追いつくまで、リメイク前の話は残しておきます。
異なる世界へ
織斑一夏にとって、世界は冷たい檻だった。
一体どうすればこうなるのだと思うほど優秀な姉二人に比べ、彼は劣っていた。
世間一般的に見れば身体頭脳共に優秀だったと言える。
しかし、他二人に比べると劣るために[無能]や[出来損ない]と蔑まれていた。
努力も実らず、喜びも無く、ただ蔑まれるだけで誰も助けてはくれない。
そしてそこから抜け出そうとすれば、あらゆる物がさせまいと阻む。
まさに冷たい檻だ、誰がこんな場所に居たいと思うだろう。
生きる気力さえ失せ、次第に暗くなっていった。
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「………行く意味ないよな」
海が良く見える公園で、一夏は飛行機のチケットを破り捨てた。
姉から「試合を見に来い」と渡されたものだが、一夏は行く気などなかった。
行ったところで、己の惨めさを見せつけられるだけだと、それが現実だった。
姉は天才だった、だから比べられる凡人の苦しみなど理解できないのだろう。
己の居場所など、最初から[この世界]には無かったのだ。
今まで親友二人と、中国人の幼馴染に支えられて生きてこれたが、もう限界だった。
「もうたくさんだ」
フェンスの支柱に立った一夏は、悲しげに呟いた。
そして、そのまま真っ逆さまに飛び降りた。
本来なら10秒と掛からない距離、しかし一夏にはやけにゆっくりと感じられた。
脳裏に浮かぶ苦しみだらけのこれまでの人生を見ながら、一夏は苦笑する。
(ホント、よく今まで我慢できたな)
生きていればやり直せる、確かにそれは事実だ。
しかし、この世界ではあらゆる物が邪魔をし、やり直しを許さない。
男に生まれた、それだけで蔑まれる世界なのだから。
そんな中、一夏は思う。
(もし[次]があるのなら……頑張ろうと思えるのがいいな……)
その思考を最後に、織斑一夏はこの世界から[消えた]。
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宇宙、人類のもう一つの故郷であるそれを一隻の戦艦が進んでいた。
まるで潜水艦の様な流線型の外観とヒレに見える飛行翼で、そのデザインは
どこかイルカを思わせる、一種の遊覧船のような形状の戦艦だった。
形式番号RAB-001、エンタープライズ級小型飛空強襲戦闘母艦第一号デルフィナス
それがこの船の名前だ。
その艦内の一角、あらゆる機動兵器を搭載するためのスペースで、
一人の人物が機械油を鼻に付けたまま整備を行っていた。
歳は20代前半だろう、切れ目気味の黒目の凛とした顔立ちに、
つややかな腰まで届く黒髪、179cmほどの高い身長に
スリムな体型で長い手足と、女性達がうらやむであろう要素を持っている。
名は
「桜野中佐、そろそろ飯にしません?」
「先に行っててくれ、ここ終わらせてからにしたい」
近くに居た整備員らしき人物の誘いを、樹は見もせずに断る。
「相変わらず気合入ってますね」
「そりゃそうさ、自分の機体だからな」
そう言って、樹は自分の機体を見上げた。
全長は18mほどの黒を基調とした人型ロボットだ。
ガーディアン、古代遺跡等から発掘される謎の金属[
によって作られれた、人型ロボットの総称である。
分厚い装甲と、ALTIMAから発生するAL粒子によるバリアにより
戦車砲はおろか艦砲の直撃にも耐える防御力、
人型のため多彩な武装を扱うことにより生み出される攻撃力、
陸海空と戦いの場所を選ばない凡用性、
さらにAL粒子によりレーダー、センサーを無効化するなど
戦車や戦闘機等従来兵器を圧倒する存在である。
「フィルターを交換した方がいいな」
横に置いてある部品を一つ選び、古くなったものと取り換える。
そしてうまく動くかどうかを確認し、装甲を被せる。
美しい顔が機械油と煤で台無しだが、男で根っからのメカニックである
樹にとっては、そんなこと大した問題ではないのだろう。
気にした様子も無く、作業台にかけていたタオルで汗を拭う。
「お疲れ様です」
見ると、黒を基調とした軍服を纏った男性がいた。
光沢のある銀髪を若干長めに伸ばし、理知的に整った優し気な顔立ちで
縁の薄い眼鏡をかけ、若干胡散臭い柔和な笑みを浮かべている。
アーセル・ゴートフォード、経歴は謎だらけだが、
部下たちを第一に考えるために信用されているデルフィングの艦長である。
「相変わらず胡散臭い笑みだな、やめたらどうだ?」
「性分みたいなものですからね、どうしようもありませんよ」
かれこれ6年の付き合いだ、上官と兵士の立場だが
二人の間には軽口を叩ける程度には友好関係がある。
「それより、これから新型機のテストと受け渡しがあるんですから、無茶はなさらず」
「わかってるさ、誰が乗るのかは知らないけどな」
ガーディアンの開発者でも樹にとっては普通のやり取りだ。
自分専用機もこのデルフィングも彼の設計、技術者としてはピカイチなのだ。
これから受け渡しがある新型機も彼の設計である。
「早めにシャワー浴びてくださいね、あちらに失礼ですから」
「分かってるさ」
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「………ここ、は?」
人気のない森林地帯の中、一夏は目を覚ました。
海に飛び降りたであろうはずの体は湿るどころか、水滴さえついていない。
そして高さにして10m以上あったはずだが、傷一つ負っていない。
だが、一点だけ問題があった。
「……俺は…誰だ?」
自分を含めた、人物に係る記憶をすべて失っていた。
人間の記憶は大きく分けて三種類ある。
言葉や知識を司る[意味記憶]。
運動の慣れ等を司る[手続記憶]。
そして思い出を司る[エピソード記憶]。
一般的な記憶喪失は[エピソード記憶]に何らかの記憶で[鍵]が掛かり、
自力では取り出すことが出来なくなった状態の子を言う。
その証拠に、記憶喪失の人間は言語や知識まで忘れたりはしない。
今の一夏も、その状態なのだ。
「……ん?」
不意に、一夏は何かを感じた。
目に見える視覚ではなく、耳で聞く聴覚でもなく
鼻で嗅ぐ嗅覚でもなく、肌で感じる触覚でもなく、
そして舌で味わう味覚でもない。
頭の中、あるいは心や魂に直接響いてくる、人の感情の様な物。
言うならばテレパシーと言うべきものを一夏は感じた。
「行こう」
一夏はその意思が感じられる方向に向かって歩き出した。
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人類が宇宙進出の足場として建造した、人工の大地。
全長は20kmから30km、半径は6kmの円柱を一回一分五十秒の速さで高速回転させ
その遠心力によって重力を発生させている。
それが一夏の現在いる場所だった。
「こりゃすげぇ」
丁度[河]であろう場所はガラスらしき物が敷き詰められ、
そこから[外]である宇宙空間が広がっている。
記憶にある自分が生きていた世界では、まずお目にかかれない光景だ。
一夏は自分が異なる世界に来たのだと自覚した。
不意に、近くが騒がしくなったので行ってみると、
泣いている少女がいた。
どうやら、高い木に自分の帽子が引っかかってしまったらしい。
密閉空間とは言え、風は吹くのである。
湿度調整や季節実感のために雨を降らせたり温度操作もできるのが現在のコロニーなのだから。
様子を見ていた一夏は迷うことなく気を登りはじめる。
姉弟に劣るとはいえ、彼の身体能力はかなり高い。
問題無く帽子が引っかかった頂上付近まで登り切り、帽子を確保。
軽業師の様に着地し、帽子を手渡す。
「ありがとう」
何故だが、一夏は無性にうれしくなった。
文章表現等も、リメイク前より向上させるつもりです。
後、活動報告でアンケートがあるので、そちらもお願いします。