最期に少しだけ
セシリアがビットを操作しつつ、ライフルを放つ。
最初は同時操作など出来なかったが、イグニスのデータから開発した
ビット操作補助用CPUを搭載することによって同時操作を可能にしたのだ。
「腕を上げたな!」
「当然ですわ!」
お互いにライフルを撃ち合いながら、縦に横に円を描くように回る。
相手の後ろを取り合うドックファイトではない。
真正面からぶつかるブルファイト、本来は狙撃手同士の戦い方ではない。
「リクセルさん!何時の間にライフルを変えたんですか?!」
「少しばかり一樹に頼んだのだ」
それまで実弾のライフルで戦ってきたリクセルだが、
今回は赤いビームを放つ、ビームスナイパーライフルを使っていた。
たとえ魔導技術で強化されていても、実弾だけでは今一頼りない。
そこでエクエスに搭載されているビームライフルの構造を教えてもらい、
それを自身の魔導技術を元に再現してみることにした。
まだ、命中精度や威力等はリクセルにとって不満だが、
今はまだ試しの試作型だ、これから改良していけばいい。
ついでに元が実弾ライフルなので、実弾も撃てる。
「でしたら!」
「こい!」
ビットが分離し、最初の試合よりも格段に精度が向上した
弾幕が張られ、それをリクセルは回避し、撃ち落としていく。
しかし……突然ブルーティアーズのレーザーが[曲がった]。
「?!」
「これが特訓の末に手にした、わたくしの新しい力です!」
軌道を精神感応によって曲げ、全方位攻撃を可能とする技術。
<ブルー・ティアーズ>という試験兵器が目指す最終到達目標を、
セシリアは自らの力で成し遂げた。
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それは同じ遠隔操作攻撃端末を使用する一樹に、
ビットを操るコツはないかと聞いた時だった。
「……身体の一部、ですか?」
「そうだ…例えば、自転車などの乗り物は運転できるようになるまでは練習が必要だが、
それが出来るようになれば運転する時に身体の動かし方を意識する必要なんて無いだろう?」
「何となく解ります……そういう意味なら私はまだ教習所も出ていない仮免許も同然と言う事ですわね」
セシリアは苦い表情を浮かべる。
これまでの訓練と経験によってマシになったといえ、
操作中はどうしても無防備になってしまう。
それをどうにかしたくて、一樹に教えを乞うているのだ。
しかし一樹はスターゲイザー、ビット操作に必要な能力の
[並列思考]は手で物を掴むぐらい当たり前にできることだ。
ゆえにどうしても感覚的なイメージになってしまい、
ある程度理論化して教えるということが苦手なのだ。
そこで思いついたのが、非スターゲイザー用に開発された
有線式疑似イグニス、コードイグニスだった。
あれは総合面で従来のイグニスに劣るが、
非スターゲイザーでも使用することができ、
扱いも簡単だとういう利点がある。
記憶の中からそれの設計図を引っ張り出し、
それを元に補助用CPUを組み立てていく。
「まずは専用機を理解し、完璧に使いこなす、それが重要だ
これはその為の近道だと思ってくれ」
完成したCPUをブルーティアーズに取り付けながら、
一樹は子供を諭す親のような表情で言う。
「最後にもう一つ、ヒントは意外と身近なものにあったりするぞ
例えば俺のクラディアートルパックについてるビットには
俺はそれを元に動かし方をイメージしている」
「名前の、意味?」
一樹の言葉を受け、セシリアは自身の専用機、ブルー・ティアーズの名が持つ意味を考える。
(ブルーティアーズ……蒼い、雫…………ッ!)
何かに気付いた様に目を見開いたセシリアは、アリーナのバリアを的代わりに特訓を開始する。
愛する人の隣に立ちたいが為に。
そして、何度かの練習の末
心の中に、一滴の雫が水面に落ち、波紋を作る光景が浮かぶ。
直後、ブルーティアーズから放たれたレーザーが[曲がる]
それはセシリアが、己の愛機を完全に物にした証拠だった。
「お見事」
それを称え、一樹は拍手を送った。
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よってセシリアは見事
もっとも……結局負けてしまったが。
「こうも早く見切られるなんて」
「すまぬ、本気を出した一樹のビットと比べるとな」
倍近い数のイグニスを激しく正確に操って攻撃してくる
一樹に比べればやはり見劣りするものだ。
どれだけ曲げようとも回避・撃墜され
いつもと対して変わらない結果に終わってしまった。
「やはりまだ勝てませんか」
「いや、私も今回は危なかった
一樹に更に訓練を受けていたら、敗者は私だったかもしれん」
勿論リクセルはまだ本気を出していない。
それでも、彼女たちの実力は確かに上がっていっている。
「そろそろ良い時間であろう、このまま昼食にするか」
「そうですわね」
夏休みもあと少しという、平和な時間だった。
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「お待たせしました」
「なに、気にす……」
赤いシャツにジーンズという格好で待っていたリクセルは、
やってきたリリーの姿に言葉を詰まらせた。
白地に薔薇をあしらった浴衣、リリーの妖精のような容姿と相まって、
幻想的な雰囲気をより引き立てていた。
今日は二人で夏祭りに行くことになったのだ。
「どうかしました?」
「いや、思わず見とれてしまった」
「…クス(ふふふ、一樹さんに頼んで他に人が来ないようにしてもらったし
セシリアさんには悪いですけど、一服盛らせてもらいました、
そう!邪魔者は居ないのです!)」
花が咲いたような笑顔の下で黒いことを考えるリリー、
何時の世も恐ろしいのは女人だということだろう。
ついでに、リリーが盛ったのは睡眠薬である。
「いざ出発!」
「……(最近リリーが黒い)」
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「大満足です」
ヨーヨーを左手に下げ、右手に持った綿飴をかじりながら、
リリーは心底満足そうに言った。
「それはよかった」
かつて違法研究所を襲撃した際に出会ったリリーには何もなかった。
名前も、誕生日も、人が知っているであろうことを一切知らなかった。
それが今、こうして…本心から笑顔を浮かべ
思い出を作りながら生きている。
[殺戮の為の人形]が、[一人の人間]として生きている。
だから、リクセルはこの少女を大切に思っている。
(案外、惚れておるのは私なのかもな)
丁度上がり始めた花火の光に、二人は照らされていた。
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「今日も収穫なしか」
飛翔師の格納庫、樹はそう呟きながら酒を煽った。
息子の一樹と、その親友リクセルが行方不明になってから
支部総出で行方を捜し、ディスティニーのアジトを幾つも潰しているが
いまだに二人の行方は分からない。
「何処にいるんだろうな?」
樹の隣に立つ巨大な人影が、手にした物を煽りながら
同意するように言った。
それは……4mほどの巨大なロボットだった。
黒いスリムなボディで踵部分にはホイール、
そしてレース選手のヘルメットを被っているような
形状をした口のある頭部。
しかし、このロボットに[リンゲージ]は居ない。
何故か、それはこのロボットが[金属生命体]と呼ばれる存在だからだ。
彼の名はエクシリオン、異次元からアビスに手を染めた同族の一派、
メタルガイストを追って地球にやってきたメタルライヴの一人であり、
桜野家の一員と言っても過言ではないほどの存在である。
「心配だぜ、一樹のアニキ」
もう一人、オイルを煽っているメタルライヴが呟く。
白く、エクシリオンより小柄な体格。
頭部の形状は似ており、声はエクシリオンより幼い印象を受ける。
彼の名はスピードル、エクシリオンの弟だ。
彼は一樹を兄貴分と慕っており、一樹が行方不明と聞いたとき、
真っ先にやみくもに探しに行こうとしたのだ。
「アイツのことだ、無事だってことはわかる
それでも……やっぱ心配なんだよな」
「そうだな、しかし俺達には探す術がない」
「歯がゆいな」
歯ぎしりしたいほどの悔しさを紛らわせるように
三人は酒とオイルを煽るのだった。
実は樹、この話を書く前から作ってたキャラクターなんです。
最初は中学生時代の自作小説(中二病全盛期)の主人公でした(吸血鬼の魔法使い)
それでも結構気に入っていたので、メタリックガーディアン小説で使うことにしたんです。
最初は主人公として登場させる予定でしたが、見様によっては不快な内容になりかねないので
一樹を主人公とした今の展開に収まりました。