Re:ゼロから始める一方通行(いっぽうつうこう)   作:因幡inaba

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おはようございます


9話

 エルザの最後の力による攻撃は、壁に空いた二つ目の穴から入ってきた人物に止められた。

 

「まだ僕の役目があってよかった」

 

 その男は炎のように赤い髪と凛々しい顔つきを持ってそこに君臨した。

 

 腰に剣を携え、白い騎士装飾をした彼はエルザのナイフを素手で掴み、そのままパキッと折った。

 

 今度こそ狂人は牙を失った。

 

「くッ……いずれここにいる全員の腹を切り裂いてあげる。それまで精々腸を可愛がっておいて」

 

 その男の加勢。そして先ほどのダメージをもって、圧倒的不利とみたエルザは瓦礫を飛び越えて逃げ出した。

 

「お怪我はありませんか?」

 

 男はまず真っ先に少女の身を案じた。

 

「私のことはどうでもいいでしょう!!それよりも!」

 

 しかしそれは少女の反感を買ってしまったようだ。当然、自分を庇ったのはその男だけではないのだ。

 

 少女は倒れているスバルに近寄る。

 

「大丈夫なの?」

 

「お、おぉ余裕よ余裕、蹴られただけだしな」

 

 実際スバルがくらったのは蹴りのみ。それも満身創痍の女からなのだから、そこまでダメージがあるわけでもない。

 

「それより!!」

 

 とスバルは思いっきり立ち上がった。

 

「俺ってば、今君のことを助けた命の恩人ってことでOK?」

 

「おーけー?」

 

「よろしいですか、の意よ! てことでオーケー?」

 

「お、おーけー」

 

 少女は知りもしない言葉にひきつりながらも応じる。

 

「てことは! それ相応の礼があってもいいんじゃないか? ないかな!?」

 

「わ、分かってるわよ。私にできることならって条件付きだけど」

 

「のんのんのん。俺の願いは一つだけ。それも簡単なことだ! ……いや、簡単ではないか。ここまで来るのがどれだけ大変だったかっ!」

 

 今までの苦労を顧みて突然得た達成感。しかしそれに浸っているのはスバルのみ。周りはそんなスバルを奇怪な者を見る目で見守った。

 

「俺の願いは!」

 

「う、うん」

 

「君の名前を教えてほしい」

 

 パッチリとしたキメ顔かつ右手を差し出す。

 その状態で数秒の沈黙。スバルは冷や汗をかきつつ、あ、こんな状況前もあったな~と黒歴史を思い出していた。

 

 新年始まったばかりのクラスでの自己紹介。出来心でちょっとボケたら一気に周りの温度が下がる。

 

 今回も……と思っていたら、

 

「ふふっ」

 

 微かな少女の笑い声。しかしそれは確かにスバルを現実へと引き戻した。

 

 彼女はただ純粋に、楽しくて笑ったのだ。

 

「私の名前はエミリア。ただのエミリアよ。ありがとうスバルっ、私を助けてくれて」

 

 と、手を差しのべた。その白く細い手を見ながら、スバルは思った

 

(あぁ、なんとも──)

 

「ヘェ、エミリアっつゥンかオマエェ」

 

 ドォン、と砂の山が弾けた。

 

 突如にして発生した砂煙の中から歩いてくる一方通行。

 

「ま、名を偽ったことについては不問にしてやンよ。寛大な心でな」

 

「あくせられーた……ありがとう」

 

「ンで、いきなりしゃしゃり出てくれちまったオマエは何者だ?」

 

「俺とエミリアとの握手を邪魔したお前は何者なの?悪魔なの?」

 

「うるせェぞ、あー……スバル」

 

 この野郎一瞬忘れてやがったな、と怒るスバルを横に一方通行は話を進める。

 

「で、どうなンだ?」

 

「失礼。僕はラインハルト。ラインハルト・ヴァン・アストレアだ。出来れば君達の名前も教えてほしい」

 

「俺はナツキスb──「アクセラレータだ」……ナツキスバルだ……」

 

 最早泣きそうなスバルだが、それを哀れむのはエミリアだけだった。

 

「アクセラレータ……だって?」

 

「ァ? 別にこっちじゃ珍しいって訳ゃねェだろ」

 

「あ、あぁそうだな。よろしく、アクセラレータ、スバル」

 

 数秒の戦闘。そして男の様子から、一方通行は感じていた。

 

 コイツは只者ではない、と。

 

 だがそれを感じているのは一方通行だけではない。ラインハルトもまた、『アクセラレータ』と名乗った少年を意識していた。

 

「ならお前ェは何故このタイミングで来れた。ここは、お前みてェななりの奴が来る場所か?」

 

 ラインハルトは明らかに『貧民街』などという場所には相応しくない。

 白を基調とする騎士服の所々に、それだけで服のレベルを二つ三つ上げてしまうような輝く装飾が施されており、一目で高貴な人物だと分かる。

 

「それは──」

 

 

    『ロム爺ぃーー!!』

 

 その時、一際大きな声が響いた。

 

「彼女の導きだよ」

 

 その指差し先を見ると、色黒の巨体を必死に起こそうとするフェルトがいた。

 

 そこに一番最初に近づいたのは、エミリアだった。

 

「その人はあなたの家族?」

 

「……あぁ、ロム爺はじいちゃんみたいなもんだ」

 

「そう……」

 

 エミリアが両手をロム爺に向けてかざす。

 

 そして一帯が青緑に輝き始める。

 

「やめとけェ」

 

 一方通行の声でその光は薄れる。

 

「でもっ」

 

「やめろってのは、今はやめとけってことだ。どけ」

 

 一方通行はエミリアをどかし、しゃがむと、まずロム爺の頭へと触れる。

 

(脳から内臓の至るところまで、基本的な構造は普通の人体と変わらねェか。だが出血が多すぎてそのほとんどが機能してねェな。まァどちらにしろ死ンでさえなけりゃァ、この一方通行に治せない訳はねェ……か)

 

 そして、ロム爺の傷口に触れる。

 

(流れ出た血液から細菌の排除。戻し血管を繋ぎ合わせる)

 

 ロム爺の傷口へと血液が戻っていく。

 

「これは……」

「すごい……」

 

 ラインハルトとエミリアが各々反応を示す。

 

(酸素を取り戻した、あとは)

 

「おい、お前の出番だ」

 

「うん」

 

「傷口を塞いでやれ」

 

「分かったわ」

 

 エミリアの医療魔法は今度は滞りなく完了した。

 

「ま、少ししたら意識も戻るンじゃねェの」

 

「お前って何でもできるのな」

 

「何でもできる……ねェ」

 

 本当に何でもできたら、なんて幻想を持つのは何回目だろうか。

 

 だがこの世界であれば……もしもゼロからやり直すことができるのなら……。

 

 捨てたはずだったものが、一方通行の心に再び芽生えた瞬間だった。

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

「どうして助けてくれたんだ?」

 

 フェルトが一方通行とエミリアに問う。

 

「徽章を返してもらう為よ。私はあなたのおじいさんの命の恩人。それ相応の礼があってもいいんじゃないか? ないかな? だったっけ?」

 

 と首をかしげながらスバルの方を向くエミリア。

 

「返す言葉もございません……」

(可愛いすぎるだろ)

 

「あぁアンタから盗ったものは返す。恩知らずな真似はできねぇ。そっちの兄ちゃんは?」

 

「ァ? 知るかボケ」

 

「知るかって……」

 

「っせェなァ、ンな下らねェこと聞いてる暇があったらじじいの傷口でも舐めてやがれ」

 

 一方通行は欠伸をしながら答えた。

 

「っ……姉ちゃん、徽章は別の場所に隠してきたんだ。取りに行ってもいいか?」

 

「用心深いこと、嫌いじゃないけど。ここで待ってるわ」

 

「いーのかよ? 口からでまかせで逃げるかもしれないぜ?」

 

「逃げてもいいけどアレが追いかけてくるわよ?」

 

 指差しで氏名を受けたラインハルトは改めて背筋を伸ばした。

 

 それを見てフェルトは心底嫌そうな顔をしたあと、「すぐ戻る」とかけていった。

 

オマエノチカラッテドウナッテンノ?

 

マズガクエントシデノウリョクカイハツヲウケタニンゲンハノウノパーソナルリアリティニヒキオコシタイジショウヲニュウリョクシテゲンジツニソレヲハンエイサセル,オレノバアイハベクトルノケイサンシキヲクミタテ,

 

イヤ,モウイイワ…

 

 スバルと一方通行が会話してる横でラインハルトはまずエミリアに頭を下げる。

 

「此度はエミリア様に多大な心労をお掛けしてしまいました。この失態に対する罰はいかように……」

 

 片膝を地面につき、ミリのぶれもなく佇むラインハルトにはどんな罰でも受けるという覚悟があった。

 しかしそんな騎士の鏡にエミリアが向けた言葉は、

 

「そういうところ、あなたたちってわからないのよね」

 

「は?」

 

「危ないところに助けに来てくれて、全員無事で済んだ。それなのにそこまでの全ての苦労や痛みの責任を背負おうとするんだもの」

 

 優しく、でも少し不満げに言った。

 

「だから、助けてくれてありがとう。私から言うことはそれだけ。罪が見当たらないから罰も与えようがない。納得いかなければ次に活かしてくれればいいわ」

 

「分かりました。その言葉、有り難く」

 

 ラインハルトは思い知った。

 エミリアという少女の器量。自分の浅はかさ。そして、

 

 やはり彼女には『王の器』があるのだと。

 

 

「それと、今日あったことだけれど……」

 

 エミリアはばつが悪そうに声のボリュームを落として言葉を紡ぐ。

 

「そうですね。これからしばらくは腸狩りの手配書を出します。元々後ろ暗い噂は絶えませんし、無駄骨になる可能性の方が高そうですが。それからあの老人と少女ですが──」

 

 一瞬真面目な顔つきから一変。ラインハルトは砕けた笑顔を見せると、

 

「────生憎今日は非番でして。さらに被害者が被害を訴えないのでしたら、僕ができることは何もありません。いえまったく、事情は分かりかねますが」

 

「ふふっ、ありがと」

 

「いえ、これが恐れ多くも騎士の中の騎士と呼ばれている男の本性ですよ」

 

 エミリアは笑顔を、ラインハルトは苦笑を。

 それぞれの思いのまま表情を和らげた。

 

 

 と、ここまでは平和な流れだったのだが。

 

 エミリアとラインハルトの会話の他所で一方通行はスバルに一つ疑問を持った。

 

「つゥか本当に大丈夫なのかオマエ? 明らかにナイフがオマエの腹を通りすぎたように見えたンだが……」

 

「あ、あぁあの棍棒がなかったら正直やばかったかもな」

 

「コイツがねェ……」

 

 一方通行は落ちた棍棒を拾い上げた。

 

 すると、

 

「……オイ」

「……よせやい一方通行」

 

 棍棒が刃物で切ったかのように半分になった。

 

 

 

 

────なんとも、割りに合わねぇ.......ガクッ

 

 




お疲れ様です

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