Re:ゼロから始める一方通行(いっぽうつうこう) 作:因幡inaba
「最後に両手を上げて、ヴィクトリー!!」
「び、びくとりー!」
ナツキスバルは朝に強い方ではない。にしても今日は流石に眠気も飛び、エミリアを誘って元気にラジオ体操の普及に励んでいた。
というのも先ほど自室へと戻ったスバルを待っていた、一方通行とベアトリスの小競り合いの流れ弾という洗礼。更に扉渡りに対する衝撃で完全に目が冴えたのだ。代わりに鼻の辺りが少し腫れてしまったが気になる程ではない。
「っし、以上。初めてにしては上出来。エミリアたんには『ラジオニスト初級』の称号を与える、今後も励むように」
「? ……スバルの言葉はともかく、ちゃんと運動してたのは事実みたい。綺麗にマナが循環しているのが感じられるもの」
マナが循環と言われてもスバルには理解できないが、それが良いことであるのはエミリアの態度から分かる。
なんか嬉しい。あまり高尚なものでもないが、想い人が喜んでると自分までその事に喜ぶものだ。
「そうね、時間があったら、だけどこれからもお願いしようかな」
「ぬぁ!? よ、喜んで!」
両手を握り、全力で喜んでいるスバルを見ながらエミリアはクスクスと笑った。
「変なの。スバルったら」
「でもあれがスバルの良いところだよ」
「フフッ、そうね」
肩に出てきたパックとともに小さな笑いを共有するのだった。
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体調が回復した一方通行は再び禁書庫を訪れていた。本来、書庫の司書であるベアトリスによる『扉渡り』によって簡単に踏み入れられる場所ではないのだが、ベアトリスが溺愛するパックの協力により使用することができている。
「おい、魔法使いには使えない大気中のマナを精霊術師が使える理屈はなんだ?」
「単純な話。精霊とその他の生物とではマナとの結び付きが違うのよ、距離ともいえるかしら」
「つまり精霊とマナとの関係は他生物よりも密接ってことか。だが生物はゲートを通じてマナを取り入れる、干渉できることに変わりはねェだろう?」
「ゲートがマナを取り入れるのは呼吸のようなもの、酸素を呼吸によって取り入れることは出来ても息を止めてる状態で生きていけるかしら? そういうことなのよ」
要するに精霊にはそれが出来ると。その簡潔? かつ分かるのか分からんのか分からない例を聞き、一方通行は言う。
「だが俺の能力を使えば、半強制的に大気中のマナを集めることができる」
演算。一方通行が知らなかった物体Aもといマナを観測。そして手元に集める。
──瞬間。一方通行を中心にあの魔法陣が現れた。
昨日、エルザとの対決でプラズマを形成したとき発生したものと全く同じ魔法陣、その発動のトリガーが判明した。
「俺がマナを使役しようとすると発現するみてェだな」
あの時はマナを含む大気そのものを集めたため発現したのだろう。
「お前……その魔法陣は……」
ベアトリスはそれを見るや否や立ち上がり、小走りに棚の角のすみから薄く汚れた黒い本を取り出してきた。
そしてそれをパラパラと捲り、あるページで止めると見比べるように本と魔法陣を見た。
「なンだその本は?」
「これはこの書庫内で唯一読むことができない本なのよ……」
「読めない?」
一方通行は一応、魔法陣を出したままベアトリスの持つ本を覗きこむ。
そこに書かれていたのは確かにベアトリスでは読むことができない文字。そして図示されているのは一方通行の足元のモノと全く同じ幾何学模様。
しかし一方通行からすれば常日頃見てきた文字であり、反対に模様は一度も見たことがないものだった。
「どォいう事だ?」
咄嗟にその本を取り上げ、目を通す。
当たり前にスラスラと内容が頭に入り、それを和訳した言葉で反芻する。
「『我、ここに記す。ゲートを失った者の救い、人工魔法機【紋章・精霊の加護】。だが願うはこれを読める者が現れないことであり、祈るは彼女の永遠の安眠である』」
それは一方通行にとって異常な光景だった。見慣れた文字が羅列してあり、特に考えることもなく読み進めることができる。一方通行がいた世界で人はその文字を『
一方通行が手を震わせ読み進めるなか、それを更に異常なものを見ている様な目でみるベアトリス。
「人工……魔法機……。お前、それが読めるのかしら?」
「オマエが読めねェのも無理はねェ。驚いた、まだこの文字を見る機会があったとはなァ」
考えられるのは唯一つ。この世界に召喚された地球人は他にもいるということ。
そして一方通行をこの世界に連れてきた人物はこの本を書いた者である可能性が高い。
そう考えるのが普通だが、それはあまりに不自然でもあった。本の制作時期だ。見た目だけでも年季の入ったものだと分かる上に記述によればこれは、
「約400年前……だと?」
自分と関連性が高いと見える割には古く、更にそんな本がこんな洋館にあることも不自然。
この世界、一方通行が予想している以上に不可解な事が多い。
一方通行は再びこの世界への召喚を喜び、初めて味わう『期待』という感情に心を寄せるのであった。
お疲れ様です。サブタイ付けることにします!
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