Re:ゼロから始める一方通行(いっぽうつうこう) 作:因幡inaba
※追記 オリジナル要素入ります
初日の仕事は滞りなく終わり、俺とスバルは湯船に体を沈めていた。
「いてて」
しかめ面でこぼすスバルの指にはいくつか絆創膏が貼ってあった。どうやら滞りなく終わった、と思ったのは俺だけらしい。
「よく皮剥きだけでそうなれたなオマエ」
「いや、なんで何を剥くにも包丁なんだよ。ピーラーとか無いんかな」
「そりゃァ文化の違いだろ。あのコンロとかこの風呂とかは魔法技術らしいし、科学なンつゥ概念無さそうだしな」
「なら魔法で剥きゃいいのに。っても魔法っていちいちマナとかいう媒体使うんだよな。有限らしいし。そう考えると充分に発達した科学は魔法と区別つかない、てのは真実だったな」
「クラークか。オマエ頭悪い癖にいらンことばっか知ってるな」
と適当にスバルの愚痴を聞いていた。
初日の仕事がよっぽどこたえたのか、スバルの口から『疲れた』という意の言葉を何度も聞いている。俺は疲れそうな作業は大体補正をしているから大した疲労はないが、常人には苦行なのか?
「まァ、作業効率的にこっちにない道具を普及するのはありだな」
「だろ? だが最大の難点はそんなことじゃあない。俺にとって絶対に必要なものがないんだ」
つまらないこと言われる気配がする。
「この世界には、マヨネーズがない」
「死ね」
ある意味期待を裏切らないが、本当にどうでもいいことだった。
「そういえば、お前の力って結局どうなってんだっけ?学園都市とか言ってたけど、そもそも学園都市ってなんだ?」
「学園都市を知らない? あの東京に鎮座する外から見たら無駄に目立つ都市を知らないだと?」
「東京にそんなとこあったか?」
「無知にも程度ってもンがあるだろ……。学園都市ってなァ外より数十年進んだ科学技術をもって『超能力』の実用化をしてる都市。東京神奈川埼玉山梨をまたぐ大都市だぞ?」
「いやそんな都市あったら俺が知らないわけがない。超能力とか魔法とか異能とか大好物だった中二病時代、今思い返すと恥ずかしい……」
確かにコイツの場合『超能力』なんてワードには飛び付いてきそうなものだ。なのに知らないというのはおかしいな。
ただ、それについて言及するのは時間の無駄だ。今となっては前世のことなど関係ない。
「ま、まぁ経緯云々はいいとして、どんな能力か教えてくれよ!」
「対表面に触れたベクトルを自在に操作する力。その気になれば今一瞬で館を崩壊させることもできる」
厳密には対表面を覆うように展開されている効果範囲内、だ。学園都市では最強とされ、一人で軍隊と戦えるとか言われたが、この世界では最強とは程遠い。
前提として既知の物理現象等、自分の頭で計算可能な法則に対しては作用できる。逆に、『魔』という力は俺が知ってる法則を逸脱している歪なものだ。実際、魔法で作られた氷に対して俺の能力は正常に作用しなかった。
「今一イメージ沸かないな……もっと分かりやすいチート能力かと思ってた。なんつーか、どういう理屈で盗品蔵ぶっ壊したのかとか分からん」
スバルは俺が蔵を半壊させたりプラズマを生み出したのを見ている。力の向きを操る、ということの利便性はバカには理解できないのかもしれない。
「物理の勉強でもしてろバカ」
「ぐ、ぐうの音も出ない……」
そんな俺とスバルの間に指す一筋の影。振り向くまもなく声をかけてくる。
「やぁ、ご一緒していいかい?」
そこには全裸の変態貴族、もといロズワール。化粧がない顔を見るのは初、そこには何の違和感もない普通の男がいた。国一番の魔導師は案外ガタイもよく、身体的にもかなり強そうだ。
「お断りします」
「私の屋敷の施設で、私の所有物だよ?私の好きにさぁせてもらうよ」
「なら一々聞くな。風呂くらい勝手に入れ」
俺は無言で肯を表すが、スバルはロズワールに対して当たりが強い。同族嫌悪か、変人同士思うことでもあるのか?
「おや手厳しい。それに分かっていない。確かにこの浴場もそうだが、使用人という立場の君も私の所有物といえるのではないかな?」
言いながら片膝を突き、スバルの顎を撫でるように触る変人。俺にやったら殺す。
「がぶり」
「躊躇ないなぁ!」
変人Bは不快感を全面に出してその手に噛みついた。多分、本気でやってる。
冗談よ、とスバルを嗜め、浴槽につかる変人A。同時に深く長い吐息をもらした。湯浴みがもたらす快感は異世界共通。こりを解すように肩を回し、大きな伸びをした。
「爺さンかよ、肩でも凝ってンのか?」
「私もこれで忙しい身だからねぇ。入浴もなんだかんだこの時間になってしまったよ。もぉっとも、君らとこうして対話できるのは喜ばしいことだ」
「相変わらずきめェな、ついでに肩も軽くしとけ」
そう言い、ロズワールの肩に触れて鈍くなった血行を正す。なんだかんだで便利な能力だ。最上ではないにせよ、この世界でも一定以上の需要があるのは間違いない。
「ほぉ、こぉれはすばらしい。今後マッサージはアクセラレータ君に頼もうかな?」
「やめろ気色悪い」
マジで。
「アクセラレータ、俺も俺も」
っと自分の肩を親指で指しながらのたまうスバル。軽く無視して、再度集中して湯の温度を感じる。風呂に浸かるとどうしてここまで気持ちいいのだろうか。理論的に詰めていくのは簡単だが、それを知ってしまうと逆に風呂を楽しめなくなる気がする。メカニズムを知って冷めるという経験は誰にでもあるだろう。
前世ではレベルの差が分からないアホによく喧嘩を吹っ掛けられた。俺は買うことはあれ、売ることはなかったので、何故ここまで突っかかって来るのかを一度追及したところ、嫉妬という案外かわいい理由だったのが逆に冷めた。これは例になってないか……。
以降知らなくてもいいことはなるべく避けている。
「そうそう、ラムとレムとはしっかりやれているかい?」
感傷にふけてると、ロズワールが聞いてくる。
「仕事に対しては文句ないけど、レムりんとはあんまし、かなぁ。逆にラムちーとは仲良くしてんよ」
「問題ねェ、仕事も仲も言うことはない」
若干食い違いはあるが、それは見解の違いだろう。仲良くしたいと思うスバルは不満だが、仲は特に気にしない俺は問題ない。
そこのところは、ロズワールも分かっているのだろう。満足げな顔で言う。
「いぃい感じじゃないの。初日にしては充分な感想で嬉しいよ」
「まぁなー初日って考えると充分、か」
スバルもあわせてそう言う。人との距離だ、そんなすぐ縮まるようなものではない。本来レムが普通、ラムはむしろ馴れ馴れしすぎるくらいなのだろう。
「ンなことより、聞きたいことが幾つかある」
「質問かい? ふむ、私の深く広い見識で答えられるような内容なら構わないよ」
「今遠回しに私は頭がいい、て言われた気がする」
スバルは突っ込むが、俺としてはそのくらいでなければ逆に困る。詳しすぎるくらい話してもらいたいことだ。
「紋章術についてだ。なるべく詳しく頼む」
「ずぅいぶんマニアックな単語知ってるねぇ。お国の事情よりも大事かなぁ、でも気分がいいから答えちゃう」
たしかに国の事情を全く知らなかった奴がする質問ではないかもな。その点については何も言えない。
「紋章術というのは約400年前、賢者シャウラが生み出し、使ったことから広まった魔法戦術ってとこ。生み出した理由は少ないマナ量で強力な魔法を使うため。原則、紋章術は魔法陣から成る。はぁい注目」
そういうと、ロズワールは自分の指先に一筆書の星を円で囲んだマークを浮かべた。空中だが、確かにそこには光り輝く模様がある。
「これがマナから成る魔法陣の一つ『五芒星の魔法陣』。効果は、これを介して発動する魔法の効果を上昇させる」
「ほえぇ、こんなこともできるのか」
スバルは食い入るようにそれを見る。くっきりと模様を描き光るマナ。
「これはもう発動した状態。私が近くにいる限り1分はこうして現存する。その間は追加マナはいらない。とぉっても効率いいよねぇ」
「え、すっげぇ便利じゃん! なんでこれがマニアック知識に入っちゃってるん?」
俺と同じ疑問を持つスバル。当然、それだけの効果があるならばメジャーな戦術であるべきだ。
「そう思うよねぇ。でもそんな簡単じゃぁない。『五芒星の魔法陣』で倍にできるのは精々エルまでだ。それ以上の場合七芒星、十芒星といった別の魔法陣が必要になってくる」
魔法の威力は弱い方から、
無印 エル ウル アル
例えば火属性魔法のゴーアだったら弱い方から、ゴーア エルゴーア ウルゴーア アルゴーア である。
スバルにもそれを説明すると、
「え、だったらその別の魔法陣を使えばいいんじゃね?」
「あっはー、私の予想通りの返答、すばらしい。さっきも言ったけど、そんな簡単じゃないのよ。まず魔法陣の構築がね。マナで精密な魔法陣を描くなんて本来人間業じゃない。この私ですら、『五芒星の魔法陣』以外の魔法陣は構築できないからねぇ」
その五芒星の魔法陣ですら、かなりの集中力がいるらしい。
「それでもマニアックってことはないだろ?別に『五芒星』でも使えるなら使った方がいいじゃんか」
「ところがそうもいかない。さっきも言ったように相当な集中力が必要な以上、こういう場ではできても、戦場でいざ発動しようと思っても厳しいからねぇ。そういった理由で、今では『紋章術』なんてのは
「なるほどねェ」
「余談だが、200年前までは数人、紋章術を使う手合いがいたようだが、『紋章術師』の二つ名で呼ばれたのは結局賢者シャウラだけ。だからこそ、今は選択肢にも入らないんだぁけど」
それは術が生まれてから200年、まともに扱えた者が一人しかいないということ。
どうりで紋章術に関する書物が少なかったわけだ。現代では紋章術は戦術の択にも入っていない、代々更新されなければ当然伝わる情報も少ないというわけか。
俺は思った以上の収穫に満足し、一足先に出ることにする。
「先に出る」
「待て待て俺を残して行く気か!? もっと俺と裸の付き合いを楽しもうぜ」
「黙れ、死ね。──あァそうだ、最後に一つ聞いていいか?」
「なにかな?」
浴槽から上がり、立ったタイミングで問う。その場で触れているマナに干渉し、『精霊の加護』を展開する。様々な幾何学模様や芒星図形が交わるその魔法陣は俺を中心に描かれ、紫色の光を放つ。
「オマエは──この魔法陣を知っているか?」
ロズワールは目を思い切り見開いて驚愕を表した後、言った。
「いぃや知らない」
「そォか……」
俺はそこで踵を返し、浴室を後にした。
紋章術。便利ではあるものの難易度が高過ぎて廃れた力。
俺は今かつてない胸の高鳴りを感じていた。
──呼ばせてやるよ『紋章術師』
お疲れ様です。
毎日投稿できるのはここまでかもしれないです、申し訳ない。
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