Re:ゼロから始める一方通行(いっぽうつうこう)   作:因幡inaba

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こんにちは!!ちょっと遅いかな?すみませんm(_ _)m




14話 スバルとエミリア

 

 

 

 一方通行が居なくなり、二人きりの時間が訪れる。すっかり緊張も取れたスバルが、ふと思ったことを言う。

 

「なんかエミリアたん、一方通行に優しくね?」

 

「スバルはともかく、あくせられーたとはめったに話さないもの」

 

「それは俺との信頼関係の方が深いと取っても? いいよね!」

 

 互いにいじりあえるような関係。それは一朝一夕では築けず、エミリアが一人のとこに毎回訪れる男と、基本雑談はしない男。どちらがそんな関係かは一目瞭然── 

  

「それに、スバルと違ってあくせられーたは真面目だし……」

 

「そんなバナナ!? 恐ろしい子だ……あの伝説の技『上げて落とす』をやってのけるとは……」

 

「スバルを褒めた覚えはないんだけど……」

 

「オーマイバナナ!!?」

 

 おぉ、バナナよ。などと意味の分からないことを言うスバルだが、これは最大限の驚きと悲しみを含めたスバルの造語であり、簡単に笑い飛ばしていいようなのではない。

 

 悲痛を訴えるために、胸を抑えて死んだふりをするスバルを見て、エミリアはある点に気付く。

 具体的には、先程の悶着から痛みを受け続けるスバルの胸……を抑えている手だ。指と指の間や手の甲などに貼付されている相当数の絆創膏は、手という小さい範囲にはとてもそぐわず、見ているだけで痛ましい。

 

「おっと、やべ、かっちょ悪。努力は秘めるもんだよな」

 

 それに気付いたスバルはサッと手を隠し、苦笑いして羞恥を表現した。

 

 だが、エミリアは自らの手で、スバルの傷付いた手を自分の顔の前に運んだ。それをまじまじ見つめ、俯き、悲しげな表情を浮かべた。

 

「やっぱり、大変なのよね、みんな」

 

 自分に言い聞かせるように独白するエミリア。その様子を見て、スバルはすぐに「あぁ」と納得する。

 

 ──所謂帝王学というやつだろうか。スバルが使用人として励んでると同時に、エミリアは王になるための知識を吸収する日々を過ごしているのだ。勿論、その学習量は使用人なんかとは比べるのもおこがましい。一国を背負うとはそういうことなのだ。

 エミリアは毎日、途方もない勉強に明け暮れている。だが、彼女も見た目スバルに近い年齢であることに間違いない。精神的にも身体的にも、追い詰められているのかもしれない。

 

 スバルは自分がそうなった時の事を想像し、身震いした。

 

 そんな重圧に、彼女は耐えているのだ。

 

「あー……なんつうか……」

 

 今回ばかりは、スバルもいつものように舌が回らない。慰めの言葉も、励ましの言葉も、彼女を煽る結果になってしまうからだ。

 

 それまでじっとスバルの手を見つめていたエミリアが不意に口を開く。

 

「治癒魔法、かけてあげようか?」

 

 スバルは脱帽した。こんな状況でも、他者を思いやることのできるエミリアに。

 

「いや、いいよ」

 

「どうして?」

 

「んー、これは俺が努力したっていう証だからな」

 

 彼女に握られていた手をゆっくりほどき、スバルは力を入れて握って見せる。

 

「大変だし、めちゃ辛いぜ?」

 

 それは先程のエミリアの独白に答えるような言葉だった。

 

「でも、わりと楽しい。ラムとレムはスパルタだし、あのロリはむかつくし。ロズワールは意外と何も言ってこないから思ったより影薄いし」

 

 それでも、とスバルはそこで一瞬間を空ける。

 

「何だかんだ一方通行は良いヤツだしさ」

 

 それは自分と同じ運命を背負った同僚。まだまだスバルが一方的に絡んでるだけだが、しっかりと会話をしてくれる仲間。

 

「一人で無理なら二人でやればいいんだ。そうやって一個ずつ問題をクリアしていく。今俺は本当に楽しいよ」

 

 一方通行からしたら邪魔かもな、と少し自虐を挟みながら、へヘッ、っと笑ってみせた。

 

「エミリアたんもさ。何か辛いこととかあったら、一人で背負い込みすぎない方がいいぜ? 俺だったらいつでも話し相手になるしさ!」

 

 その言葉に彼女がどれだけ救われただろうか。言いきったスバルを少しの間無言で見つめながら、次の瞬間には笑顔を取り戻していた。

 

「ふふっ、頼んでもないのに勝手に話しにくる癖に」

 

「ギクッ、そ、それはそれ、これはこれ。ケースバイケースだよ、エミリアくん」

 

「何言ってるのよ。もうスバルったら」

 

 スバルの言葉の意味が分からないエミリアは、慌てたスバルを笑い飛ばす。

 

「でも、ありがとう、スバル」

 

 それは、今まで見せたなかで最高の笑顔だった。

 

「お、おう。どど? 惚れ直した?」

 

 本当は惚れ直したのはスバルの方だが、それがいつもの軽口に変換される。

 

「元々惚れてません。直ぐに調子に乗るんだから」

 

 そんな掛け合いをする二人。

 そこには先程のような重い雰囲気はない。いつものスバルとエミリアだった。

 

「それにしても、大変なのは分かるけど、どうやったらそんなに手がボロボロになるの?」

 

「ああ、これは簡単。今日の夕方、屋敷のそばの村までラムの買い物に付き合ったときに、子供たちが戯れてた小動物に超噛まれた」

 

「努力の成果じゃなかったの!?」

 

「いや、より大きな怪我で影が薄くなっちまったんだよ……俺あんな動物に嫌われるタイプじゃないはずなのに」

 

 スバルは、先日の王都の一件のお礼に、パックを撫でる権利を要求するほどの小動物、いや、モフモフ好きだ。しかし、異世界では小動物に嫌われる割に子供にはなつかれる、という体質に変化していた。

 

「あのガキどもめ……俺がなにもしないのをいいことに殴るわ蹴るわ……明日は覚えてろよ」

 

 流石に子供に本気でやり返すほど小さい人間ではないが、悪戯でやり返してやるとか考えるくらいには小さい人間だ。

 

 しかし、その苦い記憶を辿る内に、ある事を思い付く。

 

「あ、あのさ、エミリアたん。よかったら明日とか、俺と一緒にガキ共にリベンジ……もといラブラブデート……もとい小動物見学にいかね?」

 

「何回も言い直したわね。……うん、でも、私は」

 

 口ごもり、先に言葉が続かないエミリア。目に見えて様子がおかしいのを見て、スバルは

 

「ま、まさか、一緒に居るの見られて友達に噂されたら恥ずかしい、とか?」

 

「そんなひどい断り文句言わないわよ!」

 

 腰に手をあてて怒った仕草。エミリアにしては珍しく、わざとらしい感情の表し方だ。

 

「じゃ、行こうぜ!」

 

「でも、私が行くとスバルの迷惑になるかも……」

 

「よしわかった、行こうぜ!」

 

「……ちゃんと聞いてる?」

 

「聞いてるよ!俺がエミリアたんの言葉を一字一句だけでも聞き逃すわけないだろ!」

 

「スバルなんて大っ嫌い」

 

「あーーあーー! なんだぁ?? 急になにも聞こえなくなったぞぉ?」

 

 両手で耳を押さえ、先程のエミリア以上にわざとらしく表現するスバル。そんな様子を見て、毒気を抜かれたのか、「仕方ないなぁ」と前置きし、

 

「私の勉強が一段落して、スバルの仕事が終わってたら、って条件付きだからね?」

 

「よっしゃぁぁ!! 速攻で終わらせたる!!」

 

「ちゃんと確認取るからね?」

 

「うーん、レムとラムなら行かせてくれる気がするけどなぁ。邪魔者扱いされて」

 

「あくせられーたに」

 

「命に変えても仕事を終わらせよう」

 

 ちょっと悲しい例の後、一瞬で態度を改め、右手をおでこにビシッ、と伸ばし敬礼するスバル。一方通行はスバルの一番の仲間であるが、一番怖い存在でもある。

 

 そんなスバルを見て、エミリアはついにおもいっきり笑った。そんなエミリアを見てスバルも笑う。

 

 ひとしきり笑った後、二人同時に館に戻り、今宵の逢瀬は終わりを迎えたのだった。

 

 

 




お疲れ様です。
いつもありがとうございます

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