飛翔市の住宅街の一角に、どこか和風なデザインの三階建て住宅があった。
その洗面所で、二人の人物がまったく同じ動作を寸分狂いも無く
同じタイミングで洗面作業をしていた、一樹と樹である。
いくら親子とは言え、ここまで似る物だろうか?
さらにその後、まったく同じ速さで着替え、仲良く朝食の支度に取り掛かる。
樹が黒地に桜をあしらったエプロンを、一樹が白地に般若面をあしらったエプロンを
つける速さ、後ろ帯の結び方まで一緒である。
「子は親に似る」、この言葉に血縁は無関係らしい。
巧みな連携プレーで三人分の朝食を作り終えると同時に香が寝巻き姿で
リビングにやって来て、それを合図に三人がテーブルにつく。
今朝の献立はベーコンエッグを載せたトースト、卵と野菜のサラダ、
ついでにトマトと挽肉のあっさりスープである。
健康面を考え、朝からしっかりと食すのが桜野家のルールである。
朝食を平らげると、一樹と樹が一緒に食器を洗い、樹が新聞を広げ、
一樹が一度うがいをし、鞄を手にする。
そろそろ一樹の登校時間だ。
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
「頑張ってね」
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変わってこちらは二ノ宮家。
「~~~~~~~~~!」
数馬が声にならない叫びをあげながら鍛錬をしていた。
ガーディアンは基本高速で移動する機動兵器だ、
移動するたびに搭乗者に大きな力が加わる。
ましてや数馬が乗るのは戦闘機型のウォーバード級、
高高度で三次元機動や変形を行うため、
負担の大きさは指折りクラス、故に鍛錬を行うのだ。
最も、技術進歩によりかなり負担が抑えられている以上、
数馬がボディビルダー一歩手前になるまで鍛える必要はないのだが。
「数馬~、もうすぐご飯出来るわよ~」
独特の間延びした声が数馬を呼ぶ。
明るい茶髪をショートボブにし、左側の一房を胸まで伸ばす
独特の髪型をした長身の美女。
二ノ宮亜里、数馬の義母だ。
「分かった、先にシャワー浴びるよ」
「早めにね~」
人と会うことが多い商売をしているため、二ノ宮家は
清潔であることにうるさい。
故に数馬も衛生面、清潔感にかなりうるさくなっている。
汗まみれの体を放置することはしないのだ。
急ぎでシャワーを浴び、身なりを整える。
その後、家族揃って朝食をとり、姉の蒔絵と共に学校に向かう。
「「行ってきます」」
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一方こちらはリクセルの自宅。
自宅とはいっても、ほぼ寝るだけのワンルームなので
必要最低限の家具しか置いていない。
朝五時に起床し、顔を洗って歯を磨く
そして鍛錬着に着替える。
それから日課である筋トレと剣の素振りを行う。
さらにシャドートレーニングを行い、その後朝食としてシリアルをかき込む。
貴族階級の人間には到底思えないが、元々日本の一般人だった
リクセルにとって、高級感漂う雰囲気は落ち着かない。
記憶を無くしても、そういった面はそう簡単には変わらないということだろう。
そしてシャワーを浴びて汗を流し、制服に着替える。
礼節社会である貴族世界の人間として、リクセルもそういった面に気を遣う。
最後に制服に着替え、専用の袋に入れた刀を腰に差し、
鞄を持って登校する。
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朝にそんなやり取りをし、三人は学校に向かう。
リクセルと数馬は普通に二階の教室に入るが、一樹は
壁を登って窓から教室に入る。
忍者にでもなるつもりなのだろうか?
「到着」
「相変わらずだな」
どこから取り出したのか、素人目で見ても高級品だとわかる
ティーセットで紅茶を飲んでいたリクセルが呆れの表情を浮かべる。
「普通には入りゃいいのに」
「お主は変わったな、数馬」
身長が伸びて二人を超えるほどになり、
制服が筋肉に引っ張られてきつくなっている。
一か月前までは男子中学生の平均的な身長だったと誰が信じるだろう?
外見面でいえば、数馬が一番変化しているだろう。
「他より圧力がかかる分、伸びもいいってことだろうな」
踏みつけられた雑草が強く育つのと同じ理屈らしい。
本当かどうかは知らないが。
「背も高さはうらやましいな」
「お前は手足が伸びそうだけどな」
一樹は両手足首に合計50kものリストバンド型の重りを付けたうえで、
民家の屋根上を走り、電柱の天辺から天辺へと飛び移り、
挙句にはビルの側面をよじ登った後、通学バスの天井に飛び乗るのだ。
そして最後に壁を登って教室に入るのを繰り返している。
「父さんも香姉さんもやってたことだぜ」
「……桜野家は忍者の家系なのか?」
桜野家の謎は深まるばかりだった。
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ほぼ戦時中とはいえ、学校では授業も部活動もある。
筆記授業も体育授業も当然ある。
体育館でバスケの授業を終えた後、三人は大急ぎで
着替え、教室に戻っていた。
「急げ、次は現国だ」
「マジか、なら急がないとな」
現国の担当教師、
御年58で教師歴38のベテランである。
授業内容はわかりやすく、人柄もいいので慕われてはいるが、
遅刻や無断欠席にはとにかく厳しい。
おまけに少林拳の使い手であり、不良50人を一度に倒したもある実力者だ。
(急いで……ん?)
一樹は視線を感じ、その方向を振り返った。
校舎の陰から、こちらを見ている……いや睨んでいる少女がいたのだ。
身長は目測で一樹よりやや低め、精々5cm差だろう。
抜き身の刃物を思わせる鋭さのある美貌に均等のとれたプロポーション。
腰に届くであろう艶やかな黒髪を適当にゴムで束ねている。
だが何より意識が向くのは顔だ。
顔の造形が一樹とそっくりなのだ、兄妹と言っても通用するだろう。
(誰だ?一体……)
少女がすぐに姿を消したので、一樹も飛び込むように教室に入る。
一樹は異世界から来た故、この世界に血縁者はいない。
他人の空似にしては似すぎだし、睨まれる理由もわからない。
少女の正体を知るには情報が足りなすぎる。
(一騒動ありそうだな)
自然と、懐に忍ばせている拳銃[SIG226]を握りしめていた。
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放課後、一樹は数馬とリクセルの誘いを断り
一人で帰宅していた。
昼間見た少女は気配はあれど姿はない状態か続いている。
そこで無線で樹等部隊の面々に連絡し、誘き出す作戦に出たのだ。
(おそらく狙いは俺一人……だが理由はなんだ?)
普段なら走る屋根の上も、今日はゆっくりと歩く。
気配がゆっくりとだが近づいてくる。
(やっぱ、記憶が無いのは不便だな)
過去がわかればと、現状が恨めしくなる。
しかし無い物ねだりしたところで状況が変わるわけではない。
やれやれと首を振る、その時!
(殺気!?)
咄嗟に拳銃とナイフを引き抜き、後ろに跳躍する。
先ほどまでたっていた場所に数発、銃弾が撃ち込まれた。
「街中で堂々、随分非常識だな」
銃弾が飛んできた方向を見る。
昼間見た少女がいた。
「で、お前は誰だ?」
「織斑マドカだ」
そう名乗り、銃口を向ける。
「私が私であるために、死んでもらうぞ織斑一夏!」
「誰だそれ?」
何度も言うが一樹は記憶喪失、覚えなど無い。
首をかしげる一樹を見てマドカは驚愕の表情を浮かべるが
「ふざけるな!」
直ぐに怒りの表情を浮かべ、拳銃を乱射する。
「いや、ふざけてないし」
その銃弾を、一樹は手にしたナイフで尽く弾く。
最新式核シェルターに使われている強化合金製のナイフだ、
鉛玉など粘土同然である。
(でも、若干使いづらいな)
「だと思ったよ、これ使いな」
差し出された物を、一樹は反射的に受け取って構える。
片刃の剣で形状は打刀に近い、だが特有の反りが無く
日本では奈良時代まで主流だった[大刀]と言うべき代物だ。
刃渡り90cm程の刀身は白に近い銀色に輝いている。
「ナイフと同じ素材で出来てる高周波ブレード[霜三日月]だ」
ナイフの時と同じ様に銃弾をはじくが、こちらの方が手に馴染み
刀身の長さもちょうどいい。
おまけに高周波ブレード、触れた物体に凄まじい振動を伝え
分子の繋がりを脆くする仕組みの刀は一樹には使いやすかった。
「おのれ!」
マドカが銃を投げ捨て、何かしようとするが
先に飛んで行ったプラスドライバーがマドカの肩に当たる。
その衝撃でマドカはバランスを崩し、屋根の上から落ちていった。
「逃げられた」
「というか、父さん何時の間に?」
そう、一樹に刀を手渡したのは樹だ。
「さっきの娘がふざけるなって言った時だ」
「ほぼ初めからじゃん」
いくら未来予知に等しい直観を持つスターゲイザーとはいえ、
息子の危機をすぐに察知できる樹は恐ろしさすら感じる。
(というか、父さん普段は何やってるんだろ?)
その疑問が浮かんだが、今はマドカの事が先だと首を振る。
「しっかし、ホントにお前そっくりだったな」
「間違いなく、俺に関係あるんだろうな」
この一件ぐらいで諦めるとは思えない。
さらに警戒が必要だと、一樹は刀を握りしめた。
今回一樹が手にした刀は
[MGS]でサイボーグ忍者が振り回していた物をイメージしています。
今回マドカが初登場し、波乱の予感。
アンケートはまだ続いていますので、よければそちらもお願いします