大晦日だけど。
「……ホッ」
ようやく教科書の内容を覚え、独自解釈と共にノートに書き写した一樹は一息ついた。
元々機械弄りが趣味(樹の影響)でガーディアンの整備も自力で出来る一樹にとって
機械のことが載っている教科書の内容を覚えるなどさほど苦にならなかった。
勿論電話帳の如き厚さだったので時間は掛かってしまったが。
ノートを閉じて仕舞い、四組のリクセルの所へ行こうとしたが
「ちょっとよろしくて?」
振り向くと、金髪をロールにした女子生徒がいた。
態度からして女尊男卑主義の様だ。
一樹は記憶のメモ帳から外見が意見が一致するクラスメイトを探す。
「イギリス代表候補生セシリア・オルコットだったな」
「まあ!なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも
光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないのかしら?」
「下らん、代表候補生などいくらでもいるし、担任は元世界大会優勝者だ、
威張るんならせめて代表になってからにしろ」
次々と出てくる毒舌にセシリアはギョッとするが、直ぐに気を撮りなおす。
「ふん、同じ男性操縦者でも、織斑さんとは大違いですわね」
「知ったことか、時代の尻馬に乗ってるだけのバカに払う敬意など無い」
「あ、貴方わたくしをバカにしてますの?!」
セシリアが食って掛かると同時に、チャイムが鳴る。
「クッ、また後で来ますわ、逃げないことね!良くって?!」
「さっさと帰れ」
自然とため息が出る一樹であった。
________________________________________
「そういえば再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めなければならなかったな
クラス代表者とは対抗戦だけでなく、生徒会の会議や委員会の出席など、
まぁクラス長と考えてもらっていい、自薦他薦は問わない、誰かいないか?」
三時限目の授業が始まる前に、千冬が思い出したかの様に言った。
実際に今まで忘れていただけかもしれないが。
(俺には関係無いな…予習と対抗策で忙しいし、待てよ……)
今千冬は自薦他薦は問わないと言った。
そしてクラスメイトの精神は見た限り、そこら辺の学生と何も変わらない、とすれば当然……
「はい!織斑君がいいと思います!」
「私は桜野君がいいと思います!」
予想どうりの他薦に一樹は顔面を机に突っ伏す。
やりたいことがあるのに違う事に時間を取られるなど却下だし、
やたらしつこく絡んでくる秋斗と千冬と顔を合わせる機会が増えるなど御免だ。
「俺はやら「待ってください!納得いきませんわ!」」
辞退しようと口を開くと同時に、セシリアが机を叩きながら立ち上がって抗議する。
「男子がクラス代表なんていい恥さらしですわ!!
このわたくしにそんな屈辱を1年間味わえとでもおっしゃるのですか!?
私はそんなことのために日本に来たわけではありません!
実力的に代表にふさわしいのはこの私、セシリア・オルコットですわ!
それを珍しいからと島国の猿に任せるなど言語道断!
第一後進的な島国で暮らすこと自体がわたくしには苦痛で!」
「そこまでにしておけ」
ノートの書き込みを増やしながら、静かに一樹は言った。
「島国という点ならばイギリスも大差は無い
それにIS開発者もそこに居る初代ブリュンヒルデの織斑先生も日本人だ
一体どこが後進的だと言えるんだ?」
周りは頷き、セシリアは押し黙る。
「それに貴様は代表候補生、いわば国の顔だ
お前の発言一つで国際問題に発展する
今の発言は、イギリスが日本に宣戦布告したと言えるぞ」
一樹の発言は虚実ではない、れっきとした事実である。
一樹の言うとうり、セシリアは日本を侮辱したなら
周りはイギリスが日本を侮辱したと受け取る。
代表候補生という立場はただエリートだ、専用機持ちに選ばれただけでは済まないのだ。
国を代表するものの候補生に選ばれたという責任が言動に圧し掛かってくる。
勿論、国家代表の方が責任としては大きいが、
それでもその候補生というものにだって大いに責任というものは存在しているのだから、
セシリアの様な言動は日本で、特にIS学園では不味い。
最悪戦争に発展しかねないのだ。
「よくも私に恥をかかせてくれましたね、決闘ですわ!」
「自分で墓穴掘っただけだろ」
怒りで真っ赤になった顔でセシリアは宣言するが、一樹は気にもとめない。
あいも変わらず、ノートに独自解釈や新しい知識を書き込んでいく。
「では織斑兄弟とオルコットには代表決定戦を行ってもらう」
「俺は参加しない、二人でやってくれ」
「推薦させたものに拒否権はない」
「横暴です、人権侵害だ」
「この場では教師である私が法だ、ここでは私に従ってもらう」
「随分劣化した脳をお持ちなんですね
そんな考えを持つ人間なんて今の風潮に染まった馬鹿か
重度の厨二病患者ですよ」
堂々と毒舌を吐く一樹に、千冬と秋斗は苦々しい感情を浮かべるが反論しない、
いや出来ないというべきかも知れない、あくまで事実なのだから。
「ふん、逃げますのね?あれだけ偉そうなことを言っておいて、やはり男性はすべて屑の集まり、
子孫を残す事以外役に立たない人間ばかりというわけですね」
「……今なんて言った?」
「耳まで悪くなりましたか?男性はすべて屑の集まり、
子孫を残す事以外役に立たない人間ばかりと言ったのですわ」
「セシリアさん、それは言いすぎですよ!」
セシリアの暴言に山田先生が声を上げる、普通教師に注意されれば、
言い直すなり態度を改めるのが普通だが、セシリアは態度を改めるようなことはしない
女尊男卑に染まったバカなのだから当然だろう。
「だってそうでしょう?この男はあれだけ偉そうなことを言っておいて、
このセシリア・オルコットと戦うのが怖いがために言い訳をして逃げようとしているのです。
こんな人が大切に想っている人間などさらに屑に決まって[パーン]っ!?」
突然乾いた音が響いた。
知っている人間がいれば口を揃えて言うだろう、「銃声」だと。
セシリアが黙ったのも銃声に驚いたからというのもあるが、
一番の理由が、[銃口]が自分に向けられたものだったからだ。
当然の発砲に千冬さえも反応できない中、発砲した張本人、
一樹は拳銃を構えたままセシリアに近づく。
「なんだ?この程度で何もできなくなるか?
俺はお前の言う[屑の一人]で、お前は[有能な女]だろう?
女は男より強いのだろう?なら何故俺を取り押さえない?
俺は見ての通り拳銃を一丁持っているだけだぞ」
セシリアは何も答えない、ただ青くなって震えるだけ。
[女は男より強い]それは[IS装着]が前提の場合のみで、
生身ならIS登場以前と一切変わらない。
「貴様如きがあの人達を侮辱するなど許せん、いいだろう
戦ってやる、お望みどうり」
席に戻った途端、周りが黙り込む。
ただ秒針の音だけが周りに響いた。
_______________________________________
あの後、一樹は千冬に放課後残るように言われ、
別に逆らう理由もないので、大人しく待っていた。
「待たせたか?」
「いえ」
戻ってきた千冬は、どこか悲痛な面持ちで一樹と向き合う。
「一夏「一樹です」……なぜ銃を持っている」
「PMC所属なので、持っていて当然です」
フォーチュンは対奈落戦などは勿論、ガーディアンの研究開発、
人員育成、保護も行っている。
その為戦闘に巻きこまれるのは日常茶飯事なので、
所属員は学生だろうと拳銃を持っている。
リクセルの様にレムリアから来た騎士達は剣や槍を持っているのが普通だが。
「で本題は?呼び止めた目的は別にあるんでしょう?」
話は真面目に聞きたい為、一樹は目を見て向き合う。
「すまなかった、あの時情報が私に来る前に揉み消されていたんだ」
三年前、「試合に出れば弟を殺す」という脅迫電話が来ていたが、
千冬の試合放棄を恐れた試合関係者(女尊男卑主義者)はワザと伝えず、
千冬に届くことがないままっだった。
なので一夏誘拐の事実を知ったのは試合終了後、試合とは関係が無い
ドイツ軍の関係者から口頭で伝えられた。
そして地元の警察と共に駆けつけた時には既に一樹とリクセルは異世界に行った後。
その時の千冬の荒れ様は凄まじく、警察が止めなければ犯人達は間違い無く挽肉になっていただろう。
この事実を話せば一夏はしょうがないと思い、自分のもとに戻ってきてくれると思っていた。
しかし、何度も言うが一樹は記憶喪失。
千冬の話に心当たりなどあるはずもない。
「何の話です?」
怒りも悲しもない、無表情で一樹は唖然とする千冬に問う。
「俺が貴方の言う一夏にどれだけ似ているのか知りません
しかし俺は桜野一樹です、家族構成は父親一人に叔母が一人
姉なんて居ませんよ、失礼します」
呆然と立ち尽くす千冬に背を向け、一樹は教室を出た。
_____________________________________
教室を出た一樹は寮の部屋に戻らず、整備室に来ていた。
理由は簡単、試合の準備だ。
ドッグタグがリクセルの刀同様淡く光っていたのでもしやと思い、
確認したところ、やはり自身のガーディアンになった。
スパシィ同様パワードスーツ状態だったが。
更に調べたところ、エクエスもスパシィもISとは違った。
まずコアが存在しない。
ISをIS足らしめているのは[ISコア]と呼ばれる心臓部的な部品だが、
両機共にコアは存在しない。
空中で停止・移動するための機能、PICも存在せず、
シールドエネルギーも一切存在しなかった。
代わりにAL粒子は確認できたし、それが元と同じバリアの役割をしていた。
さしずめ、[ALTIMA製のパワードスーツ]といったところか。
一樹は[アーマー級]と名付けることにした。
エクエスを整備室の端末に接続、データを表示していく。
「……予想どうりか」
エクエスは競技用ではない、純粋な戦闘用だ。
その為、武装の威力はISが搭乗者を守る最後の盾である[絶対防御]を
易易と貫く威力が有り、一樹はリミッターをつける作業に追われていた。
表示されているデータには、エクエスの全換装パックがあり、絶対に使えない物もあった。
ビームマグナム、掠っただけで撃破・殺害可能、使用できない。
ツインサテライトキャノン、最大出力で撃てば大型都市を[消滅]させる戦略兵器、
使えるわけがない、まあ外部から供給を受けないと撃てないから使用不可だが。
「所詮は[破壊神]か……ん?」
作業を終えた一樹は、今までとは違うオーラを感じ取り、
興味が湧いたのでその場所に向かう。
整備室の片隅であるその場所に向かうと、一人の女子生徒がいた。
水色の髪をセミロングに伸ばして機械的な髪飾りを付け、メガネが似合う
落ち着いた知的な雰囲気を纏っている、かなりの美少女だった。
一心不乱にディスプレイを見ながらキーボードを叩くそのさまは、
何やら決意や焦りを感じさせる。
一樹も何度かガーディアンの開発に関わったことがあるため、彼女の
やっていることに興味を持ち、ディスプレイを覗き込んだ。
「索敵……いや、マルチロックオンシステムか」
「!わかるの?!」
初めて、彼女は一樹と向き合う。
「失敬、邪魔だったじゃな?」
「いや…貴方は一組の?」
「桜野一樹だ、技術屋の端くれでやっていることに興味が沸いたからな」
一樹はデータを見て、完成間近になっていることに気が付いた。
「一人でここまで作ったのか?」
「…そう、私の[打鉄二式]は、[一人目]の専用機を作るために放り出された」
「腹立たしいな、仮にも技術者なら完成するまで責任持ってやるのが常識なのに
しかし一人でここまでか、才能か努力家は知らないけど、大したもんだ」
父が「仕事は最後までやって当たり前」と口グセのように言っていたので、
途中でほっぽり出す人間に怒りを覚える。
「俺も技術者だ、完成に協力したいんだが、いいか?」
「なんで?」
「何故か……君を放ってはおけなかった、理由は分からないが」
一人で完成させようと足掻く彼女が、何かと重なって見えて見過ごせなかった。
別に恋愛感情のたぐいではないが。
「演算領域にもう少し余裕があったほうがいいだろうな
この部分ともバイパスを繋げば時間を短縮できるだろう
君は「簪」え?」
「更識簪、それが私の名前」
「そうか、よろしくな簪」
これが後に一樹に大いに影響を及ぼすのだが、
この時は知る由もなかった。
簪の登場が薄すぎたかもしれない。
しかし、現状これぐらいしか思いつかないのでご勘弁を。
それでは皆様、良いお年を