Re:ゼロから始める一方通行(いっぽうつうこう) 作:因幡inaba
「なンつーか、似合わねェなァ」
エミリア達から離れ、貧民街の上空から国全土を見下ろしている一方通行。
この国にはやはりここが異世界なんだと確信させるものがあった。まずマナと呼ばれるものの存在と流れ。空気中に均等か、と思いきや所々集合している箇所がある。決まって街灯など設備だった。電気がない可能性すらみえてくる。
電気無しでは機能の殆どが沈む世界で育った彼にとってはかなりの衝撃だった。
スバルが倒れたのが5分ほど前のこと。スバルを死なせるわけにはいかない(巻き戻し的な意味で)一方通行は再び応急処置をするも、傷が深く、エミリアでは完全に治すことはできなかった。そこで、スバルを治療できる者がいるというエミリアが住んでいる屋敷へ、お礼の意味もこめて、と招待されたのだった。今はフェルトが戻るまでの時間潰し中である。
「とりあえず道は見えてきたな」
するべきことをする手段を手に入れた。見ただけで高貴な人物だと分かる上に、さっきの騎士からはまるで上司のような扱いだ。そのエミリアの屋敷となれば最優先で必要な《知識》の回収もできるだろう。
実に都合のいい展開だが、偶然か、策略か、なんて考えることはなかった。
そうこう考えている内に下から呼ぶ声が聞こえた。
「あくせられーた!」
滑舌がよくないが、エミリアの声だ。会ったときからずっとこんな調子だ。
降下し、一方通行がまず見たものは気絶したフェルトを抱えるラインハルトだった。
「……何してンだテメェ」
「これにも事情があるんだ。決して悪いようにはしないと約束する」
「そォかい」
「正直君とは対立したくない。それはアストレア家の意思でもある。だが、これも運命なのかもしれないな」
自らが抱えるフェルトを見つめながらそう言った。
「そりゃ何のお告げだ?」
「ご先祖様がアストレア家に残した言葉さ。白髪紅眼の賢者と、ね」
「そンなやつ幾らでもいるだろ。都市伝説かよ下らねェ。メルヘン脳は万国共通らしいな」
この場合世界だがな、と呆れながら言う一方通行。メルヘンが具現化したような出来事が起きた彼は、最早そうそうなことでは驚くことすらしない。
「そろそろ行きましょうか」
「では護衛の部隊をつけましょう」
「あン? テメェは誰を守ろうとしてンだ?」
自分が同行する者に護衛をつける、というのが気に触った一方通行はスバルを左手で抱え上げた後、エミリアに右手を差し出した。
「はやく掴まれ」
「え? え?」
「案内だけしろ」
右手を掴んだのを確認した瞬間。背中に竜巻を装着。
風が荒む音がなり、飛行の準備を終えた一方通行は
「嘘っ」
「じゃァなァ、ラインハルト・ヴァン・アストレア」
別れを告げた後、懐で騒ぐエミリアを無視して浮上。あっという間に盗品蔵を後にした。
「本当にとんでもない人だ」
今のもそうだが、それより興味深いのは後ろにある山だった。
先程まで盗品蔵を形成していたものだろうが、ここまで粉々になるものだろうか。
更には発覚したもう一つの事実もあり、ただ、夜空を見上げながら呟く。
「落ち着いて月を見られるのは、今夜が最後なのかもしれないな」
そよ風に吹かれながらそれは、その場に確かに響いたが、誰の耳に届くもない。ただ月と向き合って、夜空だけに届いた。
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「なんでもできるのね、あくせられーた」
「そンなことよりその滑舌の悪さはどうにかならねェのか」
盗品蔵を発った後、エミリアに指示を受けながら飛び続けているとふと思った。
───何をしてるんだろうか。
と。
「似合わねェな、ホント」
「何が?」
「こっちの話だ」
「どっちの話よ?」
「あー……何でもねェよ」
こんな他愛のない会話もそうだ。いつもの一方通行なら真っ先に怒鳴り散らすところだろう。
「今日はほんっとーにありがとう、二人が居なかったら徽章どころか死んじゃってたかもしれない。私にできることならなんでもさせて」
「なら、これから行くとこに書庫か何かあンならそれを使わせろ」
「そんなことでいいの?」
「そんなことが重要なンだよ、今はな」
「私のって訳ではないけどあるわよ、ちょっと癖の強い子が居るけど」
これよりか、とエミリアを見ながら思った。
「さっきのどういう意味なのかな」
「さァな、まァ都市伝説を信じちゃった痛い子とは思えねェよな」
「ちょっと分からないけど。彼はふざけてああいうこと言う人じゃないわ」
「なら人違いだろ」
当然、一方通行がこの世界に来るのは初めてなのだ。特徴が似てようがそれは虚実だろう。
なんにせよ、一方通行は道を得た。この世界で生き抜くためには、今まで以上に力が必要だというのを一日目にして知れた。それは彼にとって何よりのラッキーだったのだ。そして彼の力が必要とするのはどこまでも『知識』。『法則』さえ掴めれば能力は更にパワーアップする。
「掴ンでやるよ、この世界の全てをな」
「なにか言った?」
「あァ、こっちの話だよ」
まだ右も左も分からない、未知かつ異常なまでに異端な世界で、異端児は思った。
お疲れ様です。読んで下さってありがとうございます。これにて一章は完結です
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