく回避していく。
(やっぱり強い)
(更にできるようになったな)
その横で激しい弾幕戦を行う鈴音とシャルルは
今度は近接戦に切り替えていた。
「ホントに強いわね!」
「一樹の手前、無様な姿は見せられないから」
シャルルの戦い方は近づかれれば離れ、離れられると近づき
常に一定の距離を保つ[
戦法で、それを可能にするのは瞬時に武器を切り替えることができる
[
剣を振るったかと思えばいきなり銃といったように、いきなり不意を付けるような
攻撃を繰り出すことが可能なのだ。
しかし鈴音も負けてはいない、一樹との訓練で得た洞察力と
身につけた回避行動でシャルルの攻撃を紙一重で躱していく。
そして隙を見つけ衝撃砲とブレードで攻撃を繰り返す。
どちらも一回戦とは到底思えないほど白熱した戦いだ。
しかし……
突然轟音が響き、乱入者が現れるのだった。
「何?!」
数は8、姿はクラス対抗戦の時の無人機に酷似していた。
しかしあの時の機体は頭部と胴部が一体で、ずんぐりとした外見だったのに対し
今度のは首があり、全体的に細くなっている。
武装も右腕でが大型ブレードになっていて、背中に大型のスラスターが付いている。
最初の無人機と比べれば、人間に近い異形の機体になっていた。
「やれやれまたか」
疲れを一切感じさせない一樹の呆れ声が聞こえる。
「空気を読んでよ」
「これからってときなのに」
瞬時に簪と鈴音は背中合わせになり、無人機と対峙する。
その表情に、恐怖は一切なかった。
「ふ、行くぞ!」
ムラマサブラスターを手に、一樹は12機、
使える全てのイグニスを飛ばし、8機すべての
無人機の装甲とブレードを切り裂いていく。
そして絶妙なタイミングでムラマサブラスターを振るい、
難なく4機の無人機を撃破していく。
今回は邪魔になるものが無いため、避難はすぐに済んだのだ。
簪は無人機のパンチを長刀で受け流し、カウンターを当てて
少しづつ装甲をはかしていく。
そしてタイミングを見て鈴音と入れ替わり、
鈴音が衝撃砲を使って確実に仕留めていく。
シャルルはリヴァイブⅡに装備されている多数の武装を駆使して
簪と鈴音の援護に回っている。
残念ながら、シャルルでも一樹の隣に立てる実力は無いのだ。
(悔しいな…)
厳しいけれど、一樹は居場所をくれた。
母が死んでから孤独だった自分に、優しさをくれた。
だから、シャルルは一樹が好きになった。
(必ず追いつくからね、だって……)
シャルルが居たいと思える自分の居場所、
それは一樹の隣に他ならないのだから。
無人機全てが撃破されたのは、そのすぐ後だった。
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今居るのは、アリーナ外のベンチだ。
あれから、騒ぎについては緘口令が敷かれ、戦闘に関わった人間は全員誓約書を書かされた。
書類仕事に慣れている一樹とリクセルは二分と掛からずに書き終え、
二人は部屋に戻って寝ることしたのだが、一樹は眠れないので
アリーナ外の自販機で飲み物を買って喉に流し込んでいた。
「……久しぶりだね、いっくん」
背後から声がするが、一樹は振り向きもしない。
「俺はアンタなんざ知らん」
これ以上は無いほど、一樹の態度は素っ気無い。
「えー、せっかく再開できたのに冷たいなー、束さん傷ついたよ」
「この世界で身内以外にアンタを警戒しない人間がどこに居る?」
「そりゃそうだけど、いっくんは身内じゃん」
そう、一樹に話しかけてきたのは篠ノ之束
世界中から追われる身であるISの生みの親だ。
「あ、もしかして記憶喪失?でも大丈夫だよ
この天才である束さんにかかればそんなの」
「アンタは天才じゃねえよ、笑わせるな」
一樹は笑みを浮かべる、侮蔑しか籠っていない笑みを。
「え?どうゆう……」
言いかけた時、束の視界は回転し、いつの間にか上を向いている。
倒れていると自覚した直後、顔と腹に強烈な痛みが走る。
何故か、簡単だ、[殴られたのだ]。
では誰に、これも簡単、この場には二人しかいないのだから。
倒れて驚愕する束を、一樹は容赦無く頭を踏みつける。
「確かに能力は天才だ、それは素直に認めるし賞賛もする、だがそれだけだ」
冷たい、まるでその場所だけ冬になったような
冷たい空気があたりに満ちる。
「信念が無い、理想が無い、決意も無い、覚悟も無い
そして野望さえも無い、科学者としてあるべきものが一切無い
あるのは一桁年齢の子供みたいな我儘とクソなほどの自己中だけだ
貴様からはそれしか感じられない、驚くほど[何も無い]な」
言い終えた一樹は、束の腹を蹴り飛ばして壁に衝突させる。
「失せろ、貴様の様な技術者としても人間としても
屑同前の存在と話すことなどない」
空き缶を屑籠に見事放り投げ、一樹は部屋に戻って行った。
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一人残った束は倒れたまま、未だに驚愕の表情を浮かべていた。
「天才じゃない」この言葉を真正面から言われたことも、
まともに殴られたことさえも無かったからだ。
流れ出る鼻血を拭うことさえ出来ずにいる。
「……いっくん」
世界でたった四人だけの、束にとって大事な人の一人だった織斑一夏。
しかし、彼は誘拐され、そして行方不明になった。
この世界で調べられないことなど何も無い束の力をもってしても
彼の居場所は全く分からなかった。
守り切れなかった自分を責めた、だから残った三人は必ず守ろうと決めた。
無人機を差し向けたのも、データ収集が目的だったのは事実、
しかし、秋斗に強くなってほしかったからだ。
そんな時に現れた二機の正体不明機、ISコアを持たない
しかしISを上回る性能を持つこの機体は過去のデータが一切存在せず。
だからデータ収集の為に無人機[ゴーレムⅡ]を差し向けたが
あっさり撃破される、しかし束は驚いた。
二機の白い方、アルプスエクエスと呼ばれる機体の搭乗者は
行方不明になった一夏だったからだ。
すぐに束は接触を試みた、せめて酷い目にあわせてしまったことを謝ろうと。
しかし、どう見ても記憶喪失なうえに、敵対を恐れられる自分に
何の躊躇いも容赦もなく鉄拳を叩きこむ、自分が知っている一夏はそこにはいなかった。
「屑同前、か………」
一樹に言われた通り、束には何もなかった。
彼の口から出てきた物の中で、自分にあるものは一切無い。
「は、あはははははは」
弱弱しい笑いが浮かぶ。
これは罰なのだろうか?気に入らないからと世界を好き勝手に
引っ掻き回した自分への。
その問いに答えられる者は、この場に存在しなかった。
誰であろうと容赦無し、でもやりすぎたかな?
ついでですが、リリーとウシャスのデータは
登場人物及び機体データに載せています。