Re:ゼロから始める一方通行(いっぽうつうこう) 作:因幡inaba
すぐさまサテラに飛びかかるエルザ。
だがやはり氷の盾を前にバク転で後方へ。その隙を見逃さずにサテラは攻撃へと切り替え、礫を飛ばす。再度同じような流れに入ったかと思ったがそれも最初だけ。攻撃と防御の同時展開ができなくなったサテラは徐々に押され始め、防戦一方となった。
「そろそろ見てるだけってのもいかんな。分かってるじゃろ? フェルト」
「分かってる、逃げるにしろそろそろ動かなきゃいけねぇってこともな」
遂に覚悟を決めた二人が戦況、タイミングを見計る中、スバルは自分だけは何もできない、むしろ邪魔になるだけだ、と決めつけていた。
「仕方ねーよな……。俺には元々何もない。そのまま異世界に連れてこられたんだ。今も、足すらまともに動かせねーでいる」
その場で足を震わせ、二人を見ることしかできない。仕方ない、という思いに支配されてしまっていた。
このまま異世界でも失うのか。まだ何かできるかもしれない状況でまた投げ出すのか。
「違ぇよなそれは……」
スバルが必死に考える中、エルザとサテラに少しばかりの距離が生まれた。そこに、
「行くぞ!!」
その太い腕に棍棒を携え、ロム爺が参戦した。
「あら、ダンスに横入りなんて、無粋なのではなくて?」
「そんなに踊りたいなら最高のダンスを踊らせてやるわ!! そら、きりきり舞え!」
直撃は愚か、かすっただけでも大ダメージに繋がるだろう攻撃も当たらなければ意味がない。
右へ左へと振られる棍棒をエルザは完璧に避け続ける。
そこで線から点への攻撃転換。突きによる攻撃を放つ。その直後見えたのは、
「なんっじゃそりゃぁーー!?」
「あなたが力持ちだからこんなこともできたのよ」
ロム爺が突き出した棍棒につま先で立つエルザだった。
そしてロム爺の首真っ二つのコースに振られるククリナイフ。
「させっかー!」
咄嗟のフェルトのナイフの投擲が寸分狂わずエルザの腕へと突き進む。
それを避けるためジャンプしたエルザ。ロム爺の首ちょんぱは免れたが、エルザはジャンプの勢いのままナイフを縦振り。
ロム爺の右肩からおびただしい量の血が吹き出し、その場に崩れ落ちる。
「あぅ……」
着地したエルザはすぐさま視線をフェルトに移した。再び蛇に睨まれたフェルトはその場で足を震わせた。
「戦う力も覚悟もない。ならば横でおとなしく見ているべきだった」
そして地を這うような動きでフェルトへと近づく。
最早抗う気も力も残ってないフェルトは近づくナイフを受け入れるかのようにゆっくり目を閉じた。
「おっっっらぁぁぁーーー!!」
だから、その場でフェルトを救うことができたのは直前まで足も動かせなかったビビりだけだった。
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咄嗟に小柄なフェルトの体を抱いて横っ飛び。
スバルの行動は間一髪、エルザの攻撃からフェルトを守った。
膝をつき、驚いた表情のエルザはそのまま追い討ちをかけようとするも、背後からの氷柱の攻撃に防御へと移行した。
スバルは口に出さないがサテラに感謝しつつ、自分と共に倒れてるフェルトを見る。
「大丈夫か? 咄嗟だったんだから変なとこ触ってても怒るなよ!?」
「っ、余計なことしやがって! 何で助けた!?」
「何で、か……何でだろうな? 別に友人ってわけでもない、むしろお前には恨みはあっても感謝することなんてないしな。じゃあ多分俺のため。俺が変わるためだ」
まだどうにかなる。まだいける。まだ始まったばかり。
別に絶望的って訳でもない状況を悉く真っ先に諦めてきた。それがナツキスバル。それがこの世界に来る前のスバルだった。だからこそ、
「もう一度やり直すチャンスがあるならっ、形振り構ってられないだろ」
もちろんこんなのは一時のテンションだ。事が終われば薄れてしまう。でも今のスバルにはそれを信じさせる程の説得力があった。
「いいか、俺がどうにかこうにか隙を作るから
、お前は逃げろ。出口に向かって全力ダッシュだ」
「なっ、アタシだけ尻尾巻いて逃げろってのか!?」
「そうだ、尻尾捲って逃げちまえ。本当なら俺がそれやりたいんだぜ? こうまでしたってのに、俺の行動と心は矛盾してやがる」
「だったらっ!」
「俺は18だ。多分こん中じゃお前が一番年下ってことになる。当然なんだよ、お前が生き残る可能性をとるってのは。そら、いくぞ」
足元に落ちている先程までロム爺が握ってきた棍棒を両手で持ち上げた。
「うおぉ、思ったより重いな。無駄にでかい素振り用の竹刀、毎日振ってた甲斐があった。このためだったのか、やるな俺」
ここで諦めて逃げ出す。まだ引き返せる。
そんな考えは、もうなかった。
迷いは断ち切った。どうすればいいかはとっくに分かってる。それが直ぐにできる人間は、きっと強い。
スバルは弱い方だ。でも弱いのをそのままにしようとせず、変えようと、前へ進もうとしている。そんな人間にこそ、
「神は笑いかけてくれるもんだろ。信じてるぜ神」
他力本願ではあるが、サテラと相対するエルザを見据え、不敵に笑う。
そして背後からエルザ目掛けて振り上げた棍棒を振り下ろす。だがエルザは横へステップして避けた。
「狙いは上々。でも殺気が見え見えなのよね」
「はっ、殺気か。それの制御法は知らねーや」
攻撃は外れたが、これでエルザを更にフェルトから遠ざけた。
「今だ!! 走れっフェルト!!」
「っ!!」
スバルの叫びと共に全速力で出口へと走るフェルト。
「行かせると思う?」
それを阻むはエルザのナイフの投擲。フェルトへと一直線で向かうであろうナイフは、
「行かせてほしいなってのが願いだ!!」
スバルが蹴りあげたテーブルによって進行を止めた。結果、無事フェルトはこの空間から抜け出すことに成功した。
「おお、ちゃんと上がってよかった。でも思ったより爪先がぶらっっっ!?」
すっかり油断したスバルはエルザの長い足で蹴り飛ばされた。位置的にサテラと並ぶこととなる。
「珍しく、少しだけ腹立たしいと思ったわ」
「へっへっへ、どうだ一人逃がしてやったぜ?」
得意気にイキるスバル。その姿は決してかっこよくなどなかった。それが余計にエルザの神経を逆撫でしたのだろう。
「いいわ、乗ってあげる。でもダンスの退屈はさせないでね」
「俺と踊るってんなら覚悟しろよ。教養ないからな。その裸足踏みまくるぜ」
手放してなかった棍棒を再度握り直す。
「ちょっと、大丈夫なの?」
「あ、あぁなんとか」
労いの言葉をかけてくるサテラを見る。しっかり見るのは随分久しぶりのように感じる。
そして分かった。自分が何故ここまで必死になっているのか。
初めて見たときから、無意識にこの少女の真っ直ぐな瞳に惹かれていた。
だからこそ再び気合いを入れ直す。
「まだ、名前も聞かせてもらってないしな……」
本当は気づいていた。決まって自己紹介のとき、少女の真っ直ぐな瞳が揺らぐのを見て見ぬふりをしていた。
その罪悪感からなのか、まだ少女の本当の笑顔を見ていない。
そのためにも、ここで死ぬわけにはいかない。
「秘められた真の力とかがあるなら、今の内に出しといた方がいいと思うぜ?」
「切り札はあるけど、使うと私以外残らないわよ?」
「まだやれる! やれるよ! どうしてそこでやめるんだよそこで! もっと熱くなれよ!!」
そんなカード切らせるわけにはいかない。スバルはまだまだ元気、というのをアピールしながら熱弁した。
「やらないわよ。まだこんなにあなたが頑張ってるのに。親のスネを齧るのは最後の手段なんだから」
彼女の瞳は絶望的といえる状況でも決して諦めようとしていない。凛とした表情で前を見て、震えることのない両足で立っている。
──やっぱりそうだった。
「そうと決まれば! 援護、頼むぜ」
スバルは少女より一歩前へと歩む。
「そろそろいいかしら? この遊びにも、もう飽きてきた頃だし」
その言葉を皮切りに、遂に最後の戦いが始まった。
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「よっ、はっ……せい!」
攻撃や回避の度に声を発すスバル。スバルの動きは明らかに素人のそれだが、後方で援護している少女のせいでエルザは中々踏み切った攻撃ができないでいた。
射線を切らねば氷柱が飛んでくるし、スバルへの攻撃も氷の盾が立ちはだかりままならない。
「ナイスサポート!」
「狙ったところに作るのって得意じゃないの。危うく氷の彫像ができるところだった」
「俺のじゃないよね!?」
スバルの棍棒による攻撃はエルザを掠めようと直撃することはなかった。エルザの素早い動きをのろまな棍棒で捉えるにはそれこそ巨人程の力がないと無理だろう。
ジリ貧を悟ったスバルは、振り下ろすぞ、と見せかけ後ろに棍棒を落とし、ここぞとばかりの回し蹴りを放つ。
「げっ」
しかしそれが悪手だった。無駄に高い打点を狙った蹴りはエルザが体勢を低くしたことで空振り。そしてそのまま懐へと入ってくるエルザ。
「せめて綺麗な腸を見せてね」
物騒な決め言葉とともにその刃が腹へと迫る。
(死────)
バキャッ!!
突然、少女がいた方の壁が外から大砲でも撃ったかの様に粉砕され、その内の瓦礫の1つがとてつもないスピードでエルザに直撃。瓦礫は勢いを緩めることなく、エルザを反対の壁まで吹き飛ばした。
スバルへの攻撃は中断され、九死に一生を得た。これは一体、とその場の誰もが思うなか、壊れた壁の方から声が聞こえてきた。
「──ったくよォ、」
それはスバルが異世界で出会った最初の仲間
「お医者さンごっこは一人でやれっての、そうしないと──」
そして少女にも心当たりがある
「──俺みたいなのが寄ってくるからよォ」
その男は紅い瞳を光らせ、土煙から姿を現した。
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入ってきた一方通行は少女、スバル、ロム爺の順に視線を走らせる。
そしてスバルへと戻し、ニヤリと笑った。
「上出来じゃねェか」
「たく、遅せーぞバカ野郎」
そしてもう一度辺りを見回して、
「パックはどうした?」
「時間切れらしい」
そして頭にはてなを浮かべた。
「あ、あくせられーた……?」
少女は起きた事に驚きを隠せないまま一方通行に声をかける。
「よォ、さっきぶりだな」
「あ、そうね──ってそうじゃなくて、どうして?」
「別行動から合流しただけだ、そンなことより、」
ガラガラガラ
反対の壁からエルザが歩いてくる。
「一応、人が耐えれるような威力じゃないはずだが、ありゃ何だ?」
「化け物みてーな女だ、気を付けろ」
「ほォン」
一方通行は興味深そうにエルザを見る。
「今日は最後まで踊れないの連続ね。不躾な殿方が多いわ」
「戦闘をダンス扱いか? 中々のイカれ野郎だな」
「それで、またダンスの相手はチェンジ?」
「あァ、俺と最後までいこうじゃねェか」
「いい、いいわあなた。やっと楽しめそう」
そして、懐から別のナイフを取りだし、一方通行へと投擲。
ナイフは一方通行へとあたる直前──
向きを真逆に変え、エルザへと向かった。
エルザはステップでかわすものの、驚愕を表情したまま、
「一体──」
「そォいやまだ自己紹介してなかったか」
一方通行は地面へと手を持っていった。
「
瞬間。
バキィッ
と、エルザの立っている床一帯が瓦礫と化す。
「くっ──」
咄嗟に後ろの壁に飛び、ナイフを突き刺して静止。だが次の瞬間、壁すらも崩壊。その崩壊は終わることなくエルザ側半分の天井すらもバラバラにし、落とす。
瓦礫の渦がエルザを包み、そのまま山となった。
結果として一方通行は僅か五秒で盗品蔵の半分を瓦礫の山へと変貌させた。
「悪ィが、『化け物』はオマエの専売特許じゃねェンだよ」
スバルと少女は開いた口が塞がらないの如く、一方通行を見るしかなかった。
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※本編はここまでです。
指摘があったので追記します。今回パックの睡眠事情を知るはずの一方通行が何故はてなを浮かべたのは、仕様です。
パックはマナを多く使ったため、マナを使ってない時より眠るのが早かった。という事情です。
お疲れ様です。前書きにも書きましたが次回からは効果音はあるものとしてでお願いします。あの音大好きです。3期変わっちゃったけど.....科学の一方通行で戻ると信じてる
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