フォーチュン飛翔市支部のガーディアン格納庫。
そこで愛機エクエスの整備を行う一樹がいた。
あの襲撃から一週間経った。
あれからマドカは、一度も一樹の前には現れていない。
一樹自身も、日常生活にフォーチュン一員として
襲撃者と戦っていたため、気にする暇はなかった。
変わったことと言えば、一樹が刀を持ち歩くようになったくらいだ。
(織斑……か)
珍しい、そして聞き覚えのある苗字だ。
元居た世界では、知らぬ者など居ないほどの有名人。
[織斑千冬]世界最強の女性。
ISを使用する世界競技大会モンド・グロッソで総合優勝に輝いた人物だ。
今思えば、マドカの顔は千冬とそっくりだった。
そしてそれは、自分も千冬に似ていることになる。
(血縁者と考えれば、確かに納得できなくはない)
だがなぜ自分が殺されるのか説明がつかない。
結局情報が足りなさすぎるため、予想さえできない。
(考えても仕方ないか)
工具を片付け、コックピットに乗り込むと軽く試運転を行う。
「駆動系良し、動力炉正常、スラスターシステム異常無し
各関節問題無し、姿勢制御システム正常、火器管制システム良し
操縦システム正常、各種センサー異常無し、全武装良好
システムチェック完了、コンディショングリーン」
いちいち口出してチェックするのは間違いを無くすための決まり。
精密機械である以上、細かくなるのも当然だ。
点検が終了したので、工具を片付ける。
(今晩の夕食、どうしようかね)
現在樹はフォーチュン関係の出張で不在、
香もクラッシャーバトルに選手として出場しているので居ない。
完全に家に一人だ。
一人では作り甲斐が無いので、カップ麺でもいいかと思ってしまう。
学校が
「一樹」
「艦長?」
アーセルがコックピットを覗き込んでいた。
片手に書類の束を抱えている。
「貴方、長期休暇中で時間ありますよね」
「何か用事ですか?」
アーセルが書類の束を手渡す。
「隣県の三原市防衛隊支部から要請がありましてね
新しく入った新人部隊員が多いので訓練相手が欲しいとのことです」
「防衛隊から?」
力と権力を持っているとはいえ、イズモはあくまで[自治区]。
国家ではないので軍隊を持つことができない。
しかし重要な場所である以上、自衛の為の戦力が必要になる。
そこで発足されたのが[イズモ防衛隊]だ。
各種歩兵に戦車、戦闘機、戦闘ヘリ。
果てには軍艦からミーレスまで所有する大掛かりな組織である。
「なんで嫌われてる相手から要請が来るんですか?」
最新鋭装備まで持っている防衛隊だが、ミーレスや従来兵器では
奈落獣やガーディアンに対抗するのは至難の業だ。
故にガーディアン、そしてそれを所有管理するフォーチュンが担当する。
しかし当然余所者、それも民間人が多いフォーチュンが専横状態を取ることにいい顔はしない。
なので防衛隊はフォーチュンを嫌っている。
「相手の方の司令官が個人的な知り合いでしてね
連邦軍に頼むより色々融通が利いて安上がりですからね」
どこの世界にも例外は存在するらしい。
「ついでにリクセルと数馬も一緒に行ってもらいます
手が空いてるのが貴方方だけですから」
「わかりました」
別に断る理由が無い、一樹は受けることにした。
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三原市、五本指に入る規模の防衛隊基地が存在し
半ば要塞都市となっている工業都市だ。
とは言っても、基地の大部分が訓練用の施設であり
周辺にも堅牢な基地が多数存在しているうえに、これといった物が無い
辺境の立地の為に基地としての価値は高くない。
だからこそ、訓練用の基地として使われているのだが。
『しっかし、オレ達が教官役ね』
通信機越しに、数馬の気だるげな声が響く。
『文句を言う出ないぞ、これも務めだ』
リクセルが窘める。
フォーチュン所属になってから、規格の合った通信機を取り付けてもらったため
会話は問題無くできるのだった。
「今回は艦長直々の任務だ、しっかりやろう」
ペットボトルの緑茶を飲みながら、一樹が言い聞かせるように言う。
「しっかし、輸送船の手配は無しかよ
いくらこっちが全機飛べるからって」
三人共、機体は飛行可能だ。
エクエスと数馬の専用機[ガンダルヴァ]は飛行能力を持つ空戦型、
ドラグオンも飛竜形態に変形することで飛行可能になる。
でなければ三人だけの派遣などありえないのだ。
「で、艦長と知り合いだっていう人はどんな人だ」
「会えばわかるそうだ」
基地に通信を入れ、三人は開けた場所に着地する。
「フォーチュンより派遣された、桜野一樹少尉です」
「同じく、二ノ宮数馬曹長です」
「同じく、リクセル・C・フォンブラウンです、階級は少尉」
リクセルも一応所属なので、これまでの経験に従った階級を与えられている。
とりあえず、周りに居る面々に挨拶をすると
人ごみの中から一人の初老の男が歩いてきた。
正直、60は軽く超えているだろう。
しかし体格は逞しくて高身長、背筋はしっかりと伸びており
少しも老いを感じさせない。
厳ついつくりの顔にもみあげと繋がった髭が貫録を出している。
「よく来てくれたなフォーチュン諸君
私がこの基地の総司令官、石動雄山大佐だ」
どうやらフォーチュン友好派の一人らしい。
「君達のことはアーセルから聞いている
実に優秀なリンケージらしいな」
「うちの艦長と知り合いで?」
「大戦中にね、何かと縁があったのさ
元共和国軍人としてね」
宇宙移民者ならフォーチュンに友好的な人間は多い。
共に戦ったのならなおさらなのだろう。
「早速で悪いが君達には、新入隊員達と
模擬戦闘を行ってもらいたい
予定時間まではまだ間があるので、ゆっくりしてくれ」
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模擬戦闘、そこで一樹は愛機ではなく
防衛軍の
全体的に細身で正方形と長方形を並べたようなシンプルなデザインと
ゴーグル状の目が特徴的な、扱い易さ重視の機体だ。
エクエスを使わないのは、性能が違いすぎて訓練にならないからだ。
「甘い!」
模擬刀で斬りかかってきた相手のファルコンを、
一樹は左手で側面を叩いて弾き、カウンターで
右ストレートを寸止めにする。
機体を理解し、完璧な操縦技術が無ければできない芸当だ。
「貴方は力任せな操縦が目立ちます
なので、格闘術の練習をするべきでしょう」
『わかった、しかし無表情で言われると腹が立つんだが』
「性分なので」
一樹が模擬戦をやっているその横で
「もっと度胸を持って踏み込まれよ!」
「おお!」
道着姿のリクセルが格闘術の訓練をしていた。
狙撃と剣術が得意なリクセルだが、素手の格闘術も
高いレベルで修めている。
勿論防衛隊が使う総合格闘術とは違うものだが
それでも十分参考になる。
一方数馬は……
「まだまだ!」
他の隊員達と共に、射撃や格闘術の訓練をしていた。
最近フォーチュン所属になったばかりで経験が浅い。
当然、そのせいで他二人に劣ることは数馬も自覚している。
だからこそ、少しでも実力をつけようと猛進しているのだ。
事実、持ち前の根性でメキメキと実力をつけている。
いや、大切な人を守れない弱さを知っているからこそ
こうして強くなっているといえるのかもしれない。
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誰も気づいていなかった。
これからこの基地周辺が戦闘に巻き込まれることも。
掛け替えのない人が犠牲になることも。